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第一部

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 他店の討伐依頼を確認する、というイベリスさんの目的を達成すると丁度店の休憩時間になったので、わたしたちは一度店へと戻ることになった。

「ただいま戻りました」

 店内には客一人いないものの、テーブルの上には食器などがまだ残っている。せっせと片付けをしていたヴォジアさんが、一瞬、わたしたちの方を見て、帰ってきたのを確認した。

「……手伝いましょうか?」

 どの席にも大量に皿が残っているので、思わずわたしは声をかけた。流石に洗い場に食器を下げることはできる、と思って提案したのだが、「別にいい」とヴォジアさんに突っぱねられてしまった。……まあ、わたし、ここのやり方とか一切知らないからね。下手に手を出したら二度手間になる、ということも十分にある。

 しかし、イベリスさんも全く手伝う様子がないのはどうなんだろう。すでに食べ終えた後なら料理が冷える心配もないと思うんだけど。店長なら、わたしと違って店の勝手が分からない、ということもないだろうし。

「……手伝わないんですか?」

 わたしが聞くと、イベリスさんが大げさに肩をすくめた。

「オレは呪われてるからね。手伝わせてもらえないんだ」

 それは……差別では? と思ったのも一瞬。

「アンタに店のことをやらせないのは、アンタが単純に仕事ができないからですよ」

 という言葉がヴォジアさんの方から飛んできた。それはもう、低い声である。恨みつらみが詰まっている。

「皿は割るし、配膳は卓を間違えるし、野菜の皮むきは勿論、食材を均等に切ることもできない。掃除はやる前より終わった後の方が散らかっているし、部屋の番号の把握もできてない。そんなアンタに何やらせるってんですか。呪いの話を便利な言い訳にするな」

 凄い言われようだ。そして、それが事実ならば、イベリスさんは本当に、文字通り仕事ができない人になってしまう。ヴォジアさんの表情を見るに、嘘はついていないみたいだけど。そりゃあ、邪魔だから外に連れ出してくれ、ともなるのか。

「じゃ、オレはひと眠りしてこようかな。そもそも、そのつもりで一旦帰ってきたんだし」

 そう言って、イベリスさんがあくびをひとつする。……そう言えば、わたしが撫でたくて無理に構い倒して、ヴォジアさんに気が付かれたんだっけ? いや、人に戻って場所を取ったのはイベリスさんだから、彼の睡眠を邪魔したことは気にしなくていいか。

 そんなことを考えていると、いつの間にかイベリスさんが猫に戻っていた。
 ポン、と音がするわけでもなく、煙が出て姿が変わるわけでもなく、本当に、一瞬気が逸れたうちにパッと切り替わるように人になったり猫になったりしているので、ちょっと心臓に悪い。

 かしかし、と後ろ足で器用に後頭部らへんをかいている水色の毛を持つ猫。
 可愛いけど、これ、イベリスさんなんだよなあ。なんかちょっとやだ。
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