ヒノキの棒と布の服

とめきち

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第百四十二話 フランクフルト=アム=マインにて

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「もういっちょう。」
 地下から呼ばれた『白亜』の材料が、美しい城をかたどっていく。
 フリードリヒスホーフ城を模した四階建ての白い城。
「美しい」
 マルノ=マキタが、思わず口に出した。
 屋根にはたくさんのドーマーが見える、明り取りだろうか。
 窓も広く、明るい様子が見て取れる。

「お屋形さま、これは?」
 エリシアは、城に見とれていたが、ふと聞いた。
「まあ、領主屋形としたらこれくらいやろ。」
 かなり大きいですよ~。
「まあ。」
 地下から掘り出したガラスがふんだんに使われている。
 部屋数は四〇余りと少ないが、広いホールや食堂もある。
 各部屋にシャワーも付いている。

 至れり尽くせりだな。
 フリードリヒスホーフ城は、古城ホテルとして有名で、一泊平均四四〇〇〇円くらいである。
 スイートルームは四部屋ついている。
 お値段は八八〇〇〇円。
 いい感じである。

 豆知識であるな。

 ぐっとせりあがった土台は、半地下室になっていて、ワインのカーヴが備えられている。
 真ん中にしっかりした玄関。
 丸い階段が土台に飾りをつける。
 正面前庭には、白砂が敷き詰められていて、立木が陰影を映している。
 市庁舎から五〇メートルほど離れた場所に並列に並ぶ。
 なにもない場所だから、やりたい放題だな。
「当面、あてらが過ごす屋敷やな。」
「ほんまに?」
「ああ、大方さまもいてはるさかいな。」

「カズマ殿、本当にここに?」
 ジュリアーナさまが、城を見上げて聞いた。
「中の飾りもまだですが。」
「それでも、このような建物は…」
「なかなかよさげでしょ?」
「はい…」
 ジュリアーナさまも、城には気に入ったようである。

「ま~たお屋形さまは、調子にのってるにゃ。」
 トラは辛辣な意見を述べる。
「なんやトラは、これ、気に入らへんか?」
「城はいいですにゃ、ただ、自重と言う言葉を知っているにゃ?」
「この口は、そう言うことをいいますかいな?」
「にゃにゃにゃ!いひゃいにゃ!」
 カズマに口を引っ張られて顔が斜めに傾く。
「どうや?」

「いにゃいにゃ、なかなかいいお城にゃ~」
「それでええねん。」
 トラはほほをさすりながら、カズマから距離をとった。
「ちちち、ほらひどいことせえへんからこっちにおいない。」
 カズマはトラの前に手のひらを出した。
「お屋形さまは、なにかと勘違いしてるにゃ。」
 トラは渋い顔をして見せた。

 とりあえず、大方さまが泊まる部屋は、一番に整える。
 カーテンやベッド、椅子などを並べて、それらしく飾ってみた。
「大方さまはここでお休みください。」
「まあ、こんなにしていただかなくても。」
「いえいえ、まずは大方さまからどす。」
 カズマも、トメ様には気を遣う。
 その横にはエリシアの部屋。
 仮住まいにそれほど力を入れることもないのにね。

「これは趣味どす。」
 カズマは真顔で言い返した。(誰に?)

 広場ができれば、商業も進む。
 王国で言うマルシェも起きる。
「なにより、住民の交流の場があることが大事なんどす。」
 教会前広場も、住民が集まって憩う場所になっている。
「ガイスラー将軍はん、どうぞこちらで行政を行うようにしとくれやす。」
「は、伯爵どのは、どれほどの魔力をおもちなのか?」
「いや、これは黎明の魔女プルミエ導師に教わった土魔法どす、それほどの魔力も使うてまへん。」
「い・いやいや、そんな馬鹿な…」

「精霊が勝手に助けてくれるんどす。」
「せいれい…」
 ガイスラーは、これほどの魔法の使い手に会ったことがなかった。
 さらに、カズマはアマルトリウスと、兵舎の増築に手を出していた。
 なんのことはない、かまぼこハウスの大型なのだが、形的に強度が出しやすいのが利点。
 橋の北側から西に向けては、このかまぼこハウスが延々と続いた。
 具体的には、一〇〇棟あまりはあったろうか。

 シンプルな構造にして、魔力の消耗を押さえ、中の自由度を上げている。
 簡単に言えば、アッパッパなので、ご自分で好きなようにアレンジしてねってやつだ。
 みな好きなようにベッドを置いたり、机を置いたりしている。
 かまぼこの間に木を植えたり、花壇を作ったりと、それぞれに楽しんでいるようだ。
 輜重部隊は、一棟を厨房施設に作り替えて、隣を食堂として使っている。
 なかなかやり手もいるもんだね。
 帝国の輜重部隊にも柔軟な思考の者が付いているってことだ。
 めでたいな。

「市庁舎の中には隊長の部屋も用意してますので、ぜひ使うとくれやす。」
「ええ?あれ、事務所じゃないんですか?」
「事務所兼住居としても使えるようにしてあります。」
「な、なんと言うか、いらたれりつくせりですね。」
「はやくここが再建できることが重要どす。」
「まったくその通りです。」
「とりあえず、あそこの畑の横に、もう少し畑を広げまひょ。」

 そう言って、カズマはひょいひょいと移動する。

「あ~、じいちゃん、そこどかはって。まきこまれると、畑の肥料になりますえ。」
「うひゃあ!」
 じいさんとは思えない速度で駆け出す。
「いきますよ~」
 ぐいんぐいんと土砂がうねり、一面ひっくり返って畑になる。
「なんと言うか、伯爵の土魔法はウチの魔法士とはちがいますね。」
「そう?」
「ええ、桁も違いますが、根本的に動きが違うと言うか…」

「まあ、帝国と王国ではやり方も違うのと思いますが?」
 カズマはそらっとぼけている。
 これが土ボコの発展形だとは言えない雰囲気なので。
 まあ、兵士たちがテントを張っていた場所に、土魔法をかけて畑にしたのだから、かなり硬かった。
 帝国の魔法部隊には荷が重かったのである。

 土の中にある、大きな石や根っこなども、ぐいぐいともみ出すようにして、良質の畑に変える様子ははたからは異様に映るのだろう。
「カズマ、かまぼこはもういいのか?」
 アマルトリウスが、カズマの横に立った。
「おお、全員入ったようやな、もうええよ。」
「よしよし、あっちのアパートはどうじゃ?まだ魔力はいっぱいあるぞ。」
「帝国のみなさんも頑張ってはるみたいやし、もうよさそうや。」
「そうか?」

「ガイスラー殿、これ以上はお邪魔になりそうなので、わてらは退散しますわ。」
「伯爵。」
「これは、当面の避難民の食事に使うとくれやす。」
 カズマは、大量の小麦を魔法の袋ごとガイスラー将軍に渡した。
「いやしかし、魔法の袋が…」
「ええて、それは将軍さんに。うまく使うとくれやす。」
 ヘンリーやオスカーは、畑に肥料をまいて戻ってきた。

「お屋形さま、畑に堆肥をまいてきました。」
「おお、ヘンリーごうろうさん。オスカーも。」
「ははっ」
「もう、ここはええやろう、そろそろ戻るえ。」
「よろしいので?」
「うん、将軍たちもいてはるしな。」
「かしこまりました。」

「ほな、みんなに乗船させて。」
「はは」
 帝国の様子を見に来たのだが、どうやら自力での再建にも目途が立ちそうである。
 カズマ達の作ったアパートや、かまぼこハウスもその役目を果たしているし。
 畑も、あのころより増えている。
 自分たちで耕したのだろう。
 帝国民も、ただ施しを受けるだけではいられなかったのだな。

 やる気が起きるのは、腹が満たされたからかもしれない。

 帝国の明日は明るいと言えるのではないかな?
 エリシアはセリフを言う暇もなかった。
 残念
 一週間ほどの滞在で、あわただしくカズマ達は帰っていった。
「この城、どうするんだよ。」
 ワーレングスのボヤキはマイン川の波に消えていった。

追記
 なんや書いていて、この話必要?とか思いましたが、フランクフルトが復興していることも必要と思いましたので、消さないことにしました。
 みんな、がんばってね。
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