悪役令息の異世界転移 〜ドラゴンに溺愛された僕のほのぼのスローライフ〜

匠野ワカ

文字の大きさ
11 / 24

11.朝日の出港

しおりを挟む




 早朝から港は活気づいていた。


 漁から戻った漁船からは、朝市に向けて魚を運ぶ人の声が賑やかに響いている。
 他にも、朝食を売る売り子の声。貨物船に荷を運び込む人の声。
 生きる人々の音に溢れていた。


 港までの徒歩移動で、すでにリューイの足は棒のようになっていた。
 剣術や乗馬で基礎体力はつけていたはずなのだが、長距離を歩くというのは別物らしい。

 リューイは路肩のすみに座りこみ、屋台で買った惣菜パンを咀嚼しながら朝の喧騒に耳を傾けていた。
 

 パンを買った屋台のおばさんに聞いた情報では、もう少しで国外行きの船の乗船が始まるらしい。

 偽造の身分証までは用意できなかったが、いくつかの国を渡り歩けば撒けるだろう。
 今のリューイは、まだ処刑されるほどの悪事は働いていないのだ。事件性もなく、自らの意志で失踪した人間をそこまで探すとは思えない。
 犯罪者でないのなら、確かな身分証さえあれば友好国への出入国はそう難しくはなかったはずだ。


 しばらくの間、生活に困らないだけのお金はこの日のために準備していた。

 このお金で、適当な平民の出生を手に入れてもいい。
 そうしてどこか遠くの国で、新しい生活を始めるのだ。


 新しい名前ならもう決まっていた。
 ブルーイット家の身分証を手放した暁には、リューイと竜士のそれぞれの共通の響きを取って、リユと名乗るのだ。

 ただのリユになれたら、ご近所付き合いをしてみたい。
 普通に挨拶をして、たわいもない天気の話をするのだ。顔なじみの店をつくって、常連客にもなってみたい。
 友人も作りたいし、恋だってしてみたいのだ。

 普通の平穏な生活を手に入れたい。







「本当に大部屋でいいんですか? 次の便でしたら、個室をご用意することも可能なのですが」
「急いでいますので。大部屋で大丈夫ですよ」


 個室だと自分で扉を開けなくてはいけないだろう。

 あえて出航ギリギリの時間に駆け込んだリューイは、仕方なくという演技をしながら、平民や商人が雑魚寝で利用する大部屋の乗船料金を支払った。

 窓口の女性は身分証とリューイの顔を交互に見ながら、しぶしぶ乗船チケットを手渡す。

「あの、差し出がましいようですが、外套のフードは被ったままにしたほうがいいと思いますよ。何かあっては大変なので」
「もしかして、どこか変ですか?」


 お金持ち感が隠しきれていなかったかと、この日のために用意した下町の服を不安げに見下ろすリューイに、窓口の女性は頬を染めながら付け加えた。

「いえ、その、お顔がとてもお綺麗なので……」
「あはは。やだなぁ、僕、男ですよ?」

 遠くで聞こえる出航を知らせる人の声に、リューイはお礼を言いながら駆けだした。
 船への渡し橋が外される直前になんとか駆け込み、息を切らせながら振りかえる。

 出航を告げる汽笛とともに、船が動き出した。



 太陽の光は、船体にぶつかり波しぶきを上げる海面と、白い屋根の続く街並みを明るくキラキラと照らしている。

 今ごろ、僕がいなくなった事で騒ぎになっているかもしれない。
 しかし、もう船は港を出たのだ。陸でどれだけ騒ごうとも、僕は海の上だ。

 やったのだ。ついに、ついに逃げ出せたのだ。


 リューイは喜びに震えながら、甲板で長い間、遠ざかる港を見つめ続けた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者 地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。 乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。 新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。 だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。 冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ… そう思っていたのに─── 「ご自身を大事にしない分、私が守ります」 「あなたは、すべて私のものです。 上書きが……必要ですね」 断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!? 護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい? 警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。 一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

処理中です...