言葉の通じない世界に転生した侯爵令嬢は、気が付いたら婚約破棄されて獣人騎士の新しい夫に愛されてました

ゴルゴンゾーラ三国

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 だから、『特にない』と返事をしたのに、『何か一つくらいあるでしょう?』と返されてしまった。
 この手の話が好きな人なんだろうか。何か切実なものを感じる。そんなに恋の話がしたいのか……? 
 カゼミさんはいい人っぽいし、別にわたしの他にも一緒になって恋愛トークできゃあきゃあ騒いでくれる人がいるだろう。

『たとえば、カゼミさん、は?』

『わたくしはお兄様のような人ですわ』

 参考までに、と聞けば即答された。

『あ、でも勘違いしないでくださいませね。別にお兄様とどうこうなりたいわけじゃありませんわ。理想の殿方にお兄様が一番近いんですの』

 弁明しなれているのか、ちょっと口調が早い。理想の相手が兄、と答えたら、そりゃあ引かれてしまうものな。
 でも、具体的な人物を思い出せるほど、わたしは人を知らない。言葉の通じない元の国では言わずもがな、こちらの国でも顔と名前が一致するのはイタリさん、コマネさん、ヒスイさんの三人である。
 彼の妹の前でヒスイさんが好み、というのもなんだか気が引けるし、素敵な人だとは思うけれど、なんか、こう、異性として好ましいというよりは、わたしもこういう兄が欲しかった、という感情に近い気がする。……こっちのほうが余計にカゼミさんの目の前では言えないが。

 でも、こうして結論を先延ばしにして誤魔化そうとしてみても、カゼミさんの視線は変わらない。全然話がそらせない。
 仕方がないので、わたしは真剣に好みを考えることにした。

 うーん……とりあえず、前の婚約者(暫定)の男みたいなのは嫌だな。わたしが会話出来ないのをいいことに、あれこれ馬鹿にしてきたから。何を言っているかは、ほとんど分からなかったけど、わたしのことを見下してあざ笑っていた、というのは雰囲気で分かる。

『……わたしが、ええと……下手くそ、話すのが、下手くそでも――えっと、ええと……』

 馬鹿にしない人、と続けたいのに、そういう人をけなすような言葉を教わってないので、馬鹿にする、という単語やそれに近い言葉が出てこない。

『いい、じゃない、人?』

 なんとか近そうな言葉を探してみたけれど、全然これじゃない感がある。わたしは観念して、「馬鹿にしない人」と東語で言った。
 この雑談の間は東語は禁止で共用語のみ、という決まりになっていたのだが、難しくて破ってしまった。
 基本的に、東語と共用語の違いは、前世で言う標準語と方言、くらいの差なので、雰囲気で分かるところは分かるのだが、分からないものは分からないのだ。
 もっというなら、わたしが上手く話せなくても馬鹿にしない人、というよりは、一緒に話をしてくれる人、の方が近い気がする。

『……イタリ様は結構寡黙な方でいらっしゃいますけど、そこは大丈夫ですの?』

 東語を使ったら駄目、と言われていたけれど、ペナルティは特にないらしく、カゼミさんは話を続ける。まあ、特に罰がないからといって、共用語を諦めるわけじゃないんだけど。
 早く覚えたいし。
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