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秋野小窓

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【4】欲しいもの

4−9

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<鹿賀side>

 日曜の午後。犬用ブラシとおもちゃを手渡す。

「本当に、ここでいいですか?」
「はい」
「では、ラヴェルのことをお願いしますね。何かあれば携帯を鳴らしてください」

 父親との面会はこの家で行われることになった。顔を合わせたくなければと外出を提案したが、別室で待機していると言う。

 浮かない顔。
 手を握って眠った翌朝、「自分が同席しなくてもよいなら」と許可してくれた。前日まではかなり嫌がっていたのに、どんな心境の変化か、拍子抜けするほどあっさりと認めてくれたので驚いた。表情は決して肯定的ではない、今日も。

「……心配ですか?」
「すみません、大丈夫です」
「緊張しますよね。僕もです。でも、わがままを聞いてくれてありがとうございます」
「いえ……」

 伏せた目を全然合わせてくれない。無理に承諾を取り付けてしまっただけで、気持ちはついてきていないのだろう。早まっただろうか。

「念のため再度伺いますが、僕がいないところで親御さんから罰を受けるようなことはない、ということで間違いないですか?」

 返事をもらった朝にも確認しておいた。私から見た田牧父は虐待をするような人間には見えなかったが、外面はよくても家庭内では暴力を振るうような輩もいる。優太君が不安がる理由に、過去に手を上げられたようなことがあってはいけないと思ったのだ。

「はい、それはないです。あの……父がどんなひどいことを言ったかわかりませんが、俺にとってはそんな親ではないので」
「失礼しました。僕も何もひどいことは言われていませんし、決してお父上のことを悪く言いたかったわけではありません」

 ようやく顔を上げてくれた。真っ直ぐ視線を合わせてくれる様子から、その言葉に嘘はないのだろう。

「僕の印象と相違ないようで安心しました。何度も同じことを訊いてしまい申し訳ありませんでした」
「いえ、そんな。謝らないでください」

 優太君の声に重なるようにインターホンが鳴る。

「では、行ってきますね」
「はい」

 安心させるように、ラヴェルと優太君を撫でてから部屋を出た。
 ジャケットの襟を正してから応対する。

「お忙しいところ、お呼び立てしてしまい申し訳ありません」
「こちらこそ、先日はありがとうございました。鹿賀さんには、なんとお礼を伝えたらよいか……」
「いえ。どうぞ中へ」

 その場でお辞儀をしようとした田牧父を制して、リビングへ通す。

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