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10.ラシードは姫との婚約を打診される
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「ホギャア、ホギャ、ホギャア」
赤ん坊が泣いている。ラシードが二つ目の願いを口にした数か月後、ラシードの弟が産まれた。
「ちょっと僕に抱っこさせてくれる?」
乳母にあやされても一向に泣き止まなかった弟を受け取り、ラシードがあやすと、弟はにっこりと笑った。
「キャッキャッ」
(可愛いなぁ。ほっぺぷにぷに。笑うとえくぼまで出来るんだもんなぁ、いっそ卑怯なほど可愛い)
子どもを成せないラシードの代わりに次代を担う弟だ。弟であり、子どもであり、孫でもあるような。そんなほわほわした存在。溺愛しない訳がない。ラシードの家での行動は、魔人とイチャイチャする六割、弟を可愛がる二割、その他二割という割合で出来ていた。
(さて、そろそろ出掛けるか)
ラシードは王城で働くようになっていた。宰相の息子という肩書きを引っ提げて鳴り物入りで入省した財務を担う部署で、早速ラシードは頭角を現しつつある。
(ジンへの最後の願い。こういうのってアリなのかな……)
帳簿の検算をする傍ら、ラシードはぼんやりと最後の願いについて夢想した──ジンを人間にする。こんな願いは叶うのだろうか。ジン自身に掛ける魔法なんて、ジンに出来るのだろうか。うむうむと悩んでいると、珍しく宰相である父がラシードの職場へ来た。
「ラシード、ちょっといいか」
ちょいちょいと父親が手招きをするので、上司に断りを入れて父親の許へ行く。ここで話す内容ではないので、私の執務室へ来てくれるかと、親子二人で連れ立って王城を歩いた。砂漠の乾燥地帯にあって、もともとはオアシスであった土地に形成された王都ではあったが、人口が増えるにあたり足らなくなったのは水だった。これを解消すべく、ラシードの父親が整備したのは、山麓の扇状地帯から地下水を地下水路で運んだカナートだった。カナートの恩恵もあり、ラシードが魔人に願った、『試験による官吏登用制度』が制定される前の世界線よりも今の方が数倍、国は潤っている。砂漠特有の乾いた風の合間に、縦横無尽に張り巡らされた水路から立ち昇る爽やかな風がラシードの頬を撫ぜた。
父親の執務室で父親が手ずから茶を淹れようとするので、僕がやりますよと茶器を奪い取ったラシードが茶を準備した。カタリと父親の執務室に設えられた応接セットの机に茶を置くと、ラシードは父親が座る椅子の真正面にある椅子に腰かけた。
「宰相様、御用の向きは何でしょうか」
父親はふふと片頬を上げて、しかしどことなく仄暗い笑顔を浮かべた。ラシードはその笑顔に一抹の不安を感じた。
「今は親子二人きりだ、そんなに畏まらずともよい。普段通り父上と呼んでくれていいよ」
「はい、わかりました。父上」
今度こそにっこりと父親が笑みを浮かべ、ラシードが淹れた茶を手にするとごくりと飲み込んだ。
「ふふ。相変わらずラシードが淹れる茶は旨い……ところで、王よりお前への打診があった」
「え? 王様から僕にですか? なんでしょう」
「王の子どもは王女一人だけだとは、お前もよく知っているな?」
「まさか……」
「そう、そのまさかだ。王よりお前を姫様の婿に欲しいという打診だ」
「……そんな」
玉の輿とも言える縁談に息子は戸惑いの声をあげるに違いないと父親は思ってはいたが、これほどに絶望的な表情を浮かべるとは予想外だった。
「断れ……なかったですよね」
「そうだな。王命だからな」
「父上、僕は……」
僕は同性愛者なのです。大好きな恋人もいるのです。ラシードはこのことを父親に伝えられなかった。
赤ん坊が泣いている。ラシードが二つ目の願いを口にした数か月後、ラシードの弟が産まれた。
「ちょっと僕に抱っこさせてくれる?」
乳母にあやされても一向に泣き止まなかった弟を受け取り、ラシードがあやすと、弟はにっこりと笑った。
「キャッキャッ」
(可愛いなぁ。ほっぺぷにぷに。笑うとえくぼまで出来るんだもんなぁ、いっそ卑怯なほど可愛い)
子どもを成せないラシードの代わりに次代を担う弟だ。弟であり、子どもであり、孫でもあるような。そんなほわほわした存在。溺愛しない訳がない。ラシードの家での行動は、魔人とイチャイチャする六割、弟を可愛がる二割、その他二割という割合で出来ていた。
(さて、そろそろ出掛けるか)
ラシードは王城で働くようになっていた。宰相の息子という肩書きを引っ提げて鳴り物入りで入省した財務を担う部署で、早速ラシードは頭角を現しつつある。
(ジンへの最後の願い。こういうのってアリなのかな……)
帳簿の検算をする傍ら、ラシードはぼんやりと最後の願いについて夢想した──ジンを人間にする。こんな願いは叶うのだろうか。ジン自身に掛ける魔法なんて、ジンに出来るのだろうか。うむうむと悩んでいると、珍しく宰相である父がラシードの職場へ来た。
「ラシード、ちょっといいか」
ちょいちょいと父親が手招きをするので、上司に断りを入れて父親の許へ行く。ここで話す内容ではないので、私の執務室へ来てくれるかと、親子二人で連れ立って王城を歩いた。砂漠の乾燥地帯にあって、もともとはオアシスであった土地に形成された王都ではあったが、人口が増えるにあたり足らなくなったのは水だった。これを解消すべく、ラシードの父親が整備したのは、山麓の扇状地帯から地下水を地下水路で運んだカナートだった。カナートの恩恵もあり、ラシードが魔人に願った、『試験による官吏登用制度』が制定される前の世界線よりも今の方が数倍、国は潤っている。砂漠特有の乾いた風の合間に、縦横無尽に張り巡らされた水路から立ち昇る爽やかな風がラシードの頬を撫ぜた。
父親の執務室で父親が手ずから茶を淹れようとするので、僕がやりますよと茶器を奪い取ったラシードが茶を準備した。カタリと父親の執務室に設えられた応接セットの机に茶を置くと、ラシードは父親が座る椅子の真正面にある椅子に腰かけた。
「宰相様、御用の向きは何でしょうか」
父親はふふと片頬を上げて、しかしどことなく仄暗い笑顔を浮かべた。ラシードはその笑顔に一抹の不安を感じた。
「今は親子二人きりだ、そんなに畏まらずともよい。普段通り父上と呼んでくれていいよ」
「はい、わかりました。父上」
今度こそにっこりと父親が笑みを浮かべ、ラシードが淹れた茶を手にするとごくりと飲み込んだ。
「ふふ。相変わらずラシードが淹れる茶は旨い……ところで、王よりお前への打診があった」
「え? 王様から僕にですか? なんでしょう」
「王の子どもは王女一人だけだとは、お前もよく知っているな?」
「まさか……」
「そう、そのまさかだ。王よりお前を姫様の婿に欲しいという打診だ」
「……そんな」
玉の輿とも言える縁談に息子は戸惑いの声をあげるに違いないと父親は思ってはいたが、これほどに絶望的な表情を浮かべるとは予想外だった。
「断れ……なかったですよね」
「そうだな。王命だからな」
「父上、僕は……」
僕は同性愛者なのです。大好きな恋人もいるのです。ラシードはこのことを父親に伝えられなかった。
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