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秋野小窓

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【3】おかえり

3−1

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<たまきside>

 パタン。軽い揺れと音で目が覚めた。
 車の窓から外を眺める。カーポートの屋根に切り取られた青空。帰ってきたんだ。

 シートベルトを外して起き上がる。

「ああ、起きましたか」

 外から助手席のドアを開けてくれた。鹿賀さんの手には俺の荷物。今着いたところのようだ。

 昨夜の荒い運転が嘘のように、今朝は静かな走りですぐに眠気が復活した。思い返してみれば、前に一度、実家近くのコンビニまで送ってもらった際も安全運転だった。やはり、昨日の鹿賀さんがイレギュラーだったんだろう。

 一週間ぶりの鹿賀邸は何も変わっていない。またこのドアをくぐれる日が来るとは思っていなかった。

「ただいま」
「オンッ」
「ラヴェル!」

 この家の賢い住人(住犬?)が主人の帰還を察知して出迎えてくれる。
 荷物を玄関に放置して、ラヴェルに近寄る。

「お腹を空かせているので気をつけてくださいね」
「そっか、ごめんな」

 抱きつこうとした俺の腕をすり抜けて、ごはんの定位置に向かって歩いていった。また後でゆっくり触らせてもらおう。

 ラヴェルのお世話を一通り終えてから、トーストとコーヒーを出してもらった。朝ごはんだ。この時間に鹿賀さんの家にいるのが、なんだか不思議な気分。

「少し食休みをさせてから散歩に行きますが、優太君はどうしますか?眠いなら、ベッドにご案内しますが」
「散歩!行きたいです!」

 いつもより睡眠時間は短かったが、車の中でも寝かせてもらえたから大丈夫だ。それよりも、久しぶりにラヴェルと散歩できるのか。朝にもお散歩の時間があるんだな。

 白い影を目で追っていると、クスリと鹿賀さんが笑った気がした。

「何ですか?」
「いえ、僕よりもラヴェルに会えたことの方が嬉しそうだなと思いまして」
「えっ!」

 そんなことない。昨日はびっくりして、何が起きたのか理解できなくて、戸惑いの方が前面に出てしまっただけで。

 嬉しいに決まってる。どんなに会いたかったか、鹿賀さんも知ってるくせに。
 昨夜、寝る前の甘い時間を思い出して、急に恥ずかしくなってきた。赤くなった俺を見て、

「ははは。優太はシャイだな」

なんて笑っている。

 無視してトーストに噛み付いた。余裕たっぷりな鹿賀さんに、何か言い返しても勝てる気がしない。

 ひらひら、と目の前で手を振られて。視線を上げる。

「お帰りなさい」
「……た、だいま……?」

 俺がただいまって言うのはおかしい気がするけど。おかえり、には、ただいま、だ。つられて返答すると、鹿賀さんは満足そうに微笑んでくれた。

 トーストを食べ終えて、向かい合ったままコーヒーを啜る。

「何かご実家に取りに行きたい荷物などありますか?」
「いえ。あれで全部です。……あ」
「ん?」

 東京の社宅からまとめてきた荷物。それが、あのスーツケース1個分だ。
 でも、鹿賀さんにはそのことも話していなかった。あれが今の全部の荷物だ、ということも、その前提を話していなければ伝わらないだろう。

 えっと、何から話す?
 ……っていうか、その情報いる?別に興味ないか。
 いや、でも、滞在期間のことを話すにも、休職については言っておいた方がいいよな?

 待てよ。俺、病気のこともちゃんと言ってない、よな。こんな話したら、嫌われる?
 鹿賀さん、「愛してもいいか」って言っていた。これから好きになっていいかっていうことだ。きっと、玲仕さんを忘れるために。
 後から知ったら、騙されたって思うだろうか。早く打ち明けてしまった方がいいはずだ。ただ、万が一、それならもういらないと放り出されたら……?

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