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このままでは、いざ婚約を解消しよう! という話が出たときに、わたしが邪魔者になってしまう。
『と、ところで、えっと、貴族階級? と、騎士階級? って違う、のですか?』
なんだかよくない方向に話が展開していきそうな気配を感じて、わたしは話題を逸らす。
『ラトソールでは一緒でしたの?』
『……分からない、です』
そもそも、わたしが侯爵家のお嬢様だったこともつい最近知ったばかりだったし。貴族については前世のうすぼんやりとした知識があるだけで、こっちの世界のことはさっぱりだ。
イタリさんは爵位も持って、その上で貴族なのだとばかり思っていたのだけど、それも違うらしい。
話題、もっと別のものにすればよかったかな、と思ってしまう。失敗した。
それでも、カゼミさんは気を悪くした様子はなく、『ヴェスティエでは別物ですわ』と説明してくれた。
ヴェスティエには、貴族階級、騎士階級、平民階級の三つがあるらしい。貴族は土地を王家から預かり運営する者、騎士は王家の剣として武力となる、いわば軍人や兵のようなもの。貴族は血筋でしかなれないが、騎士はなろうと思えば平民からでも貴族からでもなれるものだという。貴族が騎士になる場合は爵位の相続権放棄など、色々制約があるらしいけど。
『イタリさんの生家であるウィンスキー家は、多くの騎士を輩出した歴史が長く、また、騎士団の団長を務める方が多いので、貴族階級の方にも負けず劣らずな権力と地位があるんですのよ』
『へえ……』
てっきり、貴族のお偉いさんかと思っていた。これだけの屋敷と使用人がいるのだから。
でも、ソルテラ侯爵家とウィンスキー家のつり合いが取れている、と、向こうが言うくらいなのだからヴェスティエ王国内では相当にすごい家に違いない。
『そして、ウィンスキー家に嫁いだ令嬢も数知れず……』
……ん?
『だから、アルシャさんも、何一つ心配ありませんわ。わたくしが生まれる前の話ではありますが、末の王女がウィンスキー家に嫁入りしたという伝説もあるくらいですから』
……結局そこに着地するのかぁ。
『アルシャさんは、イタリさんのことがお嫌い?』
『き、嫌いじゃない! 嫌いじゃない、です、けど……』
イタリさんのことは嫌いじゃない。それは即答できる。でも、恋愛的に好きかって言うと……。
『わ、分からない、です? わたしと、ちゃんと話してくれる人、今までいなかった、から……』
わたしがこの世界に生まれて、まともに話したことがある男性は、イタリさん、コマネさん、ヒスイ先生の三人だけ。ラトソールでも、いろんな男性に会ったけれど、わたしがラトソール語を理解できないと分かると、離れていくか馬鹿にするかのどちらかだった。
前世の記憶があるから、コミュニケーションが一切できない人間、というわけでもないけど……。でも、前世で恋人がいて、結婚して、という、恋愛をする一般的な人の道筋をたどっていたかというと……。
なんだか、恋愛感情という、人との関わり合いの高難易度の領域まで至れていないというのが正しいのかも。この世界での、人との触れ合いの経験値が圧倒的に不足していると思うのだ。
『と、ところで、えっと、貴族階級? と、騎士階級? って違う、のですか?』
なんだかよくない方向に話が展開していきそうな気配を感じて、わたしは話題を逸らす。
『ラトソールでは一緒でしたの?』
『……分からない、です』
そもそも、わたしが侯爵家のお嬢様だったこともつい最近知ったばかりだったし。貴族については前世のうすぼんやりとした知識があるだけで、こっちの世界のことはさっぱりだ。
イタリさんは爵位も持って、その上で貴族なのだとばかり思っていたのだけど、それも違うらしい。
話題、もっと別のものにすればよかったかな、と思ってしまう。失敗した。
それでも、カゼミさんは気を悪くした様子はなく、『ヴェスティエでは別物ですわ』と説明してくれた。
ヴェスティエには、貴族階級、騎士階級、平民階級の三つがあるらしい。貴族は土地を王家から預かり運営する者、騎士は王家の剣として武力となる、いわば軍人や兵のようなもの。貴族は血筋でしかなれないが、騎士はなろうと思えば平民からでも貴族からでもなれるものだという。貴族が騎士になる場合は爵位の相続権放棄など、色々制約があるらしいけど。
『イタリさんの生家であるウィンスキー家は、多くの騎士を輩出した歴史が長く、また、騎士団の団長を務める方が多いので、貴族階級の方にも負けず劣らずな権力と地位があるんですのよ』
『へえ……』
てっきり、貴族のお偉いさんかと思っていた。これだけの屋敷と使用人がいるのだから。
でも、ソルテラ侯爵家とウィンスキー家のつり合いが取れている、と、向こうが言うくらいなのだからヴェスティエ王国内では相当にすごい家に違いない。
『そして、ウィンスキー家に嫁いだ令嬢も数知れず……』
……ん?
『だから、アルシャさんも、何一つ心配ありませんわ。わたくしが生まれる前の話ではありますが、末の王女がウィンスキー家に嫁入りしたという伝説もあるくらいですから』
……結局そこに着地するのかぁ。
『アルシャさんは、イタリさんのことがお嫌い?』
『き、嫌いじゃない! 嫌いじゃない、です、けど……』
イタリさんのことは嫌いじゃない。それは即答できる。でも、恋愛的に好きかって言うと……。
『わ、分からない、です? わたしと、ちゃんと話してくれる人、今までいなかった、から……』
わたしがこの世界に生まれて、まともに話したことがある男性は、イタリさん、コマネさん、ヒスイ先生の三人だけ。ラトソールでも、いろんな男性に会ったけれど、わたしがラトソール語を理解できないと分かると、離れていくか馬鹿にするかのどちらかだった。
前世の記憶があるから、コミュニケーションが一切できない人間、というわけでもないけど……。でも、前世で恋人がいて、結婚して、という、恋愛をする一般的な人の道筋をたどっていたかというと……。
なんだか、恋愛感情という、人との関わり合いの高難易度の領域まで至れていないというのが正しいのかも。この世界での、人との触れ合いの経験値が圧倒的に不足していると思うのだ。
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