【完結・番外編更新中】最近幼馴染がカッコよく見えて困るんですが。

蓮実 アラタ

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あの後結局、私は一日学校をサボってしまった。
何たることだ。真面目が取り柄だった私がサボるなんて。
でも今日は仕方ないよね。うん、仕方ない。

あんなことがあったのだ。
大牙とは違うクラスだったがもしすれ違ったり鉢合わせしてしまったらと考えると、恥ずかしすぎて学校には戻れなかった。
学校にいたとして、平常心で授業を受けられる自信がなかった。

そのまま行く宛などなく、開き直って時間の有効活用をしようと近くの図書館で自習をしていた。

ちなみにぐしょぐしょになってしまった下着はコンビニで替えを買いました……。

悶々と教科書と格闘しているうちに辺りはすっかりオレンジ色に染まり、夕方になっていた。
もうそろそろ家に帰宅しているはずの時間だ。
帰宅部なのに帰りが遅かったら心配されるかもしれない。
とぼとぼと夕暮れに染まる道を一人で歩く。

ずっと行きも帰りも大牙と歩いてきた道を一人で歩くというのは中々に新鮮だったが、どこか寂しくも感じた。

真面目が取り柄の私はやはりいつもとさほど変わらない時間に帰路につくわけで。
そしてそんな私の習性を大牙はきちんと把握していた。


「未桜」


家の門に入る手前で、突然後ろから声をかけられた。
ビクン!と門を掴みかけていた手が震える。
背筋が凍りついた。
ああ、何たることだ。
よりによって今一番会いたくない人物が、私の真後ろにいらっしゃる。

朝と全く同じパターンの光景に、今度は早々に観念した。
溜息をつきながら後ろを振り返る。
大牙が私の後ろに立っていた。


「……大牙」
「……おう」


多少気まずいながらも名前を呼ぶと、彼はいつもの様に返事をしてくれた。
しかし、それはここ最近デフォルトになりつつあったイライラした調子ではなく。
いつになく真面目で、少し緊張した様子だった。

真剣な眼差しの黒い双眸と目が合いそうになり、私は慌てて目を伏せた。


「話があるんだ」


大牙がそう告げた。
私は彼を見返すことが出来ず、視線を伏せたままただコクンと頷く。
チラリと見えた真剣そうな彼の表情に、私も覚悟を決めた。

私と大牙は幼馴染だ。
我が宵月家と大牙の支倉家はお隣同士で両家の仲が良いこともあり、互いに親密な付き合いをしている。
従って両家の種族の性質もよく把握している。
そして私にはハーフ夢魔の見本となる三人の姉たちがいた。
だから大牙も夢魔の性質についてはある程度詳しいし、今日の一件で私に起こった異変がなんなのか気づいてしまったかもしれない。

であるならば、これ以上隠し通す必要も無いだろう。正直に明かそう。私の隠してきた気持ちも。

意を決して大牙を見上げる。
途端にフィルター10倍増しのイケメン顔が私の視界を占領し魅入られそうになったが、なんとか理性を保って告げた。


「私も話があるの」
「……そうか」


彼は私の言葉に何故か少し嬉しそうな表情をして、静かに頷いた。
そして私の家とは逆の、彼にとっては自分の家--支倉家の方向を指さす。


「俺ん家にこないか?今は誰もいないんだ。積もる話になりそうだし、なんなら泊まっていってもいいって未桜の母さんから許可はもらってる」
「……うん」


全てを話すと決めた。
きっと一、二時間では終われないだろう。
了承の意を込めて頷いた。

--ピロリン♪

その時、私のスマートフォンの着信音が鳴った。
そういえばマナーモードを解除していたのを忘れたままだった。
この着信音はメッセージか。

こんな時になんだろうと思い、メッセージを開くと母から一言。

『一発ヤッて、スッキリしてきなさい!』

私は思わず固まった。
この図ったようなタイミングにこのメッセージは……まさか。
ハッとして我が家を見やると、キッチンの裏戸口が少し開いていてそこから母がこちらを覗いているではないか!

私の視線に気づいた母は、こちらに向かって上を向くように拳を作った。
なんだろう、と思っている間にその親指がシャキン!と効果音を付けたいほど勢いよく立てられた。


「グッジョブ!!」


我が母は口パクでそう伝えると、素早く裏戸口のドアを閉めた。

私は一瞬呆気に取られたが、直ぐに立て直した。

いや、違うよね!一発ヤッてこいって何!?グッジョブって何!?
よく考えたら大牙はさっき何と言った?

「なんなら泊まっていってもいいって未桜の母さんから許可はもらってる」

ってこう言ってなかったか?男の家に泊まる許可って何!?正気の沙汰じゃないよね!?私まだうら若き乙女だよ?17歳だよ?
ちょっと何考えてるのお母さん!!
いくら夢魔だと言っても人間の常識は知ってるはずだよね?
っていうかもしかして全部バレてた?私が覚醒したことバレてた?
じゃないと許可出したり、ヤッてこいとか言わないよね!?
そして私は今さっき、了承したよね?大牙の家に行くって言ったよね!?
あああ!!親公認って何?なんかヤダ!なんかヤダよ!

途端に混乱して慌てて逃げようとすると、むんずと制服の襟を掴まれた。
逃げようとした私を野生の勘で察知でもしたのか、大牙が離さないとばかりに私の腕を捉える。
え、またこのパターン?しかも今度は離してくれない!逃げられない!
為す術もないがなんとかしようと私はバタバタともがく。


「……まさかとは思うが、この後に及んで逃げないよな?」


いつもの怒ったような口調にさらに威圧するように睨まれて、私は震えあがった。
に、逃げられない……。


「……そんな、滅相もない。逃げようなんて」
「そうか。んじゃ行くぞ」
「……はい」


そうして私は大牙に一気に担ぎ上げられた。
米俵でも背負うような感覚で背負われる。
もう抵抗する気も起きず私は大牙に担がれたまま、かの有名な売られてゆく子牛の歌のように支倉家へドナドナされていった。







支倉家を訪れるのはいつぶりだろうか。
たまに母に頼まれておすそ分けを届けにいったことはあるが、決して中までは入らなかった。

私が大牙を避けたかったのもあるし、「化け物みたいだな!」と笑われて以降、また同じことを言われるのが怖かったからというのもある。

玄関に入ると大牙は自分の靴を脱ぎ、私の靴も担いだまま器用に脱がせ、そのまま階段を登る。
階段を登ってすぐの左奥の部屋。
そこが大牙の部屋だ。
久しぶりの支倉家の内部は私が最後に記憶していたものよりも幾分か年季が入り、ものが増えていた。

部屋に入るなりようやく大牙は私を下ろしてくれた。


「なにか飲むか?」
「うん。紅茶がいい」


私の答えにぷっと大牙が吹き出した。
笑うイケメンが神々しい。拝みたい。笑顔もイケメンとか、私をどこまでときめかせたいんだ。


「お前、まだコーヒー飲めなかったのか」
「別に。飲めないんじゃなくて、飲まないの」


小馬鹿にされたようで少しムッとする。
別にいいじゃないか。世の中全員がコーヒーを好きな訳じゃない。
私は紅茶の方が好きなのだ。


「そうか、悪い。少し待ってろ。適当に座ってていいから」


頬を膨らませた私を見た大牙が少し苦笑して部屋を出ていく。
トントンと階段を降りる音を聞きながら、私は久しぶりに入った彼の部屋を見渡した。

白を基調として、シックにまとめられた落ち着いた雰囲気の部屋。
観葉植物なんかも置かれていて、雑誌に載っていてもおかしくないようなオシャレな部屋。

校則通りに制服を着こなした地味メガネ女の私という存在が完全にこの部屋の中で浮いている。
なんだか、部屋に対して申し訳なくなってきた。
適当に座っていていいと言われたが、どこにも座ってはいけない気がする。
こんなオシャレ部屋に私という存在がいること自体がおこがましく思えてきた。

思えば、私は特に誰とも関わらず地味に過ごしてきたため年頃の異性の部屋に入ったことがなかった。

ダメだ、やっぱりこの部屋にいてはいけない気がする。
でもここにいないと大牙が今度こそ怒るだろうしどうしたらいいのだろうか。
宙に浮いた方がいいかな。そうだ、そうしよう。
異性の部屋という未知の領域に私の思考は完全におかしくなっていた。

よし、浮こう。
背の翼をはためかせ、足が地を離れた途端--
大牙が帰ってきた。
翼をパタパタさせて宙に浮いた私を見てぱちくりと瞬きする。


「……何してんだ?」
「いや私という存在がこの部屋にあまりにも異質すぎて似合わないからせめて浮くことで緩和しようかと思って」


混乱したままの頭で馬鹿正直に答えると大牙に呆れられた。


「ベッドに座ってろ。宙に浮く必要は無い。羽もしまえ」
「……はい」


結局いそいそとベッドの端ギリギリに座ることで妥協した。

私が座ったのを確認して大牙がこちらに向かってコップを差し出してくる。
渡されたコップを受け取り、紅茶を口に含む。


「「……」」


しばらくお互いに無言になる。
思ったより緊張していたようで、喉がカラカラだった。
ほのかな柑橘系の香りが鼻腔をくすぐり、肩の力を緩めてくれる。


「んで、だな」


大牙がコップをテーブルに置くと、改まったように切り出す。
私もコップを置いて、思わず背筋を正した。


「未桜……お前、夢魔として目覚めたのか?」


大牙の問いに、ギクリと身を強ばらせる。
やっぱり、気づいていたんだ。
そりゃああんな反応をすれば分かるよね。
薄々勘づいてはいたが、改めて指摘されると恥ずかしい。頬が赤くなっていることがバレないように少し俯きながら、コクンと頷いた。


「俺を避けていたのもそのせいか?……その、発作とかか?」


手が震える。正直に、話すと決めた。
私が大牙に発情していると知られたら拒絶されるかもしれない。
それでも。


「うん。私はどうやら大牙とその……体の相性がいいみたいで。ここ一週間避けてたのは……その、大牙を見ると……発情、しちゃうからで……」


だんだんと尻すぼみになっていく声。
言いながら顔が真っ赤になっていくのがわかる。
私は何を言っているのだろうか。
小さな頃から好きな相手に性的に興奮してますと正直に言うなんてどんな羞恥プレイなんだ。
恥ずかしさに耐えきれず、ぎゅっと目を瞑った。

ついに言ってしまった。
大牙は、どう思うだろうか。


「……そうか。嫌われてたわけじゃ、なかったんだな」


心の底から安堵したような声。

……え?
私は目を開けた。
聞こえた言葉に、その調子に耳を疑った。

え?なんで?
私が大牙を嫌う?ありえない。だって私はずっと。


「大牙が好きなのに、嫌うわけがないでしょう?」


驚きすぎて思わず本音が出てしまった。
今度は大牙が驚いたように私を見返す。
その表情は驚きから次第に違う表情になっていて。

何故あなたが私に嫌われていないことに安堵するの?
なんでそんなに嬉しそうな顔で私を見るの?
なんでそんなに愛おしそうに私を見るの?
なんで、そんな目で見ないで。
そんな目で見られたら。期待してしまう。

--あなたが、私と同じ気持ちを持ってくれているのではないかって。

先程から痛いほどに胸が高鳴っている。
脳内フィルター10倍増しのせいだけじゃない。
ありもしない期待に胸がときめいている。

ときめくな私の胸!大してそんな大きくも無いくせに!

そんな私の状態を知ってか知らずか大牙が急に近づいてきた。
ベッドの私のすぐ隣に座る。
いや近い近い!イケメンが近い!っていうかこれ以上近寄らないで、発情しちゃうから!
大牙は私の方を向くと、真剣な表情で告げた。


「俺も未桜のことずっと好きだった。だからお前が俺に発情してるのがすげぇ嬉しい」


そう言って大牙は微かに頬を染めた。
やだイケメン。照れ顔のイケメンとかやめて。恥ずかしそうにはにかんだりしないで。
ときめくから。トキメキ指数高いわ。いやこんなん瞬殺されちゃうわ。無理、好き。

いやそうじゃない。
私を好き?え、嘘?は?私を好きって言った、今?目の前のイケメンが!?

状況についていけず私の脳がオーバーヒートを起こした。
















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