【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ

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40.朝

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――山田氏の手記より


『ピーリャを贈答するという事は、あなたを守りたいという意味となり、結婚の申し込みと見なされるので注意されたし。その申し込みを受け入れる場合、贈答されたピーリャを自ら身につけ、ここで初めて婚約の成立となる。』


『日本での結納にあたる行為はなく、両家の顔合わせは必ずしも必要ではない。
 家の都合での結婚、親が決めた相手との結婚という概念が無く、見合い結婚を伝えるのに苦労する日がくるとは思わなかった。
 日本では結婚後に相手の顔を初めて見る事など当たり前だと言ったら、パォ殿にひどく驚かれた。所変われば品変わるとは、よく言ったものだ。』


『アキュース神の前で、相手方にもピーリャを贈り、双方共に贈り合ったピーリャを身につける事で、正式に婚姻が成立となる。国の機関への書類提出もないと聞いた。』


『贈答されたピーリャを返す行為は、離婚の申し立てとなるらしい。なんと安易な結婚観だろうか。守るべき家や男女という意識がないだけで、こうも違うのか。驚きを禁じ得ない』


『ピーリャは、日差しから頭を守る大切な布として、人型の住人の殆どが使用している。また、アキュース神の加護を身に纏うという意味も合わせ持っているらしい。アキュース神を敬愛する国民性がよく表れている。』


『しかし必ずしも全員ではない。その一例として、地球人保護施設の職員、魔法使いと呼ばれる一族は、正装として長く先の尖った帽子を着用するのみだ。そうなると、結婚の申し込みはどうするのだろうか。……何故だろう。パォ殿に聞くのはひどく躊躇われる。』


『地球人は外出の際のみピーリャを巻き、室内では外している人が多いようだ。ピーリャを巻いてこちらの服を着てしまえば、地球人だと分からなくなるので気が楽だ。』


『多様性ある国であるからこそ、地球人も緩やかに根付いていけたのだと考察される。こちらの暮らしは、慣れてしまえば不自由なく、平和の一言に尽きる。』



『いつか来るかも知れぬ未来の日本人の為、ピーリャの巻き方を記しておく。……… 』







___________





 

 俺は、魔法の本を読みながらいつの間にか眠っていたらしい。

 気付いたら朝だった。



 高窓から差しこむ朝日に目を開けた俺は、ひとつ大きく息を吸って、重い体をベッドから引きはがした。



 高窓からの日差しで、今日もいいお天気だと分かる。

 部屋のウォールランプはいつの間にか消えていたが、明るい日差しに照明器具の必要性を感じない。

 朝の時間帯は室内にも日の光がよく入るようだ。



 朝日に照らされた室内の塵がゆっくりと舞っているのをぼんやりと見ながら、俺はバスルームに向かった。


 覚えていないが、なにか嫌な夢を見た気がする。
 なじみ深い息苦しさと、体に石を詰められたような怠さに、俺はゆっくりと歩いた。


 しかしそれも、冷たい水で顔を洗い、水差しから一杯の水を飲むころには、少し収まっていた。

 顔を洗っただけなのに、体も心も軽くなった気がする。

 空っぽの作り棚、広い室内、置いたままの荷物。


 朝日で明るく照らされた室内を見回しながら、現実を再確認した俺は、よしっと気合いを入れた。



 俺、しばらくはここで生活をするんだよな。
 短くても三ヶ月はここで暮らすんだ。

 せっかく暮らすなら、快適な暮らしにしていこう。


 俺は軽い体で、そのままにしてあった荷物を紐解きはじめた。

 体を動かしてみると、昨日の疲れは残っていなかった。

 あれだけ歩き回ったのに、体力のない俺にしては上等な結果だ。
 気分がいい。



 まずは飾り棚に、ルルルフさんからもらったハーブティーの缶を置く。

 ポットがないから結局キッチンに行かないと飲めないのだが、缶の異国情緒あふれるデザインが気に入った。

 隣にグラスを並べる。

 ペアグラスはやっぱり恥ずかしくて、少しでも見えにくい奥に押しやった。


 石けんや香油など細々した日用品を片付けて、いつの間に運び込まれていたのかエリナスィーナ洋服店で購入した服をクローゼットらしき洋服棚に押し込む。


 ……プライバシーがどう守られているのかは疑問に思うけど、荷物が荒らされている様子はないしまぁいいかと、俺は深く考えないようにしてとにかく体を動かした。


 最後にオーニョさんから貰った高級ピーリャを洋服棚の一番上にそっとしまい込んで、部屋を見渡した。




 一通り片付いた部屋に満足した俺は、ざっとシャワーを浴びて、さっそく新しい洋服に袖を通す。

 ピーリャは巻き方がまだいまいち分からなかったので、とりあえず首にかけておいた。



 あとは忘れないようにしっかりと魔法の本を手に持って、さてルルルフさんが絶賛していた朝食でも食べにいこうかというタイミングで、ノックの音が部屋に響いたのだった。



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