おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第十五話 竜の気の乱れ ②

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 俺は、レジオの崩れ落ちた東門に来ている。
 男爵(準男爵だけど。)は、甲冑に身を固めて俺の前に立った。
「男爵、意気込みは買うけど、歩兵ばっかしで空を飛ぶドラゴン相手は難しいと思うが。」
 ゴルテス準男爵に向けて、しごくまっとうな質問をあててみる。
「なに、わしの鍛えた精鋭三〇〇人、何かの役に立つであろうよ。」
 胸を張ってみせるんだが…
「盾とか?」
「ううむ…」
「ま、なにがしか期待はしておくよ、とりあえず作戦は、空に逃げられないように羽を痛めつけて、地面に落ちたところをボコるってことで。」
「ブレス対策は?」
「死ぬ気でよける。」
「それだけ?」
「それだけ。」

 男爵は、あきれたような目で俺を見た。
 この急場で、ほかにやりようがあるなら、ぜひ聞かせてほしいものだ。
 そのくらい切羽詰まっている。
 なにしろ、レジオの街とほんの目と鼻の先に、巨大なドラゴンがいると言うのだ。
 その大きさは、斥候によると、伏せている状態で高さ一〇メートル以上。
 丸まっている尻尾を含めて七~八〇メートル。
 立った状態では、高さ五〇メートル程にもなりそうだと言う。
 昭和の大怪獣●ジラを彷彿とさせるが、体重も負けずに二万トンもあるのだろうか?
「どうせ細かい作戦立てたところで、全体で動けるわけじゃない。だったら、その場その場で動くしかない。」
「うむ。」
 表皮の耐久性や、魔法に対する抵抗値など、バケモノじみているのは想像に難くない。
 これに対抗できるのは、ギ●ラかモ●ラしかいない。
 はたして、マートモンス山に帰ってくれるだろうか?


「男爵たちは、後方でドラゴンがどっかいかないように見張っていてほしい。」
「心得た。」
 ま、邪魔スンナってことさ。
 見張っていたって、羽根のある生き物だぜ、飛んで行っちまうことだってあるさ。
 三〇〇人の歩兵程度でなにができるものか。
 絶望的な気分になるぜ。

 歩兵を盾にしたって、気分が悪いし申し訳ない。
 これ以上の死人は必要ないってのが本音だ。

 俺は、遺跡の前に立った。
 遺跡の壁には、オシリス女神の威光を讃える、ちいさなレリーフが見える。

 外壁も崩れ、屋根もなくなった白い石造りの建物の横に、そいつはいた。

 でかい、丸まっていたって高さは一〇メートルを超え、蒼く光り輝くうろこは、ブルーアルマイトみたいにきれいだ。
  ときおりぷるぷる震えているのは、夢でも見ているんだろうか?
 ドラゴンの夢ねえ…
 ちなみに、ティリスがのこのこ着いてきた。
 なんでもドラゴンを見てみたいそうだ。
 攻撃前なら、危なくないかもしれんと思って、着いてくるのを許したけど、どうかな?

 しかし、ブルードラゴンは眠っていたわけではなかった。
 目の前に立つ俺を認めると、傲然と立ち上がる。
「うげ!でかい!」
 そうなんだ、寝てるだけでも一〇メートルを超すって言うことは、立ち上がると五〇メートルくらいになるんだ!
 そのうえ、口に集束を始める、とてつもない魔力!
 いきなりかよ!
「危ない、ティリス!さっさと逃げろ!」
 俺は、ティリスのケツを蹴飛ばした。
 ティリスは、射線上からあわてて走り出す。
 実のところ、ドラゴンのブレスにはどの程度の幅があるのかはわからない。

 うかつだった、ここまで性急に攻撃態勢に入ると思わなかったんだ。

 ただ、やはりブルードラゴン、水系のブレスのようだ。
「って、余計に相殺しにくいじゃん!」
 まだ炎系のほうが、水ぶっかけりゃ消える可能性がある。
 テキさんの魔力の集束を待つ必要はない、俺はティリスと反対方向にずれて、自分の前に凍結系のシールドを形成した。
 つまりは、水が来るなら凍らせればいい。
「ぐるおおおおおお!」
 魔力が固まって、ドラゴンのブレスが吐き出された。
 すげえ!
 並大抵の魔力じゃねえな、横によけているにもかかわらず、その圧力で俺の体が持って行かれる。
 オリフィス効果ってやつだ。
 俺は、シールドの形状を先のとがった流線形に整えて、ブレスの流れを整えようとする。
 うまいぞ!
 ブレスの横で、凍結シールドが氷を作っている。
 なのに、その脇から漏れる魔力に、俺は吹き飛ばされた。

 ごろごろと草原を転がっていくが、手に持ったメイスは離さない。
「こんちくしょう!」
 起き上がったところに、尻尾の一撃が飛んできた。
 上から下に向けて、どすんと振り下ろされる、直径三メートル以上もあるしっぽ!
「うわ!]
 危うくよけると、尻尾は一メートルくらい地面にめり込んでいる。
 なんちゅう力だ、さすがドラゴンと言うべきか。
 尻尾の重量もハンパねえ!
 こんなのに押しつぶされたら、原型も残らねえ。


 こんな非常識な奴に、単独で挑むおれって、単なるバカ?

 無謀と言う文字が、頭をよぎる。
 が、始まっちまったモンはしょうがねえ。
 力及ばなかったときは、死ぬか逃げるかだな!
「ティリス!遺跡の向こうにかくれろ!射線は、こっちに向けさせるから!」
「はいっ!」
 ティリスの白いローブが、かさかさと遺跡の影に向かう。
 よし、うまく隠れたな。

 尻尾は大きすぎて、小さな的には当たらないと思ったのか、ドラゴンは短めの手で攻撃してきた。
 でっかい顔が目の前にある。
 聞くところによると、ブレスを吐くにはかなりインターバルがあるらしく、長い奴になると三〇分とか一時間とかかかるらしい。

 だからって、この物理攻撃はよけいにひどいぞ!

 よけながら、無詠唱のレーザーを打ち出すが、青い鱗が全部跳ね返してしまう。
 体にはぜんぜん効かねえ!
「ちくしょう!きかねえ!」
 後ろに走りこんで、落雷の魔法を落とすが、しびれているのは準男爵の兵隊ばかりだ。
「男爵!兵隊を下げてくれ!できれば城門まで!あんたも逃げろ!」
「心得たり!」
 男爵と、兵隊は一目散に逃げ出した。
「戦略的撤退である。」
「なんでもいい!ブレスの射線上からいなくなればいいんだ!」

 しびれた兵士も、ほかの兵士に引きずられて、なんとか避難する。

 体力の限界まで走る!走る!
 ティリスと兵士たちの射線に入らないように、必死でターンする。
 どかんどかんと、てのひらが俺の後ろにめりこむんだ!
「どわ~!」
 こわいこわい!
 必死によける足に、無意識に力がこもる。
 なんか重力が低いせいで、俺のジャンプ力はけっこうすごい。
 右に左に、よける飛ぶ!

 おもきし飛び上ったら、頭の上まで飛んでしまった。
 低く構えているとは言え、ドラゴンの頭の上までは十五メートルくらいはある。
 俺は、思わず鼻の上に、ちょんっと立ってしまった。
 目の前には、サファイア色した、直径一メートルぐらいのメンタマがある。
「どっっせええい!」
 俺は、手に持ったメイスを鼻づらの先っちょに叩き込んだ。
「ごわ~!」
 あんま痛かったか、ドラゴンが悲鳴を上げて立ち上がる。
 やめろって!
 立ち上がると、俺の体は五〇メートルも持ち上がるんだ!

 俺は、いつでも頭に走れるように構えながら、牙の出ている顎に向けて、もう一回メイスを振り下ろす。
 ごきんと音がして、ドラゴンは掌を鼻づらに持ってきた。
「おわわわわわw!」
 俺は、眉間を通ってドラゴンの背中に向かって走る。
 掌が鼻に触ったとたんに、もっと大きな声をあげてドラゴンが吠えた。
「ごわ~~~~!!!」
「このやろう!こいつぁおまけだ!」
 眉間にもういっちょうメイスを振り下ろす。
 がこんと派手な音がする。
 
「むぎゃ~~~!」
 さっきより情けない声がする。
 俺は、持ったメイスを無茶苦茶に振り回して、ドラゴンの顔と言わず頭と言わず、殴り続ける。
「ごわ~!ぐわっ!ぐわゅ!」
「なんか言ってるぞ。」
 ドラゴンが、涙を流してなんか言ってる。
 滝のような涙が、地面にぼたんぼたんと流れ落ちる。
「あ~!竜の涙!もったいない!」
 ティリスが、場違いなことをわめいている。
 竜が流した涙がどうした?
「ポーションの材料!」
 なるほど。


 鳴き声が、言葉っぽくきこえるんだけど?
 何か言ってるのか?

 俺は、ドラゴンの背中を通って、地面に下り立った。
 五〇メートルの高さで動くのは、かんべんしてほしいんだよ。
 人間三〇歳を超えると、高所恐怖症になるらしい。
 体は一七歳でも、心は五八才だからな、高いところはあんまうれしくない。
 息を整えながら、ドラゴンの次の動きを見ていると、ティリスが駆け寄ってきた。
 なんだよ、桶なんか持って、あ、涙を一滴受け止めた、すごい量だな。
 バケツ大の桶が、なみなみと波打ってる。
 祠の中にあったらしい、ティリスは満足そうな顔をしている。
「ドラゴンが、何か言ってるわ。」
「おれも、そう聞こえる。」

 二人でドラゴンを見ていたら、ぴこーんとティリスの頭の上に、ステータス画面が出た。
「はい?」
 いったいなにがおこった?
 しげしげと見ると、スキル追加の文字。
 異種族言語理解、レベルゼロとなっている。
 レベルゼロ?使えないじゃん。
 そんなもんどうするのかと思ったら、俺のステータス画面に、経験値贈与の文字。
 経験値贈与:自分の獲得した経験値から、スキル取得のための経験値を他人に贈与することができる。
 …ご都合主義もここに極まれりだな。
 オシリス女神のせいか、ジェシカのせいか…

 ジェシカ、次に現れたらそのタレた巨乳を絶対もんでやる!

「ひ!タレてません!」
 天界でジェシカはぶるっと震えた。
「どうしました?」
 主神オシリスが、怪訝な顔で聞く。
「いえ、なんだか背筋に悪寒が…」
「まあ、どうしたんでしょうね?」

 背筋をオカンが走ったら、重いわ!

 俺の経験値は、レジオの町での超無双したがため、とんでもない数値を出している。
 はっきり言って、レベル上げ、当分しなくても平気なくらい。
 自身のレベルは、最初6で表示されていたが、現状32。
 どこでなにをやったかと言うレベルだな。
 これだと、RPGなら中ボスに対抗できるレベルか?
 実を言うと、俺が昔三十五くらいのころ、SSにハマってRPGをやりまくっていた時期があるのだ。
 子供が生まれて、なんか暇ができて、つい手にしたものだが、いや~レベル上げ面白いわ~。
 昔、漫画家になりたかった時期もあるし、おっさんになってもAma○onを使えば、LOコミックなんかも買えるもんだから、つい買い込んでしまい、嫁に見つかってこってり絞られた。
 しかも全部捨てやがって!
 くやしいから、わかんねえように農機具小屋に隠し部屋作って、そこにしまいこんださ。
 もちろんセ○サ○ーンも○レス○も。

 おっと、記憶が戻ったからって、そんな黒歴史まで披露するこたぁなかった。


 異種族言語理解って、ネコの言葉がわかりますってやつか?
 どっかのミカちゃんみたいに。
 スキルポイントは、五か…まあ、おれのところから分けてやればすむのなら、使ってみるか?
「おい、ティリス、お前あたらしいスキルができるとうれしいか?」
「はい?新しいスキル?」
「ああ、異種族言語理解ってやつ。」
「ほかの国の人と簡単に話ができるの?」
「まあそんなとこだ。」
「おもしろそうね、やってみる。」

 よしよし、なにごともチャレンジ精神は重要だよ。
 俺のポイントからティリスのほうへ、ポイントを割り振る。

ててててってて~

 なんだその気の抜ける電子音は!
 ティリスは、異種族言語理解LV.1になりました。
 はいはい、お約束ね。

 俺は、敵を過大評価するクセがあって、そのステージのモンスターを一撃で倒せるくらいレベルを上げないと、安心できないタチなんだ。
 だもんで、よく時間の無駄遣いをしていた。
 あの、無駄にフィールドに出て、モンスターにエンカウントシてレベルを上げるやつだ。
 今回のブルードラゴンが、どの程度のモンスターかはわからんが、少なくとも中ボスクラスではあるまい。
 というか、この大きさだと、ラスボスじゃないのか?
 物語の前半で、主人公が死ぬって、アリなのか?
 ちょっと、オシリスさんのタレたケツも揉んでやりたくなった。

「ひ!タレてません!」
 オシリスは、自分のお尻を押さえて立ち上がった。
「オシリスさま、どうされました?」
「い、いえ、なにやら背中に悪寒が…」
「まあ、どうしたんでしょうね?」

 背中にオカンが走ったらたいへんだわ!

 さて、たまにぴくぴくと痙攣するような、震えるような動きのほかは、いたって静かなブルードラゴン。
 目からぼろぼろと泪をこぼしている。
 俺のメイスが通用したのか?
 こわごわ近寄ってみる。
 しかし、なにやら難しそうな顔をしているな、なにか悩みをかかえているように、眉間にしわを寄せている。
『あの~、ドラゴンさん?どうしてそんな顔をしているんですか?』
 横からティリスが、がうがう言い始めた。
『だれだ?』
 がうっとドラゴンの口から声が漏れる。
 くっさ!
 ドラゴン、口、くっさ!

『私です。』
『なんだ小さきものよ、私はいま大変なんだ。』
『たいへんなんですか?なにがたいへんなんでしょう?』
『うむ、私の奥歯が痛くてたまらんので、飛ぶこともできずにここにいる。』
「…ですって。」
 本当かよ!


 ティリスは、なんとドラゴンともお話できるんです!


「おれのヒーリングで治してやろうか?」
「そうですね、聞いてみます。」
 がうがう?
 がう!
「やってみてもいいそうです。」
 俺は、大きく開かれたドラゴンの口の中に入った。
 少なくとも五メートル以上ある口は、なんかドブくさイ。
「あ、でっかい虫歯発見。」
 においの元はこれか~、ホンマにドブのような腐ったようなにおいがする。
「ほえ~、これはクサイです。」
 がうがう!
 がう~!
「そこが痛いんだそうです。」
「ふうん、とりあえずヒール。」


『どうですか?』
『あまり効かん。』
「だめだそうです。」
「そうか、よし、長時間詠唱に入る、口を開けておいてくれ。」
 がうがう!
 あが~

「いいですよ。」
「よし。」
 ヒーリングを最大級で出すために、長時間魔力を注ぎ込む。
 およそ一分ののち、百人ぐらいは平気で治癒できる量のヒーリングが完成した。
「いくぞ!ヒーリング!」
 俺の手から、目に見えるほど強力な聖光がほとばしる。
 すべてが、虫歯に向かってはしっているのだ。
 ドラゴンの虫歯は、徐々に変化をはじめ、五分ほどの間にきれいにふさがった。
「どうだ?もう痛くないだろう?」
『本当だ、痛くない。』
『よかったですね。』

 だいたいドラゴンなんだから、ヒーリングくらいできるだろうに。
 痛くて集中できなかった?ああそう…

『うむ、小さきものよ、礼を言う。わが鱗の加護を授けよう、よいか?』
「なんか加護をくれるって。」
「へえ、なんだろうな?」

 周囲に強力な魔力が集まってくるのが見える。
 視覚にとらえられるほどの濃密な魔力は、自然界のものなのだ。
 光の粒が、ドラゴンのまわりに濃密に集まってくる。
 それを思い切り吸いこんでから、ドラゴンは俺たちの前に顔を運んだ。
 ドラゴンが、くちから柔らかいブレスを吹くと、俺たちの周りに青い光の粒子がまとわりついた。
「竜の鱗の鎧だ!」
 男爵が遠くから叫んでるよ。
 おれたち二人の体には、竜の鱗のプロテクターが全身を蒼く輝かせた。
「へえ、これは軽いな。」
『物理、魔法、各種衝撃から守ってくれるだろう。』
『ありがとうございます。』
『礼を言うのはこちらのほうだ、我はメルミリアス。困ったことがあれば助けてやろうほどに。」
「それは助かる。」

「礼なら、マッドブルの肉でよいぞ。」
 ドラゴンはにやりと笑って、振り返った。

「では、これにてマート=モンズに立ち返る。』

 この大陸の東端にある高さ八千メートル級のマートモンズ山は、活火山と言われている。
 いきなり舞い上がったと思ったら、ブルードラゴンは一気に上昇し、その羽根を大きく広げた。
 上空三〇〇メートル程上がったところで、ばっと音が聞こえるくらい素早く展開された羽根。
 全長一〇〇メートルはあんじゃねぇか?


「迷惑かけたなんて感覚は、あの虫歯ドラゴンにはないんだろうな。」
 俺は、ため息とともに吐き出した。
「ですねえ、小さきものがいるなあって程度でしょうねえ。」
 どちくしょうが、あんなやつのせいでレジオの町は壊滅したのか!
 迷惑なラスボスだな!

 ブルードラゴンは、大きな羽を広げると、さらにふわりと舞い上がる。
 体重を感じさせないような動きは、あきらかに魔法を使っているんだろう。

「いっちゃいましたねー。」
「いっちまったな、ばかやろうが。」
「いい迷惑でしたね。」
 ドラゴンにとっては小さな人間の存在など、取るに足らないものなんだろう。
「どれだけの人生が狂ったもんだか、レジオ男爵もひどいとばっちりだな。」
 お家は断絶・身は切腹。
 たまったものではない。
「まあ、領民見捨てたのにはちがいありませんよ。」
「それもそうだな。」

「おぬし、無事でよかったな!」
 ゴルテス準男爵がやってきた。
「いや~、死ぬかと思いました。帰ってくれてよかったです。」
「よくまあ、撃退できたものだ、これでお主もドラゴンスレイヤーだな。」
「殺しちゃいませんがね。」
「あれほどの巨大なドラゴンに一人で立ち向かえるものはおらんよ。」
 男爵は、俺の両肩を両手でたたいた。
「だれにはばかる必要もない、堂々とドラゴンスレイヤーを名乗るがよかろうさ。」
「そう言うもんですか。」
「しかも、ドラゴンから祝福まで受けるとは、名実ともに勇者に匹敵するぞ。」
「いや、それはないない、俺なんか駆け出しの冒険者だし。」



「兄ちゃん!SUGEEEEEE!ドラゴン追い払っちまった!」
 ラルが飛びついてきた。
「ラル!」
「すげえなあ、ドラゴンの頭に乗っかって、メイスでガンガンなんて、ふつうできないぞ!」
「いやまあ、偶然だけどな。」
「ドラゴンが泣いて謝ってたじゃん!その鎧も、あいつがくれたんだろ?」
「そ、そう見えたのか。」
「まあいいじゃないですか、これでレジオの町の騒動も終結です。」
「なるほどね、そう言えばそうなるのか。」
「はい!これもオシリスさまのご加護ですよ。」

「なるほどね…」
 遺跡の前に立つ、小さなレリーフに目をやる。
『ご苦労でしたね、カズマ。』
「あ?ジェシカか?」
 レリーフの上に、赤い衣のジェシカが舞い降りた。
 背中に後光しょってやがる。
『懸案であった、レジオの町の乱れが、これで終結です。こちらにいらっしゃい。』
 おれは、レリーフに向かって歩き出す。
 後ろでは、準男爵以下三〇〇名が、地面にひれ伏している。
 ティリスとラルは、呆然とジェシカを見ている。

 俺がレリーフの前に立つと、ジェシカは組んでいた手を開いた。
『あなたに、新しい力を授けましょう。』
「新しい力?」
『すべてのものを浮かべる力、浮遊力(レビテーション)です。』
「れびてーしょん?」
 ジェシカが俺の頭の上に手をかざすと、俺のステータス画面にレビテーションLV.2と追記された。
『使い方次第で、大きな力となるでしょう、精進なさい。』
「あ、ついでに空飛んだり、瞬間移動したりは?」
『それはまたいずれ、一度に欲張るものではありませんよ。』
「それもそうか、ちょっと欲張りすぎたな。」


『あなたがいた商人の家、もうだれも生きていないので、あなたが使いなさい。』
「そんなことジェシカが決めていいのか?」
『ええ、いいのです。そして、オシリスの司祭として、レジオの町の復興を手伝いなさい。ゴルテス準男爵、よろしいですね。』
 ゴルテス準男爵は、目を見開いて固まった。
 すぐに膝をつく。
「はは!使徒ジェシカ様のおっしゃるままに!」
『では、そのようにお願いします。オシリスさまも、今回はたいへんお喜びです。』
「じゃあしょうがねえ、今回はあんま儲からなかったよな。」
『魔物一万匹でも?』
「ああ、そう言えばそうか、でも、レジオの町の冒険者ギルドはつぶれてるじゃん。」
『それもすぐに元に戻りますよ、準男爵、王都への報告は、信義に基づいてゆめゆめ間違うことの無いように。』
 ゴルテス準男爵は、満面に笑みをたたえている。
「はは!すべて包み隠さず報告いたします!」
『よろしい、カズマたちのことも、よろしく頼みましたよ。』
「はは!」

 地面に土下座したまま、ゴルテス準男爵は大きな声で返事した。

「聖女ティリス。」
「わ、私?」
「あなたは、先ほど竜の涙を集めていましたね。」
「ははい。」
「では、ポーション生成のスキルを与えます。聖女として、民衆に安らぎを。」
「はは、かしこまりました。」
「カズマと仲良くね。」
 ジェシカは、いたずらっぽくウインクしている。


 やがて、来た時と同じように、ジェシカは光を放ちながら上に向かって浮かび上がっていった。

 あ!ちくしょう!巨乳をもんでやるのを忘れた!
『へくしょん!』
 あ、空中でくしゃみしやがった。
 俺は、レリーフの周りにちらばった、遺跡の部品をレビテーションで持ち上げて、土魔法でくっつけてやった。
 これで、オシリスの聖堂はもとの形に戻った。
「これでいいだろう、オシリス神の加護に感謝を。」
「「オシリス神の加護に感謝を!」」
 全員が唱和した。



 かぽかぽ
 俺は、ラルのあやつる荷馬車に揺られて、レジオの町に戻った。
 そのあとを、ゴルテス準男爵の馬と、配下の三百人が続く。
「男爵さま~、くたびれたなあ。」
「まあ、そうですな、帰ってゆっくり休みましょうぞ。」
「そうだな、教会に喰いもん届けるよ。」
「糧食は持って来ておるよ、そうそうカズマ殿に甘えてばかりもおれん。」
「か、カズマ…どの?」
 俺は、その言葉にびっくりしたよ。

「だいたい、お主はわかっておるられるのか?主神オシリスさまの第一使徒ジェシカ様が現れたんですぞ。」
「ああうん…」
「この国の国王ですら会ったこともない、尊いお方だ、その直答をいただくなど、信じられん。」
 ゴルテスは、首を振って嘆息した。
「そんなもんか?俺の魔法は、オシリスからもらったぞ。」
「そう、それが信じられんのだ。お主、本当に勇者なのではないのか?」
「さあね、勇者なんかまっぴらだよ。俺は駆け出しの冒険者だよ。それだけだ。」



 ゴルテス準男爵は、酢でも一気飲みしたような顔になった。
「まあよい、お主はそのうちでかいことをすると思いますぞ。そのときは、ワシのことをお忘れなきよう。」
「どうしてさ。」
「これから、お主のすべての便宜を図ってござる。お主は出世するのです。」
「へえ~、まあ、とりあえず腹減ったよな。」
 がくう!
 男爵は、肩からズッコケた。
「いいからこのゴルテス準男爵を忘れるでないですぞ。」
「へいへい、髭の男爵さま。」
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