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しおりを挟む「……よし」
爽やかな朝の日差し。今日は絶好の登校日和。
雲一つない空はより一層気持ちよく朝の清々しさを感じさせてくれる。
そんな中、私は何が悲しくてこんなことをしているのだろうか。
そんなことを考えながら家の門からそーっと顔を出して、目の前の通りに誰もいないことを確かめる。
よし、今がチャンス!
この第一関門さえ突破すれば、後は学校でいつもの様にすればいいだけだ!
私はホッとして胸をなでおろした。
今日もなんとか鉢合わせせずにすみそうだ。
それにしても何故彼だったのだろう。ここ数日本当になんの兆候もなかったのに。体質にしても全くもっていい迷惑だ。
憮然としながらも学校に行くために私は門から目の前の通りへ一歩踏み出した。
その時。
「--おい、コソコソ何やってんだ」
「!?」
よく通る低い声。ただその口調はかなり怒った様子で。
真後ろからかけられた声に私の背筋が凍りついた。
そんな、なんで。
ここは私の家なのに、なんで彼がここにいるの。
よりによって今一番会いたくない人物が私の真後ろにいらっしゃる。
「おい、こっち向け未桜」
かすかに苛立ちを含んだその声音に思わず肩がビクリと震える。
言われるままに恐る恐る後ろを振り返った。
体は緊張で強ばっているし、心臓はドクドクと今にも張り裂けそうな位の鼓動を繰り返す。
唾をゴクリの飲み下して、私は彼の名を呼んだ。
「……大牙」
「おう、やっと捕まえたぞ」
学校指定のブレザーをオシャレに着崩した男子生徒は、やっと捕捉した目の前の獲物を逃がさないとばかりに舌舐めずりする。
ひぃっ、やっぱ怒ってる……。
体が余計に強ばるのを感じながら、思わず一歩後ずさった。
大柄な体躯の彼は、私が後ずさった一歩をやすやすと踏み越える大股で近づいてきた。
「よくもこの一週間俺を無視しまくったな?いい度胸だ」
額に青筋を浮かべながら整った顔を怒りに染める彼に、私は自分の終わりを悟った。
ダメだ、もう無理だ。
終わった。
私は降参するように目を閉じて項垂れた。
えー。
大牙に捕まったあと、私は彼の大きな背に乗せられて学校の屋上まで一気に運ばれました。
正直死ぬかと思った。久しぶりに乗ったけど彼の匂いを嗅がないように殆ど息止めてたし、すごい速さで移動するから気持ち悪いしで私の精神はボロボロだった。
本番はこれからなのに。
今現在、私は屋上で大牙の対面に座らせられ、正座をしています。
ああ、一限は完全にサボりだ。
真面目くらいが取り柄だったのに。さよなら私の皆勤賞。
大牙の向かいに座った私は決して顔をあげないように伏せたまま、彼の顔を見ないようにしている。
それが気に食わないのか、大牙がイライラした調子で私に声をかけてくる。
「おいこら未桜、こっち向け」
「いやだ」
私は震えながらもなけなしの勇気で反抗する。
それだけは絶対にできない。
こんな間近で大牙を見たらそれこそ最後だ。
発動してしまう。私の発作が。
しかし、風に乗って運ばれてくる彼の匂いや頭を伏せていても否応なく視界に入ってくる彼の体に私の疼きは止まらなくなっている。
体中が熱くて堪らないし、相変わらず心臓はうるさい。
それに下も……。
いやだ。なんでよりによって大牙なのだ。
確かに彼のことは好きではあったが……。
「おい、人の話聞いてんのか?」
「……」
ああ、もうどうしたらよいのだろう。誰か助けてくれ。
大牙の睨みつけんばかりの視線をなんとか受け流しつつ、私はこうなった原因を思い返した。
*
20XX年、日本は少子化の危機に陥っていた。
様々な要因で人間同士の子を為す機会は減り、かつてないくらい子どもの数が減っていた。
危機を覚えた政府はこれを打開するために、これまで禁忌としていた異種族と人間の婚姻と性交渉を解禁した。
これによって人間と共に世界で生きてきた人魚や吸血鬼、狼男などの異種族と人間の結婚や性交渉は盛んに行われ、少子化の危機は脱したのだという。
現代では普通の人間の子ども、という方が珍しいくらいになった。
異種族と人間との間に生まれた子は、その異種族の特徴をよく受け継いだ。
それは私、宵月未桜も例外ではなかった。
私は父が人間、母が夢魔のハーフである。
夢魔とは淫魔、つまりサキュバスだ。
異性を夢を介して誘惑し、その性を貪る。
私も母の性質を受け継ぎ、夢魔の血を受け継いだ。
三人の姉も夢魔の性質を受け継ぎ、初潮が来てまもなく処女を脱していた。
私たちのようなハーフの夢魔は生まれて直ぐに力が目覚める訳ではなく、人間の女性として体が成熟した証である初潮が来る頃にその能力を開花させるらしい。
処女を脱してようやく夢魔として一人前と認められるのだそうだ。
処女を脱する際はより特別で、本能で一番相性がいい異性を選ぶらしい。
そして先程から何故説明が全部伝聞系なのかというと、私は14で初潮が来てから三年経つというのに、全く夢魔として覚醒する気配がなかったからである。
夢魔の証である赤い目を受け継いだのに、私は一向に処女のままだった。
力が目覚めない限り異性を誘惑することはできない。
私はすっかり自信を無くし、言動も控えめに、大人しくなった。
思えばいつも私はこうだ。
人よりドン臭くて、ノロマで、周りの子達と同じようにできない。
幼稚園の頃はかけっこをすれば必ずビリだったし、何も無いところで転ぶし、小学校では常に一人で過ごして、本がお友達だった。
容貌も体型も、三人の姉たちは母の綺麗な顔立ちを受け継ぎ、メリハリボディのダイナマイトな美女に育ったのに私は目だけが大きくて体は随分と痩せているし、胸もそれほど大きくならなかった。
幼馴染で密かな初恋の相手だった大牙に、「お前痩せこけてる上に目だけ大きいとか化け物みたいだな!」と笑われた時はショックで3日も寝込んでしまった。
大きい目をひたすら隠したくて前髪を伸ばし、それだけでは足りず瓶底メガネでその目を覆い隠した。
ひたすら地味に。
それが私の生き甲斐になり、今では成績優秀なガリ勉子になった。
校則だって破ったことは無いし、帰りに寄り道したことは無いし、今日サボるまでは皆勤賞だった。
その幼馴染の大牙は狼男のクォーターで、成長期に入ってからはグングン身長も伸び端正な顔立ちに、彫りが深めのエキゾチックなイケメンへと成長を遂げた。
学校へ行けば女子が即座に群がるほどのモテ男。
対する私はクラスにその存在が認知されているかも怪しいメガネ地味女。
常に隅っこで大人しくして、目立たないことが信条の根暗っ子。
いくら長い付き合いでも到底関わりがあるように思えないし、むしろ接点すらないだろうとしか思えない程正反対に変わり果てた私と大牙だったが、幼馴染のせいか私は今でも大牙と行動を共にすることが多かった。
いや、私が避けようとしてもなぜか大牙が私を傍に置きたがるのだ。
お陰で大牙狙いの女子に目をつけられるわ変に注目されるわでいい迷惑だった。
それだけでも頭が痛い問題なのに、その私を追い詰めるようにさらに悲劇が起きた。
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