97 / 122
97
しおりを挟む
立食形式で昼食を提供される会場では、既に結構人が集まっていた。パッと見た感じでは、女性の割合が多い。
ただ気になるのは、第二騎士団どころか、第一騎士団の制服を着ている人は誰もいない。いや、警備としてはいるけれど、客としているのはおそらくアルディさんだけだろう。
「……ここにいても大丈夫なんですか?」
わたしが問うと、「僕も一応貴族家の者だから大丈夫」と言われた。むしろ、爵位が高い人ほどコース形式の昼食を取っているらしい。……ということは、もしかしてわたしの方が浮いている……?
ちらほらと辺りを見回せば、確かに男爵家や子爵家のご令嬢ばかりだ。居心地が悪い、ということはないけれど、わたしは侯爵令嬢なわけだし、変に威圧感を与えてないといいんだけど。
男爵や子爵家ともなると、ルルメラ様もいないのにわたしと同じ空間で陰口を叩く人はいなくなる。わたしのいないお茶会とかは知らないが。
妙な心地の中、わたしは給仕からドリンクを受け取った。食べ物はビュッフェ形式だが、ドリンクは給仕が持って歩き、配っているらしい。
それにしても、ビュッフェなんて久しぶりだ。
地味姫とからかわれることが多くなってから――つまりは、リアン王子の婚約者になってから、わたしは極端に社交界へ出席することが減った。居心地が悪いから。
でも、当然、王族の婚約者として、そう頻繁に休むことはできない。だから、最低限は出ていたけれど、緊張と居心地の悪さで、物を食べる気になれず、パーティーに出席してもあまり飲食してこなかったのだ。それに、全部が全部、ビュッフェ形式の食事とも限らない。晩餐会とか。
でも、今日は大丈夫そうだし、下手にご飯を食べずにお腹が空いて、午後からの観戦に支障がでても嫌だ。
どんな料理があるかな、と考えながら、わたしはちびちび飲んでいたドリンクを飲み干し、たまたま近くにいた給仕を呼び、空になったグラスを回収してもらう。
料理を取りに行こうかな、と考えていると、バサ、と何かが落ちる音がした。近い。何が落ちたんだろう、と振り返ろうとすると――。
「きゃああ!」
――どこからともなく、悲鳴が聞こえてくる。その叫びに驚いて、わたしはグラスを給仕のトレイに置く手を滑らせてしまった。床は厚手の絨毯を引いているから、音は響かないものの、グラスは割れてしまう。
いや、仮にグラスが割れている音が大きかったとしても、悲鳴を皮きりに大きくなったざわめきが、グラスの落下音をかき消しただろう。そのくらい、辺りは騒がしくなっていた。サギスさんも、急に警戒心を高めている。
一体何事だ。
そのわたしの疑問は、すぐに明らかになった。
――見覚えのある虎が、そこにいたから。
ただ気になるのは、第二騎士団どころか、第一騎士団の制服を着ている人は誰もいない。いや、警備としてはいるけれど、客としているのはおそらくアルディさんだけだろう。
「……ここにいても大丈夫なんですか?」
わたしが問うと、「僕も一応貴族家の者だから大丈夫」と言われた。むしろ、爵位が高い人ほどコース形式の昼食を取っているらしい。……ということは、もしかしてわたしの方が浮いている……?
ちらほらと辺りを見回せば、確かに男爵家や子爵家のご令嬢ばかりだ。居心地が悪い、ということはないけれど、わたしは侯爵令嬢なわけだし、変に威圧感を与えてないといいんだけど。
男爵や子爵家ともなると、ルルメラ様もいないのにわたしと同じ空間で陰口を叩く人はいなくなる。わたしのいないお茶会とかは知らないが。
妙な心地の中、わたしは給仕からドリンクを受け取った。食べ物はビュッフェ形式だが、ドリンクは給仕が持って歩き、配っているらしい。
それにしても、ビュッフェなんて久しぶりだ。
地味姫とからかわれることが多くなってから――つまりは、リアン王子の婚約者になってから、わたしは極端に社交界へ出席することが減った。居心地が悪いから。
でも、当然、王族の婚約者として、そう頻繁に休むことはできない。だから、最低限は出ていたけれど、緊張と居心地の悪さで、物を食べる気になれず、パーティーに出席してもあまり飲食してこなかったのだ。それに、全部が全部、ビュッフェ形式の食事とも限らない。晩餐会とか。
でも、今日は大丈夫そうだし、下手にご飯を食べずにお腹が空いて、午後からの観戦に支障がでても嫌だ。
どんな料理があるかな、と考えながら、わたしはちびちび飲んでいたドリンクを飲み干し、たまたま近くにいた給仕を呼び、空になったグラスを回収してもらう。
料理を取りに行こうかな、と考えていると、バサ、と何かが落ちる音がした。近い。何が落ちたんだろう、と振り返ろうとすると――。
「きゃああ!」
――どこからともなく、悲鳴が聞こえてくる。その叫びに驚いて、わたしはグラスを給仕のトレイに置く手を滑らせてしまった。床は厚手の絨毯を引いているから、音は響かないものの、グラスは割れてしまう。
いや、仮にグラスが割れている音が大きかったとしても、悲鳴を皮きりに大きくなったざわめきが、グラスの落下音をかき消しただろう。そのくらい、辺りは騒がしくなっていた。サギスさんも、急に警戒心を高めている。
一体何事だ。
そのわたしの疑問は、すぐに明らかになった。
――見覚えのある虎が、そこにいたから。
225
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
出稼ぎ公女の就活事情。
黒田悠月
恋愛
貧乏公国の第三公女リディアは可愛い弟二人の学費を稼ぐために出稼ぎ生活に勤しむ日々を送っていた。
けれど人見知りでおっちょこちょいのリディアはお金を稼ぐどころか次々とバイトをクビになりいよいよ出稼ぎ生活は大ピンチ!
そんな時、街で見つけたのはある求人広告で……。
他サイトで投稿しています。
完結済みのため、8/23から毎日数話ずつラストまで更新です。
指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。
湯川仁美
恋愛
目立たず、目立たなすぎず。
容姿端麗、国事も完璧にこなす皇子様に女性が群がるのならば志麻子も前に習えっというように従う。
郷に入っては郷に従え。
出る杭は打たれる。
そんな彼女は周囲の女の子と同化して皇子にきゃーきゃー言っていた時。
「てめぇでいい」
取り巻きがめんどくさい皇子は志麻子を見ずに指さし婚約者に指名。
まぁ、使えるものは皇子でも使うかと志麻子は領地繁栄に婚約者という立場を利用することを決めるといつのまにか皇子が溺愛していた。
けれども、婚約者は数週間から数か月で解任さた数は数十人。
鈍感な彼女が溺愛されていることに気が付くまでの物語。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる