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18.俺の部屋
しおりを挟む俺に割り当てられた部屋は、シンプルながら日本のビジネスホテルより広く、ユニットバス付きだった。
湯船はない。
シャワーブースとトイレが一体化した海外仕様だけれども、自由に使えるシャワーがありがたかった。
周りは砂漠なのに水は豊富なのだろうか。
部屋の壁には本棚や作り棚が配置されていて、外の景色が分かるような窓はなかった。
天井近くの高窓からの太陽光と、壁に取りつけられたウォールランプが部屋を明るく照らしている。
地球人保護施設内の照明器具はすべて鍵の魔道具と連携していて、なんと明るさセンサー付き。
一定の暗さを感知すると自動的に点灯する優れものなのだそうだ。
就寝時などは音声で消灯することも可能らしい。
ハイテクが過ぎる。異世界ってすごい。
そこまでの技術がありながら、なぜこの魔法の本はポンコツなんだ。
俺はぐるりと部屋を見渡した。
慎ましく暮らしていた苦学生からすると、充分な広さの室内だ。
窓がなくても圧迫感はない。
基本的な家具は備え付けられていて、すぐにでも暮らせるようになっていた。
作り棚には数枚のベッドシーツとバスタオルまで置いてあった。
「ベッドシーツや洗濯物は、部屋の前に出しておけば、清掃係のキィウエィさんが洗って次の日に返してくれます。室内の掃除は自分で頑張ってくださいね。何かあったらいかようにも改善していきますので、気軽に相談してください」
『じゃ、この本』
「それは無理です」
せめて最後までいわせて、ルルルフさん。
素敵な魔道具を見るとね、この本の理不尽さが際立つんですよ。
俺は肩を落としながらも、一番の心配事を口にした。
『えっと。部屋や施設内に関しては、もう本当に文句なしにいいです。俺には充分すぎるくらいです。でもあの、なんというか、お家賃とか、その、俺、お金を持ってなくて』
「心配ありませんよ。ユーキさんは、この施設を出るまでのすべてを保証されているんです。ユーキさんに必要なのは、この世界に慣れることだけ。われわれ施設職員一同は、できるだけ楽しんでいただけるように、全力でサポートしますからね」
どうやら一日に使える上限はそれなりに決められているが、使途自由なお金の支給もあるのだそうだ。
さらに退寮の期限はとくに決められていない。
この寮にいるかぎり、ずっとお金が支給されるシステムなのだそうだ。
何も心配せずゆっくりこの世界に慣れてくださいとルルルフさんがいう。
いっそ俺には高待遇すぎて不安だった。
ルルルフさんは、穏やかな笑顔で説明を続ける。
「最初の節、地球の単位で換算すると約三ヶ月が過ぎるまでは、この施設からの退寮はできない決まりとなっています。
これは渡来人を守るために考えられた保護プログラムの一環ですので、どうかご理解くださいね。基本的にこちらに来る渡来人は、どなたも手ぶらです。そのための地球人保護施設なんですから、本当に気兼ねなくまずこの世界を楽しんでください」
説明に一区切りがついたのか、ルルルフさんは俺をシャワールームに追い立てた。
ルルルフさんはひらひらと手を振っているが、俺はまだ消化しきれない情報でいっぱいだ。
俺みたいな人間が、こんな好待遇を受ける資格はない。
俺にはかえせる物も知識も何もないのだから。
あとで何か見返りを要求されても困る。
まさか騙されて奴隷落ちとかだったらどうしよう。
「僕とンッツオーニョ大佐は、ここで今後のスケジュールの打ちあわせをしていますね。どうぞごゆっくり」
ルルルフさんの柔らかい口調に、疑心暗鬼の気持ちが薄らいでいく。
思えばこの異世界で、見知らぬ俺に親切にしてくれた人たちだ。
俺は自分のためだけに、何もされていないうちから人を疑って、親切に悪意をかえすのか。
それって人としてどうなんだろう。
俺は一人になって落ち着こうと、大人しくシャワーを浴びることにした。
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