45 / 61
36.5
しおりを挟む
カゼミがなぜか同情的な顔で僕を見る。ヒスイには、一時的な婚約で、彼女が独り立ちできるようになれば適当に解消するつもりだと説明してあったのだが、カゼミには伝えなかったのだろうか。
カゼミは女だし、そういう恋愛話も好きなのだろうが、僕たちにそのような事実はない。元より、貴族令嬢は家の都合で嫁ぎ先が決まるもの。別に、今回のような場合も珍しくもなんともないだろうに。
そう思っていたら、カゼミが小さくため息を吐いていた。
「……まあ、いいですわ。ねえ、アルシャさん。アルシャさんさえよければ、勉強のこと以外でもわたくしを頼ってくださいな。まだ、こちらに女性の知り合いはいないのでしょう? わたくしはお兄様が騎士階級ですので、平民よりはよい生活ができていますが、貴族階級ではありませんから、侯爵家のお嬢様とは少々身分が釣り合わないかもしれませんが……」
「……! 全然、嬉しい、です!」
よっぽど嬉しかったのか、アルシャ嬢は目を輝かせ、言いなれているであろう東語を片言にして、興奮していた。僕が見る限りでも、かなり上位の喜びっぷりのように見える。
「肩書ばっかりあっても、友達なんて、一人もいなかったから。それに、少し前までは自分が侯爵家の人間とも思ってなかったので、侯爵家という肩書すらピンとこないんです。……あっ、いや、と、友達ではないですよね……」
人間であれば、確実に耳が垂れているであろう表情を見せるアルシャ嬢。その様子を見て、嬉しくなったのか、カゼミはぶんぶんとしっぽを振っている。
少し目線が落ちているアルシャ嬢には、角度的に見えていないだろうが、僕からは丸見えだ。いかに落ち着いて行動しているように見えても、こういう、しっぽと感情が直結しているのは、実に人間らしい。
「いいえ、いいえ! わたくし、とっても感激いたしましたわ! わたくしたちは友人です!」
「ほ、本当……?」
不安げな表情をしていたアルシャ嬢だったが、カゼミが本気で喜んでいるのがすぐに分かったのだろう。徐々に顔が明るくなっていく。
「教師と生徒、そして友人として、これからよろしくお願いいたしますわね、アルシャさん」
「はい……!」
手を取り合って、はしゃぐ二人。顔合わせは無事に済んだようだ。ヒスイの妹であれば問題はないと思ったが、僕の予想以上に二人の相性は良かったらしい。きっと、カゼミはこれからアルシャ嬢のよき相談相手、友人となることだろう。
無事に顔合わせが済んだようで何よりである。
カゼミは女だし、そういう恋愛話も好きなのだろうが、僕たちにそのような事実はない。元より、貴族令嬢は家の都合で嫁ぎ先が決まるもの。別に、今回のような場合も珍しくもなんともないだろうに。
そう思っていたら、カゼミが小さくため息を吐いていた。
「……まあ、いいですわ。ねえ、アルシャさん。アルシャさんさえよければ、勉強のこと以外でもわたくしを頼ってくださいな。まだ、こちらに女性の知り合いはいないのでしょう? わたくしはお兄様が騎士階級ですので、平民よりはよい生活ができていますが、貴族階級ではありませんから、侯爵家のお嬢様とは少々身分が釣り合わないかもしれませんが……」
「……! 全然、嬉しい、です!」
よっぽど嬉しかったのか、アルシャ嬢は目を輝かせ、言いなれているであろう東語を片言にして、興奮していた。僕が見る限りでも、かなり上位の喜びっぷりのように見える。
「肩書ばっかりあっても、友達なんて、一人もいなかったから。それに、少し前までは自分が侯爵家の人間とも思ってなかったので、侯爵家という肩書すらピンとこないんです。……あっ、いや、と、友達ではないですよね……」
人間であれば、確実に耳が垂れているであろう表情を見せるアルシャ嬢。その様子を見て、嬉しくなったのか、カゼミはぶんぶんとしっぽを振っている。
少し目線が落ちているアルシャ嬢には、角度的に見えていないだろうが、僕からは丸見えだ。いかに落ち着いて行動しているように見えても、こういう、しっぽと感情が直結しているのは、実に人間らしい。
「いいえ、いいえ! わたくし、とっても感激いたしましたわ! わたくしたちは友人です!」
「ほ、本当……?」
不安げな表情をしていたアルシャ嬢だったが、カゼミが本気で喜んでいるのがすぐに分かったのだろう。徐々に顔が明るくなっていく。
「教師と生徒、そして友人として、これからよろしくお願いいたしますわね、アルシャさん」
「はい……!」
手を取り合って、はしゃぐ二人。顔合わせは無事に済んだようだ。ヒスイの妹であれば問題はないと思ったが、僕の予想以上に二人の相性は良かったらしい。きっと、カゼミはこれからアルシャ嬢のよき相談相手、友人となることだろう。
無事に顔合わせが済んだようで何よりである。
8
あなたにおすすめの小説
【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります
廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。
二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。
リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。
叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。
皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。
番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜
く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた
静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。
壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。
「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」
番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。
狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の
少年リノを弟として家に連れ帰る。
天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。
夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!
カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。
魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。
iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。
クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。
皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。
こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。
私のこと気に入らないとか……ありそう?
ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど――
絆されていたのに。
ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。
――魅了魔法ですか…。
国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね?
いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。
――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。
第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか?
サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。
✂----------------------------
不定期更新です。
他サイトさまでも投稿しています。
10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる