蒙古を倒したのに恩賞がない!?故に1人の女と出会い、帝王が支配する異世界へと赴く。

オオカミ

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48 玉座の間

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 バサァァァァァァ。

 イズルは小竜に乗って帝国へと戻っていた。
 下には道が続いていた。

 グレートロード。

 「より多くの種族がこの広い世界を知り、1つとなるために」

 そのために初代帝王が作った、ノム国から始まり海を越えて我が帝国へと続きそしてセレーネ国へと終わる一本道。

 幼い頃、一度家族と共に馬車に乗って、そのグレートロード進んでセレーネ国を訪れたことがあった。
 セレーネ国の王族が出迎え、そこに1人の自分と同い年の少女が自分を出迎えてくれた。

 お互い恥ずかしそうにしていたが、見せた笑顔に嫉妬感を覚えたことがあった。

(何を思いだしているんだ)

 思い出を消してイズルは館へと降り立った。

「お帰りなさいませ」

 大勢の指揮官がイズルを出迎えた。

「準備は進んでいるか?」

「国中から兵を集めております。さらに帝王様の命により多くの同盟国も兵を集めております。2週間後には100万の兵力となるでしょう」

 指揮官の1人が頭を下げ続けイズルを見ることなく応えた。

「ビクトリア港では兵を乗せる船団500隻が出港準備をいたしております。ハサルト海ではすでに我が帝国艦隊50隻が敵艦隊を打ち破るため全速力で航行しております」

 別の指揮官が頭を下げ続けイズルを見ることなく応えた。

「帝王様・・・皇后様から、こちらを預かっております」

 一番奥にいた従者がイズルに紙で出来た小箱を渡した。

「・・・・・・」

 イズルは小箱を受けとると正面玄関から中庭へと続く回廊を歩き玉座の間へ入ると玉座に座った。

「・・・・・・」

 玉座の間には自分しかいない。
 沈黙しか流れない空間に自分1人だけが玉座に座っていた。
 
 イズルは甲冑を着たまま玉座に座って初代帝王より受け継がれし、『暁』を見ながら母上が送ってきた紙で出来た小箱を開け、中にあったものを一切れとると口の中に入れた。

 それは、卵、砂糖、小麦粉を使って作った黄色い正方形のお菓子で上が茶色く焼かれていた。
 あるロード商人が旅の途中、とある冒険者から教えてもらったそうだ。

 それを少女だった頃の母が食べて感激して作り方を教わり、自ら作り、そして自分たちが生まれたとき母は自分たちのために作ってくれた。

 初めてそれを口に入れたときのふるふるした食感に大きな感動を覚えた。

 母が作ってくれたそのお菓子を兄と姉と一緒にフルーツなどをはさんで喜んで食べていた。

 今でもフレット湖畔の邸宅から送ってくる。

「ごほっ!」

 胸が少し苦しい。
 口の中で血の味がする。

(あの時のように食べることは出来ないのか・・・)

 そう思いながらイズルは母が送ってきたそのお菓子を口の中に入れていた。

「帝王様、ベルガ宰相がお戻りになられました」

 自分しかいなかった玉座の間に従者がやって来てベルガの帰りを報告した。

「連れてこい」

 イズルがそう言うと従者は一度退室。

 イズルは部屋を見渡した。

 壁には初代帝王が世界中の画家や彫刻家を集め絵やレリーフが描かれている。

 「この部屋を世界で彩る」という初代帝王の意向のもと作られた。

 だがこの部屋はおろか世界中に初代帝王の銅像も肖像画もいっさいない。

 初代帝王はこうも言っていた。

 「大切なのは未来を作ること。その世界に我は不要」

「ただいま戻りました」

 しばらくしてベルガがやって来た。
 イズルに『皇条』に基づきセレーネ国の処遇を任されたベルガが片膝を付いてお辞儀した。
 
「これを見ろ・・・」

 イズルはベルガに『暁』を見せた。暁の鞘に笹竜胆が描かれ、その左に三日月が描かれていた。
 かつて、帝国が自らの領土としている地に戦乱時代にもっとも領土を広げた王国があった。
 その王国はセレーネの土地を奪おうと当時のセレーネ国の王を暗殺し、軍を送り込んで自分の領土にしようとした。

 セレーネ国は世界中から探した。
 我が国を救ってくれる人物を。

 そして見つけた。
 当時、冒険者だった初代帝王がそれを引き受けた。

 初代帝王は、セレーネ国に潜んでいた暗殺者を殺し、セレーネ国1万の軍を率い進軍した。

 初代帝王が選んだ道は10万の敵が想像していなかった道、セレーネ国の北にあるカスラ山脈。

 険しい道のりに踏破不可能と言われた道を初代帝王は踏破した。10万の敵の背後にあった敵の補給地でもあった村を襲い、食料を略奪した。

 報を聞いて慌てて引き返し、夜初代帝王の野営の灯を見た10万の敵はそこに向かって攻撃した。

 だがその光はおとりで伏せていた初代帝王の軍勢に背後から攻撃され10万の敵は指揮官を討ち取られ、軍勢は乱れ敗走した。

『カスラ山脈の奇跡』

「それによって後に初代帝王はセレーネ国と約束を交わしました。我がアカツキ帝国はセレーネ国を守り、セレーネ国は国産品であるトレースドにある宝石の中でも最上級のいや、世界でも最高と言われる『月の結晶』をアカツキ帝国のみに献上しておりました。
 それこそアカツキ帝国とセレーネ国の友好の証。それをその鞘に描いております」

「初代帝王は、戦って戦って多くの者達から信頼を得て、この世界の頂点に立った。俺は・・・」

 イズルはそこでいったんしゃべるのを止めた。

「セレーネ国はどうなった?」

 ベルガに自分が引き上げた後、セレーネ国をどうしたか尋ねた。

 ベルガは表情を変えず冷静に言った。

「0部隊を置いておきました」

 その言葉にイズルの顔が曇った。

「世界の平和のため、皇条18条に基づきセレーネ国を滅ぼしました」

「滅ぼす必要があったのか!?」

「ございました」

 ベルガは2通の文をイズルに渡した。

「本来ならば、もっと早くお見せするべきでしたが、帝王は他のことで忙しく、これだけではあまりにも情報が乏しかったのでしたので真相を突き止めてから、お伝えしようと思いました。ようやく突き止めました」

 内容はホリー国がセレーネ国に一通の親書を送ったことだった。内容はアカツキ帝国の各国に対する近頃の対応に対してであった。

 ―セレーネ国、フォレス国王にお尋ねいたします。
 昨今のアカツキ帝国の振る舞いにおいて我がホリー国は見過ごせぬものを感じており、事と次第によっては各国との連携を図り、アカツキ帝国の横暴に対して断固たる行動をするべきであると考えております。
 それにつきましてセレーネ国はどのようにお考えかお聞かせください。
 そして、セレーネ国が我が国と同じようにお考えであれば、是非とも我ら同盟に加わりますようお願い申し上げます。

 イズルは2通目の文を見た。
 内容はセレーネ国内の家臣達に聞いた結果、セレーネ国がホリー国と軍事協定をも結ぼうとしていたことが判明したという内容だった。

「我らに楯突く者共らと戦争が始まる時、もし、セレーネ国が『月の清水』を何者かに飲まし、その者を英雄にすれば、敵は勢いづき、我らは負けるやもしれません。・・・人がどこまでも側に居るとは限りません・・・」

「・・・・・・」

 イズルは胸をおさえた。 
 苦しい。

「帝王様の心境お察しいたいます。かつて初代帝王も苦しい思いをしたでしょう。ですが初代帝王はそれらを乗り越えてこの偉大な帝国を築き上げたのです。その道を今度はあなたが歩むのです」

「・・・・・・」

 イズルは返事をしない。
 痛みに耐えていた。
 
 初代帝王は同じ痛みを味わっていたのだろうか。
 イズルは拳を握りしめ、口を強く結んだ。

 ベルガは静かに待っていた。

「・・・お前は俺に忠誠を誓うか?」

「初代帝王の頃より、私は忠誠を誓っております」

「お前を信じる」

 イズルがそう言うとベルガは深々と頭を下げた。そして頭を上げるとイズルに告げた。

「私はデカル荒野へ赴きます」

「なぜだ?」

「港街アロで武士を見たという情報が入りました」

「どこに居る!」

「アルブの森へと向かったという報告を最後に情報は途絶えました。何故彼はアルブの森にいったのか?考えられるのは・・・」

 イズルは『暁』を見た。

「そう、最強ノ太刀を作ろうとしている。その後消えた武士の情報は再びアロで見たという報告が入り、彼は船に乗って旅立ちました。セレーネ国の方角を目指したそうです」

 その報告にイズルの心臓が高まった。

 覚えているぞ。

 イーミーの森で【覚醒(アウェイクニング)】をまとっていた自分を組み伏せたこと。

(手に入れたのか?)

 奴は初代帝王と同じ道をたどり、唯一無二の最強である『暁』と同じ太刀を手に入れたのか。

 その太刀を誰に振る。

「私は我が直属隊を率いて、デカル荒野にある私が築いたデカル要塞で情報を集めます。その武士が生きているのか、我らに弓引くかどうか・・・調べて参ります」

 ベルガは頭を下げると、王室から立ち去ろうとした。

「待て!」

 イズルが呼び止めた。
 イズルは自分が持っていた報告書をベルガに見せた。

「なんと・・・ジン国の軍隊に姉上がいる!?ジン国に送り込んだ間者がもたらしたのですか?」

「ジン国に行く」
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