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不機嫌そうな表情がデフォルトなのか、彼の眉の間には皺ができていた。それに、ぴょんと伸びたうさぎのような耳に、お世辞にも高いと言えない、どころか、パッと見た限り、わたしより低いんじゃないかと思ってしまうほどの身長。耳が長くまっすぐ立っている分、ある程度高くは見えるけど、でも頭で考えると……。
――ということは。
「もしかして、ルナトさん、ですか……?」
「なあ、アンタ今何処見て判断した?」
もしかして、と思って名前を尋ねてみると、少年の眉間の皺がより深い物になった。いやまあ、身長を見て……とは言えない。適当に「黒髪でうさぎの耳だったので」と誤魔化しておく。嘘でもないし。
「……そうだよ、ルナトだ――です」
まだ納得していない様子だったが、少年――ルナトさんがうなずく。わたしが侯爵令嬢だからか、一応敬語を使おう、という気はあるみたいだけど、普段から敬語を使っていないのが丸わかりである。……カインくんが『先輩』と言っていたから、幼げな見た目に反して騎士歴が長くて、敬語を使わないといけない人が周りに少ないのかもしれない。
「ええと――それで、何か用ですか?」
明らかに用件があったような声のかけかただった。何か問題があったのかな。
でも、ルナトさんは、もごもごと、言葉を探す素振りを見せながら、こちらを見ては、何も言ってこない。そんなに言いにくいことなんだろうか。
話を切り出すのを待っている間、ご飯を食べるわけにもいかないけれど、あまりもたもたしていられると、ご飯を食べる時間がなくなってしまう。この世界では、貴族令嬢は少しご飯を残す方が可愛い、とされていて、以前まではわたしもそうしてきたのだが、前世の記憶が蘇った今、もったいない、という気持ちのが強いので、できれば食べ切ってしまいたいのである。
ここは騎士団の食堂で、他にも貴族令嬢がいる社交界と違って、可愛さアピールをしないことで分かりやすくひそひそと笑う人はいないことだし。わたしが分からないところでやっているかもしれないけど。
とはいえ、ご飯を食べたいからさっさと話してほしい、とは流石に言えない。
もごもごと言葉を探して、数分は経っただろうか。ようやく、話す気になったのか、ルナトさんの声が大きくなる。
「――、だからっ、この間の――」
「――あれ、どうしたの? 何かトラブル?」
ルナトさんが話そうとしたその瞬間、声を被せてきた人物がいた。
――アルディさんだった。
凄いタイミング、と思ったのも束の間。「もういい!」とルナトさんが顔を真っ赤にして去ってしまった。
なんだったんだろう……。
――ということは。
「もしかして、ルナトさん、ですか……?」
「なあ、アンタ今何処見て判断した?」
もしかして、と思って名前を尋ねてみると、少年の眉間の皺がより深い物になった。いやまあ、身長を見て……とは言えない。適当に「黒髪でうさぎの耳だったので」と誤魔化しておく。嘘でもないし。
「……そうだよ、ルナトだ――です」
まだ納得していない様子だったが、少年――ルナトさんがうなずく。わたしが侯爵令嬢だからか、一応敬語を使おう、という気はあるみたいだけど、普段から敬語を使っていないのが丸わかりである。……カインくんが『先輩』と言っていたから、幼げな見た目に反して騎士歴が長くて、敬語を使わないといけない人が周りに少ないのかもしれない。
「ええと――それで、何か用ですか?」
明らかに用件があったような声のかけかただった。何か問題があったのかな。
でも、ルナトさんは、もごもごと、言葉を探す素振りを見せながら、こちらを見ては、何も言ってこない。そんなに言いにくいことなんだろうか。
話を切り出すのを待っている間、ご飯を食べるわけにもいかないけれど、あまりもたもたしていられると、ご飯を食べる時間がなくなってしまう。この世界では、貴族令嬢は少しご飯を残す方が可愛い、とされていて、以前まではわたしもそうしてきたのだが、前世の記憶が蘇った今、もったいない、という気持ちのが強いので、できれば食べ切ってしまいたいのである。
ここは騎士団の食堂で、他にも貴族令嬢がいる社交界と違って、可愛さアピールをしないことで分かりやすくひそひそと笑う人はいないことだし。わたしが分からないところでやっているかもしれないけど。
とはいえ、ご飯を食べたいからさっさと話してほしい、とは流石に言えない。
もごもごと言葉を探して、数分は経っただろうか。ようやく、話す気になったのか、ルナトさんの声が大きくなる。
「――、だからっ、この間の――」
「――あれ、どうしたの? 何かトラブル?」
ルナトさんが話そうとしたその瞬間、声を被せてきた人物がいた。
――アルディさんだった。
凄いタイミング、と思ったのも束の間。「もういい!」とルナトさんが顔を真っ赤にして去ってしまった。
なんだったんだろう……。
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