あの夏の影

秋野小窓

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日焼けあと

3:育海side

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 顔を上げたらキスされた。突然のことに頭が真っ白になる。

「なっ……な、何!?」

 やっとのことで正くんの胸を押し、体を離した。
 正くん……だよな?
 俺、暑さで頭おかしくなった?それとも、正くんの方がおかしくなってしまったんだろうか。
 本気で心配になり、表情を窺う。

 無表情で、ちょっと怖い顔をしていた正くん。
 俺の怪訝な目を見て、フッと笑った。

「育の好きって、こういう好きじゃなかった?」
「いや、……は?」
「違った?」

 違わない、けど。
 正くんの笑顔と言葉に、ブワッと顔が熱くなるのがわかる。返事をしなくても、正くんには伝わったらしい。よかった、と小さく呟いた。
 よかったって何だよ。意味わかんねえよ。
 俺、フラれるんじゃないのか?

「……この間デートしてた人は」
「デート?」

 しらばっくれるつもりかよ。まさか、二股する気か?
 いやいや、彼女がいるなら尚更、俺にちょっかいをかける意味がわからない。

「なんか仕事できそうな彼女だったじゃん」
「え、ホントに誰の話?」
「カフェにいただろ」

 しばらく首を傾げていた正くんが、「ああ」と声を上げて笑った。

「そうそう、育に報告があったんだ」

 ニコニコと続ける正くん。
 何、とぶっきらぼうに返す。

「結婚でもするのかよ」
「違うって。転職決まったんだ」
「……ふーん」

 それが何なんだ。話を逸らそうとしているようにしか感じなくて、返事もそっけなくなる。

「あれ、祝ってくれないの?」
「や、おめでとう」
「ありがとう」

 俺の取ってつけたような祝辞でも、正くんは満足そうに目尻を下げた。

「カフェで会ってたのは、転職先の採用担当の人だよ」

 え、それじゃあ……。

「デートじゃないよ。安心した?」
「……なんで隠してたの」
「隠してたわけじゃないけど。俺みたいな田舎者の信金職員が、30過ぎて東京の会社に採用してもらえるか自信なかったし。受かってから話そうかなって」

 照れくさそうに言う。正くん、テスト勉強全然してないって言いながら裏でちゃっかり勉強してるタイプだよな。

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