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第六〇話 閑話 恵理子修行する
しおりを挟む-恵理子視点で見てみましょう。-
かきーん!かきーん!
ウチの前で、マジックアローが跳ね返って地面に落ちた。
するすると地面に沈むように、その姿を消していく。
なるほど、魔法ってこうして自然に吸収されていくんやな。
勉強になるわ。
「うん、かなり強くなってきたな。」
お屋形さまの言葉に、声が弾む。
やっぱ、この声好きやわあ。
なんや、下っ腹にきゅうんと来るような声。
「ホンマですか?やったあ。」
恵理子は嬉しそうな顔で飛び跳ねた。
歌って踊ることや、住民の衛生管理が主な仕事である恵理子は、ここのところカズマから特訓を受けていた。
なにかときな臭い連中が、レジオにも入り込んできているんやて。
他の貴族の領地から、行商人にまじっていろいろと。
素っ破、喇叭と呼ばれる連中。
いうなればスパイやね。
もしくは、工作員?
そういう連中から身を守るのも、また、要人警護するヒトもなかなか大変なんやよ。
で、お屋形さまは恵理子に、せめて自分を守れるように、魔法を教えてはる。
生活魔法などは、そこそこ使えるようになったんよ。
もともと、たいして魔力を遣うようなシロモノでもないしな~。
ただ、今教えてもうている『格子力バリア』は、そうもいかへん。
お屋形さまでも、少しは魔力を遣うよってに。
だから、けっこう繊細だし、魔力も吸い上げられる…ようわからんけど。
わからんのか~い!ってぇツッコまんといてな。
「エアハンマー!」
お屋形さまの声の後に、がいん!と言う音が連続で聞こえる。
がいん!がいん!がいん!…
ぱりん!
「あ、割れた。」
お屋形さまの声に続いて、恵理子の前のバリアがガラスの破片のように、きらきらしながら崩れていくところやった。
エアハンマーも一緒に地面に落ちて、一応防いだことがわかる。
だいたい、お屋形さまのエアハンマーが別モンやん。
ヒトの三倍はあろうかと言う、強力なシロモノ。
それを、容赦なく叩きつけられたら、そらもたんわ。
「あ~あ、ひどいわ~。」
「まあ、エアハンマーを五発まで耐えて見せたのは大したもんだ。」
「せっかく張ったのに~。」
「あほう、割れるまでやらなきゃ、練習にならんだろうが!」
「それもそうやね。」
「最大、連続で一〇発くらいは耐えてほしいな。」
「お屋形さまほど強い魔力の敵なんか、来ませんって。」
ケタがちがいますやろ。
「そうとも限らんさ、世の中にはルイラみたいな天才もいる。ナメてかかるとやけどするぞ。」
「そう言うもんですかねえ?」
「まあいい、もう一回やるぞ。」
「え~、もう魔力が残り少ないですがな。」
「そうか?じゃあ、少し休もう。」
お屋形さまは、こう言う時意外とやさしい。
懐の革袋から、ソーダ水とシフォンケーキを出してくれはった。
「わ~、やさしいわ~。」
「そらそうだ、飴と鞭言うやないか。」
「なんだかな~、それを口にしはったら、だいなしですわ。」
ウチかて、優しゅうされたらほろほろっときてまうやないの。
ただでさえ身寄りもない、知り合いもないこんな世界に落ちて来て、お屋形さまの庇護下にあるんやから。
まあ、体の好い側室に収まって、大事にはされてるし、食べるものや着る物にも不自由せんでええのはありがたい。
お屋形さまは、意外と気が効くし。
「孤児にさせている石鹸工場は、どうだ?」
「へえ、あれはもう独立させて、寡婦を二人付けてます。」
「そうか、不具合が出たら、すぐに言えよ。」
「へえ、そうですね。人間、調子のええ時こそ、用心言いますし。」
「その通り。楽市楽座にしたら、レジオはスパイ天国だからな。」
「どうせお屋形さまのことやさかい、情報集めに無茶してはるんでしょ?」
「まあな、素っ破・喇叭なんてやつは、金次第でどうとでも転ぶし、あとくされもない。」
「へえへえ、それで?中央(王都)ではなにか動きがおますのか?」
「そこだ、やつら無理難題押しつけて、レジオを疲弊させたいみたいだな。」
「そんなことして、なんの得がおますのや?繁栄させてかすめ取った方が、実入りもええやろうに。」
「王弟閣下が、レジオを欲しがってるんだよ。正確には、次男坊のハナタレガキだけど。」
「へえ~、なかなかやりますなあ、公爵の権限つこうて、領地召し上げですか?」
「まあ、そんな感じ。」
「どないしやはります?」
「そうやなあ、全部ぶち壊して逃げるかな?」
「民が困りますやろ?」
「そこ。王国にレジオのパンを広げてやろうかと思ったが、全部引き上げるわ。レアンの町からも取り上げる。」
「ええ!どうするんですか?」
「簡単だ、教えているのはレアンのシェフだけだもん、こっちへ連れてくるさ。」
「そんなんいやや言うに決まってますやん。」
「そうだな、だが、それは許さん。王国の重臣たちがいつまでも過去の栄光にこだわって、国王陛下を蔑にするならば、すべて無にしてもいい。」
「ちょ、過激すぎますやん。壁に耳あり、障子にメアリーでっせ。」
「おいおい、なんでやねん!末端の貴族(子爵・男爵・準男爵・一代限りの騎士爵など。)は、本気で王国の行く末を憂いているぞ。」
「それと、ウチらが全部ブチ壊すことのつながりがわかりません。」
「そうか、まあわからんでもいい。お前たちは、俺に着いてくればいい。」
「そらまあ、たった一人の同郷人ですし、そのことに否やはありません。」
「ならば、それでいい。心配するな、俺たちは俺たちの暮らしを考えればいいさ。」
「まあ、人生いたるところに青山あり・言いますわな。」
「あはは!そうだ。青山ありだ。」
この人は、どこまで豪放磊落に生きるつもりだろう?
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まあ、それでも肌を合わせることに、安らぎと安堵と、そして得も言われぬ幸福感があふれている。
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ティリスが子を産んだことも、素直に祝福できたことに、自分で自分をほめた。
だから、素直に、率直に、この人に着いて行こうと決めた。
なにがあっても支えてみせる。
ティリスもアリスも一緒になって支えて見せる。
「お屋形さまいえ、カズマはん。」
「なんだ?」
「なにがあってもウチは 味方やよ。」
カズマは、だまってウチの頭をなでてくれはった。
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