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ヒスイさんに憧れて教師を目指した、というだけあって、カゼミさんの教え方はヒスイさんと同じように分かりやすかったし、教え方も似ていた。
とにかく褒めて伸ばす、という、前の国での家庭教師とは全く正反対の教育方針に戸惑いもしたけれど、概ね勉強は出来ている、はず。
これだけちやほやされるのも慣れないので、少しばかり気おくれしてしまうが、褒められるだけのことを残そうと、勉強への意欲が高まるので、とてもありがたい。
授業も終わり、彼女の迎えの馬車を待つ間、雑談も勉強になるから、と、カゼミさんは共用語でゆっくりと会話をしてくれた。発音も聞き取りやすいように、わざと片言で。
いくつか受け答えしていると、ふと、カゼミさんが問うてきた。
『――ところで、アルシャさんは、どのような殿方が好みですの?』
『殿方?』
何が好き? と聞かれているのは分かるけれど、『殿方』という単語は聞いたことがない。わたしはそのまま聞き返した。
『ああ、ええと……男性、ですわ』
『男性……男性……』
言い直された言葉の意味を思い出しながら単語を繰り返して、意味を理解すると、「だ、男性!?」と大声を上げてしまった。
つまり、どういう男が好きなのか、とカゼミさんは聞いているのだろう。
『急に、何、ですか?』
さっきまで、好きな食べ物とか、好きな色とか、そんな話だったのに。好きなものを聞く、という繋がりはあるけれど、なんだか一気に会話の内容が生々しくなってしまった。
『急でもありませんわよ。ほら、イタリ様と婚約なさったのでしょう? でも、貴女から見て、彼は好みなのかと思いまして』
ゆっくりと、聞き取りやすい片言で話してくれているから、言葉の意味は分かるはずなのに、わたしは彼女の言っていることが本当に正しく訳せているのか不安になってきた。
『わたしの、好きな男、の、話?』
思わず聞き返したものの、肯定されてしまった。……間違いじゃないんだ。
好きな男性のタイプ、か。考えたこともない。
そもそも、まともな結婚が出来るとも思っていなかった。今、この世界に生まれてからは、言われるがまま結婚して、されるがまま夫を受け入れて、命じられるままに子供を産むものだとばかり思ってきた。
そこにわたしの意思はない。
あの国にいる限り、例えわたしの意思を問われたとしても、言い返せる言葉がなかったし、そもそも、問われたこと自体、気づけないでいただろう。
だから、下手に夢を見てしまうことが怖くて、そういうことを考えずに生きてきた。
もし、おとぎ話の王子様のような人がわたしを助けにきたとしても、絶対に気が付かないだろうから。
とにかく褒めて伸ばす、という、前の国での家庭教師とは全く正反対の教育方針に戸惑いもしたけれど、概ね勉強は出来ている、はず。
これだけちやほやされるのも慣れないので、少しばかり気おくれしてしまうが、褒められるだけのことを残そうと、勉強への意欲が高まるので、とてもありがたい。
授業も終わり、彼女の迎えの馬車を待つ間、雑談も勉強になるから、と、カゼミさんは共用語でゆっくりと会話をしてくれた。発音も聞き取りやすいように、わざと片言で。
いくつか受け答えしていると、ふと、カゼミさんが問うてきた。
『――ところで、アルシャさんは、どのような殿方が好みですの?』
『殿方?』
何が好き? と聞かれているのは分かるけれど、『殿方』という単語は聞いたことがない。わたしはそのまま聞き返した。
『ああ、ええと……男性、ですわ』
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言い直された言葉の意味を思い出しながら単語を繰り返して、意味を理解すると、「だ、男性!?」と大声を上げてしまった。
つまり、どういう男が好きなのか、とカゼミさんは聞いているのだろう。
『急に、何、ですか?』
さっきまで、好きな食べ物とか、好きな色とか、そんな話だったのに。好きなものを聞く、という繋がりはあるけれど、なんだか一気に会話の内容が生々しくなってしまった。
『急でもありませんわよ。ほら、イタリ様と婚約なさったのでしょう? でも、貴女から見て、彼は好みなのかと思いまして』
ゆっくりと、聞き取りやすい片言で話してくれているから、言葉の意味は分かるはずなのに、わたしは彼女の言っていることが本当に正しく訳せているのか不安になってきた。
『わたしの、好きな男、の、話?』
思わず聞き返したものの、肯定されてしまった。……間違いじゃないんだ。
好きな男性のタイプ、か。考えたこともない。
そもそも、まともな結婚が出来るとも思っていなかった。今、この世界に生まれてからは、言われるがまま結婚して、されるがまま夫を受け入れて、命じられるままに子供を産むものだとばかり思ってきた。
そこにわたしの意思はない。
あの国にいる限り、例えわたしの意思を問われたとしても、言い返せる言葉がなかったし、そもそも、問われたこと自体、気づけないでいただろう。
だから、下手に夢を見てしまうことが怖くて、そういうことを考えずに生きてきた。
もし、おとぎ話の王子様のような人がわたしを助けにきたとしても、絶対に気が付かないだろうから。
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