蒙古を倒したのに恩賞がない!?故に1人の女と出会い、帝王が支配する異世界へと赴く。

オオカミ

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49 帝国の刺客

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「みんな・・・」

 ルナどのが大粒の涙を流している。
 守りたくて、必死になって修行して強くなって戻ってきたときにはもうそれはなくなっていた。

 よくルナどのが某に国のことを話していた。

 父や母のこと。
 友人のこと。
 民のこと。
 美味しい料理のこと。

 よっぽど好きだったのだろう。
 笑顔で話していたその顔が涙で溢れている。

(ちきしょう!)
 
 某も悔しかった。
 今まで某を支えてくれたルナどのの依頼を果たしたかった。
 そのために自身を鍛え、四聖獣の素石を手に入れ、最強の太刀を作った。

 そして目の前にあるこの光景。

 川が流れている。
 ここは砂漠の中にあるはずなのに蒼い小舟が何隻もあり、砂漠にいながら水の世界にいるような錯覚を与える。

 ルナどのが申していた。

 自分の国はトレースドの中に出来た巨大な湖の中に作られた。
 街の周りは湖が囲み、街の中は湖の水が川のように張り巡らされている。
 小舟に乗って自分の国を見て回るのが好きなのだと。

 川の両端に橋がかかり周りには色とりどりの建物が緑と共に並んでいる。
 上空には砂漠の中にいたときには「蒸し焼きにするのか?」と思えていた太陽が街を輝かせていた。

 その街の中にある道をすすんだ先に大きな広場に我らはいる。
 
 崩れ落ちた建物。

 無力感に浸るにはまだ早い。

「ルナどの・・・」

 某はルナどのの側に寄った。

「一人にしてください」

「いや、そうも言ってられん。立たれよ。早く!」

 某はルナどのの腕を掴むと、ルナどのを広場の端の建物に避難させた。
 某は太刀を握った。
 広場のど真ん中にあえて敵に見えるように1人で立った。

 何者かが某を見ている。
 いけ好かない匂いを放ちながら建物に潜んでいる。
 ここに立っている我らはさしずめネズミ。

 そう思っているんだろう。

「下らねえこと考るな。とっとと姿を見せて、この首を飛ばせるもんなら飛ばしてみろ!」

 ダァン!

 殺気を感じた。
 背後から影が某を襲う。

 ザン!

 屋根から飛び降りた1匹の魔物を斬った。
 フードをかぶった魔物は素石に変わった。

「もう一度言う。下手な不意打ちなど無駄な事だ!」

 ドオン!

 大きな影が屋根から飛び降りてきた。

 ギュリリリリ!

 大きな鎖が某を襲った。
 先端がとがっている。

 巨大な鎖分銅か。

 某は交わした。
 巨大な鎖分銅は石で出来た地面を深々とえぐった。

 眼前に大きな1つ目の魔物が立っている。

「お初にお目にかかる・・・我が名はサイクロプスのカトスと申す」

 まるで黒い影が、大きな目玉が1つあるかのように巨体を隠す黒いフードの奥から大きな塊の1つ目が見える。

 某は柄に手を近づけた。

 ドオン!

 一瞬にして目の前に鎖分銅が襲ってきた。
 躱した。

「ほっ、やはり鍛えてると違うようだな」

 フードを脱ぐと、二の腕に矛に突き刺さった生首の入れ墨が見えた。

「あれは、0部隊!」

 ルナが叫んだ。

「ぜろ部隊?」

「0部隊は反乱を起こした国、人物を消し去るために最後の後始末をする帝国宰相の直属部隊です」

 ルナがふるえていた。

「なぜ?わたしたちは帝国と約束を交わしていたはず。私たちは貴方達に・・・貴方達だけに!我が国の宝である『月の結晶』を送っていた。そして・・・貴方達は私たちを守ってくれていた。私たちは貴方達に刃向かうつもりなど無かったのに・・・」

 ルナが震える声でカトスに尋ねた。

「帝国からの命だ。この国が我ら帝国に反乱を起こそうとした。故に正当に裁いた」

 カトスが答えた。

「だが民は生きている。安心しろ」

 カトスが鎖を蛇ごとく動かした。その鎖の先端がルナを食らいつきたいようにルナの眼前で動いている。

「わたしの民はどこにいるのです?」

 ルナどのが杖を思いっきり強く握った。

「まずは我らの管理下にある」

「解放しなさい!」

 ルナが杖を構えて呪文を唱えようとした。

 カトスが鎖を振り上げた。
 巨大な鎖がルナどのの顔面を襲った。

 キイイン!

 某が弾き飛ばした。弾かれた鎖はまるで意思があるように、カトスの手元に戻った。
 悪辣な鎖の攻撃から悲しみの涙から怒りの涙を流す綺麗な顔を守った。

「ルナどの己の怒りに負けるな!」

「は、はい!」

「周りに気をつけよ!」

 ルナどのにそう言うとカトスとの間合いを詰めようとした。

 シャア!

 巨大な鎖の先端が某の足下を狙った。

 間一髪避けた。
 間髪入れず、鎖が某の顔面を狙った。

「帝国が1人の武士に警戒していた。お前だ!」

 まるで無数の蛇に襲われているかのように鎖があらゆる角度から攻撃してくる。
 足下を狙った鎖を避けると、今度は背後からとがった先端が心臓を貫こうとする。

 某は今まで鍛えた感覚を研ぎ澄ました。

「むん!」

 スパアアン。

 某は太刀を振った。
 太刀は鎖の先端にあたりカトスへと跳ね返った。

 カトスは鎖の先端を見た。
 先端は真っ二つになっていた。

「極鋼鉄の鎖が切れた?」

 カトスは虎吉の太刀を見た。
 白い刀身に4つの波紋。

「まさか!?」

「おまえの帝王も同じ太刀を持っていたな。某も持っているんだよ」

 カトスの一つ目の瞳孔が大きくなった。
 『黄金の日輪』の時に武士が来たというのは知っていたが、まさか帝王と同じ太刀を持っていたのは驚きだった。

「今なら逃げれるぞ。逃げるなら逃げろ」

 某はサイクロプスに逃げる機会を与えた。
 ルナどのには憎き仇に間違いないが、こいつを倒してもこの惨状はもはやどうにもならない。

 某は全身から黄金の覇気を出した。

 その光景にカトスはますます驚いた。

「そして帝王に伝えろ。お前の力でもう一度、セレーネ国をよみがえらせろ」

「帝王に伝えろ?」

 カトスの瞳孔が広がった。

「くっ、はっはっはっ!」

 カトスが笑い出した。

「帝王と同じ太刀を持って、世界の覇者気取りか?そういうのは状況を知ってから言うべきだ」

 カトスが別の鎖を取り出した。
 鎖はゆっくりと回り始めた。

「偉大な力を手にして、帝王になりたいか?だがお前に、その先は歩めない」

 カトスの一つ目に謎の模様が浮かび始めた。

「砂漠に奥深くに眠る太古の水よ・・・我の声を聞き・・・」

 後ろでルナが調和魔術を唱えた。

「おっとかけるな!本気で我らを倒したら、セレーネ国復興の道のりは完全に途絶える」

「え?」

 カトスが謎の言葉を発した。
 その言葉にルナどのが唱えようとした調和魔術の呪文を止めた。

「今から、お前たちに帝国からの命令を伝える。心して聞け」

 カトスの目が周りを見た。

「ルナどのどこかに身を潜めろ!」

 ルナどのに身を隠すよう言った。
 ルナどのは建物のがれきの中に隠れた。

「・・・隠れやがって・・・」
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