大晦日にうっかり昔のデート映像が彼氏に発掘された

橘 咲帆

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バレンタイン

バレンタインの俺達① ※

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「くっ……なんでこうなったんだ……」

 俺は真っ黒こげになった電子レンジの庫内を見て頭を抱えた。

「俺としたことが……」

 一応、俺も理系の端くれなのだが……どうしてこのような仕儀にあいなったか、検証をしよう。

 本日は、バレンタインだ。
 外国では花を好きな人にあげたりする習慣があったりするけれど、ここは日本。製菓メーカーの陰謀なんだか、作戦なんだか。古(いにしえ)の乙女たちが好きな男性に「好き」とも言えないほど奥床しい文化であった頃、聖バレンタインデーにチョコレートを渡して告白しましょうなんて風習を根付かせたのだ。
 ああ、大変よろしいな。
 その当時の乙女にとってはさぞかし僥倖であったことであろうよ。
 が、しかしだ。
 この昨今、そんな奥手な女子なんているか?まあ、俺は男子なわけだけれど、チョコレートの力なんか借りなくたって、好きな奴には普通に好きと言える。ああそうさ。今朝だって、なんなら昨日の夜だって四六時中好き好き言っている。というか言わされている。言わないと拗ねる。
 面倒くさい。
 あいつ、なんであんなに甘えん坊なんだ?
 俺とあいつ──陽司がこう……あ、まあなんだ。そういう関係になる前はもうちっとサバサバしたかんじだったんだがな。

 そんなこんなで、甘えん坊の俺の恋人、陽司のために、俺は慣れない菓子作りなんかしようと思ったわけだ。もう春休みになったしね。

 ちなみに、陽司は今、バイトに行っている。
 俺は一人。
 キッチンで、黒焦げになったレンジを見て途方に暮れている。

 この黒焦げになったレンジをどうするか……180度くるりとキッチンに背を向けて、ベッドに駆け込んでふわふわ君抱えてスンスン鼻鳴らして涙に暮れたいけれど、陽司が帰ってくる前にちょっとでも片付けたほうがいいよな。
 俺は腕まくりをした。

 おっと、「ふわふわ君」って言ってもなんだかわからないよな。ふわふわ君とは、俺のお気に入りのふわっふわでもっこもこな薄紫色のバスタオルだ。過去、これを勝手に使われて怒った俺が──といった話に興味があったら1話を参照してくれ。まあ、その件がなかったら、俺と陽司はまだ幼馴染のまんまだったんだろうなあ。それもこれもふわふわ君のお陰だな!ふわふわ君様々だな!ありがとうふわふわ君!

 ──現実逃避をしてしまった……。証拠隠滅をせねば。

「ただいま」

 んん?陽司か?いつもより早くね?
 俺は時計を見た。いや、おかしくない。いつも通りだ。いつの間にこんな時間に!やっば。バレる……。

「あれ?どうしたのカズくん?腕まくりにゴム手袋?わあ!どうしたの、このレンジ」
「ごめ……」
「いやいや、カズくん。大丈夫?怪我はない?」

 ──なんて優しいんだ……陽司。電子レンジよりも先ず俺の身体を心配してくれるなんて!惚れる……。惚れてまう……。

「怪我はないみたいだね?よかった。……ははーん。コレか?原因は」

 陽司がキッチンに置かれた黒焦げになったチョコの残骸を見てニヤりと笑った。

「チョコの量が少なすぎたのか、電子レンジにかける時間が長すぎたのか。そんなとこかなぁ」
「そうかも……ごめん」
「いいよ~!気にしないで?この電子レンジは俺の姉ちゃんが買ってくれたんだよなぁ。確か初任給で」
「ごめん。ほんと、ごめん」
「いいよ~!その代わりカズくんにやってもらいたいことがあるなぁ」

 意味ありげな笑みを浮かべる陽司を見て、俺はごくりと喉を鳴らした。

 ◇◇◇

「はい、しっかりお尻、突き出してね。そうそう。変に背中を丸めると肩甲骨の間にあるコ〇ラのマーチが落ちちゃうからねぇ」

 陽司がバイトから帰って来たとき、手に携えていたものは、絞り出すだけでデコレーションできる生クリームとコ〇ラのマーチ。チョコのペンと卵型のチョコだった。なんだよ。甘いものだらけだな。そんなに甘いもの好きだっけと首を傾げたけれど、陽司は着々と準備した。言われるがままに風呂に入らされ、言われていないけれど後ろも洗って。ほっかほかになってふわふわ君一枚でベッドルームに行くと、防水シーツがベッドに敷かれていた。

 は?

 まあ男同士の場合、分泌するものも多いですからなぁ。こういったものがあると便利かもしれぬ……。というか、どんな激しいことをするつもりだ。ちょっとケツがきゅん♡としちゃったじゃねぇか。
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