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第三十七話 王様の食卓
しおりを挟む王様は、満足そうにパンをかじっている。
俺は、おもむろにレタスとハムをはさんだサンドイッチを取り出す。
「おお!なんだそれは!また違うではないか!」
「ええまあ、これも献上しますか?」
「むむ!小癪な奴!どれかしてみい。」
俺の手からサンドイッチをむしり取ると、ぱくりと口に入れる。
「おお!なおうまいではないか!レジオ男爵!この作り方も教えるのだ。」
「さようですね、門外不出のレシピなれど、王様の仰せとあればいたしかたなしと言うことで。」
そして極め付け、マヨネーズ入りサンドイッチを出す。
アリスは、目を丸くして俺を見つめた。
「こ!これは!なんだこのソースは!むむむ!うまい!うまい!」
あっという間にそれも平らげる、食の細い王様じゃなくてよかったね。
「侍従、奥を、奥を呼んで参れ!レジオ男爵、まだあるのだろうな?」
「ええ?今ので最後ですよ。」
「バカを申せ、まだあるのじゃろう?あるよな!」
王様、なみだ目になってる。
俺はしかたなさそうにうなずく。
アリスがくすくすと笑っている。
「ああよかった、こんなうまいものを奥にも食べさせず、ワシ一人で食べたなどと知れて見よ、ワシがどんな目に会うか。」
王様は、部屋の隅にいる侍従に目を向けた。
なんだよ、あいつが奥方のスパイか。
「では、お言葉に甘えまして、用意してございますレジオのパンをご賞味いただきます。」
「侍従、口を出す出ないぞ、アンリ=デュポン・奥に告げ口するでないぞ。」
奥方のスパイにくぎを刺す。
王様、なかなか鋭い。
「アンリ、すぐさま姫たちも呼んで参れ、すぐにじゃ!」
「はは!」
スパイはすぐに頭を下げて退室した。
なんだ、小遣い稼ぎにスパイの真似事をしているだけか、仕事はするんだな、あたりまえか。
「王様、姫様とは?」
「うむ、長女 アンリエット、次女 スエレンじゃ。九歳と七歳だがなかなかに利発での。」
「それは楽しみですね。」
「問題は、世継ぎが生まれぬことじゃが、どうしたもんかのう?」
王様の悩みもつきないなあ。
「王様、栄養と運動が肝要でございます。王妃様の運動はたいへん必要なことでございます。」
「なんじゃと?」
「栄養、食事の摂りすぎは肥満の元でございますが、食事をした分軽い運動なさると、いっそう体がすこやかになり、懐妊しやすくなります。」
「ほほう、それはどういうことかな?」
「医学ではなく、健康法でございますよ、適度な運動、睡眠、いずれも健康に直結します。」
王様は、首をひねっている。
「奥方が健康であれば、何人でもお子は生まれます。まずは、散歩など外に出て体を動かすことでございます。」
「ふうむ、レジオ男爵はどこでそのようなことを習った?」
「私の国は、生まれた国でございますが、はるか東方にございます。」
「ふむ。」
「健康にはひときわ関心の高い国でございました。脂肪の摂りすぎや、塩分のとりすぎ、酒の飲みすぎなどは、厳に戒めるよう言われてきました。」
「耳の痛いはなしじゃの。」
そこへ、ドアをノックする音。
「王妃様がおこしです。」
「入るがいい。」
するりと音もなくドアが開くと、きらびやかな衣装をまとった王妃が現れた。
「王様、およびとか?あら?」
王妃の鼻がひくひくと動いた。
「うむ、ここに座って、これなるレジオのパンを賞味するのじゃ。」
「はあ…」
「毒ではないぞ、私も食べた、驚くぞ。」
奥方もおそるおそる手を出す。
「まあ、柔らかい、そしてこのかおり…」
天然酵母は良い香りをたてている。
「そのままぱくりとどうぞ。」
王様もにこにこ笑っている。
「まあ!おいしい!」
「食の細い奥も、これなら食べられそうか?」
「はい、殿、これはたいへんおいしゅうございますね。」
アンリに連れられて、姫さま二人もやってきた。
「お父様、お呼びですか?」
「およびですか?」
舌の足りないかわいい声が聞こえた。
「おお姫たちよ、ここに座りなさい。」
「「はい」」
テーブルに並べられて、いいにおいのするものに気がついた。
「これを食べてみなさい。」
二人は、疑いもせずパンに手を出した。
「「おいしいです!」」
俺は、だまって湯気の出るビーフシチューを出して、テーブルに置いた。
「パンを浸して食べてください。」
「むむ!」
王様は、ちぎったパンで、シチューのふちをぬぐうようにして食べた。
「おお!こう言う食べ方もできるのか!万能であるな!」
「まことに。」
王妃様も、同様に手を出して、湯気の立つシチューに浸して食べている。
姫様の前に、イチジクやりんごのジャムを出して、スプーンを置いた。
「ひめさま、このようにパンに乗せて、おあがりください。」
上の姫が、素直に手を出した。
ジャムを載せたパンを渡す。
「あま~い!おいしい!」
アンリエット姫が、歓声を上げたのでしたのスエレン姫も俺にパンを差し出した。
「わたくしも!わたくしも!」
「はいはい、どうぞ。」
王様は、ごくりとのどを鳴らした。
「な、なんじゃそれは!」
「ああはい、イチジクとりんごのジャムでございます。先日、レアンの郊外で蜂蜜が手に入りましたので、果物に混ぜて炊き込んでございます。」
「なんと!蜂蜜か、ぜいたくじゃの。」
王様が、蜂蜜でぜいたくなどと、甘味の少ない世界なのでしょうがないか。
「おあがりになりますか?」
「おお、もちろんじゃ。」
「わらわにも。」
食が細いとおっしゃる王妃様も、すぐに手を出してきた。
「レジオ、いやカズマ、出し惜しみをするでない、まだなにかあるのだろう?」
「されば、これが最後でございますが。」
そう言って、蜂蜜の壷を出す。
「それは?」
「レアンのはちみつでございます。」
「おお!これが!」
「王様、いちばん贅沢できるはずのお方が、下々のものに驚かないでください。」
「ワシの食卓など、これに比べれば貧相なものよ、のう、アンリ=デュポン。」
「いえあの…」
「朝昼晩、ハンで押したように同じような内容でな、たまに狩に出ると肉が変わる程度よ。」
「ほう、それは残念ですね。」
俺は、ちらりとアンリを見た。
「じゃろう?」
「おかわいそうな王さま、このソースのレシピを差し上げましょう、厨(くりや)でおつくりになればよろしいかと。」
「ふむ、このとおり作れば、この白いソースになるのかえ?」
「はい、原料は卵の黄身と酢と植物油ですから。あと、塩こしょう程度です。」
「ほほう、かんたんじゃの。」
「ただし、攪拌が死ぬほど大変です。」
「かくはん?」
「全部の材料をむちゃくちゃ混ぜないと、白くなりません。」
アリスは、黙って額に汗を落とした。
これを造ったときの苦労が、よみがえったのだろう。
「ほほう。」
「それは、なにかえ?このソースを作る儀式かえ?」
「王妃さま、手間をかけない料理は、ただの材料でございます。」
「ほほう、なかなか言うものじゃのう、レジオ男爵どの。」
「事実でございます。小麦もそのままではパンになりません、この魔法の薬を使って時間と労力をかけないとパンにはならないのです。」
「ふうむ、これは?」
「パンをふくらませる薬です。中には小さな生き物がおりまして、リンゴを食べながら増えております。」
「ほほう、興味深いのう。」
「ねえだんしゃく、シチューはもうないの?」
上の姫様がかわいい声で聞いてきた。
「はい、姫さま、シチューですか?ございますよ。でも、王様そんなにお食べになって、よろしいでしょうか?」
「うむ、よい。出してやってくれ。」
「かしこまりました、でもこれだけですよ、食べ過ぎは体によろしくございません。」
「そうなの?アンリ=デュポン。」
「は・はあ…」
アンリ・デュポンは、あいまいな返事を返す。
「だんしゃく、アンリはたくさん食べろというのよ。」
スエレン姫が、俺を覗き込むように言う。
「なるほど、姫さまは食が細くていらっしゃるのですね。できれば、大きくなるために、たくさん食べることは必要です。」
「そうなの?」
「ですが、その分運動をして、体を育てることも必要です。」
「カズマは、すぐ難しいことを言うなあ。」
王様は、横からチャチャを入れる。
「この国のご婦人は、全体的に運動不足です!もっと厳密に言うなら、この国の貴族のご婦人はと、言い換えた方がいいです。」
うわ、言いきったよこの人。
「王様は、そうお考えになりませんか?」
「いや、わからんではないが、具体的にはどういったものかのう?」
「たとえば、王妃さまはダンスのレッスンはしておられますか?」
「そう言えば、してないのう?」
「しておりませんわ。」
「貴族の女性は、ダンス以外で体を動かすなど、なさいませんでしょう?」
「そう言えばそうかのう?」
「そうですね、ほとんど部屋から出ませんし。」
「それでは、いつまでたっても王子さまの誕生はおぼつきません。」
「まあ!」
「一に体力・二に体力!お世継ぎのために、毎日三〇分から一時間、ダンスのレッスンをぜひ行ってください。」
「そうするとどうなる?」
「王妃さまの体力が上がり、王様との和合が進みます!」
「ふむ、それはたいせつじゃのう。」
「王妃さま、スエレンさま出産後、虫歯が増えてございますね。」
「ど・どうしてそれを。」
「わかりますとも、それなのに王妃さまに魚のメニューを勧めるものはいなかった、違いますか?」
「はい、さようです。」
「骨を作る素が減っているのでございます。小魚などを骨ごと食べるメニューが必要です。」
「ほほう、それは?」
「おなかの中で胎児が、骨の元を母親から吸収します。ですから、母親の骨が減るのです。骨が減ったのなら、骨を食べればよいのです。しかし、陸の動物などは骨が太く大きく、食べることができません。小さな魚をすりつぶせば、魚の骨の素がすべて体内に吸収されます。これは、魔法では補えません。」
「おお!そうであったか!」
アンリ=デュポンは怪訝な顔をしている。
「アンリ=デュポンどの、いかがお考えか?」
「は、それはその…」
「そなたは、王妃さまにも近しい方と存ずるが、国王陛下、王妃さまの健康について、どうお考えか?」
「それは、日々健康で病気もなければ、この国は安泰でございます。」
「王様のお側に侍るならば、ご典医のみによって健康が保たれるものでないことを学ばれるが良かろう。」
「は、男爵さまのおっしゃるとおりです。」
いまにも、「ちっ」と舌打ちの音が聞こえてきそうだ。
アリスは、だまってアンリをうかがっている。
「おまえ、王妃さまのお気に入りだからって、いい気になるんじゃねえぞ。俺の目は、絶えず光ってるからな。」
盛大な殺気を背中にはらんで、鋭くにらんでやると、アンリは震え上がった。
アリスが、俺の袖を引くが、俺は容赦しない。
オークキングを殺した時のような、盛大な殺気をはらんでやった。
「なめんなよ、俺はドラゴン砕きだ、おまえなどなにほどやあらん。」
アンリは、立ったまま失禁しそうに震え始めた。
無理に搾り出すように言葉を返す。
「は!はは~!失礼いたしました!精進いたします!」
「それでいい、今度なめた目してみろ、マート=モンスにいる、ブルードラゴンの巣に落としてやる。」
アンリは血走った目を、俺に向けた。
「俺は、主神オシリスさまから、使徒として遣わされているのだ。わかったな!」
アンリ=デュポンは、その場にひれ伏して声を上げた。
五体倒置状態である、全身がおこりのようびぶるぶる震えている。
「おっ、お許しください!男爵さま!」
俺は、冷たく見下ろして、きわめて低い声で命じた。
「よい、元の位置に控えておれ、国王陛下の御前である。」
アンリは、あわてて部屋の隅に控えた。
「けっ、石田三成めが。」
「おいおい、どうしたんだカズマ。」
「俺の尊敬する王さまを、大事にするよう、侍従には思っていてほしいだけです。そう、申しただけです。」
「わかった、すまんの。」
王様は、なぜか困ったような顔をしている。
「おお、姫さまたちが、驚いてしまいましたね。では、お詫びにこのジャムは姫さまに献上しましょう。」
「おい!カズマ!俺のは!」
「え?だってこれだけしかないですもん。お二人の姫さまたちに、一つずつしかありませんよ。」
「じゃあ、その蜂蜜だ!はちみつならよかろう。」
「ええ?これは王妃さまに献上するんですよ~。」
「それはありがとうございます、男爵。」
すかさず、王妃が答えた。
焦ったのは王さまである。
「俺の分がないではないか!」
「ですから、このレジオのパンの種を、献上したじゃないですか。」
「うう~!」
「ああもう、子供みたいですね!では、近ぢかサイレーンの卵の競売を行います。王様も参加なさいますか?」
「な!」
「サイレーンは、三匹シメる予定です、もちろん肉も出しますが、メインは卵です。」
「おまえ!そう言う大事なことは、最初に出せよな。」
「なんのお土産もなしに、王宮になんか来ませんよ。」
俺は、肩をすくめて答えた。
「よし、ワシ自らがレジオに行こうではないか、いつやるのだ?」
王様は、ソファから乗り出すようにして言った。
「まだ未定ですが、王様の予定はいつがよろしいでしょうな?」
「アンリ=デュポン、いかがか?」
「は、レジオに御幸でございますか、行きかえりに三日ずつ必要ですので、前後一週間といたしますと…」
警護の計画とか、寝所の用意とか手間がかかりそうだな。
「時間のやりくりをせい。いつがよいのか?」
「されば、来月の中ごろ。」
「よし、詳しくはレジオ男爵に連絡せよ。カズマ、よいな。」
「かしこまりまして候。」
俺は、この国に柳沢出羽の守を置く気になれん。
アンリの芽は摘んでおくに限るな、こいつは後に必ず柳沢になる。
「ほれ、隠し立てすると良くないぞ、まだなにか持っているだろう?」
「はあ、ばれましたか…本当にこれが最後ですよ。」
俺は、ハンバーグを出して見せた。
「何じゃこの丸い肉は。」
「肉をたたいて丸めて焼いたものです。これを、こうしてパンにはさみ、レタスを載せてマヨネーズを乗せるのです。」
「うおう、うまいぞ!これはうまい!皆も食してみよ。」
「陛下、おいしゅうございますね。」
「「おいしいです!」」
「アンリ=デュポン、おぬしも食べてみるがいい、ここに参れ。」
俺の声に、アンリは瞬間移動なみにはやく、目の前に来た。
「は、ははっ!」
「下品ながら、これは手に持って食べるが作法である、食してみよ。」
一口かぶりついて、アンリは驚愕に目を開いた。
「どうだ、感想は?」
「斯様においしいものを、過分にして存じ上げません。」
アンリは、素直に感動した。
「で、あるか。全部食せよ、王様の食卓を、もっと良いものにするには、お主が良いものを知らねばならん。王宮に侍るものは、すべからく国王陛下の安寧に尽力せよ。」
「は!レジオ男爵さまの御心のままに。」
アンリの言葉に、王さまはジト目で俺を見た。
「…お前のほうが、王様らしくねえか?」
「ご冗談を。虎の威を借る狐でございますよ。」
「何じゃそりゃ?」
「虎に後ろを歩かせて、狐がその威光で自分を強そうに見せると言う故事にちなんでございます。」
「ほほう、それはなんとも。」
「さて、王様のご用も済んだことですし、そろそろお暇しましょうかね。」
「まだいいでしょう?男爵。」
アンリエット姫が、小さな手で俺の手をつかんだ。
「えっと…」
「もう少し居てやってくれ。」
「わかりました、姫さま。アンリ、リュートを持って参れ。」
「はっ。」
すぐにアンリは部屋を出ていった。
「おい、ウチの侍従を勝手に使うなよ。」
「いいじゃないですか、少しは素直になってきたようですよ。」
「お前にかかっちゃ、城の中のだれも逆らえんな。」
王様は、明らかに苦笑をもらしている。
「ご冗談を。」
程なく、アンリはリュートを持ってきた。
俺は、ギターは弾けるが、リュートなんざ弾いたことがない。つまり、チューニングをギター風にすればいいのだ。
「羊の腸の弦か、まあこれならよかろう。」
おもむろに弾き語り。
「あるー日、森の中、くまさんに出会った。花咲く森の道、熊さんに出会った。」
姫さまたちは、目をまんまるにして聞いている。
「くまさんの、言うことにゃ、お嬢さん、お逃げなさい…」
歌い終わると、姫さまたちは盛大に拍手して喜んでいる。
「おま、芸が細かいなあ。」
王さまは、呆れたように言った。
「男爵は、よい声ですね。」
王妃のほうが、いい感想じゃん。
「そうですか?」
「ねえ、もっと!」
アンリエット姫は、俺の膝に手を置いて言う。
「ほかにはないの?」
スエレン姫は、俺の袖を引く。
「もちろんございますよ、ちょっと大人の歌がいいですかね?」
「歌って!」
「さくらんぼの実るころ、あたしは貴方とであった。さくらんぼの実るころ、あたしは貴方を愛した。」
「とれびあん!」
王妃さまは、涙を流して喜んでいる。
「男が女の歌を歌うのか、不思議じゃのう。」
「もうないの?」
姫さまは、つぶらな瞳でもっともっととせがむ。
「まだございますよ。」
「歌って男爵。」
「そうなにから歌ったらよいのか、音にはいろいろあって、最初の音がド、一つの音に一つの言葉…ドはドーナツのド。」
定番ですな、子供たちに聞かせるにはこれです。
「おもしろーい!」
「もっとー!」
「エーデルワイス、エーデルワイス…」
「エーデルワイスってなに?」
「私の国で咲いている、このくらいの小さな白い花です。」
「ふうん、どこに咲くの?」
「高い山の上の、岩場などですね、取りに行くのは危険です。」
「まあ!」
「ですから、故郷の誇りと言われているのです。」
「男爵は、物知りね。」
「姫さまも、いっぱいお勉強なさいませ。」
「ぶう、お勉強きら~い。」
「お勉強きら~い。」
「お姉さまがきらいなどと申されますと、お妹さままで嫌いになってしまいますよ。」
「だって、つまらないんですもの。」
「そうでしょうか?知らないことを知ることは、楽しいと思いますが。」
「男爵が先生ならいいのに。」
「そうは参りませんよ、私にはレジオを立て直すと言う使命がございます。オシリス女神さまから言いつけられてございます。」
「では、私がレジオにまいります。そうすれば、お勉強を教えていただけます。」
「王様~、何か言ってくださいよ。」
「ふむ、アンリエット、レジオはまだ建て直しの最中なのだ、そなたが行っても邪魔になるだけだぞ。」
「いや、そう言うことでなくてですね。」
「そうね、お嫁入りにはまだ早いわね、王家から輿入れと言うには、男爵では格が足りないし。」
「そう言うことでもなくてですね。」
あ~、この夫婦は!
後に、アンリ=デュポンは、あれほど恐ろしい人に会ったのは、生涯一度だけだと同僚に語ったそうだ。
「正直チビった…」
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