F〜海の中の危険な触手〜

匠野ワカ

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4.ファニート・暗転

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 糸のように細い触手が鼻や耳や口、穴という穴から侵入し、体内を直接いじっている。

 浮上したファニートの意識が、ぼんやりとそう理解した。
 恐怖はもうどこにもなかった。


 人として水の中で生きるために必要なタンクやウェットスーツは、気を失っているうちに剥ぎ取られてしまったようだ。

 ファニートはむき出しの裸のまま、冷たいはずの深海の水に凍えることもなく、触手に生かされていた。


 後孔を太い触手でこじ開けられているファニートの体は、拷問のような快楽に常にビクビクと跳ねるだけだった。
 自分の意思で体を動かすことはできない。

 Fは抱きかかえるように、触手でファニートを繋いでいる。ファニートの視界いっぱいに、Fの内臓のような触手が目に映った。
 ファニートは海流の影響のない巣穴の中で、Fと一緒にふわふわ浮かんで、ただひたすらに陵辱され続けた。



 どれほどそうしていたのだろう。

 永遠に思えた時間が終わり、後孔から腸わの中にまで出入りしていた触手が、ずるりと這い出た。
 ファニートはその動きにも快楽を感じ声を上げたが、口の中の触手がすべてを吸い取っていく。

 触手のあとを追うように中が吸い付き、後孔の縁がめくれる。触手は愛おしそうにファニートのお尻を撫でた。

 すると、今までを遙かに超える暴力的なまでの快楽の波が、ファニートを襲ってきたのだ。


 何かがお腹の中で外に出ようと、しきりにうごめいている。
 受け止めきれない快楽に体を突っ張るファニートを、触手はあちこちを撫でてはあやしている。
 そして足を広げ、後孔のまわりを優しく刺激して、出産を促した。


 素直な体は、めりめりと内側からこじ開けられながらも、触手の望むとおりに半透明の卵を産む。
 卵は水の中をしばらく漂って、すり鉢状になった巣穴の底に転がっていった。





 すでにいくつの卵を産んだのか覚えていない。

 何も感じない心が、はるか遠くで引き裂かれているような気がする。
 生かされるファニートの体を置いて、心が死んでいくのが分かった。

 触手が、より深く脳に浸食していく。

 途端に幸福感が広がって、ファニートはうっすらと笑った。


 ――エフ……。

 ごぼごぼと触手の中で口を動かす。
 肺の中に空気がないから、上手に呼べたか分からない。
 それでも美しい触手が頬を、頭を撫でてくれたから、ファニートは目を閉じた。

 もう永遠に目を開けることはないだろうと、理解しながら。



 また一つ卵が生まれ、Fの巣穴に転がっていった。




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