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体が小さい人を優先に運んでいく。わたしには医療の知識がないから、今、皆がどのくらい危険なのかハッキリとは分からなかったけど、とりあえず冷たくなっている人も呼吸が止まっている人もいない。ぐったりとしていても、かろうじて、腹が上下していて、生きていることが分かる。
でも、今ここで息をしていても、医務室で治療するまで持つのか分からないから、呼吸をしていることに安心して油断するわけにはいかない。
わたし自身が香りを深く吸い込まないように気をつけながら、手早く皆を運ぶ。外につながる穴の向こうでは、サギスさんが皆を引っ張って出してくれている。なんだかんだ、ちゃんと協力してくれているようだ。
――あと一人。
大型犬である彼を外に運んだら、わたしも外に出てそのまま誰かを運びながら医務室に行こう。ストッキングが破れている感触がする。たぶん、足の裏が凄いことになっていそう。
「――っ、しょっと……」
大型犬、ともなれば運ぶのも一苦労だ。鍛えていないこの体では、こんな非常時でなければ持ち上げるのも難しそうだ。ただ、この状況に気が立っているのか、今は多少足元がおぼつかなくても運べる。少なくとも、もたついて転んだり、彼を落としたりはしなさそうだ。
――カシャン。
物音に、わたしは、つい、反射的に振返ってしまった。そう言えば、王子がいたけれど、どうなったんだろう、なんて、今更思い出しながら。
「――っ」
びくり、と肩が跳ねる。鍵を開けている男が立っていた。わたしに、獣化棟の鍵を預けてくれた人。多分、あれがトルムさんなんだろう。
わたしは思わず、犬を抱いていた腕に力を込めてしまった。わたしに抱きしめられた犬が、朦朧とした様子で、力なく鳴いた。
彼の真意は分からない。何をしたいのか。でも、少なくとも、今ここにいる、ということは、警備の担当が変わってこっちに凝れなくなった、というのは嘘だったんだろう。
そして、敵かどうかは分からなくても、少なくとも味方だとは思えない。
彼はここに嘘をついてまでわたしたちと一緒にこなくて、檻の鍵を渡してくれなくて、そして――危ない薬品を持ったリアン王子がやってきた。
信用する方が無理、というもの。
しかも、彼もまた、わたしのようにハンカチをマスクのようにして、結んでいる。この場がこうなっている、ということが分かって、獣化棟の中に入っている。
怪しさしかない。
今はまだ、南京錠が一つ外されただけ。まだ一つ、残っている。
わたしは鍵が開く前に、早くサギスさんの処に戻らないと、と、壁の中を進む。
「ご、ごめんなさい……!」
わたしはこの数秒の中で気絶してしまったのか、すっかり意識のない犬の彼へ謝りながら、外へと繋がる方の穴へと無理やり押し込んだ。彼が通ってくれないとわたしが出られない。
でも、今ここで息をしていても、医務室で治療するまで持つのか分からないから、呼吸をしていることに安心して油断するわけにはいかない。
わたし自身が香りを深く吸い込まないように気をつけながら、手早く皆を運ぶ。外につながる穴の向こうでは、サギスさんが皆を引っ張って出してくれている。なんだかんだ、ちゃんと協力してくれているようだ。
――あと一人。
大型犬である彼を外に運んだら、わたしも外に出てそのまま誰かを運びながら医務室に行こう。ストッキングが破れている感触がする。たぶん、足の裏が凄いことになっていそう。
「――っ、しょっと……」
大型犬、ともなれば運ぶのも一苦労だ。鍛えていないこの体では、こんな非常時でなければ持ち上げるのも難しそうだ。ただ、この状況に気が立っているのか、今は多少足元がおぼつかなくても運べる。少なくとも、もたついて転んだり、彼を落としたりはしなさそうだ。
――カシャン。
物音に、わたしは、つい、反射的に振返ってしまった。そう言えば、王子がいたけれど、どうなったんだろう、なんて、今更思い出しながら。
「――っ」
びくり、と肩が跳ねる。鍵を開けている男が立っていた。わたしに、獣化棟の鍵を預けてくれた人。多分、あれがトルムさんなんだろう。
わたしは思わず、犬を抱いていた腕に力を込めてしまった。わたしに抱きしめられた犬が、朦朧とした様子で、力なく鳴いた。
彼の真意は分からない。何をしたいのか。でも、少なくとも、今ここにいる、ということは、警備の担当が変わってこっちに凝れなくなった、というのは嘘だったんだろう。
そして、敵かどうかは分からなくても、少なくとも味方だとは思えない。
彼はここに嘘をついてまでわたしたちと一緒にこなくて、檻の鍵を渡してくれなくて、そして――危ない薬品を持ったリアン王子がやってきた。
信用する方が無理、というもの。
しかも、彼もまた、わたしのようにハンカチをマスクのようにして、結んでいる。この場がこうなっている、ということが分かって、獣化棟の中に入っている。
怪しさしかない。
今はまだ、南京錠が一つ外されただけ。まだ一つ、残っている。
わたしは鍵が開く前に、早くサギスさんの処に戻らないと、と、壁の中を進む。
「ご、ごめんなさい……!」
わたしはこの数秒の中で気絶してしまったのか、すっかり意識のない犬の彼へ謝りながら、外へと繋がる方の穴へと無理やり押し込んだ。彼が通ってくれないとわたしが出られない。
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