89 / 122
89
しおりを挟む
「お、おはようございます」
顔を合わせて会話をするのは初めてなんかじゃないのに、普段の制服ではなく私服を着ているだけで、急に緊張してしまって、声が変に裏返る。自分でもびっくりした。
声が上ずった気恥ずかしさを誤魔化すように、わたしは笑いながら「今日は門番なんですか」と聞いた。
「貴族の対応は平民には荷が重いしね。手早くさばくなら僕らが適任ってことで。それに、入城検査が一番重要だから」
確かに、彼の言う通り、入城検査で不審人物や危険物を弾かないといけないわけだが、平民の騎士団員が検査しても、貴族が権力を使って圧力をかけようものなら、パスされてしまう可能性がある。
もちろん、最上位である王族を守るためにそんな取引を持ちかける時点でその貴族は王城の敷地内に入れないに限るし、その貴族に逆らったところで罰せられるわけではない。とはいえ、そう頭で分かっていても、実際に跳ねのけられる平民がどれだけいるのか、という問題がある。
貴族側の門の警備と入城審査をしているのは、同じく爵位を持っている人たちばかりだった。中にはハウントさんの姿も見える。
「――まあ、あんまり雑談していると怒られちゃうから……あ、そろそろ前の馬車動くかも」
入城審査には時間がかかるので、馬車が多いと列ができてしまう。動きがないタイミングを見計らって、アルディさんは声をかけに来てくれたようだ。
「今日は楽しんでいって」
「はい。アルディさんも、剣術大会、頑張ってください」
わたしがそう返すと、アルディさんは少し驚いたような表情を見せたあと、真剣な表情になった。珍しく、真顔に近い。
「――うん、絶対、勝つよ」
噛みしめるように、強く、アルディさんは言った。去年負けた悔しさを思い出しているのだろうか。
その真剣そうな表情の彼の目線が、ふっと動く。
「残念だけど、本当にもう切り上げないと。馬車が動く」
彼の視線は前の馬車の方に注がれているのだろう。わたしの位置からだと見えにくいけれど。
長々と仕事の邪魔をするわけにはいかない、と、わたしは「警備の仕事もお疲れ様です」と言って、会話を切り上げる。
窓を閉めようかな、と思っていると――。
「あ、そうだ。今日、髪型いつもと違うんだね。それも可愛いよ」
――最後に、そんな爆弾を投下された。
まさかそんな風に言って貰えるとは思えなくて、アルディさんが仕事に戻っていなくなった後も、固まって、すぐに窓を閉めることができないのだった。
あんなことがあっても、アルディさんは普通にしている風だったから、合わせようと思っていたのに……!
顔を合わせて会話をするのは初めてなんかじゃないのに、普段の制服ではなく私服を着ているだけで、急に緊張してしまって、声が変に裏返る。自分でもびっくりした。
声が上ずった気恥ずかしさを誤魔化すように、わたしは笑いながら「今日は門番なんですか」と聞いた。
「貴族の対応は平民には荷が重いしね。手早くさばくなら僕らが適任ってことで。それに、入城検査が一番重要だから」
確かに、彼の言う通り、入城検査で不審人物や危険物を弾かないといけないわけだが、平民の騎士団員が検査しても、貴族が権力を使って圧力をかけようものなら、パスされてしまう可能性がある。
もちろん、最上位である王族を守るためにそんな取引を持ちかける時点でその貴族は王城の敷地内に入れないに限るし、その貴族に逆らったところで罰せられるわけではない。とはいえ、そう頭で分かっていても、実際に跳ねのけられる平民がどれだけいるのか、という問題がある。
貴族側の門の警備と入城審査をしているのは、同じく爵位を持っている人たちばかりだった。中にはハウントさんの姿も見える。
「――まあ、あんまり雑談していると怒られちゃうから……あ、そろそろ前の馬車動くかも」
入城審査には時間がかかるので、馬車が多いと列ができてしまう。動きがないタイミングを見計らって、アルディさんは声をかけに来てくれたようだ。
「今日は楽しんでいって」
「はい。アルディさんも、剣術大会、頑張ってください」
わたしがそう返すと、アルディさんは少し驚いたような表情を見せたあと、真剣な表情になった。珍しく、真顔に近い。
「――うん、絶対、勝つよ」
噛みしめるように、強く、アルディさんは言った。去年負けた悔しさを思い出しているのだろうか。
その真剣そうな表情の彼の目線が、ふっと動く。
「残念だけど、本当にもう切り上げないと。馬車が動く」
彼の視線は前の馬車の方に注がれているのだろう。わたしの位置からだと見えにくいけれど。
長々と仕事の邪魔をするわけにはいかない、と、わたしは「警備の仕事もお疲れ様です」と言って、会話を切り上げる。
窓を閉めようかな、と思っていると――。
「あ、そうだ。今日、髪型いつもと違うんだね。それも可愛いよ」
――最後に、そんな爆弾を投下された。
まさかそんな風に言って貰えるとは思えなくて、アルディさんが仕事に戻っていなくなった後も、固まって、すぐに窓を閉めることができないのだった。
あんなことがあっても、アルディさんは普通にしている風だったから、合わせようと思っていたのに……!
254
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。
全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。
そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。
人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。
1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。
異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります!
【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる