490 / 493
第六部
484
しおりを挟む
「――蛇種のフィジャです」
最初に口を開いたのはフィジャだった。
「ボクは腕っぷしは強くないから、物理的に彼女を守れる自信はないけど……、でも、絶対に、食べるものに困らせることはないです。一生、彼女の食生活を幸せなものにしてみせます。だから――マレーゼとの結婚を、認めてください」
宣誓のような、懇願のような、その言葉は、広い空間の中によく響く。迷いのない言葉に、文句をつける人は誰もいない。
それにしても、アピールポイントを宣言しつつ、結婚を認めてもらおうというのは、確かにちょうどいい内容なのかもしれない。実際に島長の挨拶で何を問われるのかは分からないけれど、前世の神父ですら、愛を誓うかと問われるのだ。何かしら聞かれる可能性は高い。
となると――わたしが、皆に誓えることって、何だろう。
そう考えていると、次はイエリオの番だった。
「私は、兎種のイエリオです。私も腕力に覚えはありませんが、知識は負けません。特に、彼女が生きていた時代のことは。……彼女の方が詳しいかもしれませんが。私たちがいれば問題はないと思いますが、もし、彼女が千年前を思って孤独を感じたとしても、私が、私たちが支えてみせます。ですので、マレーゼとの結婚を認めていただけませんか」
「あの男に頼らずとも、マレーゼには寂しさを感じさせませんよ」と追加するイエリオ。イナリばかりが師匠を分かりやすく嫌悪していたと思っていたが、この感じ、イエリオもそうだったというのだろうか……。
師匠のこと、そう言う風に見たことは一度もないのに。
「……名は、ウィルフです。狼種なのか、ローヴォルなのかは――分からない」
ウィルフが少し言いよどむ。
「それでも、彼女を守りたいという気持ちに偽りはありません。マレーゼとの結婚の許可を」
短く、端的な言葉。しかし、わたしを想っての言葉に迷いはないようだった。
「――……狐種のイナリ。僕は……彼女に何かをしてあげられるって、自信を持って言えるものはないけど……でも。隣にいるために必要なことは、何でもします。だから――」
イナリが少し、間を空ける。けれど、それは言葉を迷っているからではない。むしろ逆で、はっきりと、決意を伝えるために言ったのだと、彼の声音から分かる。
「――だから、愛するマレーゼとの結婚を、認めてください」
その言葉に、わたしは思わず、イナリの方を見てしまった。
好きだと言う自信がない。
そう言っていたはずなのに、一段階、すっ飛ばしてきたのだから。
ここまで言われて、わたしも黙ってはいられない。
「人間の、マレーゼです。今は猫の見た目をしてますけど、あなた様方がいた時代を生きた、人間です。それでも、わたしは彼らと会い、共にありたいと思いました。あなた様方の時代からしたら、わたしたちの結婚の形は少し、変わっているように見えるかもしれませんが――でも、わたしは、これを、諦めたくないので」
わたしは顔をあげ、まっすぐ、墓石を見た。
島長の墓。きっと、かつてのシーバイズで何人もの夫婦の成立を見届けてきた彼らに、わたしたちの形式は、歪に見えるかもしれない。
でも、もう、迷わず、諦めない。
「彼らを好きになり、愛してしまったので。どうか、結婚をさせてください」
わたしはハッキリと、言い切った。
最初に口を開いたのはフィジャだった。
「ボクは腕っぷしは強くないから、物理的に彼女を守れる自信はないけど……、でも、絶対に、食べるものに困らせることはないです。一生、彼女の食生活を幸せなものにしてみせます。だから――マレーゼとの結婚を、認めてください」
宣誓のような、懇願のような、その言葉は、広い空間の中によく響く。迷いのない言葉に、文句をつける人は誰もいない。
それにしても、アピールポイントを宣言しつつ、結婚を認めてもらおうというのは、確かにちょうどいい内容なのかもしれない。実際に島長の挨拶で何を問われるのかは分からないけれど、前世の神父ですら、愛を誓うかと問われるのだ。何かしら聞かれる可能性は高い。
となると――わたしが、皆に誓えることって、何だろう。
そう考えていると、次はイエリオの番だった。
「私は、兎種のイエリオです。私も腕力に覚えはありませんが、知識は負けません。特に、彼女が生きていた時代のことは。……彼女の方が詳しいかもしれませんが。私たちがいれば問題はないと思いますが、もし、彼女が千年前を思って孤独を感じたとしても、私が、私たちが支えてみせます。ですので、マレーゼとの結婚を認めていただけませんか」
「あの男に頼らずとも、マレーゼには寂しさを感じさせませんよ」と追加するイエリオ。イナリばかりが師匠を分かりやすく嫌悪していたと思っていたが、この感じ、イエリオもそうだったというのだろうか……。
師匠のこと、そう言う風に見たことは一度もないのに。
「……名は、ウィルフです。狼種なのか、ローヴォルなのかは――分からない」
ウィルフが少し言いよどむ。
「それでも、彼女を守りたいという気持ちに偽りはありません。マレーゼとの結婚の許可を」
短く、端的な言葉。しかし、わたしを想っての言葉に迷いはないようだった。
「――……狐種のイナリ。僕は……彼女に何かをしてあげられるって、自信を持って言えるものはないけど……でも。隣にいるために必要なことは、何でもします。だから――」
イナリが少し、間を空ける。けれど、それは言葉を迷っているからではない。むしろ逆で、はっきりと、決意を伝えるために言ったのだと、彼の声音から分かる。
「――だから、愛するマレーゼとの結婚を、認めてください」
その言葉に、わたしは思わず、イナリの方を見てしまった。
好きだと言う自信がない。
そう言っていたはずなのに、一段階、すっ飛ばしてきたのだから。
ここまで言われて、わたしも黙ってはいられない。
「人間の、マレーゼです。今は猫の見た目をしてますけど、あなた様方がいた時代を生きた、人間です。それでも、わたしは彼らと会い、共にありたいと思いました。あなた様方の時代からしたら、わたしたちの結婚の形は少し、変わっているように見えるかもしれませんが――でも、わたしは、これを、諦めたくないので」
わたしは顔をあげ、まっすぐ、墓石を見た。
島長の墓。きっと、かつてのシーバイズで何人もの夫婦の成立を見届けてきた彼らに、わたしたちの形式は、歪に見えるかもしれない。
でも、もう、迷わず、諦めない。
「彼らを好きになり、愛してしまったので。どうか、結婚をさせてください」
わたしはハッキリと、言い切った。
31
あなたにおすすめの小説
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる