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第九十三話 王都陥落 ②
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やっちまったなあ。
やっちまった感が、満載ですよ。
まあ、広げた風呂敷が、うまく畳めそうでよかったですけど。
よろこびに沸きかえる王都の様子をごらんください。
かっぽっかっぽっ
規則正しい蹄の音に誘われるように、白銀の鎧をまとった金髪の美髯。
マゼラン伯爵が姿を現した。
まさにその姿は、マゼラン将軍と呼ばれるにふさわしい様子であった。
敵将ミッテル将軍に縄を打ち、馬に乗せて同行させる。
城門をくぐったところに、カズマの姿があった。
「出迎え大義でおじゃる。」
「お役目御苦労にござる。」
ふたりは、にっこりと目を合わせた。
カズマは、城門から回りを見回し、馬の鐙に立ちあがる。
「皆の者、かちどーき!えいえい!」
「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」
「えいえい!」
「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」
「えいえい!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
兵士だけではない、逃げだせなかった住民もこぞって外に出て、カズマの声に合わせて勝鬨を上げる。
みな、その目に涙をあふれさせ、お互いに抱き合って無事を喜ぶ。
「マゼランの殿さま、将軍は謁見の間に通してくれ。他の者は兵舎にて待機。」
「御意。」
マゼランは、思わず瞑目して従った。
カズマの威に打たれたと言うのか、自然と首を垂れる。
王城前の大通りは、まさに凱旋の行進である。
「「「わああああああ!」」」
「レジオ男爵さま~!」
「レジオ大将軍!」
「マゼランさま!」
「シェルブールさま!」
「なにやら面映ゆいのう。」
「なんだよマゼランの殿さま、胸を張れよ。」
シェルブール辺境伯は、にやにやと笑っている。
「お主こそ、にやにやと。」
「なに、こらえようとしても笑えてくるのさ。」
「シェルブールの旦那も、ひとがわるいでおじゃる。」
ふたりは、満面の笑顔で民衆に手を振った。
あふれかえる喜びの声は、金持ちも貧乏人もない。
スラムの孤児も、喜びに駆けまわる。
「「「わあああああ!」」」
「「「わあああ!」」」
通りに出た民衆は、手に手に国旗を振り回し、ないものはハンカチを振り、それもないものはペチコートを破って振ったりした。
「どこにこんなに隠れていたんだ?」
カズマは、がらんとした街の様子を思い出して、首をひねった。
「みなさま、地下室にでも隠れていたのでは?」
「そうか、祭壇後ろの倉庫とかな。」
「ああもう!そう言うことを言うのはこの口か!」
ティリスは、カズマのほほを引っ張った。
「「「せいじょさまー!」」」
「「「せいじょさま!」」」
聖女に声がかかるので、ついにこにこと手を振るティリス。
白いローブの上に、青銀の聖凱が光る。
「「「わああああ!」」」
興奮さめやらぬ民衆は、街角に酒樽を持ち出して、祝杯を上げ始めた。
「レジオ将軍さま!乾杯!」
だれが差し出したかはわからないが、ジョッキに並々とワインが捧げられた。
「乾杯!」
カズマは、高々とジョッキを掲げて、一気に飲み干して見せた。
「「「「わああああああ!」」」」
気持ちのいい飲みっぷりに、民衆が沸き返る。
行列は、城門をくぐるまで、興奮した民衆に祝福されながらゆっくり行進した。
「ふう、みんなごくろうさん。」
城門をくぐると、民衆の声は一気に遠ざかった。
城門から、城にかけてのエントランスは広く、眼前に長大な石段が並んでいる。
その前で、馬を停めた。
「いやいや、お主がおらんかったら、この勝利はないわさ。」
マゼランが、カズマの肩をたたく。
「何を言う、御両所が支えてくれていたからこそ、持ちこたえたのさ。」
「なんにせよ、勝利は我らの手に・だ!」
シェルブールは、高らかに笑った。
まわりの兵士たちも、高揚した様子で、盛んにお互いの肩をたたきあったりしている。
「みんな御苦労、こいつは少ないがみんなで呑んでくれ。」
カズマは革袋から、一〇本の酒樽を出して、兵士に渡した。
「将軍さま!」
「ま、兵舎に運ぶ手間があるが、そこはよしなに頼む。」
「ありがとうございます!」
兵士たちは、喜んで酒樽を荷馬車にくくりつけて去った。
「さて、ミッテルのダンナ、少し話をしようか。」
一行は、王宮の謁見の間に、場所を変えた。
ミッテル将軍は、兵士たちに連れられて、別途謁見の間に運ばれた。
「斯様な失態をおかしては、おめおめと帝国に帰ることあたわず、ここで首となりて帰還せん。」
ミッテル将軍は、王宮に引き立てられて、わめき散らした。
まだ縄目も解かれていない。
「うるせえよ、クッコロなんざよそでやれ。」
謁見の間で、カズマは面白くなさそうな顔をして、ミッテル将軍と会った。
玉座には誰も居ない。
「なにをぬかすかカンプラチンキ!帝国軍人として、わたしは!」
「世迷いごとなど聞くにあたいせん、あんたには二万人の負傷兵を連れて帰る義務がある。」
「くっ。」
ミッテル将軍は虚をつかれたような顔をした。
「だれが、彼ら負傷兵を癒してやれるのだ?自分勝手に死ぬことなど、この俺が許さん。
カズマは、その眼光をするどくミッテルに向けた。
「帝国の軍人ン?それがどうした。負けたんだから、勝ったものに従え、お前は死ぬことは許されんのだ、わかったか。」
決めつけるカズマの言葉に、ミッテルはうなだれて涙した。
だが、それは自分たちも、蹂躙した領地の者たちにかけた言葉でもある。
ミッテル将軍は、カズマの言葉を待った。
「まあ、座んなよ。」
カズマは、簡素な椅子に腰かけて、ミッテルに向かいの椅子をすすめた。
「マゼランの殿さま、シェルブールのダンナ、あんたらも座りなよ。」
カズマに言われて、やっと二人も椅子に座った。
「さて、ミッテルのダンナ。」
ミッテルは、椅子に座って顔を上げた。
テーブルにはお茶のひとつもない。
下働きがみな避難してしまったからだ。
「あんたには、二万の軍勢を連れて帰ると言う大仕事がある、ここで死んでいる暇はない。」
「しかし、負傷者ばかりでは、今すぐ帰還と言うわけにはまいらんぞ。」
「それは承知している、いま、うちの聖女さまが教会で、診療所を開設している。」
それを聞いて、ミッテルは瞠目した。
レジオの聖女、イシュタールの聖女と言えば、帝國でも有名である。
同じオシリス女神を信仰する仲でもある。
「なんと!」
「重症者から、順に治しているので、そのうちみんなで帰ることができるさ。」
「しかし、私は捕虜の身だ。」
若干引き気味に言うミッテルに、カズマは肩をすくめて見せた。
「ま、それも承知だ。賠償責任は帝国にあるが、そのことについては後ほど交渉しよう。」
「うむ。」
シェルブール辺境伯爵も頷いた。
「それがいいでおじゃる。」
マゼランもうなずいて、カズマに同意した。
今や、この国でまともに機能しているのが、この二人と言うのが奇縁と言うべきか。
ほかにも生き残っている領地はかなりあるが、沈没間近の王都まで兵を進めたのが、この二人だけだった。
他の領地は、城門を固く閉め、来るべき帝国の蹂躙に備えていた。
数の不利は、解消されまいに。
不憫なものだ。
その帝国軍は、各地に駐留していたが、王都に向かった部隊の壊滅を聞いて、我先に帝国に逃げ帰った。
まさに、ケツに火のついた様子だったと言う。
まあ、ザマァないな。
「しかし、二万人の身代金となると、膨大な額になるぞ。」
シェルブール伯爵は、カズマに言った。
「まあなあ、それもそうなんだが、こいつら食わすのもめんどくさくないか?」
「たしかに、我らの兵糧では王都の民を救うので手いっぱいでおじゃる。」
「だろ?さっさと返そうぜ、それで帝国が身代金をケチるって言うなら、それはそれでモノ笑いのタネだ。」
「うむむ…」
ミッテルは、冷や汗をたらしている。
たしかに、近隣諸国に笑われて、侮られてはどうしようもない。
それは、政治感覚にうといミッテルにもわかることだ。
「麿は、兵士に命じて全員の名簿を作っておじゃる。」
「たいへんけっこう、傷病の具合も書き込んでくれ、そいつで治療費も請求する。」
「おお、それはナイスでおじゃる。」
「ナイスじゃねえよ、どんだけボル気だ?」
シェルブール伯爵は、呆れかえって頭を抱えた。
「聖女の治療はタダじゃねーよ。」
カズマは、あくまでマイペースである。
「仮にも、ウチの王族をだました罪は償ってもらうぜ、今頃はやつも毒をあおってるだろうがな。」
カズマは、無人の玉座を見上げて、ぼそりと言った。
実際には、王族の自殺はクサリヘビ(猛毒)に噛まれると言う、いささか気持ちの悪い方法である。
「な、なんだと!」
シェルブール伯爵は、目をむいてカズマに迫る。
「王族が、クーデターを起こして、その失敗の責任を取ったんだ、だれが止められる?」
「そのとおりでおじゃる、騒ぐでないシェルブールのダンナ。」
マゼランも、その状況を予想していたのだろう。
立ち上がったシェルブールの袖を引いた。
「うぐ…」
「兵士も騎士も、装備は全部没収のうえ、国外に追放だ。身代金は、後日請求させてもらう。それでいいじゃないか。」
カズマは、疲れているのでさっさと休みたかった。
「まだ、ミッテルの旦那がゴテるようなら、あとのことはご両所にまかせる。」
「承知したでおじゃる。」
「…」
カズマは、あとのことを二人に任せて謁見の間を出た。
かと言って、オルレアンの部屋を覗く気にもなれず、暗い顔を左右に振って教会に向かって歩き出した。
くっそまずい魔力回復ポーションを飲んで、少し気分も回復したカズマは、教会前の広場にならぶ負傷者に目を向けた。
二人の聖女は、額に汗をにじませながら、運ばれてくる重症な兵士を回復させていた。
その周りには、教会に残っていた聖職者が、これまた汗水たらして、兵士の傷を癒していた。
「人の世で起こったことだ、このザマを神に何とかしろとは言えんだろう。」
「そのほとんどが、お屋形さまのせいですけどね。」
「ゲオルグ、それを言うな。」
「へい、兵士の中にも回復役がたくさんいたので、連れて来ました。」
「よし、みんな回復に回せ。」
「は、かしこまりました。」
教会前広場には、ずらりと傷病兵が寝かされている。
どの顔も、青白く怪我の深さがわかる。
一部には、肘などから骨が顔を出しているものも居る。
「ちっ、しゃあねえなあ。」
カズマは、少なくなった魔力を絞るようにして、その広場にエリアヒールをかける。
かけられるヒールのレベルは、一か二しかない。
せいぜいが、骨折がつながる程度で、開放骨折までは手が出ない。
それでも、いくぶん顔色も戻って、息の荒かったものも少しは楽そうになっている。
「お屋形さま~、無理しないでください、みんな死ぬほどじゃないんですから。」
ゲオルグ=ベルンは、呆れたような顔をしている。
「しかたあるまい、聖女たちだって有り余るほど魔力があるわけじゃない。」
「それはそうですけどね、一晩ほっておいても死ぬわけじゃないですよ。」
「ああ、わかった、そこそこにするさ。」
「おい、動けるようになったやつは、動けないやつの包帯巻きでもやってくれ、手が足りないんだ!」
ゲオルグは、傷病兵の中を歩きながら、兵士たちに声をかける。
言われたからでもないだろうが、動けるようになった兵士は、積極的により怪我のひどい兵士を看病している。
「将校はこっちへきてくれ、名簿を作る。」
何を言われているのか、あまり理解していない様子だが、身なりの良い兵士はゲオルグの方へ歩いて行った。
十人長、百人長などは、自分の部下の名前を並べて、出身地なども把握している。
名簿は、かなり詳しく出来上がって行った。
聖女の治療もだいたい終わり、魔力も尽きて来たので、その日の治療は終了になった。
残念そうな顔をした兵士たちだが、魔力がなくては治療もできない。
王都の住民も、怪我をした者は少なく、みなそれぞれの家に帰って行った。
「戦争なんざ、ないにこしたものじゃないが、いざ起こってみると、後始末は大変だな。」
「おっしゃるとおり、まあ、それも戦争でござる。」
ゴルテスは、聖女のかたわらにあって、周囲に目を配っていた。
ロフノールもしかり。
カズマは、黙って腰の「魔法の袋」をはずしてゴルテスに渡した。
「魔物二五〇〇匹入ってる、捕虜に振舞ってやってくれ。」
「畏まって候。」
ゴルテスも、カズマの気持ちはよくわかっている。
だれもが、野心に燃えてこの戦争に参加した訳ではないので、食うに困るものもいる。
懐に金があれば、捕虜の身でも食事の手配はしてもらえるが、文無しには水しかないんだ。
全員が食べられるかは、戦勝国の懐しだいでもある。
だから、カズマは自分の持っている食べ物を放出する。
この、なにもない王都に、確かな食料を持っているのは、ロワール海岸のカズマだけではないのか?
まあ、海産物は別にしても、魔物一万匹は伊達ではないのだ。
教会の奥まった部屋に落ち着いた一行は、遅い夕食を囲んでいた。
みな、疲労困憊して、食事を口に運ぶのもおっくうになっている。
「奥方さま、一口でも召しあがらないと、体に悪うございます。」
ゴルテスは、ティリスの様子を気にして、しきりに食べろと促している。
しかし、ティリスの上体はふらふらと前後に揺れている。
「はい、だいじょうぶですよ、ええ、ちゃんと食べます。」
かちゃん…
言っているそばから、まぶたがとろんと落ちて、持ったスプーンもテーブルに落ちてしまう。
「少し寝させてくるよ、体力もないのに無理させてしまった。」
カズマは立ち上がって、ティリスを抱き上げる。
一行は、だまって頷いた。
「わたくしも、失礼させていただきますわ。」
アリスティアも、スプーンを置いて、二人の後に続いた。
「まったく、これがあの王都だとは、信じられん状態じゃな。」
「さよう、王都を守る兵士が、ここまで減っておるとはのう。」
「おっさんたち、愚痴が多いぜ。」
「しょうがない、この状態を見れば、下級兵士しか残っていないんだからな。」
カズマの家臣たちは、夕飯を食べながら周りの状況に嘆息した。
なにしろ、名だたる貴族はみな逃げ出して、王都に残っているのは平民ばかり。
王都守護の兵士たちも、貴族は残っていない。
みな、平民ばかりが残り、王都の民衆を守り支えて来たのだ。
まさに、カズマと言う援軍が居なかったら、マゼランもシェルブールもここで果てていたかもしれない。
それを思うと、王国はすでに死に体であったことがよくわかる。
だいたい、なぜカズマ達はこの王都にいるのか?
それは、ロワール海岸で新しい教会を建設し、祭壇に女神の像を立てた時に遡る。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「プルミエ、新しい教会の三門は任せたぞ。」
カズマたちは、領主の館の前に教会を建てることにした。
「おうよ、任された。」
プルミエは、土魔法を全開にし、三つの入り口を持つ壮大な塔を持ち上げた。
「あいかわらず、ものすごい魔法だよな、しかも緻密ときたもんだ。」
これもお約束の、天国の門である。
オシリスの教えを、文字の読めない者にも理解できるように、図案化されている。
これも、回を重ねるごとにアップグレードされていて、まさに芸術品になっている。
「あの彫刻は本当に素晴らしいですね。」
ティリスも、その様子を見てため息を漏らしている。
「では、礼拝堂を立ち上げるぞ。」
カズマも、負けていられない、巨大な魔力を練りに練る。
「お屋形さま、ふぁいと~!」
踊り子の娘たちが、応援に駆け付けた。
ごごごごごごごごごご
周りの土をかき集めて、荘厳な礼拝堂が山門に沿って立ち上がる。
イメージは、さる島に立っている、巨大な教会だ。
「ぶは~!どうだ?」
「お屋形さま、すばらしいですわ!」
アリスティアが、目を輝かせている。
「では、私たちが教会前の広場を作ります!」
ポーラが、踊り子たちを集めて、土魔法をふるう。
なにもない土の広場が、石畳風のシャレオツな広場に変わる。
「噴水もあるといいわね。」
アルマ(十三)が、石畳の真ん中に直径十メートルほどの円を描いた。
「わかった、まかせて。」
カリーナは、石積み風の円形の池を立ち上げる。
真ん中に、細身の女神が壺を持って立っている。
「あら、芸が細かいわね。」
「お屋形さまの彫刻を見て、練習したのよ。
カリーナは、少し誇らしげにつんと鼻を高くした。
さらに、教会の周りに腰高の柵を回し、ところどころに木を移植すると言う徹底ぶり。
「みんな魔力は大丈夫なのか?」
ラルが、踊り子たちを心配するが、みな顔を輝かせて首を振る。
「だ~、ぼくが一番役に立たない!」
勇気は、子供たちの働きに比べ、自分の魔法が着いて行けないことにあせっている。
ま、昨日今日魔法に目覚めたのだから、しょうがない。
まだ、ラルの方が何度も作業しているだけ、魔力が上なのだ。
ラルは、教会の周囲に花壇を設置している。
小さな子どもたちは、てんでに花のタネをまいているようだ。
「子供たちのおかげで、りっぱな教会になりましたわ。」
「そうだねー、私たちは椅子でも作ろうか。」
「そうですわね、では材料を刻みましょう。」
二人は、ホーミングレーザーを途中で止めると言う荒業で、材木を均等に板に加工して行く。
細かい作業も同時に進行し、同じ大きさのベンチが、大量に生産されて行った。
「土で作ると、味気ないですものね。」
「そうですわ、椅子も机もやはり木製がよろしいですわ。」
「ご両所、宴台を作りたいので、板をおくれ。」
「あら、お屋形さま、どうぞ。」
カズマも、木材を加工して、祭壇の前の説教台を作成している。
正面には、オシリス女神のレリーフを配して、なかなか立派なモノができた。
「そりゃまあ、この規模の教会で、ショボい宴台は使えんでしょ。」
ごもっとも。
土の中から、石灰質を凝縮して、オシリス女神の神像を作り上げると、レビテーションで持ち上げて、説教台の後ろの祭壇に安置する。
これで、だいたいの体裁が整ってきた。
あとは、地味に蜀台だのステンドグラスだの、職人技でなんとかする。
「プルミエに習った硬化の魔法で、一〇〇〇年たっても大丈夫なんだよ。」
「そうじゃ、ゾウが乗っても壊れないしな。」
だれに言ってるんですか?
カズマにしてみれば、ここが旅路の果てであり、新しい生活の拠点と定めたのだから、丁寧に教会を作ることも想定の内なのである。
オシリス女神に導かれて、レジオの民衆は巡礼をしながら、この地を目指す。
だからこそ、オシリス教の人々を迎え入れる教会は、立派なモノを作ってやりたかったのだ。
オシリス神像を見上げて、カズマは満足そうにうなずいた。
すると、カズマの左手の聖痕が痛みを伴って発熱した。
「あちち!手に直接刻まれてるんだから、この通達はめっちゃイヤ!」
カズマは、ジェシカとのラインをつないだ。
「カズマ、お久しぶりです、ついにたどり着きましたね。」
「じぇ・ジェシカ!この連絡方法はやめてくれよ。」
「いちばん気がついてくれるんですもの。」
「熱いし、痛いんだよ。」
「まあ、おほほ。」
笑ってごまかす気だ。
「それよりもカズマ。」
わ!がらっと話をすりかえてる。
「そこ、外野、うるさい。」
はい。
「ついに王都にゲルマニアが攻め込んできました。」
「なんだよ、ヘルムートがいないところでよかったな。」
「まあそうですね、で?どうします?」
「どうしますとは?」
「手を出しますかってことです。」
「だって、王都にはいやって言うほど貴族がいるじゃん。一二〇家か?」
「いません。」
「へ?」
「王都には、ほとんどの貴族がいません。みな、自分の領地に逃げ帰ってしまいました。」
「じゃあ、王都の防衛は?」
「ほとんど、平民の兵士だけです。」
「指揮は?」
「それも、平民の仕官が。」
むちゃくちゃだな。
「ガストンは!やつはどうしたんだ!」
「一番にゲルマニア軍がなだれ込んだのは、バロアです。」
「うわ!」
「バロア侯爵は?」
「バロア領は壊滅です。」
「なにやってるんだか?それで、五十万王都民は?」
「すでに二十万人以上が避難して、貧しい者たちだけが残っています。」
「なんということでしょう。」
どこの美フォーですか?
「それで、俺にどうしろと?まさか、手を出すなとか言うのか?」
「いえ、そこはカズマにお任せしますよ。」
「うっわ!勝手がいいなあ!丸投げ?」
「では、私はこれで。」
「また逃げる~」
「ベルクカッツェではありません!」
そういう訳で、カズマは王都へのゲートを開きました。
やっちまった感が、満載ですよ。
まあ、広げた風呂敷が、うまく畳めそうでよかったですけど。
よろこびに沸きかえる王都の様子をごらんください。
かっぽっかっぽっ
規則正しい蹄の音に誘われるように、白銀の鎧をまとった金髪の美髯。
マゼラン伯爵が姿を現した。
まさにその姿は、マゼラン将軍と呼ばれるにふさわしい様子であった。
敵将ミッテル将軍に縄を打ち、馬に乗せて同行させる。
城門をくぐったところに、カズマの姿があった。
「出迎え大義でおじゃる。」
「お役目御苦労にござる。」
ふたりは、にっこりと目を合わせた。
カズマは、城門から回りを見回し、馬の鐙に立ちあがる。
「皆の者、かちどーき!えいえい!」
「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」
「えいえい!」
「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」
「えいえい!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
兵士だけではない、逃げだせなかった住民もこぞって外に出て、カズマの声に合わせて勝鬨を上げる。
みな、その目に涙をあふれさせ、お互いに抱き合って無事を喜ぶ。
「マゼランの殿さま、将軍は謁見の間に通してくれ。他の者は兵舎にて待機。」
「御意。」
マゼランは、思わず瞑目して従った。
カズマの威に打たれたと言うのか、自然と首を垂れる。
王城前の大通りは、まさに凱旋の行進である。
「「「わああああああ!」」」
「レジオ男爵さま~!」
「レジオ大将軍!」
「マゼランさま!」
「シェルブールさま!」
「なにやら面映ゆいのう。」
「なんだよマゼランの殿さま、胸を張れよ。」
シェルブール辺境伯は、にやにやと笑っている。
「お主こそ、にやにやと。」
「なに、こらえようとしても笑えてくるのさ。」
「シェルブールの旦那も、ひとがわるいでおじゃる。」
ふたりは、満面の笑顔で民衆に手を振った。
あふれかえる喜びの声は、金持ちも貧乏人もない。
スラムの孤児も、喜びに駆けまわる。
「「「わあああああ!」」」
「「「わあああ!」」」
通りに出た民衆は、手に手に国旗を振り回し、ないものはハンカチを振り、それもないものはペチコートを破って振ったりした。
「どこにこんなに隠れていたんだ?」
カズマは、がらんとした街の様子を思い出して、首をひねった。
「みなさま、地下室にでも隠れていたのでは?」
「そうか、祭壇後ろの倉庫とかな。」
「ああもう!そう言うことを言うのはこの口か!」
ティリスは、カズマのほほを引っ張った。
「「「せいじょさまー!」」」
「「「せいじょさま!」」」
聖女に声がかかるので、ついにこにこと手を振るティリス。
白いローブの上に、青銀の聖凱が光る。
「「「わああああ!」」」
興奮さめやらぬ民衆は、街角に酒樽を持ち出して、祝杯を上げ始めた。
「レジオ将軍さま!乾杯!」
だれが差し出したかはわからないが、ジョッキに並々とワインが捧げられた。
「乾杯!」
カズマは、高々とジョッキを掲げて、一気に飲み干して見せた。
「「「「わああああああ!」」」」
気持ちのいい飲みっぷりに、民衆が沸き返る。
行列は、城門をくぐるまで、興奮した民衆に祝福されながらゆっくり行進した。
「ふう、みんなごくろうさん。」
城門をくぐると、民衆の声は一気に遠ざかった。
城門から、城にかけてのエントランスは広く、眼前に長大な石段が並んでいる。
その前で、馬を停めた。
「いやいや、お主がおらんかったら、この勝利はないわさ。」
マゼランが、カズマの肩をたたく。
「何を言う、御両所が支えてくれていたからこそ、持ちこたえたのさ。」
「なんにせよ、勝利は我らの手に・だ!」
シェルブールは、高らかに笑った。
まわりの兵士たちも、高揚した様子で、盛んにお互いの肩をたたきあったりしている。
「みんな御苦労、こいつは少ないがみんなで呑んでくれ。」
カズマは革袋から、一〇本の酒樽を出して、兵士に渡した。
「将軍さま!」
「ま、兵舎に運ぶ手間があるが、そこはよしなに頼む。」
「ありがとうございます!」
兵士たちは、喜んで酒樽を荷馬車にくくりつけて去った。
「さて、ミッテルのダンナ、少し話をしようか。」
一行は、王宮の謁見の間に、場所を変えた。
ミッテル将軍は、兵士たちに連れられて、別途謁見の間に運ばれた。
「斯様な失態をおかしては、おめおめと帝国に帰ることあたわず、ここで首となりて帰還せん。」
ミッテル将軍は、王宮に引き立てられて、わめき散らした。
まだ縄目も解かれていない。
「うるせえよ、クッコロなんざよそでやれ。」
謁見の間で、カズマは面白くなさそうな顔をして、ミッテル将軍と会った。
玉座には誰も居ない。
「なにをぬかすかカンプラチンキ!帝国軍人として、わたしは!」
「世迷いごとなど聞くにあたいせん、あんたには二万人の負傷兵を連れて帰る義務がある。」
「くっ。」
ミッテル将軍は虚をつかれたような顔をした。
「だれが、彼ら負傷兵を癒してやれるのだ?自分勝手に死ぬことなど、この俺が許さん。
カズマは、その眼光をするどくミッテルに向けた。
「帝国の軍人ン?それがどうした。負けたんだから、勝ったものに従え、お前は死ぬことは許されんのだ、わかったか。」
決めつけるカズマの言葉に、ミッテルはうなだれて涙した。
だが、それは自分たちも、蹂躙した領地の者たちにかけた言葉でもある。
ミッテル将軍は、カズマの言葉を待った。
「まあ、座んなよ。」
カズマは、簡素な椅子に腰かけて、ミッテルに向かいの椅子をすすめた。
「マゼランの殿さま、シェルブールのダンナ、あんたらも座りなよ。」
カズマに言われて、やっと二人も椅子に座った。
「さて、ミッテルのダンナ。」
ミッテルは、椅子に座って顔を上げた。
テーブルにはお茶のひとつもない。
下働きがみな避難してしまったからだ。
「あんたには、二万の軍勢を連れて帰ると言う大仕事がある、ここで死んでいる暇はない。」
「しかし、負傷者ばかりでは、今すぐ帰還と言うわけにはまいらんぞ。」
「それは承知している、いま、うちの聖女さまが教会で、診療所を開設している。」
それを聞いて、ミッテルは瞠目した。
レジオの聖女、イシュタールの聖女と言えば、帝國でも有名である。
同じオシリス女神を信仰する仲でもある。
「なんと!」
「重症者から、順に治しているので、そのうちみんなで帰ることができるさ。」
「しかし、私は捕虜の身だ。」
若干引き気味に言うミッテルに、カズマは肩をすくめて見せた。
「ま、それも承知だ。賠償責任は帝国にあるが、そのことについては後ほど交渉しよう。」
「うむ。」
シェルブール辺境伯爵も頷いた。
「それがいいでおじゃる。」
マゼランもうなずいて、カズマに同意した。
今や、この国でまともに機能しているのが、この二人と言うのが奇縁と言うべきか。
ほかにも生き残っている領地はかなりあるが、沈没間近の王都まで兵を進めたのが、この二人だけだった。
他の領地は、城門を固く閉め、来るべき帝国の蹂躙に備えていた。
数の不利は、解消されまいに。
不憫なものだ。
その帝国軍は、各地に駐留していたが、王都に向かった部隊の壊滅を聞いて、我先に帝国に逃げ帰った。
まさに、ケツに火のついた様子だったと言う。
まあ、ザマァないな。
「しかし、二万人の身代金となると、膨大な額になるぞ。」
シェルブール伯爵は、カズマに言った。
「まあなあ、それもそうなんだが、こいつら食わすのもめんどくさくないか?」
「たしかに、我らの兵糧では王都の民を救うので手いっぱいでおじゃる。」
「だろ?さっさと返そうぜ、それで帝国が身代金をケチるって言うなら、それはそれでモノ笑いのタネだ。」
「うむむ…」
ミッテルは、冷や汗をたらしている。
たしかに、近隣諸国に笑われて、侮られてはどうしようもない。
それは、政治感覚にうといミッテルにもわかることだ。
「麿は、兵士に命じて全員の名簿を作っておじゃる。」
「たいへんけっこう、傷病の具合も書き込んでくれ、そいつで治療費も請求する。」
「おお、それはナイスでおじゃる。」
「ナイスじゃねえよ、どんだけボル気だ?」
シェルブール伯爵は、呆れかえって頭を抱えた。
「聖女の治療はタダじゃねーよ。」
カズマは、あくまでマイペースである。
「仮にも、ウチの王族をだました罪は償ってもらうぜ、今頃はやつも毒をあおってるだろうがな。」
カズマは、無人の玉座を見上げて、ぼそりと言った。
実際には、王族の自殺はクサリヘビ(猛毒)に噛まれると言う、いささか気持ちの悪い方法である。
「な、なんだと!」
シェルブール伯爵は、目をむいてカズマに迫る。
「王族が、クーデターを起こして、その失敗の責任を取ったんだ、だれが止められる?」
「そのとおりでおじゃる、騒ぐでないシェルブールのダンナ。」
マゼランも、その状況を予想していたのだろう。
立ち上がったシェルブールの袖を引いた。
「うぐ…」
「兵士も騎士も、装備は全部没収のうえ、国外に追放だ。身代金は、後日請求させてもらう。それでいいじゃないか。」
カズマは、疲れているのでさっさと休みたかった。
「まだ、ミッテルの旦那がゴテるようなら、あとのことはご両所にまかせる。」
「承知したでおじゃる。」
「…」
カズマは、あとのことを二人に任せて謁見の間を出た。
かと言って、オルレアンの部屋を覗く気にもなれず、暗い顔を左右に振って教会に向かって歩き出した。
くっそまずい魔力回復ポーションを飲んで、少し気分も回復したカズマは、教会前の広場にならぶ負傷者に目を向けた。
二人の聖女は、額に汗をにじませながら、運ばれてくる重症な兵士を回復させていた。
その周りには、教会に残っていた聖職者が、これまた汗水たらして、兵士の傷を癒していた。
「人の世で起こったことだ、このザマを神に何とかしろとは言えんだろう。」
「そのほとんどが、お屋形さまのせいですけどね。」
「ゲオルグ、それを言うな。」
「へい、兵士の中にも回復役がたくさんいたので、連れて来ました。」
「よし、みんな回復に回せ。」
「は、かしこまりました。」
教会前広場には、ずらりと傷病兵が寝かされている。
どの顔も、青白く怪我の深さがわかる。
一部には、肘などから骨が顔を出しているものも居る。
「ちっ、しゃあねえなあ。」
カズマは、少なくなった魔力を絞るようにして、その広場にエリアヒールをかける。
かけられるヒールのレベルは、一か二しかない。
せいぜいが、骨折がつながる程度で、開放骨折までは手が出ない。
それでも、いくぶん顔色も戻って、息の荒かったものも少しは楽そうになっている。
「お屋形さま~、無理しないでください、みんな死ぬほどじゃないんですから。」
ゲオルグ=ベルンは、呆れたような顔をしている。
「しかたあるまい、聖女たちだって有り余るほど魔力があるわけじゃない。」
「それはそうですけどね、一晩ほっておいても死ぬわけじゃないですよ。」
「ああ、わかった、そこそこにするさ。」
「おい、動けるようになったやつは、動けないやつの包帯巻きでもやってくれ、手が足りないんだ!」
ゲオルグは、傷病兵の中を歩きながら、兵士たちに声をかける。
言われたからでもないだろうが、動けるようになった兵士は、積極的により怪我のひどい兵士を看病している。
「将校はこっちへきてくれ、名簿を作る。」
何を言われているのか、あまり理解していない様子だが、身なりの良い兵士はゲオルグの方へ歩いて行った。
十人長、百人長などは、自分の部下の名前を並べて、出身地なども把握している。
名簿は、かなり詳しく出来上がって行った。
聖女の治療もだいたい終わり、魔力も尽きて来たので、その日の治療は終了になった。
残念そうな顔をした兵士たちだが、魔力がなくては治療もできない。
王都の住民も、怪我をした者は少なく、みなそれぞれの家に帰って行った。
「戦争なんざ、ないにこしたものじゃないが、いざ起こってみると、後始末は大変だな。」
「おっしゃるとおり、まあ、それも戦争でござる。」
ゴルテスは、聖女のかたわらにあって、周囲に目を配っていた。
ロフノールもしかり。
カズマは、黙って腰の「魔法の袋」をはずしてゴルテスに渡した。
「魔物二五〇〇匹入ってる、捕虜に振舞ってやってくれ。」
「畏まって候。」
ゴルテスも、カズマの気持ちはよくわかっている。
だれもが、野心に燃えてこの戦争に参加した訳ではないので、食うに困るものもいる。
懐に金があれば、捕虜の身でも食事の手配はしてもらえるが、文無しには水しかないんだ。
全員が食べられるかは、戦勝国の懐しだいでもある。
だから、カズマは自分の持っている食べ物を放出する。
この、なにもない王都に、確かな食料を持っているのは、ロワール海岸のカズマだけではないのか?
まあ、海産物は別にしても、魔物一万匹は伊達ではないのだ。
教会の奥まった部屋に落ち着いた一行は、遅い夕食を囲んでいた。
みな、疲労困憊して、食事を口に運ぶのもおっくうになっている。
「奥方さま、一口でも召しあがらないと、体に悪うございます。」
ゴルテスは、ティリスの様子を気にして、しきりに食べろと促している。
しかし、ティリスの上体はふらふらと前後に揺れている。
「はい、だいじょうぶですよ、ええ、ちゃんと食べます。」
かちゃん…
言っているそばから、まぶたがとろんと落ちて、持ったスプーンもテーブルに落ちてしまう。
「少し寝させてくるよ、体力もないのに無理させてしまった。」
カズマは立ち上がって、ティリスを抱き上げる。
一行は、だまって頷いた。
「わたくしも、失礼させていただきますわ。」
アリスティアも、スプーンを置いて、二人の後に続いた。
「まったく、これがあの王都だとは、信じられん状態じゃな。」
「さよう、王都を守る兵士が、ここまで減っておるとはのう。」
「おっさんたち、愚痴が多いぜ。」
「しょうがない、この状態を見れば、下級兵士しか残っていないんだからな。」
カズマの家臣たちは、夕飯を食べながら周りの状況に嘆息した。
なにしろ、名だたる貴族はみな逃げ出して、王都に残っているのは平民ばかり。
王都守護の兵士たちも、貴族は残っていない。
みな、平民ばかりが残り、王都の民衆を守り支えて来たのだ。
まさに、カズマと言う援軍が居なかったら、マゼランもシェルブールもここで果てていたかもしれない。
それを思うと、王国はすでに死に体であったことがよくわかる。
だいたい、なぜカズマ達はこの王都にいるのか?
それは、ロワール海岸で新しい教会を建設し、祭壇に女神の像を立てた時に遡る。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「プルミエ、新しい教会の三門は任せたぞ。」
カズマたちは、領主の館の前に教会を建てることにした。
「おうよ、任された。」
プルミエは、土魔法を全開にし、三つの入り口を持つ壮大な塔を持ち上げた。
「あいかわらず、ものすごい魔法だよな、しかも緻密ときたもんだ。」
これもお約束の、天国の門である。
オシリスの教えを、文字の読めない者にも理解できるように、図案化されている。
これも、回を重ねるごとにアップグレードされていて、まさに芸術品になっている。
「あの彫刻は本当に素晴らしいですね。」
ティリスも、その様子を見てため息を漏らしている。
「では、礼拝堂を立ち上げるぞ。」
カズマも、負けていられない、巨大な魔力を練りに練る。
「お屋形さま、ふぁいと~!」
踊り子の娘たちが、応援に駆け付けた。
ごごごごごごごごごご
周りの土をかき集めて、荘厳な礼拝堂が山門に沿って立ち上がる。
イメージは、さる島に立っている、巨大な教会だ。
「ぶは~!どうだ?」
「お屋形さま、すばらしいですわ!」
アリスティアが、目を輝かせている。
「では、私たちが教会前の広場を作ります!」
ポーラが、踊り子たちを集めて、土魔法をふるう。
なにもない土の広場が、石畳風のシャレオツな広場に変わる。
「噴水もあるといいわね。」
アルマ(十三)が、石畳の真ん中に直径十メートルほどの円を描いた。
「わかった、まかせて。」
カリーナは、石積み風の円形の池を立ち上げる。
真ん中に、細身の女神が壺を持って立っている。
「あら、芸が細かいわね。」
「お屋形さまの彫刻を見て、練習したのよ。
カリーナは、少し誇らしげにつんと鼻を高くした。
さらに、教会の周りに腰高の柵を回し、ところどころに木を移植すると言う徹底ぶり。
「みんな魔力は大丈夫なのか?」
ラルが、踊り子たちを心配するが、みな顔を輝かせて首を振る。
「だ~、ぼくが一番役に立たない!」
勇気は、子供たちの働きに比べ、自分の魔法が着いて行けないことにあせっている。
ま、昨日今日魔法に目覚めたのだから、しょうがない。
まだ、ラルの方が何度も作業しているだけ、魔力が上なのだ。
ラルは、教会の周囲に花壇を設置している。
小さな子どもたちは、てんでに花のタネをまいているようだ。
「子供たちのおかげで、りっぱな教会になりましたわ。」
「そうだねー、私たちは椅子でも作ろうか。」
「そうですわね、では材料を刻みましょう。」
二人は、ホーミングレーザーを途中で止めると言う荒業で、材木を均等に板に加工して行く。
細かい作業も同時に進行し、同じ大きさのベンチが、大量に生産されて行った。
「土で作ると、味気ないですものね。」
「そうですわ、椅子も机もやはり木製がよろしいですわ。」
「ご両所、宴台を作りたいので、板をおくれ。」
「あら、お屋形さま、どうぞ。」
カズマも、木材を加工して、祭壇の前の説教台を作成している。
正面には、オシリス女神のレリーフを配して、なかなか立派なモノができた。
「そりゃまあ、この規模の教会で、ショボい宴台は使えんでしょ。」
ごもっとも。
土の中から、石灰質を凝縮して、オシリス女神の神像を作り上げると、レビテーションで持ち上げて、説教台の後ろの祭壇に安置する。
これで、だいたいの体裁が整ってきた。
あとは、地味に蜀台だのステンドグラスだの、職人技でなんとかする。
「プルミエに習った硬化の魔法で、一〇〇〇年たっても大丈夫なんだよ。」
「そうじゃ、ゾウが乗っても壊れないしな。」
だれに言ってるんですか?
カズマにしてみれば、ここが旅路の果てであり、新しい生活の拠点と定めたのだから、丁寧に教会を作ることも想定の内なのである。
オシリス女神に導かれて、レジオの民衆は巡礼をしながら、この地を目指す。
だからこそ、オシリス教の人々を迎え入れる教会は、立派なモノを作ってやりたかったのだ。
オシリス神像を見上げて、カズマは満足そうにうなずいた。
すると、カズマの左手の聖痕が痛みを伴って発熱した。
「あちち!手に直接刻まれてるんだから、この通達はめっちゃイヤ!」
カズマは、ジェシカとのラインをつないだ。
「カズマ、お久しぶりです、ついにたどり着きましたね。」
「じぇ・ジェシカ!この連絡方法はやめてくれよ。」
「いちばん気がついてくれるんですもの。」
「熱いし、痛いんだよ。」
「まあ、おほほ。」
笑ってごまかす気だ。
「それよりもカズマ。」
わ!がらっと話をすりかえてる。
「そこ、外野、うるさい。」
はい。
「ついに王都にゲルマニアが攻め込んできました。」
「なんだよ、ヘルムートがいないところでよかったな。」
「まあそうですね、で?どうします?」
「どうしますとは?」
「手を出しますかってことです。」
「だって、王都にはいやって言うほど貴族がいるじゃん。一二〇家か?」
「いません。」
「へ?」
「王都には、ほとんどの貴族がいません。みな、自分の領地に逃げ帰ってしまいました。」
「じゃあ、王都の防衛は?」
「ほとんど、平民の兵士だけです。」
「指揮は?」
「それも、平民の仕官が。」
むちゃくちゃだな。
「ガストンは!やつはどうしたんだ!」
「一番にゲルマニア軍がなだれ込んだのは、バロアです。」
「うわ!」
「バロア侯爵は?」
「バロア領は壊滅です。」
「なにやってるんだか?それで、五十万王都民は?」
「すでに二十万人以上が避難して、貧しい者たちだけが残っています。」
「なんということでしょう。」
どこの美フォーですか?
「それで、俺にどうしろと?まさか、手を出すなとか言うのか?」
「いえ、そこはカズマにお任せしますよ。」
「うっわ!勝手がいいなあ!丸投げ?」
「では、私はこれで。」
「また逃げる~」
「ベルクカッツェではありません!」
そういう訳で、カズマは王都へのゲートを開きました。
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