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第六部
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わたしたちのお願いに、認めるも認めないも、返事をしてくれる声はない。そりゃあそうだ。相手が墓なのだから。
「……こんな感じでいいのかな?」
沈黙を破るべく、わたしが立ち上がりながら言うと――。
さぁ、とどこからか風が吹く。洞窟内でこんなにも、と思うほどの突風。強い風に吹かれ、さざめいた花たちの音が、拍手のように聞こえた。
そう聞こえたのはわたしだけじゃなかったらしい。皆が皆、驚いたように息を飲み、目を丸くしている。
「もしかしたら、受理された、ってこと……?」
イナリが、半信半疑、と言うように聞いてくる。
都合のいい解釈かもしれないけれど、このタイミングでのこれは、まさにそうとしか思えなかった。しかも、普通、花が揺れる音なんて、どう考えても拍手の音には聞こえない。
「そういうことにしておきましょうか。きっと、成立の暁には、拍手があったんです。……いつか、そんな記録を見つけてみますよ」
言いながら、イエリオが立ち上がり、膝周りの汚れを軽くはたいている。
「……ところでここ、研究所に申請したら調査の許可とか下りないでしょうか」
「言うと思ったけど! 雰囲気ぶち壊しじゃん!」
イエリオとフィジャが言い合っている。さっきまでの、どこか神聖な空気は完全に霧散して、いつも通りの雰囲気になっている。
「流石に元シーバイズ国民として、墓暴きはちょっと応援できな、ぃ、うわぁッ!」
墓のある祭壇を降り、出入り口の方へ向かって歩いていると、わたしは足元の何かにつまずいて転んでしまった。イエリオとフィジャの方を見ていたのが悪かったらしい。花が邪魔で、全然に気が付かなかった。
ウィルフに起こされながら、手やスカートに着いた汚れを払う。
「怪我は?」
「ちょっと擦ったくらい? ねん挫とかはなさそう。もー、一体何が……」
言いながら、わたしはつまずいたであろう場所を見て、固まった。地面から、何かが少し出ている。その出ているものの材質に、覚えがあったのだ。
わたしは思わず、その埋まっているものの周りを掘る。
「何かありました? あ、使います?」
「そんなもの持ってきてたの……」
「埋まっている可能性もあると思っていたので」
イエリオがスコップを貸してくれたので、ありがたく使う。
少し掘り進めて出てきたのは――。
「……なんか彫られてる? 石碑?」
「違う、これは――……」
先ほどまで宣言をしていたものとは違うが、まぎれもない、墓石。一般庶民のもの。
わたしは表面に刻まれた名前をなぞる。
両親の名前の名前である、それを。
海難事故にあって、死体は見つからなかったくせに。こんなタイミングで、こんな状況になって、墓石は見つかるなんて。
わたしが住んでいた島から隣にあったカナレフ島も近かったけど、墓島も近かった。世界中を大災害が襲ったというし、津波とかで流されて、ここにたどり着いたのだろう。死んでからも波に流されるとは、なんと運のない。
――それでも。
両親の付き添いがあると祝福がある。
わたしの両親だけだけれど、きっと、それは嘘じゃないのだろう。あの拍手が、いい証拠だ。
わたしたちの結婚を、わたしの両親が、見届けてくれたのだ。
ずっとどこかで、あの二人のことを他人のように思っていた自分がいたと思っていたけれど、まぎれもなく、今この瞬間、この人たちはわたしの両親だったのだと、思い知らされる。
「……魔法で失敗して、この時代に来たと思ったけどさ」
わたしは土で汚れてない部分の腕で目をぬぐう。
「全然、大成功だった!」
そして、わたしは愛しい四人に、そう笑いかけた。
「……こんな感じでいいのかな?」
沈黙を破るべく、わたしが立ち上がりながら言うと――。
さぁ、とどこからか風が吹く。洞窟内でこんなにも、と思うほどの突風。強い風に吹かれ、さざめいた花たちの音が、拍手のように聞こえた。
そう聞こえたのはわたしだけじゃなかったらしい。皆が皆、驚いたように息を飲み、目を丸くしている。
「もしかしたら、受理された、ってこと……?」
イナリが、半信半疑、と言うように聞いてくる。
都合のいい解釈かもしれないけれど、このタイミングでのこれは、まさにそうとしか思えなかった。しかも、普通、花が揺れる音なんて、どう考えても拍手の音には聞こえない。
「そういうことにしておきましょうか。きっと、成立の暁には、拍手があったんです。……いつか、そんな記録を見つけてみますよ」
言いながら、イエリオが立ち上がり、膝周りの汚れを軽くはたいている。
「……ところでここ、研究所に申請したら調査の許可とか下りないでしょうか」
「言うと思ったけど! 雰囲気ぶち壊しじゃん!」
イエリオとフィジャが言い合っている。さっきまでの、どこか神聖な空気は完全に霧散して、いつも通りの雰囲気になっている。
「流石に元シーバイズ国民として、墓暴きはちょっと応援できな、ぃ、うわぁッ!」
墓のある祭壇を降り、出入り口の方へ向かって歩いていると、わたしは足元の何かにつまずいて転んでしまった。イエリオとフィジャの方を見ていたのが悪かったらしい。花が邪魔で、全然に気が付かなかった。
ウィルフに起こされながら、手やスカートに着いた汚れを払う。
「怪我は?」
「ちょっと擦ったくらい? ねん挫とかはなさそう。もー、一体何が……」
言いながら、わたしはつまずいたであろう場所を見て、固まった。地面から、何かが少し出ている。その出ているものの材質に、覚えがあったのだ。
わたしは思わず、その埋まっているものの周りを掘る。
「何かありました? あ、使います?」
「そんなもの持ってきてたの……」
「埋まっている可能性もあると思っていたので」
イエリオがスコップを貸してくれたので、ありがたく使う。
少し掘り進めて出てきたのは――。
「……なんか彫られてる? 石碑?」
「違う、これは――……」
先ほどまで宣言をしていたものとは違うが、まぎれもない、墓石。一般庶民のもの。
わたしは表面に刻まれた名前をなぞる。
両親の名前の名前である、それを。
海難事故にあって、死体は見つからなかったくせに。こんなタイミングで、こんな状況になって、墓石は見つかるなんて。
わたしが住んでいた島から隣にあったカナレフ島も近かったけど、墓島も近かった。世界中を大災害が襲ったというし、津波とかで流されて、ここにたどり着いたのだろう。死んでからも波に流されるとは、なんと運のない。
――それでも。
両親の付き添いがあると祝福がある。
わたしの両親だけだけれど、きっと、それは嘘じゃないのだろう。あの拍手が、いい証拠だ。
わたしたちの結婚を、わたしの両親が、見届けてくれたのだ。
ずっとどこかで、あの二人のことを他人のように思っていた自分がいたと思っていたけれど、まぎれもなく、今この瞬間、この人たちはわたしの両親だったのだと、思い知らされる。
「……魔法で失敗して、この時代に来たと思ったけどさ」
わたしは土で汚れてない部分の腕で目をぬぐう。
「全然、大成功だった!」
そして、わたしは愛しい四人に、そう笑いかけた。
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