スキル【ファミレス】を使っていたら伝説になりました。

キンモクセイ

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労働基準監督署は本気を出すとめちゃくちゃ怖い

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「待たせたな、キー」

店を出た優たちは、店前で待ちくたびれて寝ているキーを起こした。

「遅かったではないか。」

そこには、様がわりしたメリーが立っていた。

ボロボロの布切れをまとい、髪もボサボサだった少女が一転、可愛らしい姿へと変わったメリーを見てキーは喜んだ。

「なかなか様になっているではないか、メリーよ。ワシはヒトの美醜はよく分からんが、今のお主は我が主として相応しい姿をしているぞ。」

3つに分かれた尻尾も、喜ぶように揺れている。

「よし!これでギルドに行けるな。メリー、お前も商業ギルドに入れ。」

「へ?」

「さっき言っただろ?しっかり働いてもらうって。」

「スグル!貴様メリーを扱き使うつもりか!!」

「「働かざる者食うべからず」これが俺の信条だ。」

「それはお主の世界の格言であろう!大体、お主の世界では、子供は働かぬのではないのか?」

「それはそれ、これはこれ。」

「理不尽が過ぎるぞ!メリーよ!お主は従う必要は無いぞ!」

尻尾が3つに分かれて、優に向かって毛を逆立てた。

「どうする?メリー。うちの食堂で働くか。それとも、このままで行くか。」

「わ、わたしは………。働きたいです。」

優はニッコリ笑い、メリーの頭を撫でた。

「じゃあ、決まりだな。大丈夫、メリーならきっと出来る。」

「何故だメリーよ!お主は働かないという選択肢もあったのだぞ?」

「うん。でもお仕事すれば、お父さんの事知ってる人に会えるかもしれないから……。」

キーは、それを聞いて黙りこくるしかなかった。

「むぅ……。分かった。だがしかし!我が主が働くというならばワシも働いてやろう!」

「は?キーが働く?どうやって?」

「この姿ならば、用心棒として使えるであろう。」

「まぁ、使えなくはないか…。」

「それに、スグルがメリーに辛いことをさせれば、即座にロウキ?とやらに報告せねば。」

「いや、労基はこっちの世界に無いからな?俺のいた世界の組織だからな?」

「それこそ、「それはそれ、これはこれ」ではないか」

「もう埒が明かないから、もう行くぞ。」

一同は、商業ギルドへ向かった。






「ここが、商業ギルドですか?」

2階建ての木造建築の大きな建物を見て、メリーは唖然とした。

「そう。じゃ入るか。キー、お前も来い。」

「む?今回は入っても大丈夫なのか?」

「使い魔の登録をしなきゃならないからな。」

「なるほど、承知した。」


ギルド内に入ると、キーとメリーは驚いた。

外観もそうだが、内装も立派だったからだ。

優は、2人(正確には1人と1匹)を連れて受付へ向かった。

「ようこそ、商業ギルド「フェルタール」へ。使い魔の登録ですか?」

受け付けでは、数人の受付嬢が居て、そのうちの1人が話しかけて来た。

「それもあるが、新しく商業登録をお願いしたい。」

「かしこまりました。どちらの方が登録なさいますか?」

「わ、わたしです!メリーって言います!」

メリーは緊張しながらも、堂々と名乗った。

受付嬢は驚いた。

なにせ、こんな年端も行かない少女が商業登録を希望したのだから。

「か、かしこまりました。どういった内容で登録なさいますか?」

「俺の登録している移動食堂「ブリエ」の下請けとして登録したい。内容は、注文受付、食事の配膳、会計などだな。」

「なるほど。要するに、ウェイトレスとして雇うのでは無く、その業務を下請けとして依頼したいという事ですね。」

「そうだ。その方が彼女も受け取れる資金が上がるはずだ。」

「かしこまりました。では、メリーさん。登録名は何になさいますか?」

「えぇっと………、じゃあ「スコッル」でお願いします。」

「「スコッル」ですね、分かりました。」

「あと、使い魔登録をしたい。基本的には冒険者ギルドでの登録だが、此方でも出来るだろう?」

「えぇ、可能ですよ。そちらのジャイアント・ウルフの登録でよろしいでしょうか?」

「ジャイアント・ウルフなどでは無い!ワシは、気高きキング・キメラであるぞ!!」

種族を間違われたのがよっぽど嫌だったのか、キーは勝手に変化を解いた。

「「「ギャーーーー!!!」」」

当然、騒ぎにもなる。

複数の叫び声を聞きつけ、ギルドマスターが駆けつけてきた。

「こ、これは一体どういう事ですか!?」

「おい!勝手に変化解くんじゃねぇよ!周り見てみろ、腰抜かしてる奴もいるじゃねぇか!」

「そんなの知らん!ワシは種族をたがえた者に事実を伝えたに過ぎん!」

後ろのウサチュー達は、激しめに首を上下に振っていた。
久々に自由に動けてよほど嬉しいのだろう。

「だからってなぁ………。」

頭を抱える優の服をメリーが少し引っ張った。

そして優の前へ出てキーの元へ近づいた。

「どうした?我が主メリーよ。」

キーは褒められるのを待つ犬のように聞いてきた。

後ろの蛇達もワクワクしながらこちらを見ている。

俯きがちだったメリーは、顔を上げキーを真っ直ぐ見上げた。

「キー君!勝手に変化解いちゃダメでしよ、メッッ!!!」



その瞬間、静寂が走った。



キーは、絶望感でいっぱいの表情をし、ウサチュー達は、ショックのあまりヘナヘナと地面に垂れ下がった。

(((キング・キメラを怒った!?しかもあんな小さい女の子が!?てか、キング・キメラめちゃくちゃ落ち込んでるし!!)))

ギルド内の人々の心境が1つになった瞬間だった。

優は、吹き出すのを必死で堪え、肩が揺れていた。

なにせ、自分には突っかかってくるモンスターが幼女に叱られて、しょげているのだから。

「済まなかった。これより先は、メリーが命ずるまで変化を解かないと約束しよう。」

「分かったよ。それじゃあ、約束ね。」

少し落ち着いたところでギルドマスターが話しかけてきた。

「失礼。私はこのギルドのマスター、デロイアと申します。こ、こちらのキング・キメラの主人は貴方様でよろしいでしょうか?」

「はい、私です。キー君が変化解いちゃってごめんなさい。」

メリーは、あたまを下げ謝罪した。

「いえ、少し驚きましたが問題ないです。君、この方達の使い魔登録を頼む。」

「は、はい!」

流石はギルドマスター。落ち着きを取り戻すのが早い。

「では、接客商業「スコッル」のリーダーであるメリー様の使い魔はキング・キメラと登録させていただきます。使い魔のお名前はキーでよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。お願いします。」

「かしこまりました。そちらの男性は、使い魔登録は無しという事でよろしいですか?」

「いや、いる。尻尾の3尾だ。」

「尻尾?」

「あぁ、尻尾だ。」

「はぁ、そうですか。では、登録の為に使い魔のお名前を伺っても?」

「右がウー、左がサー、真ん中がチューだ。」

ウサチュー達は、イヤイヤと激しく頭を左右に振った。

(((尻尾?尻尾も1個体として登録できるかよ!てか、尻尾の蛇めちゃくちゃ嫌がってる!!)))

「か、かしこまりました。ではそのように登録させて頂きます。…………はい。登録が完了しました。」

「助かる。あぁそれとこの街で1番広い広場などはあるか?」

「それでしたら、中央広場がございます。」

「そうか、そちらの使用許可を今日の夕方から夜の九の刻まで取らせて貰いたい。使用内容は、食堂営業だ。」

「かしこまりました。では、こちらの用紙にサインをお願いします。」

優は内容をしっかり読み、書類へサインした。

「何かございましたら、この書類を見せれば問題ないかと思います。」

「ありがとう、助かった。それじゃ用も済んだし買い出しに行くか。メリー、しょげてるアイツを変化させてやってくれ。」

「分かりました。キー君、また狼さんになってくれると嬉しいな。」

「む、我が主の頼みとならば、喜んで受けよう。」

キーはすぐにジャイアント・ウルフの姿に変化した。

(((主人に対してチョロすぎないか?)))

「あ、お待ちください、メリー様。」

受付嬢がメリー達を引き留めた。

「下請け業者は、下請け業者保護組合への登録が義務となっております。主に過剰な労働や、報酬内容が正当であるかなどを、定期的に視察したりします。」

「そんなのあるのか?」

「ええ、他にも従業員向けの保護組合などもありますよ。内容は先ほどの組合と変わりは無いですが、此方の方がより厳しい制度になっております。」

「そうかそうか、これならばスグルがメリーを扱き使う事も出来ぬであろうな。」

キーはしたり顔をしながら、優を見た。

「こっちの世界にも、労基あんのかよ……。」

「最近出来た制度で、期限内に登録をしないと、高額な罰金が課されるそうですよ。」

「そうか…………。(この制度作ったやつ、絶対にだな。)」

優が昔の仲間に思いを馳せてる間に、メリーは受付嬢から、内容を教えてもらいながら、書類にサインした。

「はい、これで全ての登録が終了しました。お疲れ様です。」

「ありがとうございます。」

「いえ、これが私の業務ですから。メリーさん、これから大変だと思いますが、頑張ってくださいね。」

「はい!頑張ります!」

「助かった。それじゃあ、今度こそ買い出しに行くか。」

一同は、フェルタールをあとにしたのだった。
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