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秋野小窓

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【2】東京、その頃

2−6

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 想定外だったのは、たまき君の方から、こちらを意識し始めたことだ。
 手が触れれば顔を赤らめる。かと思えば、驚くほど無防備に、無邪気に甘えてくる。
 別れ際には、切なそうな目をする。彼は涙腺が弱いのか、いつも瞳を潤ませていて。そんな目で見つめられたら、いくらでもここにいろと言いたくなるし、彼が笑ってくれるなら、何から何までやってやりたくなる。

 距離の取り方、身の振り方を決めあぐねていた矢先、この人の残した爆弾に気づいてしまった。あの雨の日、いつまでも仕舞い込んでいるわけにはいかないかと開封した洋菓子店の包み。中にはご丁寧に、一万円が同封されていたのである。
 目の前で財布を出したのはパフォーマンスで、手土産の中に既に仕込んであったということだ。してやられた。
 手切金、ということだろう。もう息子に関わらないでくれ。父親からのメッセージに、時間差で苛まれることになるとは。

 もう、何も間違いが起こらないと胸を張って言うことはできない。
 罵倒され、泣かれる覚悟で突き放した。……たまき君は意外にも、あっさりと了承して帰っていったが。

 だからこそ、もうこの人に文句を言われる筋合いはないのである。
 目を細め、わざとらしく首を傾げて相手を見下ろした。

「何でしょう?息子さんならお望みどおり、追い返しましたが」
「え……?」

 顔を上げ、眼鏡の奥の目を見開いている。その反応を訝しく感じ、思わず眉根を寄せる。

「こちらに、お邪魔しているのでは……?」
「拉致も監禁もしていませんよ。家中隈なくご案内しましょうか?」

 何を疑われているのかと思い、つい喧嘩腰になってしまう。
 だが、こちらの無礼な態度など気に留める様子もなく、焦点の合わない視線を彷徨わせている。

「じゃあ、息子はどこに……」
「まさか、帰っていないんですか?」

 もう20時を過ぎている。いつもなら、夕飯時には帰らないとと言っていたのに。

「そ、そうなんです。電話も嫌がって出なくて……」
「他にお心当たりは?」
「家内が、学生時代の同級生の家にはあちこち確認してみたようなんですが……昨日までで、考え得るところはもう、」
「昨日?いつから帰っていないんですか?」

 今夜の話ではないのか。事の深刻さに気づいて、慌てて被せる。

「土曜からなので、6日……いや、7日目です」

 瞬間、目の前が真っ暗になり、すぐに怒りでいっぱいになった。そんなに日数が経って、なぜもっと早く知らせてくれなかった?
 何より、自分に腹が立った。ここへ来るなと言ったからだ。彼の居場所を奪ってしまった。こんなことになるなら、この親父に半殺しにされてでも、彼の手を離すんじゃなかった。

「……私も探します」

 奥歯を噛み締め、それだけ言うと、意外な要請を受けた。






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