言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 それにしても、寡黙、寡黙かあ……。

『寡黙、は、静かな人……?』

『そうですわね。言葉が足りない人、無口な人、という意味ですわ』

 『よく覚えていましたね』と隙あらばカゼミさんは褒めてくれるが……イタリさんって、寡黙だろうか?
 確かに少々言葉足らずで、必要なことしか言わない印象があるけど、逆に言えば必要なことは一杯話してくれるし。静か、と言うほどでもないと思う。

『イタリさん、一杯、話すくれる……ううん、えっと、話して、くれる? くださる? ますよ?』

『話してくれます、か、話してくださります、ですわね。……えっ、あのイタリさんが?』

 先に教師としての説明をしてくれたカゼミさんが、時間差でショックを受けている。

『おしゃべり、とは少し違う、けれど……ちゃんとお話、してくれます』

 本当に無口で、必要最低限しか話さない人ならば、もっと会話が成り立たなくて、あったときに気まずい思いばかりしていると思う。
 でも、イタリさん相手にそう思うことはあまりないのだ。
 そりゃあ、マナーや常識が分からなくて、相手をうかがうことに居心地の悪さを感じることはあるけれど、でもそれって、イタリさんに限ったことじゃないし。
 むしろ、元の国にいたときのほうが、ずっと嫌だった。会話そのものが存在しないのだから。

『イタリさんと話をするのは、楽しい、です?』

 なんだかすごく教科書的な文章になってしまった。間違いはないんだろうけど、友達との会話としてはどうなんだろう。
 と、思ったのだが。

『あら、あらあらまあまあ』 

 カゼミさんはにっこにこでこちらを見ている。とても上機嫌だ。
 ……もしかして、こういう、恋愛話、好きなのかなあ。

『……カゼミさんは好きな人、いるんですか?』

『わたくしはいませんわ。そんなことより、もっとお二人のお話が聞きたいです』

 恋愛話をしたいのかと思って聞いてみたが、バッサリと切り捨てられてしまった。
 わたしの話って言われても……。

『貴族階級と騎士階級の恋だなんて、まるで物語のようですわ』

『こ、恋、違う!』

 わたしは慌てて立ち上がり弁明する。わたしと恋をしているだなんて知れ渡ったら、なんかこう、イタリさんの格が下がってしまうような気がするのだ!
 イタリさんには、もっと、ふさわしい女性が……! 女性、が……。

 イタリさんの隣にいるのは、わたしじゃないほうがいいはずなのに、じゃあ、どんな人がいいんだろうって考えても、上手く想像することができない。
 この間、街に出たのは、わたしにどんな店があるのか紹介するためだったので、デートでも何でもないんだけど、ああいうことを、他の女性としているイタリさんを考えるのが、なんか、ちょっと、嫌、なのだ。

 ……わたしってば、イタリさんに懐きすぎちゃったのかな!? 
いくら初めて言葉が通じる相手に出会って、嬉しくなったからといって、これは駄目なんじゃないだろうか。
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