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第116話 マリアの旅路③
しおりを挟むまあ、お話自体は旅路でもなんでもない、公爵家の内部事情なんですけどね。
クーデターの失敗、帝国の進攻を許したと言うことで、お屋形さまは毒を望んで、はかなくおなりになりました。
お方さまは、世をはかなんで出家。
次男、ロイ=ピエールさまは行方知れず。
ご長男、ジャン=ポールさまは、すべての責任をとるため、王都に出頭なさいました。
このまま行けば、お家は断絶家臣は離散。
いま、王位は空位ながら、アンリエット姫様がその位を埋めています。
宰相トルメスさま、マゼラン伯爵さま、シェルブール伯爵さまなどが、その周囲を固め、右大臣および総理大臣をレジオ男爵さまが努めます。
貴族官僚は逃げ出して、平民のみの官僚団となって、国政のまわりが早くなりました。
ご家老さまなどは、なんとかしてご舎弟ダイガークさまを立てて、オルレアン家を存続させたいとお考えです。
のこったエリシア姫様では、九七万石をどうこうするには、いささか重荷に過ぎるというものです。
「のう、ザギトワ。」
お嬢様は、のんきにザギトワに話しかけました。
「はい。」
「私たちは、これからどうなるのじゃろう?」
「希望を申せば、ご舎弟ダイガークさまが家督を継がれて、オルレアン家を存続されるのがベストかと。」
「しかしのう、父上は国家の大罪人じゃぞ、お家再興などありえるかのう?」
「それは…」
「できれば、伯爵や子爵などに降格してのお家存続のほうが良いのではないかのう?」
「まあ、経過をたどれば…」
「まあ、いざとなれば、私の私財を売り払えば、暮らし向きはなんとかなろうかのう。」
「それは恐れ多い…」
「零落した貴族の姫が、苦しいのはお前が身にしみておろう?」
「は、まことに。」
はいはい、あたしゃオロシャの借金逃亡者ですからねえ。
その時、ドアにノックの音が響きました。
「はい、どちらさまでしょうか?」
「財務卿ザギトワでござる。」
「お、お父様?」
「財務卿ザギトワでござる。」
「はい、お取次ぎいたします。」
「よい、火急の要であろう、すぐに開けなさい。」
お嬢様の声が響きました。
大きな声でもないのに、耳元で言われたようにはっきりと聞こえます。
「はい。」
ドアの開くのももどかしく、お父様が部屋に入って膝まづきました。
「いかがした、ザギトワ卿。」
お嬢様は、すぐにお父様に声をかけます。
「は、領の財務一式すべてまとめて、お持ちいたしました。」
「わたくしに?」
「は、いまや、この領都において、姫様が一族の最高位でございます。一連の書類は、すべて姫様の管理といたしたく。」
「そう、くるしゅうない。そこに置いてたも。」
「はは。」
ソファの前のテーブルには、山のように帳簿が積まれ、債権や株券なども積まれました。
「おやまあ、こんなに?」
「は、政府からなにか来ましても、この部屋には無碍には入れまいと思います。」
「そうね、あなたたちはこのまま逃げなさい。」
「はあ?」
マリア=ザギトワは、すっとんきょうな声をあげました。
「なんじゃ、ザギトワ。」
「お嬢様、お嬢様を捨てて逃げるような不忠ものは、このザギトワ家にはおりません!」
「よく言った、娘よ。」
「あなたたちは、ばかねえ。」
「馬鹿で結構でございます。私たちは、お嬢様をお守りして、この部屋には何人たりとも入れますまいぞ。」
「ほほほほほ、なんと忠義なこと。よろしい、私がレジオ大臣とお話しましょう。」
「「お嬢様!」」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「…てなことになってますにゃ。」
トラの配下、ネコ獣人のマルがやってきてオルレアン侯爵家のようすを伝えてきた。」
「どう思う?アリス。」
「さようでございますね、ここはお屋形さまの出番では?」
「はあ?」
「どうせ、オルレアン家、バロア家合わせて一七〇万石をお受けなされるのですから、オルレアンの姫はお屋形さまの側室となさいませ。」
「いいのか?」
「いい悪いではございません、そうでもしないと騒動が収まりませんわよ。」
「いやしかし…」
幸いなことに、バロア家には妙齢の姫がいないので、助かったが…
(妙齢でない姫君が三人いるんだよ!三十五歳~四〇歳の!)
「家格といたせば、正室でもかまいませんが。」
没落したとはいえ、王弟公爵家ではあり、家格は最高。
「バカ言え、貧乏な時から一緒にいるお前らを、ないがしろにするほど、俺はひどいやつじゃないぞ。」
「お屋形さま!」
アリスは、感極まったようにカズマに抱きついた。
大きなお胸が押し付けられて、形を変える。
ぽよん
「こほん、お屋形さまいかがいたしますにゃ?」
「マル、うちの影一〇〇人を連れてオルレアン亭を固めろ。不穏なやつは、一歩も入れるな。」
「は、かしこまりましたにゃ。」
やっと機能し始めた行政機構は、ほとんどが男爵以下の下級貴族で回している。
強大な侯爵・辺境伯・伯爵などはその巨大さゆえ、国政に口出しできなくした。
もちろん、議会には参加させるが、ローカルな要求は災害問題以外はまず口にできない。
いままで好き放題国を壟断してきた弊害で、国は借金まみれ。
貴族を一つ二つつぶしたくらいでは追いつかないのだ。
ロイ=ピエールがいなくなったレジオには、各種職人を送り込んだ。
特に、サイレーンの管理については、漁師頭のメルスに頼んだ。
サイレーンを捕まえるときからの付き合いだ、テキのことも良く知っている。
カズマは、レーヌ川のほとりにあるサイレーンの養殖場を見に来ていた。
川漁師メルスが、その傍らに立つ。
「男爵さま!帰って来なすったねえ。」
「おうともさ、アホの小僧には任せておけんだろ。」
ま、カズマも小僧みたいなトシなんだけど。
「うるせえ。」
王都であぶれていた陣借り者も多数送り込んだ。
選抜はしっかりやったさ。
中には武芸もできないやくざ者もいるからな。
レジオは、旧住民がほとんど出て行ってしまったので、まあ新規巻きなおしだよ。
ひげ面の男が巨体をゆすって駆けてきた。
雪をけたてて、さく!さく!さくさくさくさくさくー!
「ダンナ~!」
「ゴンゾか!」
(やめなって、ここでこのネタがわかる若いのなんていないよ?)
「はあはあ、帰って来なすったねえ!」
「なんだよ、きったねえなあ、鼻水ふけよ。」
カズマは、手ぬぐいを出して、ゴンゾに渡した。
「俺は、ここを離れることができなかったからな、誰が領主でもサイレーンは死なせられねえ。」
「すまねえな、お前にも苦労をかけた。」
「へい!」
「ちきしょうめ、ゴンゾ!てめえ、いい男すぎるぞ。」
メルスも、鼻水をすすりあげて言った。
「へっ、いまごろ気が付きやがったか。」
「「「はははは!」」」
横合いから見ていたアリスティアは、若干あきれた。
「まったく殿方って、理解の外ね。」
「お方さまは、まじめすぎるにゃ。」
「トラ!」
アリスティアの大きな声に、三人は振り返った。
「あらら。」
「「せ、聖女さま!」」
ゴンゾとメルスは声を合わせて駆け寄った。
「ぜいじょざま~、おがえりなせえ~」
「うわ、きったねえ!ゴンゾ、鼻水拭けよ!」
メルスが悲鳴を上げる。
「ゴンゾさん、よくサイレーンをまもってくださいましたね。」
「はい…はい!」
「ゴンゾさんにオシリス女神の祝福を。」
銀の燐粉のように、光がふたりに注がれた。
「「ありがてえ、ありがてぇ。」」
ふたりが落ち着いたところで、カズマが説明する。
「…というわけで、人間はやってくる。言うこときかねえ奴は追い返していい。二人は、とにかくサイレーンを頼む。」
「「へい!」」
「がってんでさぁ!」
「お任せください男爵さま!」
メルスは、明るく顔をあげて答えた。
「おいおい、男爵さまじゃねえよ、このかたはもう公爵様だぜ、間違えると首が飛ぶぜ。」
「ふええ!」
「ばかやろう、俺とおまえらの仲で、そんなことしやがったら、そいつの首が飛ぶぜ。」
「ダンナ~!」
「じゃあ、頼んだぜ。」
サイレーンと、川漁師たちのことは、二人に任せて王都に戻る。
アリスとの相乗効果で、瞬間移動は魔力の消費が少なくなっている。
「お屋形さま!」
「おう、ウォルフ、どうしたんだ?ガイエスブルクになにかあったのか?」
「いや、そうじゃなくて、ガイエスブルクに続々と移民がやってくるんですよ。」
「はあ?それならいいじゃないか、ユリウスはどう言っているんだ?」
「城代さまはとりあえず、お屋形さまに伺って来いと。」
「それでプルミエに運んでもらったのか。」
「そうです。」
「ふうん、師匠はどこだ?」
「それが、先ほど町に出て行かれました。」
「ふむ、飽きればもどってこようさ、アリス、お茶を用意させてくれ。」
「かしこまりました。」
「で?あれからどうなった?」
「ええ、約三カ月で旧レジオの住民は三〇〇〇人が移住しました。その後、他地区の貧困層が多数移動しまして、現在一万人がガイエスブルクに入りました。」
「いちまんにん?」
「まだ現在も増えています。」
「うひゃ~、それはユリウスもたいへんだな、人別はしっかり作っているな。」
「もちろんです。」
「よしよし、来たやつで字の読めるやつや、計算のできるやつは優先的に使っていけばいい。」
「は、選別は?」
「お前がやればいいじゃん、ホルストとかいるだろう?」
「わかりました。それと、ラルと勇気ですが…」
「なんだよ、またスカタンしたのか?」
「ま、ガキのケンカですが。」
「しょうがねえなあ。一度、王都によこせよ。」
「二人をですか?」
「ああ、二人ともだ。」
「わかりました。」
ポーラなどの踊り子たちは、すでに王都に来ているので、ガイエスブルクはジョシが少ない。
子供は結構いるはずなんだが、あの二人は突出しているからな。
「ボルクはどうした?」
「あいかわらず、ラルから魔法を習っていますが。」
「そうか、あの三人は少し鍛えなおしたほうがいいな。」
「そうですか?」
「勇気はそろそろ向こうの大陸に移って、ナイア女神の勇者らしく活動してほしいものだ。」
「ああ、そうでしたね。あんまり楽しそうにしているので、忘れていましたよ。」
「あ~あ。ウォルフは、なにか欲しいものはないのか?」
「私ですか?特には。」
「ふうん、そろそろ身の周りを世話してくれる人も必要だよな。」
「ええ~?」
「よし・いい子がいたらくっつけよう。」
「ちょ、ちょとおお~!」
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9章 難民の群れ3
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