大切なお義兄ちゃんのために皇帝になりましたが実弟と戦ったり臣下に惚れられたり色々と大変です。

米田薫

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第3編皇帝陛下と宗教改革

第8章楊玉環とブランコ

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私と楊ちゃんと姚崇で半仙の儀という行事に出席していた。
その行事は長い縄を高い木にかけ横木の両端をその二本の縄で吊り女の子がこれに座って揺り動かして遊ぶというものである。
その様な遊戯を「鞦韆(しゅうせん)」と呼び、その浮遊感から半分、仙人となった気分が味わえるため半仙の儀と呼ばれているらしい。
今は楊ちゃんが鞦韆に乗っていた。

私は横に座っている姚崇に尋ねた。
「楽しいから良いけど、この行事って一体どんな意味があるの? 遊んでいるようにしか見えないんだけど。」

姚崇は答えた。
「目的は、豊作の祈願ですね。美しい少女を鞦韆で天にいる神に近づけることで神に豊作を祈るのです。」

私は言った。
「そうなんだ。知らなかった。姚崇は博識だよね。なんでも知ってるよ」

すると姚崇は照れくさそうに答えた。
「いえ。伊達に年は取っておりませんよ。ところで、先程から楊玉環殿が鞦韆に乗られておりますが陛下は乗られないのですか?」

私は言った。
「私じゃ鞦韆に乗っても絵にならないでしょ」

それに対して姚崇が言った。
「陛下。見学をしている民は陛下が鞦韆に乗ることを望んでいるようですよ。」

私は姚崇に言われて遠巻きに儀式を眺めている民の方を見た。
すると民も気付いたのか何処からともなく声が上がった。
「陛下。陛下も鞦韆に乗ってくださいよ。」
「楊玉環様も美しくて良いが、やはり陛下の半仙の儀が見たいです」
「陛下は我々の都に咲いた華だ」

私は気恥ずかしくなって大きな声で言った。
「お前達。大好きだぞー。」

民達からは大歓声が上がった。
そして私は言った。
「だが鞦韆は無理だ。私は高いところが怖くてな。鞦韆は妃の楊玉環に任せようと思う。」

民は私の言葉に笑い声が起きた。
民達からは様々な声が聞こえてきた。
「それならば仕方がない」
「陛下にも苦手なものがあるのか」
「少し残念だがその分、楊玉環様の鞦韆を盛り上げよう。」

その言葉を聞いて、姚崇は私に言った。
「陛下。陛下はいつも華やかですな。私は長くこの国を統治しておりますが、この国の民がここまで祭りを好むとは知りませんでした。」

私は答えた。
「楽しい事が嫌いな人間なんていないよ。今まではただそのきっかけがなかっただけだって」

姚崇は感慨深い様子で言った。
「仰るとおりですな。しかし、私は今まで民にそのきっかけを与えてあげられませんでした。その点は反省しております。」

私は姚崇が立派に政治を行なっている事は身をもって実感している。
そこで姚崇の言葉を否定しようとした。
しかし、私が否定するより先に突然現れた狸の陸が、姚崇の肩に手を当てて言った。
「反省しなさい。私達兄弟がいまいち大成しないのもお前の責任だ。」

姚崇が突然の事に戸惑うと、海が言った。
「陸。お前も悪い。お前は狸である事に甘えてる。」

それを聞くと陸が言った。
「お前に言われたくない。李弘があんなになったのはお前のせいだ。」

海は反省した様子に言った。
「たしかに。俺がもっと構ってやれば良かった。」

すると姚崇は驚いた様子で狸たちに問いかけた。
「あなた方は李弘殿の成長に関係を持っているのですか?」

すると陸が言った。
「李弘って誰ですか?」

海が言った。
「じじい。ぼけたな。夕飯ならもう食べたぞ。」

姚崇は狸たちの要領を得ない話に戸惑った様子を見せた。
私は姚崇に言った。
「気にしないで。狸は適当言ってるだけだから。真面目に考えても混乱するだけだよ。」

姚崇は納得したようで頷いた。
するとそれまで黙っていた空が言った。
「俺。あれやりたい。」

空が見ていたのは、鞦韆に乗る楊ちゃんだった。
陸が言った。
「あれはなんだ?」

海が言った。
「凄い勢いを感じる。便乗したい。」

そして狸たちは楊ちゃんに近づいて行った。
そして空高くに飛ばされていった。

狸が去ると今度は李弘がやって来た。
李弘は私に言った。
「陛下。お久し振りです。陛下は鞦韆に乗られないのですか。」

李弘は私が高い所が怖い事を知っている。
だからあえて意地悪な質問をしてきたのである。
そこで私は言った。
「そのやり取りは先程やった。それよりお前はやらないのか?」

李弘は私の発言を聞いて苦笑いを浮かべた。
「男がやっても絵にならないでしょう。」

私は笑みを浮かべて言った。
「たしかにな。お前が乗ったら縄が切れてしまうからな。」

すると李弘は気分を害した様子で言った。
「そうですね。姉上と違い、私は身体がしっかりしていますから。ところで姉上。楊玉環殿は一体いつまでやっているのですか?」

私は李弘の発言で気付いた。
たしかに楊ちゃんは随分長い間、鞦韆に乗っている。
儀式の手順としてはこの後、巫女と交代して最終的に10人ほどがやることになっている。
そのため、楊ちゃんの鞦韆が長引くのは問題だった。

「たしかにまずいな。ちょっと止めてくる。」
私は李弘に別れを告げると、楊ちゃんを止めようと楊ちゃんの方を見た。
すると信じられない速度で、鞦韆を上下させ時折、一回転していた。

私は楊ちゃんに向かって行った。
「楊ちゃん。何でそんなに激しくやってるの? もっとゆっくりで良いんだよ」

すると楊ちゃんは言った。
「私は今、限界に挑戦しているの」

私は言った。
「あと、次がつかえてるからそろそろ終わらせてくれない?」

楊ちゃんは言った。
「嫌よ。私はね。今、空を飛んでいるの。もう半分、仙人なのよ」

私はそこで楊ちゃんが鞦韆に夢中になっていることに気付いた。
そこで言った。
「楊ちゃん。楽しいのは分かるけど一生、鞦韆に乗っているわけには行かないんだよ。来年もやるんだし、今日はこれ位にしときなよ。」

楊ちゃんは言った。
「嫌よ。こんなに楽しい物、世の中にないわ。私は一生、鞦韆に乗って暮らすの。」

楊ちゃんがあまりにのめり込んで鞦韆をやっている事は見学に来ている民にも伝わったようだ。
周りから親に鞦韆を作ってくれるようせがむ子供の声や、鞦韆の道具を買い揃えようとする大人の声が聞こえてくるようになってきた。
恐らくこの後、民衆の間で鞦韆は大流行するだろう。
楊ちゃんの美貌と無邪気さが生んだ奇跡とも言える。

しかし、物事には常に終わりが訪れる。
楊ちゃんの無茶な操縦に耐えかねた縄は軋みをあげていった。
そして楊ちゃんが渾身の一回転をした際、ついに耐え切れなくなり縄が切れた。
楊ちゃんは空を飛び、川に飛び込んだ。

儀式を取り仕切る官僚達は慌てて楊ちゃんを助けに向かった。
民達は楊ちゃんの見事な飛行に本当に仙人になったと盛り上がった。
私は、空を飛ぶ楊ちゃんを眺めながらこの楽しい日々がいつまでも続くと良いと人知れず祈りを捧げたのだった。
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