おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼

とめきち

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第百話 王都の休日

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 昔から、橋の上下は貧民や流れ者が生活してきた場である。
 同時に、交通の要でもある。
 王都の中央を流れるレーヌ川は、川幅が五〇メートルもある大河で、水深も二〇~三〇メートルある。
 その流れは悠々として、遠いマーズ山脈から全長三〇〇〇キロにも及ぶ流れを運んでいる。
 河原も広く両側に一〇〇メートルもあるため、その両岸は石造りの堤防がしっかりと組まれている。
 王国五〇〇年の伝統を見守ってきた構造物である。
 それは、年々少しずつ改良されて今日<こんにち>に至る。
 レーヌ川には多くの橋がかけられ、その幅はまちまちだが、一番広いもので四〇メートル以上ある。
 カズマは、伝統の橋を眺めて歴史の重さを知った。

 久しぶりに時間が取れたので、王都の視察に出てきた。
 サボリとも言う。
「ほっとけ!」
 ティリス・アリスティアなどぞろぞろついてきた。
 ティリスは、アンジェラの手を引いている。
 一家でお散歩かい?

「なんちゅうか、毎年いろいろ積み重ねて来たんだな。」
 カズマは、街を見回して感慨深げに言った。
「左様でございますな、王都は一日にして成らずでござる。」
 ゴルテスが、重々しく言う。
 もともとが王都の住民であり、陸軍の一部隊三〇〇人をあずかる隊長であった人だ。
 王都に長く住めば、その明暗も良く知っている。
「ここが勇者の橋でござる。」
 ゴルテスが一本の橋に案内した。
「まあ、立派な橋ですね。」
 ティリスは、アンジェラを揺すりあげて、目を輝かせた。
「ほんとうに、麗しい橋と申しますか…」
(あ~、なんだよこれは、アレクサンドル三世橋じゃねーか、勇者って何者だよ。)
「ああ、これは芸術的にも大したものだな。」

 たぶん、カズマと同じように、記憶のサルベージを行って、細部に渡って再現されている。
 アレクサンドル三世橋と言えば、その芸術性からも評価の高い橋である。
 細かい細工はその一つ一つが芸術品であり、王都人民の誇りである。
 なんだかんだ言って、この勇者という男は、カズマと同類の知識と悪趣味を持っているにちまいない。
 レーヌ川の中州をサイテ島と名付けるなど、なかなか洒落も効いている。
 はっきり言って、ヲタクの仲間であろう。
 勇者にはきっと、細くて長い尻尾があったのではないか?
 カズマは、苦々しいものを感じていた。
「先っぽが鈎になってる尻尾な。」


「第三七代国王の御世でござる。当時いずくからかやってきた勇者は、魔王を倒して国王を補佐し、王国を繁栄に導いたと申します。」
「ははあ、あの勇者の橋もその御仁がやったことか?」
「さようでござる。」
「なるほどねえ、あの魔法はすごいぞ、保存の魔法の重ねがけで、千年以上もつようにできている。」
「まあ、よくおわかりになりますわね。」
 アリスティアは、カズマの左側に立って、彼を見上げた。
「まあ、プルミエの指導は厳しかったからな。」
 カズマは、遠い目をした。
「まことに。」
「あ~、あのおばちゃんか~、ぱっと見、ネコ耳少女なんだけどな。」
 ティリスは、ちょっと顔をくしゃりとゆがめた。
 かなり厳しい指導を受けているんだろう。
「よびましたかにゃ?」
「トラは呼んでないです。」
「にゃ~。」

 橋の上では、子供たちが走り回っている。
 橋の長さは百十五メートル、幅は四十メートルもある。
 子供が走っても、邪魔にはならない。
 やはり貧民街が近いせいか、着ているものは擦り切れたり破れたりしている。
「にいちゃん、なんかおごってくれよ。」
 その中の一人が、カズマの前にやってきた。
「おお?なかなか度胸のある小僧だな。」
「まことに、好い根性しておりますな。」
「なんだよ、文無しか?好い女二人も連れてるのに。」
「いやまあ、おまえにおごる謂れもないしな。」
「んなもん、にいちゃんが金持ちで、俺が貧乏だからでいいじゃねぇか。」
 なかなか頭の回るガキである。
「あほう、仕事もせずにもの食えると思うなよ。」

「ちぇ~、んだよ、貧乏人。」
 小僧は、カズマの脛を蹴ろうと足を出した。
 カズマは、すっと足を引く。
 すかっ
 ゴン!
 小僧は、空振りして、橋の真ん中でひっくり返った。
 ごん!と、にぶい音が橋の上に響く。
「「「うひゃひゃひゃひゃ!」」」
 周りにいた浮浪児は、一斉に笑いこける。
「うるせぇ!」

「では、ぼうや、あなたは、なにができるの?」
 アリスが前に出て、子供に聞いた。
「え?うわ!きれいなチャンネエ!」
「あら、ありがとう。」
 ゆさりと大きな胸が揺れる。
「そうだな、ガキの間じゃ力持ちだぞ。」
「そう、薪割りとかは?」
「ああ、できるぜ。」
「では、ウチに来て薪割りをなさい、そしたら一日で銅版一枚(三〇〇〇円)あげましょう。」
 
 アリスは、膝を折って小僧の目線に合わせて言う。
「ほんとか!」
「ええ、いいですよね、お屋形さま。」
「しょうがないな、ちゃんと仕事できるのか?」
「あったぼうよ!」
 男の子は胸を張って、そりくりかえった。
「じゃあ、雇ってやる。」
「だ、ダンナー!俺も仕事くれよ!」
 周りで小僧を笑っていたガキたちが集まってきた。
「ふむ、いいだろう。草むしり一日銅版一枚でどうだ。」
「やるやる!」
「がんばったら、昼飯だしてやる。」
「「「わお!」」」

 仕事をして、報酬を得ようとするだけ、この橋の上の子供たちはマシなのだろう。
 かっぱらいや置き引きに走らないだけ、まともである。

「なんだかな、孤児院は喫緊の課題だな、ゴルテス。」
「まことに。すぐにかかりましょうか。」
「うん、とりあえず国教会に行ってみよう、そこの敷地でなんとかできんかな?」
「は、かしこまりました。」
 二人のやり取りを聞いて、子供が聞いた。
「んだよ、兄ちゃんの方が偉い人なのか?」
「この方は、レジオ男爵さまだぞ。」
「げえ!竜砕き!」
 少しは名前が売れていたらしい。
「すげえ!」
「かっこいい!」
「もっとほめろ。」

 カズマは面白がってあおると、ティリスが耳を引っ張った。
「カズマ、いい気になるんじゃありません。」
「へ~い。んまったく、おれは夫だよ?」
「あとにどっこいがつくんじゃないの?」
「おっとどっこい…なんでやねん!」


「「「あはははははは!」」」


「あはは!やっぱ、かーちゃんのほうが偉いんじゃん。」
「カカァにゃ勝てんよ。」

「「「あはははははは」」」

 王宮の近く、国教会の跡地は、瓦礫が山積みで無残な様子を見せていた。
 さすがにメルミリアスに押されて、つぶされてはどうしようもない。
 立派な伽藍も楼門もなにもない、あるのは石材と木材の山だけである。
 ところどころに深い穴が開いているのは、メルミリアスの踏ん張った足跡だろうか。
 二百メートル四方が何もなくなっている。
「瓦礫の山じゃん。」
「さようですな。」
 ゴルテスも、あきれた調子で答えた。
「しょうがあんめえ、やるか。」
「大殿さま、広場から人を避難させます。」
「たのむ。」
 ゴルテスと聖女たちは、その辺を通っている人たちに、避難するよう告げて回った。
 子供たちにも、ふれて回るよう言う。
 訳も分からず、子供たちは広場から人を払った。


「では、やるぞ。」
 プルミエの手伝いがないが、その分材料は死ぬほどある。

 うまく回せば、ここにある材料で新しい建物が作れる。
 幸い、土台はなんとか残っている。


 カズマは、ゆっくりと魔力を練る。
 カズマの周りには、色とりどりの精霊が集まり始めた。
 特に茶色い地の精霊や、黒い鉄の精霊、緑色の木の精霊はたくさんいるが、水の精霊も少し居るようだ。
「すげえ、にいちゃんの周りがきらきら光ってる。」
「良く見なさい、あれが精霊魔法ですよ。」
 アリスティアが子供たちに説明する。
「きれーい!」
 広場一杯に精霊の渦ができたところで、カズマは地面に両手をついた。

「ビルドアップ!」
(ばんばんばんばん!)

 ごごごごごごごごごごごおおおおお

(特に、腕が飛びだしたり、足が飛びだしたりはしません。)

 広場の周りに転がり、山になっている残骸が渦を巻き、一つの塊となってゆく。
 旅の間、何度も作り上げて、手になじんだ大聖堂が、新しい命を吹き込まれて立ちあがってゆく。

 気分は、川の中州にある、火事で燃えちゃったあの大聖堂である。

「おおおおおおおお!」
 カズマの雄叫びに答え、すべての材料が融合し、聖堂が作り上げられた。
 南北の塔は四角が基本で、高さは六十三メートル。
 胴体の長さは、百二十七メートル。
 幅は、二十五メートル。
 正面入り口真ん中には、花のステンドグラス。
 これは、いままでで一番大きい。

「だ~、けっこう魔力持ってかれるな。」
「「「「すっげええええええええ!」」」」
 子供たちは、カズマの周りを走り回る。
「三門の装飾は、プルミエに頼むかな。」
「それもよろしいですわ。」
 いつもの入り口の上には、レリ-フがなくてあっさりしている。
 天国の門は?
 審判の日は?
 後日、プルミエが飾るように空けてある。


 聖堂の中には、白い祭壇が立っている。
「それでは、行きますぞ。」
 カズマは、鹿爪らしく立ち、アリスティアに顔を向けた。
「はい。」
 アリスティアに頷かれて、カズマはもう一度魔力を練る。
 地の精霊が集まって、祭壇の上に力場を形成する。
 広場に散らばった残りの瓦礫がそこに集まってきた。
 ゆっくりと、オシリス女神の白い姿が象られて行く。
 子供たちは、それをものも言えずに見つめていた。
 シュウウウウウウ
 かすかな音さえ吸い込むような静寂があった。
 やがて、その音も止む。


「よし、できた。」


 だれ一人、言葉を発するものが居ない。
 こんどの女神像は、それほどデキが良かったようだ。
 高さは三メートルはあろうと言う、かなり大型の彫刻だ。

 白亜の女神像は、広く協会を睥睨している。

「使徒ジェシカ、我らの尊敬と情愛を、オシリス神に届けたまえ。」
 カズマは、額づいて祈りをささげた。

『ごくろうですカズマ。』
 オシリス女神の胸から、使徒ジェシカが赤い衣をなびかせて降臨した。
「ジェシカ、王都の信仰を復活します。」
『お手数でした、女神オシリスも御喜びですよ。』
「そうか?まあ、こんどまたケーキでもお供えするよ。」
『それは、私の分も?』
「そうだけど…大丈夫か?」
 カズマは、ジェシカのおなかを見た。
『どこ見てんのよ。』(はるな●風に。)
「ごめん。」

『なにか祝福は?』
「そうだな、ラルに女神の加護を。」
『わかりました、魔力と防御を。カズマ、あなたには転位の加護を。』
「すまない、あとこの子供たちにも、軽く加護を。健康がいいな。」
『うふふ、ではみなさまに健康を。』
 ジェシカは、聖堂に立つ者たちに健康の祝福を授けて帰って行った。
 ゴルテスももらったみたいだけど。



「ななな!なんだよあれは!」
 浮浪児の一人が叫んだ。
 
「見ただろう?神様の使徒ジェシカだよ。」
「絵で見たことがあるけど、本当に居るのかよ!」
「そうだよ、女神さまもちゃんとおわすぞ。」
「すげー!俺たち、祝福もらっちゃったよ!」
「そう言えば、お前の名前は?」
「おれは、ジャン。」
「俺は、ポール。」
「俺は、アルフ。」
「あたしは、ジャンヌ。」
「あたしは、アンヌ。」
 あれ?なんか増えてるが、まあいいか。

「では、お前たちはこれから、あそこの教会孤児院に入れ。」
「え~!孤児院かよ、インケンな院長が鞭でたたくんだろう?」
 ミンチン先生じゃありません。
「ジャン、そりゃどこの孤児院だよ。」
「いや、逃げて来たやつが言ってたぞ。」
「まあいい、俺の作った孤児院に、そんな院長はいない。」
「そうなのか?」
「メシも、ちゃんと食わす。肉もありだ。」
「肉?そりゃすげえ!」
「そのうえ、読み書きも教えてやる。どんな商売でも、読み書きできないやつはだまされる。」
「そうなの?」
「ポールは、看板が読めるか?」
「わかんないよ。」

「なにを売っている店か、看板を見ればわかるからな。」
「そうなのか、すげえな。」
「アルフ、冒険者になるなら、字が読めないと依頼書も読めない。」
「うん。」
「ジャンヌ、洋服屋で使っている布に素材が書いてあってもわからない。」
「うん。」
「アンヌ、店員の募集があっても、読めなきゃ何をするのかわからない。」
「はい。」
「だから、読み書きは覚えないと、損をする。」
「わかったよ、おれ、覚える。」
「よし。」
 カズマは、ジャンの頭をがしがしとかきまわした。

「うん?きたねえなあ、おまえらちょっと並べ。」
 子供たちは、横一列に並んだ。
「動くなよ、スタン。」
 カズマの指先が、ぱちっと青白く光った。
 子供たちのからだから、ぱらぱらと虫が落ちる。
「まったく、ノミとか付けて歩いてるからな。クリーン。」
 子供たちにクリーンをかけると、薄汚れた服も、体もマシになった。
「なんだかな~、この先は風呂に入れないとダメだな。」
「では、孤児院のお風呂を沸かしますかにゃ?」
 トラが前に出て聞く。
「そうだな、アリス、ついて行ってくれ。」

「かしこまりました、トラちゃん、行きましょう。」
「はいにゃ、奥方さま。」
 二人は、教会横の孤児院に入って行った。
「お前たちは、まず、喰い物だな。」
「「「やた!」」」
 教会前の広場には、串焼きの屋台が出ていて、好い臭いをさせていた。
 カズマは、子供たちの腹を満たすと、市場の古着屋に向かった。
 全員が、一〇歳前後、やせてひょろひょろしているので、年齢より小さく見える。
「まあいい、いずれ良いモノも買えるさ。」
 子供たちには、とりあえず着られそうなマシなモノを買いこんで、孤児院に戻ってきた。


 孤児院の前では、ティリス、アンジェラ、アリス、トラ、ゴルテスなどが待っていた。
「さあ、みんなお風呂に入りましょう、ちょうど好い湯加減ですよ。」
「え~、風呂かよ。」
「ジャン、不潔な男性はモテませんわよ。」
「そ、そうなの?」
「せっかく買った、いい服も似合わないわよ。」
 ティリスも、いっしょになってあおった結果、みな入ることにしたようだ。

 ストレージから石鹸を出して、トラに預けた。
「かしこまりましたにゃ。」
 子供たちは、あまり栄養状態も良くなかったようで、ガリガリだ。
 まあしょうがないよな、ガストンがそこまで気の回る男なら、帝國につけこまれたりしない。
 内政って言うのは地味な仕事だし、いちいち見て回ってくれる配下がいないと維持できない。
 王都の行政機構は、貴族がじゃましてまともに機能していなかったしな。
 平民の内政官が戻ってきているうちに、貴族は排除する方向で切り替えてしまおう。
 内大臣だけうまく残してやればいいさ。
 しっかりした官僚機構が残っていれば、内政はうまくいく。

 ただし、日本のように天下りに特化したような下衆を増やすようなことはだめだ。

 だから、下請け用の行政機関などは作らせない。
 一度も稼動していないのに、一兆円もつぎ込んだ施設とかな。
 あそこにどれだけの予算がたれ流されているか、だれもわからないくらいだ。
 だから、そんなものはいっさい認めない。
 借金もそうだ。
 官僚にまかせっきりにすると、急な収入があったときに、借金返さずに別の仕事を作ろうとする。
 馬鹿じゃないのか?
 まずは、借金返せよ。
 自分の金じゃないと思っているから、なくなっても気にならないんだ。
 俺なら、徹底的に調べ上げて、犯人を吊るすね。
 今なら、その権力がある。

 白豚貴族たちが持ち逃げした金は取り返した。
 私腹を肥やしていたぶんも召し上げたし。

 ほかの貴族どもが横領したぶんも、取り返してやる。

 ドサクサ紛れに、貴族の取り潰しも考えているカズマだった。
 クレイユ侯爵みたいに、保身だけに走ったやつもいる。
 今後も荒れることだろうさ。

 役に立たない貴族なら、ご退場願おう。

「お屋形さま、たいへんにゃ。」
 夜更けて、トラがあわててやってきた。
「どうしたトラ。」
「はいにゃ、一揆ですにゃ。」
「ほほう?なかなか豪儀なやつがいるな、どこだ?」
「バスク地方、ビダールレ子爵領ですにゃ。」
「ほほう、ビダールレ子爵領か。バスク地方はブドウが産地で、ワインもうまいのが有名だな。」
「さすが上さまにゃ。ビダールレ子爵領は、山塊が西にあって起伏に富んだ地形ですにゃ。」
「うむ、規模はいかがだ。」
「はい、約二万人、ビダールレ城を中心に、膨れ上がっておりますにゃ。」
「なんだ、子爵も一味か?」

「そのようですにゃ。」
「しっかり調べて来い、こっちは兵士を用意させる。」
「かしこまりましたにゃ。」
 トラは風のようにいなくなった。
「セヴァスチャン、オルクス=マルメ将軍を呼べ。」
「御意!」
 さて、王国西部で勃発した一揆は、国人領主や貴族を巻き込んで、その規模を拡大していった。
 王国の混乱に乗じて、自分たちの領地拡大を図り、近隣城主の土地を切り取るのだ。

 農民による領地の占領も視野に入れている。

 農民により統治される国か…

「さて、南部五州から、兵士を一万人ほど北上させるかな。」
 カズマは簡単な地図を出して、あごに指を添えた。
「ふうむ、西に山塊東に深い森、魔物も豊富にいるようだな。」
 兵站には苦労しないようだ。
 カズマは一人考え込んでいた。ニーヴ川沿いにある小さな町である。
 なぜここに二万もの農民が集まったのか?
 考えられることは、宗教問題か?
 いま話題の新オシリス教の連中が集まったとも考えられる。
 そうすると面倒だな。
 新教徒の中には、過激派も多数存在する。
 神殿騎士団も、下手すると狂信者に早変わりする。
「どうしたものか…」

 しゅたっ

「トラか。」
「上さま、追加情報ですにゃ。」
「なんだ?」
「ニーヴ川沿いに、砦が二軒できてますにゃ。北と南に。」
「ふむ、そこに新教徒が立てこもったということかな?」
「御意にゃ。」
「もう少し詳しく調べさせろ。」
「御意にゃ。」
 トラは、また出て行った。

 狂信者にドラゴンは向けても逆効果かもしれんな。
 喜んで死んでいくだろう。
 火消しの出番かな?
「上さま、お呼びとうかがいました。」
「ああ、オルクス、すまん。」
「は。」
「オルレアンとバロアから兵士二万を招集して、南部に向かえ。」
「ほかの領地はよろしいので?」
「今回はいい、ゴルテスにやらせろ。南部五州から一万ださせる。」
「は。」
「陸軍の精鋭を五百つけろ。」
「御意。」
「では、陣ぶれを出せ!早いもんがちで十人、指揮官にすえろ。男爵でもかまわん。」
「かしこまりました、千人ずつつけます。」
「それでいい、本陣に一万だ。あと、少し情報が入ったら、攻め方を指示する。」
「は。誰かある!陣ふれの太鼓をたたけ!総登城!」
    マルメは、ばさりとマントを翻した。
「「ははー!」」

 オルクス=マルメは手早く体裁を整えた。
 副官に、陸軍の各将軍を呼び出しさせ、五人の将軍が陸軍府に集まった。
 この際、陸軍と呼称しているが、まあ、国軍と言っていい。
 海がないから海軍はないしね。
 飛行機もいないから、空軍もない。
 まあ、竜がいる程度だ。

「セヴァスチャン。」
 カズマは執事を呼ぶ。
「は!」
「国庫から兵糧など出させる、内大臣に使者を出してくれ。」
「かしこまりました。」

 内大臣シャルル=ド=マゼランは、急ぎ右大臣執務室にやってきた。
「上様、なにごとでおじゃる!」
「謀反とは言わんが、一揆だと言う情報が入った。すでに、ビダールレ子爵領の南北に砦を築いているようだ。」
「ふむ、難題でおじゃるな、兵数は?」
「三万。」
「かしこまっておじゃる。兵站はお任せあれ。」
「狂信者が相手になる、ポーションは適量以上に頼む。」
「御意!」

「さて、やつらは何を望むかな?」

 カズマは、窓から視線を投げる。
 王都は喧騒にまぎれていた。
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