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5. 男子校、だよ?
しおりを挟むリューイが入学してから、三ヶ月が経っていた。
無茶苦茶な先取り学習を余儀なくされていたリューイにとって、学園の授業に目新しさなどないに等しい。
それでも真面目に授業に取り組んでいた。
一日が終わり、ようやく迎えた就寝時間。
いつもベッドの中だけが、リューイの安らぎの時間だった。
ふかふかの上質なベッドが、リューイの気持ちを表すかのように沈んでいく。
「はぁ、疲れた……」
当初の計画は、なるべく目立たず騒がず、もちろん主要キャラには接触せず、全力で死亡エンドを回避するというものだった。
しかし目立たないように努力しようにも、リューイがあの有名な辺境伯の息子である時点で、無理があったのかもしれない。
心が庶民すぎるリューイはうっかり失念していたが、貴族の集まるパブリックスクールの中でも、ブルーイット辺境伯といえば、偉い貴族なのだ。
そもそも父のせいで過剰な教育を受けて育ったリューイは普通に優秀で、家柄だけではなく、実力で首席入学してしまったのだ。
もはや父だけの問題ではない。
でも父のせいにでもしないと、第一王子を差し置いて、新入生代表挨拶をしなくてはいけなかったリューイの心労たるや。……思い出すだけでも胃が痛くなる。
入学が約束されている貴族の入学試験なんて形だけのものなのだから、もっと手を抜けばよかったのだと、今なら分かる。
新生活への期待が大きすぎて、うっかり普通に回答してしまったのだ。
まぁその新生活庶民暮らしの夢も破れたのだけども。
家柄に加え実力も折り紙付きとなってしまったリューイは、生徒の中で完全に浮いてしまっていた。
同級生に遠巻きにされて、誰も話しかけてきてくれない。
それならひっそりと過ごせるかというと、注目だけはしっかり集めているのもだから、そうもいかないのだ。
無言の視線が常に付きまとい、うるさい事この上ない。
なのにリューイが話しかけても、みんな頬を染めて逃げていくのだ。
挨拶しただけで顔を赤らめるのはなんで? 深窓の麗人ってあだ名はやめて? ここ、男子校だよ? 僕、れっきとした男子だよ!?
こうしてリューイはより慎重に過ごさなくてはならなくなったのだった。
竜士いわく、男子校では全力で回避しなくちゃいけない危険があるんだそうだ。
食事に興味がなさすぎて、料理長が罰せられない程度に、義務的な食事しかしてこなかったからだろうか。
同世代よりも小柄な体形が、男しかいない環境ではダメなんだそうだ。
母譲りの日に焼けない白い肌もダメで、弓も剣も技術でカバーはしているけれども、筋肉のつきにくい体もダメだと竜士にいわれ、リューイは途方に暮れた。
今からでも努力すれば、筋肉ムキムキになれるかな?
脳内会議の結果、とにかく変な勘違いをされないよう、人と目も合わさず、笑顔は封印することになった。
いい人強化計画のためににっこり笑いかけただけで、ざわめかれたらどうしていいか分からなくなったんだよ!
ちなみにまだルクラント学園に聖女は登場していない。
年度の途中から編入してきた平民出の美少年が、実は聖女だったというストーリー展開だ。
聖女ルルンが性別を隠してまで男子校に入学してくる理由は、聖女を狙う諸外国の刺客から目を欺くため。
攻略対象者でもある騎士のべイントンが、聖女ルルンの護衛役も兼ねるのだそうだ。
たしかに貴族令息が通うパブリックスクールほど、外界と遮断された安全な場所はないだろう。
国としては、あわよくば第一王子と結ばれてくれたらという思惑も透けて見える。
いやまあ聖女は男装してるんだけどね。
学友として友情を育み、正体を明かしたその後は友情から愛情へシフトチェンジ的な?
それなのにゲームの中のリューイは、隣国に聖女を売ったのだ。
なんせリューイは辺境伯。
隣国は文字通りお隣さんなのだから、ちょっとしたコネさえあれば出来てしまったのだろう。
いろいろと意地悪をした上に、国を挙げて守ろうとしている聖女を他国に売るなんて、いくら父親が偉い貴族でも処罰されちゃうよね。
もちろん僕はそんな事しないけどね! ――と入学当初のリューイは思っていた。
ゲームのストーリー強制力を甘く見ていたのだ。
それはもう甘々の甘ちゃんだったと言わざるを得ないほどに。
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