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アルシャ嬢の部屋を出てから、僕は少し、考えてしまった。
どうせ僕と結婚したいと言い出す令嬢はいないだろうし、いくらウィンスキー家が名家だとしても僕自身は優良物件という枠組みから外れて久しい。
使えるものは使えばいい、と、僕の婚約者の席を彼女に譲ったのだが、僕は何か間違えたのか?
ウィンスキー家の名を出して、ソルテラ卿の態度が変わったのなら、それでいいと思ったのだが。
本当に死んでいたのなら僕の家名を出したところで死んだというだろうし、殺す予定だった娘が他国とのつながりを持てるようになるというのならその話に乗るだろうと考えた僕の案は、彼女にあんな顔をさせるほど駄目だったのだろうか。
――団長は結果にこだわる人ですけど、過程にも、もう少し気をやった方がいいと思うんすよ。
いつぞや、コマネが言っていたことが頭の中をよぎる。なるほど、こういうことだったのか。学びを得た。
『――、っ』
息を飲むような声が聞こえ、反射的にそちらを見ると、彼女に付けたメイドの一人、メノがいた。随分とおびえたような表情をこちらに向けている。僕が黙っていると、怒っていると勘違いしたのか、慌てたように頭を下げた。
別に、何もしていないし何をするつもりもない。ただ、声が聞こえたからそちらを見ただけ。それ以上でも以下でもない。
よくあることだ。
僕は肉食獣の流れを組む獣人。さらには男で、騎士団長を務めるのに必要な程度には体格がいい。女子供から見れば、恐怖を感じる要素しかない。
むしろ、初対面から僕と普通に話したアルシャ嬢の方が稀有な例である。
僕はメノに声をかけることもなく、自室へと戻る。メノが相手であれば、何を言ってもきっといい意味には捕らえられないに違いない。
今までの婚約者も、同じだった。話す前から委縮され、少し声をかけようものなら、殺されると言わんばかりに泣き出してしまう。正直、女性の面倒くささに女嫌いを拗らせたこともあった。……早々に母上に矯正させられたが。
そう思うと、彼女のような婚約者は、割と理想なのではないかと思う。僕にとっても。貴族の結婚に愛が必要だとは思わないが、会話の成立は必須だ。
――いや、結果ではなく、過程も考えた方がいいのだったな。
となれば、こんな状況で彼女を本当に婚約者にしようとしたところで、彼女は僕に恩を感じて嫌でも話に応じようとするかもしれない。『継ぎ子』にそんなことはさせられない。
そのうち解消されるであろう婚約者関係だろうが、彼女にとっていい道具になればいいのだが。
どうせ僕と結婚したいと言い出す令嬢はいないだろうし、いくらウィンスキー家が名家だとしても僕自身は優良物件という枠組みから外れて久しい。
使えるものは使えばいい、と、僕の婚約者の席を彼女に譲ったのだが、僕は何か間違えたのか?
ウィンスキー家の名を出して、ソルテラ卿の態度が変わったのなら、それでいいと思ったのだが。
本当に死んでいたのなら僕の家名を出したところで死んだというだろうし、殺す予定だった娘が他国とのつながりを持てるようになるというのならその話に乗るだろうと考えた僕の案は、彼女にあんな顔をさせるほど駄目だったのだろうか。
――団長は結果にこだわる人ですけど、過程にも、もう少し気をやった方がいいと思うんすよ。
いつぞや、コマネが言っていたことが頭の中をよぎる。なるほど、こういうことだったのか。学びを得た。
『――、っ』
息を飲むような声が聞こえ、反射的にそちらを見ると、彼女に付けたメイドの一人、メノがいた。随分とおびえたような表情をこちらに向けている。僕が黙っていると、怒っていると勘違いしたのか、慌てたように頭を下げた。
別に、何もしていないし何をするつもりもない。ただ、声が聞こえたからそちらを見ただけ。それ以上でも以下でもない。
よくあることだ。
僕は肉食獣の流れを組む獣人。さらには男で、騎士団長を務めるのに必要な程度には体格がいい。女子供から見れば、恐怖を感じる要素しかない。
むしろ、初対面から僕と普通に話したアルシャ嬢の方が稀有な例である。
僕はメノに声をかけることもなく、自室へと戻る。メノが相手であれば、何を言ってもきっといい意味には捕らえられないに違いない。
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――いや、結果ではなく、過程も考えた方がいいのだったな。
となれば、こんな状況で彼女を本当に婚約者にしようとしたところで、彼女は僕に恩を感じて嫌でも話に応じようとするかもしれない。『継ぎ子』にそんなことはさせられない。
そのうち解消されるであろう婚約者関係だろうが、彼女にとっていい道具になればいいのだが。
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