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第一〇一話 王都内政TUEEEEE!
しおりを挟むマルメ将軍は、国軍三万を率いて、華々しく王都を出発していった。
西部には、二万の新教徒が待っている。
マゼラン内大臣の迅速は手配には、カズマも舌をまいたものだ。
まるで、本日あるを予測していたかのような、荷駄の手配、食料・糧秣の準備。
「なに、多少の出兵は予想のうちでおじゃる。そのために、余剰の糧秣を別分けにしていたものが、たまたま間に合ったというわけでおじゃる。」
そうとは思えないものがあるが、優秀な政治家でもあるマゼランには、見えているものがあるのだろう。
おかげで、カズマにはほかのことに脳のリソースを割く余裕ができた。
「いきなり殺すなよ。」
「御意。」
「料理の仕方は任せるが、あそこもイシュタール王国だ、王国民だ。」
「わかってる、まずは説得する。」
オルクス=マルメは、前方に目をやった。
王都だからと言って、やることはレジオと変わらない。
まずは、母子・寡婦の救済だ。
王都だけでなく、東部方面の各町には、帝國とのいざこざで亡くなった働き手がゴマンと居る。
残された、寡婦・孤児は数え切れない。
恵理子を筆頭にして、石鹸工場を新設して、母子寮も併設した。
また、食料自給率の向上のため、盛大に農地を広げた。
王都と言ったって、周りは森だらけなんだし、農地の確保は喫緊の課題なのだ。
兵士として集められた農民は、元の農地に返したが、食い詰め者や傭兵、はてはごろつきまでその辺でうろうろしているやつがいる。
王都の外にも、スラム化したバラックが目立ち始めた。
人間はたくましいものだ。
どんな過酷な状況でも、生き延びようとあがく。
ただ、無法者は、ほっておけばマフィア化するのは目に見えている。
だから、こいつらを使って、森を切り開く。
精霊魔法でやれば、あっという間にできることも、人力でやるとかなり手間がかかる。
それでいいのだ。
カズマ一人で全部やれるわけではないし、彼がいなくなったら誰がやってくれるのだ。
だからやり方も、手段も残してやらなければならないのだ。
自助努力のない民衆など、ダニと一緒だ。
行政に吸い付く不良債権だよ。
ま、ここは異世界、不労所得はないと心得よ。
話がそれた。
俵に詰まった土砂一個につき銅貨五枚は効果があった。
一日に十個も運ぶツワモノもいて、大変ありがたい。
これを川の両岸に積んでいく。
期せずして、立派な堤防が出来上がると言うことさ。
真ん中には、強化された土壁を立ててある。
コンクリートより強力だが、このくらいは手伝ってもいいだろう。
両手で持てるくらいの石を、一個銅貨一枚と交換したら、これもめっさ集まった。
堤防の土手を、これで強化する。
経済活動の基本は、公共事業なんだよ。
ヘルムートは、生まれつきの王様なので、庶民の暮らしと言うものが理解できなかったんだ。
だから、官僚がいいように国政を壟断していた。
官僚制が悪いわけではない。
日本のシステムも、かなりいい感じなんだ。
ただ、「親方日の丸」と言う意識は捨てていない。
だから、自分の金じゃないから使え使えなどと言う、バカヤロウが出現する。
旧厚生省のお前だよ!
なんとかピアにいくらつぎ込んだ!
すべて、国民の税金だぞ。
それを一万円でも売れないような場所に作った。
造成費だって半端じゃない額が投入されているが、やつらの言い草は「どうせ年金制度なんかつぶれるから、使ってしまえ。」と言うことだ。
思ってもいいけど、言っちゃだめだよ。
やっちゃもっとだめだけど。
帝国が眼前に迫ったとき、五人のシロ豚貴族官僚はそれをやった。
国庫にある金貨を背負って逃げ出したのだ。
カズマは、シロ豚の領地まで追い詰めて、金を回収した。
「大臣~、勘弁してくださいよ、白豚の身包みはぐなんて仕事は、気持ち悪くなります。」
平民の兵士は、へらへら笑いながらカズマに訴えた。
「アホ、やかましいわ。税金を取り戻すためだ、少しは辛抱しろ。」
「はっ!」
兵士は、ヘラヘラ笑いながら敬礼してその場を去った。
とはいえ、自分ではけしてやりたくないカズマであった。
みすぼらしい古着を着せられた白豚夫婦は、兵士に引きずられてマゼラン領を目指すことになる。
俗に言う「市中引き回しの上獄門」である。
王都の大掃除を断行し、地方領主の言い訳を吟味し、一人でできるわけがないが、カズマは実に精力的に行政の復活を目指した。
同時進行で、国の内外で逃亡貴族は捕らえられ、あるいはその場で自殺されてしまったりしたのだ。
「覚悟して自決したものまで責めるつもりはない、丁寧に埋葬して金だけ持って返れ。」
それでも、とことん非情な政策を進めたため、周辺からは氷の宰相と揶揄され始めた。
仕方がない、財務省の貴族官僚五人は、あらいざらいを袋に詰めて逃げたのだ。
ふたを開けてみれば、ほんとうに国庫が空になっていたとは、シャレにならない。
「危ないところだったな、なんとか元に戻った。」
金庫の鍵は厳重にかけられ、魔法で強化された。
こんなことまで自分で動かなければ、国の機構が動かないことに愕然とする。
ここまで腐っていたとは…
ガストンに自殺などさせるのではなかったな、全部あいつに押し付けて、立て直させればよかった…
無理か。
とりあえず、王都の仕置きはようよう軌道のはしに乗ったようだ。
王宮の中は、思ったほどは荒れていなかった。
ゲルマニア帝国が攻めてきたときに、いち早く対処したおかげで、攻め込まれなかったことが大きい。
中にいた貴族は、位の高いものは少なく、子爵・男爵などが主だったことも幸いした。
位の低い貴族たちは、律義者が多かったのだ。
「イーエルモン子爵、国庫の鍵はおぬしが管理しろ、俺のはんこのない書類には、一切開けることをするな。」
「はっ、かしこまりました。」
「モースケ男爵、この書式で報告書を作成、担当部署のはんこを集めよ。」
「はんこですか?」
「おまえたち、指に封印用の紋章をつけてるだろう。」
「は、これですか?」
モースケ男爵は、左の中指を見せた。
「そうだ、それに赤インクを軽くつけて、ここのマスの中に押すのだ。多少ずれてもかまわん。」
「は、了解しました。」
「つまり、はんこを押すと言うことは、この書類を読んだという証拠だ、言い逃れができない。」
「はっ!」
「俺のところに回ってきたら、そのはんこをもって、国庫から支出すればよいのだ。」
「なるほど、そうですね。」
「あとは、部課長で判断できる範囲を決めることだな。」
「どのようにですか?」
「たとえば、道路修繕で金貨三枚までなら部長の判断で実施できる。金貨一枚なら課長判断で。銀板五枚までなら係長でとかな。」
「それは、王都の行政庁の問題ですね。」
「そうだ。国庫の問題は、議会を招聘する。」
「なるほど。」
「右大臣さま!」
「どうした。」
ホーリオ男爵が、書類を持って入ってきた。
「は、スオミ王国から書簡であります。」
「そうか、内容は?」
「駐在武官の交代についてであります。」
「大使は来るのか?」
「それについては書いてありません。」
「すぐ確認しろ。スオミ王国の大使が駐在しないなら、交易はなくすと言え。」
「かしこまりました。」
「ふざけた野郎どもだ、駐在武官の筋肉野郎に外交ができるか!」
そうだよな、なかなか周辺も言うことを聞かないもんだよ。
メルミリアスにぶっ飛ばされた山の埃で、周辺の町がバイオハザードになってるとかね。
別にゾンビが出たわけじゃなくて、生物的災害になってることだ。
スオミは、大迷惑をこうむっているが、巨竜がこわくて文句も言えない。
それでも、控えめに被害について陳情が着ているので、カズマは穀物の支援と有料補助を出してやった。
現在の大使が、それを後生大事にスオミ王国へ運んでいったため、大使が不在になったのだ。
なんと言うか、うまく逃げたな、ヤツは。
「モースケ、王都周辺の道路整備を進めろ、石畳を作れる職人を集めろ、その弟子になりそうなやつもだ。石畳一枚いくらで買い上げてやれ。」
「は!了解しました。」
「若いの五人くらい使って、高札を出せ。」
「はい。」
モースケ男爵は駆け出していった。
王都を交通の要衝として再構築する。
すべての道はローマに通ずだ、ついでに市場に居座って居やがった「座」の連中はたたきだしてやった。
ここにも、宗教の手が伸びていやがったので、教国に送り返してやった。
強制送還された後のあつかいなど知らん!
王国の意に沿わない坊主などいらん。
連中、ひいひい言いながら、用心棒出してきたので、全員牢屋に突っ込んでやった。
うるさい商人は、男色ばっか集めた部屋に突っ込んでやったらおとなしくなった。
ザマミロ。
王都の周りにいた国人領主は、たかだか石高一〇〇〇石~五〇〇〇石程度のものが多いのだ。
俗に言う旗本である。
この眉間の三日月傷が目に入らぬか、ぱっ!
てえやつな。(そりゃ旗本退屈男だ!)
つまり、男爵にもならない、一代限りの準男爵や騎士爵がぞろぞろ。
そいつが、寄り親である男爵や伯爵にくっついている。
例で言えば、マゼラン伯爵のまわりに三〇人くらいの寄り子だ。
あのおっさんは、そう言う点でもやり手なんだよ。
その国人衆がなにをやって儲けているかと言うと、関料を取ること。
ま、追剥ぎみたいなもんだよ。
だから、国人衆にも道普請の仕事を割り振って、関所を廃止させた。
このおかげで、王都への物資の流入が倍になったんだ。
いままで、どんだけ搾取してやがったもんだか…
このへんが、歴史に現れてこない、楽市楽座の本音部分だよ。
意外と、国人領主の抵抗がキッツイんだけどね、アマルトリウスに火を吹かせて押さえた。
がたがた説得している時間が惜しいんだよ!
やることがいっぱいあるのに、自分のことばっか優先させろとか。
世間をなめんな!
新教徒<共産主義者>たちは、自主独立を訴えている。
お題目は立派なもんだ。
たかが、小麦少々とワインだぷだぷで、国が維持できるのか?
できるわけがない。
道一本つくもんか。
くそ坊主にだまされやがって。
「お屋形さま?」
「なんだよ、恵理子。」
「一向宗みたいに、根切りにしたらあかんよ。」
「アカンか?」
「新教徒は、食えない連中やしね。」
恵理子は、タクマを抱いて立っていた。
カズマは目で、ソファを示す。
恵理子は、にこにこしてソファに座った。
「根切りは、遺恨を残すわ。」
「ほな、どうするんや。」
「そやねえ、どないしょうかなあ?」
恵理子は、タクマをゆすりあげた。
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