おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第三十一話 レジオに帰還する

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 アカン、レジオ復興だけでぼってきたら、話が長すぎて収拾つかん。
 ちゅうことで、今回から副題をかえます。

「まったく陛下にもこまったものだ。」
「さよう、いまさら新しい貴族の擁立などと、性急に過ぎる。」
「しかも、どこの馬の骨とも知れない青二才に。」
 宮廷の隅では、あまりいい話は転がっていないようですな。
 よると触ると、カズマの悪口が横行しているようです。
「しかし、あなた、あの崩壊したレジオの町を復興できますか?」
「それそれ、いったいいくらかかるか見当もつきませんよ。」
「陛下から下賜された褒美は、金板(三百万円相当)百枚だそうですよ。」
「そればかりで、あの荒れ果てた領地を回復?無理ですね。」
「そうそう、個人で持っているならば、それ相応なものですが、領地の復興となると心もとないですな。」
 朝早くから、暇な貴族たちもいたもので、そこらで耳寄りな利権の話でもないかと、ハイエナのようにうろついている。

 法衣貴族なんてものは、言って見れば王家にくっついているダニみたいなもので、たいして活躍もなければ生産もしない。
 王家から禄をもらって、消費するだけのごくつぶしと思われている。
 平時には全く役に立たない、戦<いくさ>あっての法衣貴族である。
 そりゃまあ、何代か前にはいくさで戦功をあげて、褒美をもらったんだろうけど、いまじゃダルダルにゆるんでる。
 こんなやつら、俺の小指でも勝てるぞ。
 それはさておき、こいつらをどう使うかは、王国でもかなり頭の痛い話らしい。
 そりゃまあ、禄に見合った働きでもしてくれればいいけどな、軍隊なんかでさ。
 それか、官僚として活躍してくれるとかな。

 そりゃ望み薄だよな。

 まずは、わが男爵領をどう運営するか。
 太平の世の中であるなら、経済政策がいちばん重要だろう。
 ただし、周りにおける他国の情勢はよくわかっていない。
 おじゃる伯爵は、経済的にはよくやっていると思う。
 マゼランの町は、いい感じで賑わっている。
「おじゃる伯爵は、経済的にはいい伯爵だよな。」
 おれは独り言をつぶやきながら、荷物を馬車に積み込んでいる。
 マゼラン伯爵の用意してくれた、六頭立ての馬車は帰りには、行きの半分の速度でのろのろと進む。


 にぎやかな王都から、かぽかぽと音を立てながら馬車は遠ざかっていく。
 王都の街道は、のどかできれいな田園地帯を抜けて、森林地帯に入っていく。
「ん?」
「どうしたの?」
 何気なくいつものように探知の魔王を巡らせていた俺は、ふと引っかかるものを感じた。
 王都からはすでに二〇kmは離れている。
「なんかいる、人間が二十人ぐらい森の中だ。」
「ええ?盗賊ではありませんの?」
「アリスの言うとおりかな、道の両脇に十人ずつくらい隠れているようだ。」
 距離は五百メートル。
「護衛を前に出せ、馬車は止める。」
『どーう』
 馬車はゆっくりと止まった。

 俺は、用足しのようなふりをして、森の木に隠れる。
 国差し回しの護衛の騎士たちは、馬車の前面に並んでいるが、かなり緊張しているようだ。
 五人で、二十人を相手にしなければならない。
 なんちゃって、そんなもんたいしたことはないさ。
 俺は、メイスを片手に、騎士に向き直った。
「やはり二十人はいる。これから俺は、偵察に行き盗賊だとわかったら魔法で攻撃する。お前たちは、こっちに流れてきたやつだけ頼む。」
「は、男爵さま。」
「すまんな、聖女が乗っているから、傷つけたくないんだ。」
「承知しております。」


 あまり承知してはいないだろうが、それは表に出さない騎士の矜持だ。
 木の陰からぐるりと弧を描いて、森の中を進む。
 なるほど、木の上に斥候らしいやつがいる。
 浮遊(レビテーション)の魔法を使って、木に枝にいるやつの後ろに忍び寄る。
 おいおい、気が付けよ、斥候だろ?
「声を出すな。」
 後ろから首に腕をかけて、ナイフを突きつけると、斥候は黙った。
 おれは、そいつを木から降ろすと、縄で縛ったままナイフを突きつけて聞く。
「お前らは、盗賊か。」
「ち、ちがう、お・おれは」
「ふうん、村人にしては物騒なエモノを持っているな。」

「ま、魔物用だ。」
「それで?どこに魔物がいるんだ?」
「いやあの」
「お前だけは助けてやろうか?」
「ほ・ほんとか?」
 語るに落ちるとはこのことだな、自分から盗賊だと言っているようなものだ。
「ああ、あそこにいるのは仲間だろう?今から盗賊は全滅させるからな。お前は生き残れるってことさ。」
「!」
「あいつら、盗賊だろ?」
 そいつは無言でうなずいた。

「よし。」
 俺は両手を広げて、無詠唱の矢を放つ。
 都合二十発。
 うまく当たればいいが、こいつは無指向なのであまり期待しない。
 それでも十人に満たないが、その場で昏倒している。
 かなり胴などを打ち抜いたようだ。
 いてーだろーなァ。
「ホーミングレーザー!」
 指向性のレーザーを、盗賊の足元に放り込む。
 弧を描いて魔法の矢がぐいっと曲がる。
「うわっちちちち!」
 脛を打ち抜かれた盗賊は、全員がそこで転がった。
「まだ残ってるな。」

 俺は、メイスを持って走り出した。
 盗賊も、街道に出てきている。
「ほら!こっちだ!」
 盗賊は、走り寄る俺の姿を確認して、すらりと大刀を抜く。
 ひのふの三人か、たいしたことねえな。
 横合いから、振り上げた刀の刀身にメイスを叩き込むと、あっさりと砕けて折れる。
 メイスがぐるりともう一周して、盗賊のこめかみを狙うと、折れた剣で防御するがあっさりとヒットする。
 かい~んと、すっげえ軽い音がする。

 お前のアタマ、中身入ってんのかあ?

 真正面からの一撃で、もう一人を倒す。

 最後に残った奴は、黒い髭面の大柄な奴だ。
「お前が頭目か?」
「そうだ!俺の手下を、よくも!」
「ばーか、敵の力量を図るのが頭目の仕事だろう!お前のシゴト不足だ。」
 そう言って、メイスを振り回す。
 大刀を抜こうとして、束に手をかけたまま、頭目は右に左に顔がゆがむ。
 がきんごきんと、派手な音がして、その音が止んだ時、頭目は地面に寝っ転がっていた。
「わりーわりー、全部のしちまった、仕事取ってゴメン。」

 斥候を引きずって馬車に戻ると、騎士たちは唖然としていた。
「男爵さま!見事なお手並みです!」
 さっきまで偉そうにしていた騎士が、コメツキバッタみたいにぺこぺこし始めた。
「一人、馬に乗って警備の兵士を呼んできてくれないか、俺たちはここで待ってる。」
「は!では私が!」
 騎士の一人は、重装備をはずして身軽になると、馬にまたがり駆け出した。
「後のものは、生きてるやつらを縛ってくれ。」
「「「「 はっ 」」」」
 まあな、こんなもん引きずって、レジオに帰る訳にもいかんだろう?
 斥候も混ぜて二十一人が、全員負傷して動きもいざりもならん状態になっている。
 足をレーザーが貫通しているので、歩いて逃げることもできず、激痛でのたうちまわっている。
 俺は、ストレージからお茶セットを出して、お湯を沸かす。

 土魔法でテーブルといすを作って、お茶セットを並べる。

 お茶をいれるのは、チコの役目だ。

「お前ら百姓あがりだろう、武器の持ち方がハンパだもんな。」
 いすに座って、斥候に話しかけた。
「なんでわかるんだよ。」
「いっぱしに兵隊やったことがあるやつは、大刀を持って森になんかいないよ。刀が引っかかる。」
「なるほど。」
 斥候は、納得したようにうなずいた。
「それにしても、おまえら今までよく捕まらなかったな。」
「大きい馬車なんか狙わないんだよ。あんたらのだって見逃して、もっと小さい馬車を狙ってたんだ。」
「あ、なるほど。じゃあ、おれが気が付いたのが運のツキか。」
「そうだな、はたして生き残れるかなあ?」
「生き残れ、そして罪を償ったら、レジオに来い。そしたら仕事をやる。」

 斥候は、はっと顔を上げて俺を見た。
 俺が笑ってうなずいてやると、斥候は涙を流してうなずいた。
 やがて現れた治安の兵士に連れられて、盗賊たちは王都に移された。
「男爵さま、甘いですよ。」
「甘いか?でもいいさ、あいつらだって好き好んで盗賊になったわけじゃない。」
「…」
「言いたかないが、これも貴族の責任問題だ。ちゃんと領地を発展させていれば、流民なんか出るものか。」

 行きに寄った村に、また立ち寄って一晩の宿を頼んだ。
 モルテンが飛んできて、俺の前に立った。
「男爵さま!ようこそお越しで。」
「なんだよ、情報がはえ~なあ。」
「いま、都で評判ですよ!新しいレジオ男爵は、ドラゴン砕きだって。」
「おやまあ。それは、このメイスのことだろう。マゼランのチグリスの作だ。」
「これはこの前ツキノワグマを屠ったアレですね。」
「ああ、そうだよ。あれからどうだい?」
「はい、男爵さまのおかげで、森の伐採は無事進んでおります。」
「そうか、そりゃよかった。マゼラン伯爵さまがお休みだそうだ、本陣を開けてくれ。」
「はい、かしこまりました。」

 俺は、本陣に入るとやっと落ち着いた気分になった。
「カズマ、お風呂に入る?」
 ティリスが呼びに来た。
「なんだ、早いな。」
「モルテンさんが、ずっと沸かして待ってたんだって。」
「ふうん、じゃあ入ってくるか。」
「あ、あたしが背中流してあげる。」
「いいのか?」
「いいよ。」
 ま、どういう風のふきっさらしかは知らんけど、ティリスの機嫌がいいならいいや。

 あいかわらずちんまい体を、タオルでくるんでやってきたティリスに、ゆっくり背中を流してもらう.
  かゆいところに手が届く感じで気持ちいい。
「あ~、気持ちいいなあ。」
「はい、手。」
「ほい」
「ばんざ~い。」
「へいうひゃひゃ、くすぐったい。」
 わき腹をこすられるとくすぐったい、胸まで来たところで手が止まる。
「ここ、どうするの?」
「え?やってくれないの?」
「や、やるわよ。」
 わ~い。
 なんか丁寧に洗ってくれて、足の裏まで全部洗われた。

「お返しに、俺も洗ってやろうか?」
「い、いいわよ、恥ずかしいし。」
「まあそう、遠慮するなよ。」
 頭のてっぺんからつま先までしっかり洗ってやったら、くにゃくにゃになってしまった。
「ふみゅう~。」
「この街には、風呂があってありがたいわー。マゼランでは風呂探すの大変だもんな。」
「そうなの?」
「ああ、仕方がないから自分で作ったんだ。」
「へえ~、カズマは器用ねえ。」
「ま、必要は発明の母って言うしな。」

 風呂の小さな窓からは、上がり始めた月が見える。
 この世界は、体が軽いので動くときに無理がきく。
 通常の1.5倍は早く動けそうだ。
「レジオに帰ったら、なにから始めるかなあ。」
「たぶん、士官先の割り振り。カズマ、宿屋の前に紙はって出ちゃったでしょう、みんな必死になって追いかけてくるよ。」
「ああそうだ、忘れてた。」
「忘れるなよ!」
「とりあえず、王都からレジオまで来るのが試験だな。」
「…いま、思いついたでしょう。」

 ひゅ~ひゅ~、音の出ない口笛でごまかす。

 夕食前で、仕度に忙しい厨房を横目に、俺はチコとラルを連れて粉屋にやってきた。
 中間の宿屋街とはいえ、町中はけっこう賑わっていて、夕暮れの時間も人通りが多い。
 店先の柔らかい明かりに、客たちの影が揺らめいている。
「粉屋さんで何買うの?」
「え?普通の小麦粉。」
「こむぎこ?」
「ああ、パンを焼くんだ。」
「へえ、そんなもん焼いてどうするんだ?」
「食うのさ。」
「わざわざ作らなくっても、宿屋にだってあるだろう?」

「あんな固いだけの、粉ダンゴはパンって言わん!」
 どうしようもないこだわり。
 パンはふわっとしてないとダメ!
 あんなふくらみもしない、ティリスのちっぱいみたいなパンはだめだ。
 ちゃんと、アリスの巨乳くらいはないと。
「そんなわけで、ずっと温めていたタネが、やっとできたから、パンを焼いてみる。」
「タネ?」
「ああ、楽しみにしてろよ。」
 俺は、強力粉を一キロほど買い込んで、宿屋に戻った。
「亭主、ここ貸してくれ。」

 俺は、食堂の隅で小麦粉をボウルに入れた。
 ストレージから出したのは、前にみんなで集めた果実を漬けて置いたもの。
「いい感じに泡が出てるぞ。」
 ぽこぽこと細かい泡が、炭酸水のように湧き上がっている。
 言わずと知れた、天然酵母が育っているのだ。
 これをスプーンですくって、小麦粉に加えてミルクを注いで、あとは丁寧にこねる。
 こねて、均等になったものを、ボウルにまるめておいて、濡れ布巾で蓋をする。
 あとは常温で、一次発酵。

「チコ、お茶をもらってきてくれ。」
「はい。」
 一次発酵は約四〇分待つ。
「いい感じにふくらんでるぞ。」
「わあ!すごい!倍になってる!」
「すごいだろう、これをもう一回バターを加えてこねる。」
 バターチャーンがないから、遠心分離の魔法(風魔法の系統)で分離したやつだ。
 ちゃんと練ってある。
 無塩バターが基本だよ。
 ゆっくりバターとなじませて、空気を抜いて丸める。
 これをバターを塗ったボウルに入れて、二次発酵。
 さらに三〇分くらい待つと、また膨らんでくる。

「じゃあ、チコ、ラル、これをこんな感じで丸めてくれ。」
 俺は、膨らんだ生地を。すこしずつちぎって、粉を手に付けた二人に渡す。
「こう?」
「そうそう、うまいぞ。ラル、もっと伸ばせ。」
「こうかい?」
「よしよし。」
 子供と三人で、パンつくりは進む。
 バットに並んだ、ロールパンの生地。
 あと一〇分待って、オーブンに入れるんだ。
 幸い、ここにはいい窯がある。
 親方に頼んで、石釜にパン生地を入れてもらい、様子を見ながら焼く。
 一〇分ぐらいで、いい感じの匂いがしてきた。

「成功だ!パンが焼けたぞ。」
「おい、男爵のダンナ!これがパンだと言うのか!」
 親方は、始めて見るロールパンに、目をむいた。
「パンだよ。俺の故郷では、こう言うパンが主流なんだ。」
「ちょ、ちょっと一口いいかい?」
「ああ、どうぞ。」
 石釜を使わせてもらったからな、ロールパンを一個渡してやった。
 親方は、匂いを嗅いだりぱふぱふ押したりしてたが、おもむろにぱくりと食いついた。
「うまい!」

「そりゃあ、天然の酵母使ってるからな、しっとりしてるはずだが。」
「こ!こんなもの喰ったことがねえです!ぜひ作り方を!」
「あ?さっきからチラチラ見てたじゃん。この秘蔵の薬を分けてやるよ。」
「これは?」
「パンを膨らます、魔法の薬だ。この薬は、エサがないと死んでしまう。五日に一度、リンゴを皮ごとくれてやる必要がある。」
「へえ、エサですかい?」
「それと、温度が高いとダメだ。地下の倉庫で、ひんやりしたところがいい。」
「ワイン蔵ならありますが。」
「そこでいい、陽が当たらないようにして、そっとしてやるんだ。」
「へえ!わかりやした!」

「使う量は、だいたいわかったと思うが、あとは自分で工夫するんだな。」
「あ、ありがとうごぜえやす!こいつは、レジオのパンと名付けて、代々受け継ぎやす!」
「大げさだな。」
「今までのパンなんざ、石みてえなもんです、すぐ捨てて、これで作ります。」
「そりゃあいいけど、このレシピは簡単に外に出すなよ。まだ、だれも知らないんだからな。」
「かしこまりました。けして誰にも教えません。」
「たのむよ。おれがいいと言うまでは、誰にも教えないでくれよ。」
「かしこまりました、男爵さまの許可が出るまで、弟子にも教えません。」

 俺がこのパンで儲けるまでは、門外不出で行ってほしい。
「ま、最初からこれだけで儲かるとは思ってないけどな。」
「カズマ!もっと焼いて!もうないよ!」
「ティリス!お前喰いすぎ!」
 おじゃる伯爵にもお情けでパンを食わせてやったら、泣いて喜んでた。
「よし、これで一儲けできるな。」
「カズマさま、どうやって儲けるんですか?」
「まだ考えてないけど、レジオに客を呼び込むことを考える。」
「そうですか。私もなにか考えますね。」
「頼むよ、アリス。」

 俺が考えているのは、農業による振興と商業基地としての振興なんだ。
 レジオが寡婦と孤児だらけになっている状態では、力仕事はむずかしい。
 だから、ウシと鶏を捕まえてくるところから始める。
 柵作りくらいなら、女子供でも作業できるし、小さい石なら拾い集められる。
 それで、柵の補強をするんだ。
 自分の道は自分で切り開くのが重要だ。
 そのうちやってくる陣借り者たちも、そういう作業に従事させる。
 どうせ、いくさが起こる訳じゃないからな。

 仕事の住み分けも、大事なことだよ。
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