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18_再会
しおりを挟むついにティフォの口から、堪えきれない嗚咽がもれた。
自分でもどうかしていると分かってはいたが、ムームのいない部屋にはどうしても居られなかった。
ムームのいないベッドでは眠れないのだ。
眠ってもムームの夢ばかり。ムームの命の危険に、体も動かずただ見ているしかないような悪夢を見るのだ。
それならばとティフォは、夜な夜な疲れ果てるまで歩き回ってムームを探すことにしたのだ。
限界まで疲れたら、なんとか眠ることができる。ムームとの幸せな時間を思い出すベッドではどうしても横になれなかったティフォは、しかたなく床に丸まって眠った。
それでも床で昼寝をしていたムームをふと思い出してしまい、もうどうにかなりそうだった。
「ムーム、……っ、ムーム、うぅっ」
いくらティフォが名前を呼んでも、しかめっ面で応えてくれたムームはいない。
心と体の限界で、ティフォは泣きながら地面にしゃがみ込んだ。
いい年をしてみっともない。情けない。それでも悲しくて寂しくて、ムームが心配で、泣けてきて仕方がないのだ。
無事でいて欲しい。ムームに幸せでいて欲しい。生きていて欲しい。私がもっと上手く立ち回れていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。誰にも目を付けられないように、ひっそりと生きていればよかった。仕事なんて放り出して、ムームと二人でどこかに逃げ出していればよかった。もっと上手いやり方はあったはずだ。もしムームに何かあったら、それは私のせいだ。
顔をおおう触手の隙間から、ぼたぼたと涙がこぼれて地面を濡らす。
ガサガサと草をかき分ける音が聞こえた。
ティフォが顔を上げるよりも早く、何かに頭を強く抱き込まれた。
走ってきたのだろうか。息を乱しながらも、強く抱きしめてくれるこの手を、ティフォはよく知っていた。
たった二本しかない温かな手。この手が優しいことを、ティフォはよく知っている。
「ムームぅ……っ!」
触手ですがりついて確かめて、誰にも渡さないとばかりに抱え込んだ。
ムームは目に見える怪我もなく、健康そうに見えた。
ティフォは触手で自分とムームを何重にも包み込む。
「よかった……ぐすっ、ムームっ、ムーム」
『泣くな、化け物。どこか痛いのか?』
ムームが優しく鳴きながら、たった二本の手でティフォの顔を確かめるように触っている。
ムームの手が涙を拭ってくれているのだと気付いたティフォは、さらに泣いた。
ティフォの両目から零れ落ちる涙で、そのうち水たまりができそうだ。
『もう泣くな。お前が泣くのは耐えられん』
ティフォの裂け目のような口に、柔らかな温もりを感じた。
ティフォが驚いて目を見開けば、至近距離のムームの顔も、同じように驚いていた。
「ムーム?」
『あー、違う。これは、……間違えた、だけだ』
そっぽを向くムームの耳が赤い。
ティフォは再び驚いて、思わず涙が引っ込んだ。
これは知っている。ティフォの知識が正しければ、感情的理由から顔が紅潮する地球人特有の現象だ。
そして口と口を触れあわせる行為は、おもに愛情表現の行為だったはず。
ケプラー惑星群の触手生命体にはない、地球人特有の営みだった。
「ムーム、ねぇ。ムーム、こっちを向いて」
ムームのかわいい顔が見たい。
ティフォがしつこく覗き込もうとすれば、ムームは激しく威嚇しながら暴れ出した。それを触手であしらいながら、かわらないムームの様子にティフォの心は弾んだ。
ムームを触手で絡め取り、おでこに優しいキスを送った。
確か地球では、祝福の意味を持つキスだ。ムームの無事を喜び、ムームの幸福を祈るキス。
『まぁ、お前が泣き止んだなら、いい』
ようやく顔を見せてくれたムームはどこか不服そうな表情で、ティフォの頭を引き寄せると、お返しとばかりにキスを返してくれた。
ムームの柔らかさを確かめるように、何度も角度を変えて唇を重ねる。
それから、ムームのぬるりとした舌が、ティフォの裂け目のような唇をなめた。
ゾクゾクと何かが体を走りぬける。
ティフォが息を吐く隙を突いて、ムームの柔らかな舌が、ティフォの口の中に侵入してきた。ムームのかみつくような、喰らいつくすようなキスに、ティフォの触手はぬめりを帯びる。
二人は絡みつくように抱きしめ合いながら、一方通行な気持ちではないのだと、何度も唇を重ねあった。
「家に、帰ろう」
ティフォはなんとか理性を総動員して、ムームを触手で抱え込み服の下に隠した。
そういえばムームと初めて会った日も、同じように連れ帰ったのだったなと、ティフォは懐かしく思い出した。
ムームは抵抗することなく、大人しく触手の中に収まっている。
服の隙間から見上げるムームと目が合った。それだけでティフォの足取りは軽くなる。
久しぶりの部屋に舞い戻ったムームは、落ち着いた様子でAIに飲み物を要求している。
空腹ではないようだ。そっと透過スキャンでバイタルチェックをしたが、健康に大きな問題もなさそうでティフォは少し安心をする。
ティフォが静かに観察していると、ムームは次に浴槽を形成し始めた。
さすがに外では入浴が難しかったのかもしれない。よく見ればあちこち汚れている。過酷な野生の生活をムームが余儀なくされていたのかもしれないと思えば、自分の不甲斐なさに心苦しさが募った。
ティフォは少し考えてから、ムームの手を止めて部屋の外に連れ出した。
ティフォの自宅内で、ムームはこの寝室しか知らないのだ。
ムームは興味深そうにあちこちを見ながらも、ティフォのあとをついて歩いた。
ある一角でティフォの触手がさっと壁に触れる。
ふわりと壁が開き、広い浴室が現れた。
「お風呂だよ。これからは自由に使いなさい」
ティフォはそう言いながら、AIの本体システムから制御装置を呼び出し、ムームをかざした。
家主登録はティフォのままに、ムームを新たな住居人として登録をする。こうすればゲストとしての家屋使用制限は解除され、好きな場所に出入りができるようになるのだ。
もちろん、外に出るのもムームの自由だ。
これであの日のように特務警察隊員が乗り込んできても、ムームなら自分で判断して逃げのびることができるはず。もちろん、ティフォのことが嫌になったら、出て行くのだってムームの自由なのだ。ティフォはムームを閉じ込めるのではなく、ムームから側に居たいと思ってもらえるように、尽くすしかない。
ムームを一人の知的生命体として正しく扱い、真摯に愛を乞うのだ。
ムームを失うことに対する恐怖は強い。もう二度と離ればなれにならないように、厳重に閉じ込めておきたいという気持ちを、ティフォはねじ伏せた。
これが、正しい姿のはずだからだ。
ティフォはムームの手を取って、扉の開閉ができるようになったことを見せてやる。
賢いムームはすぐに理解をしたようだ。横目でちらりとティフォを盗み見てから、自分で何度か試したあと、浴槽に向かって歩き出した。
広い浴室を使いやすいようにカスタマイズしていくムームを、ティフォは穏やかな気持ちで見つめた。
それから、体を洗おうとするムームになんとか頼み込んで洗わせてもらって、泡立つムームをじっくりと堪能する。
泡の塊のようになったムームは呆れた顔をしながらも、ティフォの自由にさせてくれた。
名残惜しい気持ちで泡を洗い流し、一緒に湯に浸かる。
湯の中でリラックスするムームに、ティフォの顔も緩んだ。昨日までの灰色の日々が嘘のような平和で穏やかな時間に、ティフォは幸せを噛みしめる。
そんなティフォの様子にムームは素晴らしく悪い顔で笑ってから、見せつけるように足を開いて、自らの手で後ろをほぐし始めた。
「ム、ムーム……っ」
ムームが自分でするところなど、見たことがない。
見てもいいのか悪いのか、戸惑いながらも触手の隙間からチラチラ見るティフォに、ムームは声を上げて笑った。
そうして、うろたえるティフォの触手に、ムームは足を絡めて誘う。
触れるか触れないかのもどかしさで、触手を撫でるムームの足先。その途方もなくやらしい姿にあっけなく煽られたティフォは、ムームに触手を伸ばした。
体中を確かめるように触手で愛撫をすれば、ムームは体を震わせながら快楽に溶けた顔でティフォを見つめる。
それなのにムームの手は、後ろからなかなか退かない。
早くムームの中に入りたいと焦れたティフォの触手が、ムームの手を絡め取って邪魔をする。
ムームはどこか困ったように笑いながら、ようやく手を退けてくれた。
そのまま両手を広げて待つムームに、ティフォはおずおずと体を寄せる。
ムームは地球人の中ではあきらかに大きく逞しい体をしているのだが、ケプラー惑星群の触手生命体と比べてしまえば、どうしても小さくか弱い生き物でしかなかった。
ムームはその小さな体で、その二つしかない小さな手で、ティフォを強く抱きしめてくれたのだ。ムームの温かな腕の中で、ムームの小さいはずの体が、ティフォにはとても大きく感じられた。
ティフォはムームにすがりつくように抱きしめ返しながら、覚えたての口づけを繰り返す。
そろりとムームの後ろに触手を伸ばせば、蕾はまだ固く閉じたままだった。
(私だけだ。ムームの体をこうして開いていいのは、私だけ)
ティフォの中で驚くほどの独占欲が、私の愛しい人だと騒ぎ立てている。
愛おしくてたまらない。離れていた間も、ムームには私だけだったのだ。そしてまた私も、ムームだけ。これから先、死ぬまで一生、ムームだけがいい。他の誰もいらない。ムームだけだ。
はやる気持ちでムームのあちこちをカプカプと甘噛みしながら、それでも無理をさせないように細い触手をゆっくりと侵入させた。すぐに中でどろりとした体液を注ぐ。少し動きやすくなったムームの中は、誘うように収縮しながらティフォを甘く誘惑する。
「ムーム、愛してる」
『はっ、あ、くそっ、早くっ』
ムームが焦れたような鳴き声で、触手にしがみ付きながら腰を揺らしている。そのやらしい姿に、ティフォは触手を増やして応えた。
ビクビクと震えながら白濁液を吐き出すムームの交接器官を、ティフォはパクリと口にくわえる。
一滴たりともこぼしたくないとジュルジュル吸い付けば、ムームは高い声を上げながら身をよじった。
ティフォは夢中になって、ムームの体を隅々まで優しく貪っていった。
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