『神様ポスト』

キンモクセイ

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安堂 薫

『彼に会いたい』(4)

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薫はクローゼットの前で、悩んでいた。

異性との外出など、いつぶりだろうか?
長く歩く為、ラフなスタイルでいくか、はたまた大人な彼に合わせてシックにいくか。
化粧だってそうだ。あまり派手にすると、場に合わず、こちらが浮いてしまう。
結局悩んだ結果、無難なワンピースにし、メイクはナチュラルに済ませた。


鞄を用意し、ジャックの待つ隣の部屋へ向かった。
「おまたせ、ジャック。」

『全然大丈夫だよ。とても素敵だ、よく似合ってるよ。』
 
「あ、ありがとう」

先ほどと変わらない服を着ているジャックだが、自分が隣に立つと見劣りしてしまうのでは無いか、と薫は恥ずかしくなり、うつむいた。

『恥ずかしがらないで、カオル。それに、本当に似合ってるよ。とっても綺麗だ。
靴は、僕に選ばせてくれるかい?』

「う、うん。良いけど……。」

『ありがとう。確か、靴入れは入口の傍だったよね?ちょっと見させてもらうね?』

ジャックは玄関に向かい、シューズボックスの戸を開けた。薫は、慌ててジャックに着いて行き様子を伺っている。

『う~ん…どれが良いかな……あ、これなんてどうかな?』

ジャックが取り出したのは、ライトブルーのヒールの低いパンプスだった。
薫は、こんなに真新しい靴持っていたか?と、記憶を巡らせたが、期待に満ちたジャックの眼差しを受け、履いてみる事にした。
それは、まるで自分の為だけに作られたかのように、ピッタリとはまった。

「すごい…こんなに歩きやすそうな靴初めて。」

『良かった。それじゃあ行こうか。』

ジャックこげ茶色をした革靴を履いた。
薫のシューズボックスでは、見たことない物だった。

薫の家から、目的地のショッピングモールまでは、電車で3駅隣だった。

駅までの道を興味深い表情をしながら、歩いているジャックは、さながら散歩を楽しんでいる大型犬のようだった。

「ジャック、はぐれると危ないから。」

『ああ、ごめんね。どうしても周りが気になっちゃって。』

「大丈夫よ、気にしないで。」

『でも、はぐれると怖いからこうしておこうか。』
そう言うとジャックは、薫の手を握った。
いわゆる恋人繋ぎだ。
『こうすれば、僕たち逸れなくていいよね。』
薫は恥ずかしかったが、ジャックの屈託のない笑顔に何も言えなかった。

駅に到着し、改札口を通る時もジャックは、薫の手を離さなかった。
ジャックは、家から出る際に電車でのマナーを薫から教わり、電車を待つ列に並んでいた。
頭1つ分飛び出しているジャックは、群集の中では特に目立っていた。

電車の中でも、ジャックは大人しくしていた。むしろ、混雑した車内で薫を守るように向かい合うように立っていた。
窓側を向いているジャックは、過ぎ去る街並みを驚いた表情で見ていた。薫の自宅から、見ていた景色にも驚いていたが、自分のいた世界との差を改めて実感した。

目的の駅に到着し、降車した2人は再び手を繋ぎながら目的地へ向かっていた。
『ところで、この世界で生活するのに必要なものって僕らの世界とは違うのかい?』

ふと、ジャックを尋ねてきた。
「ほとんど変わらないと思うよ。ただ、服装だけは違うから、今日買うのは洋服がメインになるかな。」

『そっか、良かった。実はこの服少しキツくて、まるで誰かからの借り物を、着ている気分だったんだ。』

ジャックは、自分の着ている服を摘み上げながら答えた。
それを聞いた薫は、苦笑いをするしかなかった。

ショッピングモールに到着した2人は、早速生活に必要な物を買い始めた。
ジャックの分の食器類や、日用品などを先に買い、昼食後に洋服選びをする事にした。

途中、薫は雑貨屋に入り、自分の必要な物を購入しようとした時、ジャックは、柴犬をモチーフにしたビーズクッションを、手に取り顔の前まで持ち上げ、何ともいえない真剣な表情で、ひたすらもみ込んでいた。
薫はその光景に耐えきれず、吹き出して笑ってしまった。

ちなみに、店を出た2人の押すカートには、先ほどまで揉まれていた柴犬が鎮座しいてた。

昼食は、ジャックにもなじみがありそうな洋食店を選び、食事を楽しんだ。

腹も満たされ、洋服選びを始めた2人。
様々な洋服屋を巡り、薫は思った。
流石は、恋愛乙女ゲーム出身。
予想通り、何を着せても似合う。
店員の男性達も、何でも着こなすジャックにテンションが上がったのか、様々なタイプの服を勧めてくる。

薫は、悩みに悩んだ結果、特に似合っていた服を数着選び、購入した。

服は決まった。
さぁ、此処からが問題だ。
下着だ。
ジャックは体格もかなり良いため、通常の男性下着だと小さい事が分かり、専門店での購入しか選択肢が無かった。

男性下着専門店の前で、薫は右往左往していた。
『カオル?どうしたの?』

「えっと、こういうお店初めて入るから…」

『そうなんだ。じゃあ………』

『カオルが選んでくれる?僕の下着。』
ジャックは徐ろに薫の耳元に顔を近づけて呟いた。

薫は、飛び退く様にジャックから少し離れ、耳を抑えながら彼を見た。

ジャックはその様子にクスクスと笑った。

『今回は、自分で選ぶことにするよ。大丈夫、おかしなものは買わないから。そこのベンチで待ってて。』

「わ、分かった。」
薫は、顔赤くしながらジャックが指をさすベンチへと向かった。

普通は逆じゃないのか?と薫は思った。
先ほど、女性の下着専門店の前でソワソワしている男性を見かけたが、なるほどこんな心境なのかと心中お察しした。

手持ち無沙汰な薫は、先程購入した柴犬クッション「モフッタ」を揉み込んでいた。
ちなみに名付け親は、ジャックだ。

薫は、以前まではジャックをゲームのキャラクターと捉えていた。
しかし、この世界に喚び出された彼と過ごす内に、今まで知らなかった部分が、浮き彫りになってきた。

意外とカワイイ物好きなところ。
絶妙にネーミングセンスが悪いところ。

これから、いろんな彼の一面が見れるのかと思うと、幸せな気持ちでいっぱいになり、心の中で神様に感謝していた。

「あれ~?もしかして、薫?」 

薫は、その呼び声に動きが止まった。
呼びかける声の方に顔を向けると、予想通り、この世で最も会いたくなかった2人が嘲笑しながら此方を見ていた。

優里奈ゆりな………。それに、大翔ひろとも………。」

「ちょっと~。人の旦那様を勝手に名前で呼ばないでよ~。」

「おい優里奈~、そんな事言ったらボッチの薫がかわいそうじゃねぇか。」

「え~、でも~元カノから名前呼びとかアタシ許せないタイプだし~。」

「それはごめんなさいね。」
薫は冷たく言い放った。

「あ、そうだ薫。アタシのSNS見てくれた!?」

「えぇ、見たわよ。」

「ほんとに?ありがと~。夢だった海外挙式だし、イイネもたくさん貰えて超うれしい~。」

「(夢ねぇ…相変わらず嘘が上手いこと。)」
薫は心のなかで皮肉った。
薫は知っているのだ。
彼らが略奪のうえ、結婚式を行う際に、親戚や友人達から、非難轟々を受けた。
その為か、招待客が集まらず、急遽2人だけの海外挙式にした事を。

「それで?何か用?」

「何~、最近薫冷たくない?他の友達も遊びに誘っても、色々理由つけて断ってくるし。」

「せっかく俺らが誘ってやってんのによ、つまんねぇよな。」

莫迦なのか?この2人は。
いや、大莫迦だった。

「それは、自分達のやってきた事を、省みたら分かるんじゃ無いかしら?」

2人は、その言葉にピタリと動きを止めた。図星だったのか、段々と顔を真っ赤にして震えはじめた。

「うるせぇ!大体何でお前みたいなのがこんな所いるんだよ!これ見よがしに男物ばっか買い漁って!」

「これは、連れの購入品ですけど。」

「ほ、ほらきっとホストとかレンタル彼氏とかに嵌っちゃったんだよ~。うちらから、お金たんまり奪ったんだから、それで寂しくて使ってるんだよ~。」

「違います。それに、例えそうであったとしても、貴方がたには関係ないです。」

「黙れ!お前みたいな地味女に興味持つ男なんざ、この世に居ねぇんだよ!」

大翔の手が薫に近づいてきた。
薫は反射的に目を瞑り、身をかがめた。
しかし薫には、何も起きなかった。
そっと目を開けると、大翔の掲げた腕を
ジャックがつかんでいた。

『どんな事情でも、男が女性に手をあげるのはどうかと思うな。それに、彼女の連れは僕だ。用があるなら僕が聞くよ。』

穏やかな言葉と表情で、その場を制しているが、眼光だけは鋭く、殺気立っていた。

「お、おい離せよ!コイツはな、俺たちの金でお前に貢いでんだよ!」

『貢ぐ?恋人と暮らす為のものを買うことが貢ぐというのかい?』

「は?何言ってんだお前!レンタル彼氏も大変だなぁ、こんな女の訳わかんねぇ設定につきあわされて!」

『そのレンタル彼氏?というのは知らないけど、僕たちは正真正銘の恋人だよ。』

「え……嘘でしょ?薫にこんなイケメンの彼氏とか意味分かんない!」

「おい薫!お前……まさか浮気してやがったのか?ふざけんな!お前も俺たちと同類じゃねぇか!」

『勘違いしないでくれないか?彼女は一切浮気などしてないよ。僕の一方的な片想いだ。初めて触れたのだって昨日だったし。』

「ちょ、ちょっとジャック。恥ずかしいから。」

余りにもあけすけなジャックに薫は、ストップをかけた。
騒ぎが大きくなる前に、立ち去るつもりだったがもう遅かった。

4人は駆けつけた警備員に、漏れなく厳重注意された。
しかし、大翔と優里奈は引っ込みがつかなくなったのか、此方に対して、何時までも悪態をついていた。
対応に困り果てた警備員達だったが、下着屋の店員の証言もあり、薫に危害を加えようとした一部始終が露見し、大翔と優里奈は警備室へと連れて行かれた。
薫は、警備員から警察を呼ぶため被害届を出すか質問されたが、実害も無く、夕暮れ時で早く帰宅したかったので、丁重に断った。

『カオル、本当に大丈夫?』

「大丈夫よ、ジャック。ありがとう。疲れたし、荷物も多いからタクシーで帰りましょ。」

『わかったよ、キミが無事ならそれで良いんだ。タクシーか。電車から見えたクルマ?だっけ、乗ってみたかったんだ。』

2人は、談笑しながらショッピングモールを、あとにしようと歩き出した時、曲がり角の前で人とぶつかってしまった。

「ごめんなさい、ケガは無い?」

【ええ、大丈夫ですよ~。あ、これ落ちましたよ。】

ぶつかってしまった彼は、1通の封筒を差し出した。

「これは、私のでは無いです。」

【いいえ、確実に貴方のものですよ。】

その人は、どこにでもいそうな普通の青年だった。だが、何故か不思議な気持ちになり、薫は自然と手紙を受け取っていた。

【確かに渡しましたからね。それでは。】
青年は曲がり角へ向かい、消えるように去っていった。

2人は不思議そうにしながら、受け取った封筒を眺めた。

また真っ白な封筒で宛名や切手、消印や住所も無い。
顔を見合わせた2人が考えている事は恐らく一緒だ。

急いでタクシーを捕まえ帰宅し、荷解きもそこそこに、手紙の封を開けた。


【拝啓  安堂 薫殿
僕は、倭大物主櫛甕玉大神やまとのおおものぬしくしみかたまのおおかみ。さっき手紙を渡した本人だよ~。
名前が長すぎて、面倒だと思うから、周りから呼ばれてる〈あんば様〉で良いよ~。大国主命おおくにぬしのみこと様から、君たちを見守る様言われていたから、ホントは駄目なんだけど、少しだけ介入させてもらったよ。彼等は君たちにとって厄災と観たから、君たちとの悪縁を切っておいたよ~。二度と近づけないようにしたから、安心してね~。あと、君たちが、今履いている靴は僕からの贈り物だよ。他の国たのくにでは、「素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる」という言い伝えが有るらしいから、それにあやかってみたんだ。二人の歩む道に幸が有らんことを。

追伸  ちなみに僕の居る神社は、子授けの祈願も出来る社もあるから、その気になったら、是非二人でおいでね~。】

薫は、顔を真っ赤にしながら、急いで手紙を閉じてカバンの中に入れた。

『どうしたの?カオル、それって神様からの手紙だよね?何かおかしな事書いてあったの?』

「だ、大丈夫。さっきの人は神様だったみたい。あの2人とは、もう会わないようにさせるって書いてあったよ。あと、私達が履いている靴は神様からのプレゼントって書いてあったよ。」

『さっきぶつかった人のこと?神様ってもっと、仰々しく降臨するものだと思ってたけど、そうじゃないんだね。』

「この国は、八百万やおよろずっていって、いろんな神様が存在するのよ。食べ物の神様だったり、お酒の神様とか、トイレの神様なんて方も、いらっしゃるの。」

『そんなにたくさんいるのかい?僕はてっきり、コチラに喚んでくれた神様だけかと思ったよ。』

「ジャックの世界は確か、一神教だったもんね。戸惑うのも無理ないわ。」
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