今日、私は貴方の元を去ります。

蓮実 アラタ

文字の大きさ
25 / 28

25 悪役は思考し、

しおりを挟む
「――以上が、私が知る三年前の真実になります。その後私の容態は悪化し、ここ一年は意識は浮上する時もありましたが、常に身体が言うことを聞かない状態にありました。残る全ての力を精霊の加護に割いて、ルイスと再会するまではと、死に物狂いで生きようとしていました」

 呼吸を止めてまで生きようとしたメドウィカ様。
 それは一種の賭けだったのだろう。助けは来なかったかもしれない。けれどそれだけルイス王子のことを案じ、文字通り命をかけて最後まで生きることを諦めなかったのだ。

 ――本当に、この方を助けることができて良かった。

 話を聞いてそう思い、長い話を終えて一息ついたメドウィカ様に心から礼を言う。

「思い出すのも辛いであろう出来事を話してくださり、本当にありがとうございました。心から殿下をお救いできて良かったと、改めて思います」

 ゲームでの内容からある程度の推察をすることはできるが、それも限られている。
 メドウィカ様についての記述は少なく、ゲームはあくまで聖女であるリーンの活躍が主な描写だった。

 細かい背景が設計されていたかどうかはともかく、黒幕の存在はこれでハッキリとした。
 グレイブル王国内に蔓延る教会の暗部。女神唯一絶対主義派。この理念を掲げる派閥こそ、ゲームにおける黒幕だった。

 彼らはヒロインであるリーンこそ次代の盟主に相応しいとし、その理念のためならば自国の王子を貶めることすら厭わなかった。
 正義感の強かったルイス王子であれば絶対にその存在を許さなかっただろうし、対立したはずである。

「あの苛烈な主義を掲げる者たちが真犯人だというのなら、託宣を偽り、私を聖女と知っていながら追放したのにも納得できます」

 エルダイン公爵家の娘で矜恃の高い高慢な悪役令嬢と、平民でありながらも聖女候補として名を上げた可憐な少女。
 どちらを聖女として御しやすいかなど、考えるまでもない。

 エルダイン公爵家はグルイブル王国でも有力な家系。教会の影響力など及ぶべくもなく、社交界でもそれなりに力を発揮する家柄だ。

 何より無駄に高いプライドが教会の聖女として選ばれたところで、彼らの駒になどなることを許さない。

 そこに来てヒロインであるリーンに惚れ込んでいた第二王子レインの存在が、彼らの目的と噛み合ったのかもしれない。もしくは、レイン自身がルイスの存在を忌まわしく思っていたのか。
 そこら辺についての詳しい事情は、ゼストが必ず突き止めてくれるだろう。

 それにしても悠久の女神アルキュラスを信仰し、敬虔な祈りを捧げるべき存在が、女神の加護を得た自分達こそ選ばれし者だと勘違いするなど。

 ルイス王子が教会に対して警戒心を抱いていたのも頷ける。果てにその女神からの託宣を偽り、聖女わたしの存在を無視したことも含めて、いつか天罰が下ることだろう。

「私からもひとつ質問があります」

 メドウィカ様から聞いた話を元にあれこれと思考していると、メドウィカ様からそう声をかけられる。
 私が思考をやめてメドウィカ様を見ると、彼女は顔を伏せて遠慮がちに問いかけてきた。

「貴女が最近までグレイブル王国におられたと聞いて、どうしても知りたいことがひとつあるのです。それを聞いてもよろしいかしら?」

 どことなく躊躇いを見せるメドウィカ様に、私は先程の話のお礼も兼ねてと頷く。

「はい、どのようなことでしょうか」
「ずっと、問いたかったのだけれど、怖くて……。でもどうしても気になるから聞くわ」

 そうしてスっと顔を上げたメドウィカ様が、私を見上げてついに問うた。

「グレイブル王国第一王子……ルイス王子殿下は……ルイは無事なの? 彼は今、グレイブル王国でどういう扱いになっているの?」

 ――やはり、そこが気になるのですね。
 その言葉を飲み込み、私はしばし沈黙した。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

ローザとフラン ~奪われた側と奪った側~

水無月あん
恋愛
私は伯爵家の娘ローザ。同じ年の侯爵家のダリル様と婚約している。が、ある日、私とはまるで性格が違う従姉妹のフランを預かることになった。距離が近づく二人に心が痛む……。 婚約者を奪われた側と奪った側の二人の少女のお話です。 5話で完結の短いお話です。 いつもながら、ゆるい設定のご都合主義です。 お暇な時にでも、お気軽に読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

処理中です...