転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国

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第五部

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「イナリ……」

 イナリは走ってわたしの元へときて、わたしの腕を引っ張って立たせたかと思うと、わたしとシャシカさんの間に入る。

「シャシカ、なに、を……」

 イナリの鋭かった声は、だんだんと尻すぼみになっていく。彼の背後にいるので、その表情は見えなかったが、おそらく、シャシカさんのぼろぼろな姿に気が付いたんだろう。
 イナリの言葉に、シャシカさんは何も言わない。ただ、無表情でこちらを見ていた。

「――帰る」

 シャシカさんは何を言うでもなく、ただ一言、ぽつりと、そう言った。
 わたしも、イナリも、その様子に、何も言えない。

「ど、どうして――」

 なにもしないなら、どうして声をかけたの。そう言いたくても、最後まで言えなかった。彼女が一瞬、泣きそうな顔をしていたように見えたから。
 同情のつもりじゃない。ただ単純に、驚いて、言葉が詰まったのだ。この人が、泣く姿を想像できなかったので。

「――アタシ、もう、アンタを殺せないんだ」

 泣きそうだったのは気のせいだったのか、と言わんばかりに、彼女の顔には、なんの感情もなかった。
 わたしを殺せない。一体、どういうことか。

 ――もしかして、わたしを殺すなと、脅された結果が、その怪我なのか? でも、仮にそうだとして、誰に脅されたんだろう。

 侵入者があった一件は、一応、皆に軽く説明している。だからって、フィジャやイエリオがシャシカさんに暴力をふるう姿も、これだけボコボコにできる可能性も、全然思いつかない。
 イナリはこれだけ驚いていれば違うだろう。

 あるとすればウィルフだけど……。えっ、ウィルフ? 
 そんな馬鹿な、と思う半面、消去法で考えれば、彼しか思い当たる人物がいない。だって、他にこの件を知っている人物と言えば、ルーネちゃんか警護団の人だ。

 でも、ルーネちゃんが暴力で脅しなんかするイメージはないし、警護団の人が何を言ってもシャシカさんは従わないイメージしかない。
 ウィルフが彼女を殴って脅す姿を想像してみるが、全然しっくりこない。だけど――ウィルフじゃないなら、一体誰が?

「でも、いざ、アンタとイナリの顔を見ると――どうしても、諦めが付かない」

 そう言い残して、シャシカさんは脚を引きずりながら帰っていった。
 わたしも、イナリも、その背中を見送るだけで、何か言ったり、行動したりすることは出来なかった。
 彼女の姿が見えなくなると、イナリの肩から少し力が抜けたのが見て取れる。

「怪我は? 大丈夫?」

 イナリが振り返って、わたしに問うてくる。

「うん、怪我はないけど……。うわ、こんな時間!?」

 わたしはちらりと、公園にあった時計で確認する。イナリに会いにくい、と思いながら、考えごとをしていた結果、約束の時間を三十分過ぎていた。今のやりとりを考慮しても、約束の時間に、待ち合わせていた喫茶店に間に合わなかったのは確実である。

「ご、ごめん……」

 わたしが謝ると、イナリに溜息を吐かれてしまった。本当に申し訳ない。

「……まあ、何もなくてよかった」

 イナリが、ぽつりと呟く。
 何も、とは言い難いが、まあ、確かに怪我はしていない。

「帰るよ」

 イナリはわたしにそう言いながらも、シャシカさんが帰った方角に、ちらりと一瞬、顔を向けた。
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