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53 古の生き残り

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「この先には行けねぇな」

 宿に戻って、一晩過ごした後、この先へ向かおうと思った。
 その事を宿の主に言うと、こう言われた。

「どういう意味だ?」

「今、帝国は臨戦態勢に入っている。素性の知れない冒険者が下手に近づこうものなら殺されるぜ。この先にいる部隊が何だと思う?」

「何だ?」

「宰相直属隊だ。3000名いる」

「宰相直属隊?」

 その名を聞いて思い出した。
 たしかロベルトがバート艦隊でわざわざここまで来たのは、ジン国の支援のために来たと言っていた。
 そしてロベルトはサハリから聞いたその宰相とかいう男のことを言っていた。

 サハリが宰相の正体を知りたがっていると。

「帝国が何を考えているのか分からねぇ。だが、この先に宰相がいるのは間違いない。そこら辺の宿で一泊したらとっとと帰れ」

 主はそう言って我らから離れた。

「ルナどの、宰相直属部隊はそうとう強いのか?」

「めちゃくちゃ。宰相直属隊は3000名の部隊で3万の兵力に匹敵すると言われています」

「10倍の強さ。大げさだな」

「大げさではありません!実際、宰相直属隊が戦った記録は数の上では劣勢のはずなのにみんな勝っているのです。なぜならば直属隊には強力なモンスター達もいるからです」

 ルナどのが真顔で言った。

 この先に帝国宰相の屈強な部隊が立ちはだかっている。

「その3000名相手に【覚醒(アウェイクニング)】で戦えるか?」

「さすがに無理だと思います。かつて初代帝王が5万の敵を【覚醒(アウェイクニング)】で撃退したことがありますが、その時は初代帝王の【覚醒(アウェイクニング)】で士気が上がった5000の兵もついていたらしいです」

「まいったな・・・」」

 どう考えても某とルナどのだけでは無理なようだ。

 4代目のやろう、自分が強いだけじゃ無くそんな部隊を持っている重臣まで側にいるのか。

「我らも兵を集めることは出来ないのか?」

 ロベルトがまたうらやましく思えた。

「うーん、冒険者達が協力してくれれば良いのですが・・・」

 この宿の中にいる冒険者達を見た。
 みんな眼をそらした。

「でよう・・・」

 我らは宿を出た。
 宿の向かい側の壁に武装した10名ほどの男共らがいた。

「お主らは傭兵か?」

「俺たちは冒険しながら依頼をこなす傭兵集団だ」

 いかにも歴戦の強者という風体だった。

「数はこれで全部か?」

「いや、この先に300名いる。数が多いんで向こうで野営している」

「戦の請負もするのか?」

「当たり前だ」

「宰相直属隊とも戦うのか?」

「何言ってんだ?」

 男の顔色が変わった。

「宰相直属隊なんて戦えるわけが無いだろう。何だお前?何を考えている?」

「おい行こうぜ。こんな奴、相手にするな」

 傭兵達はそう言って去って行った。

「まいったな・・・」

 ここまでやってきて、この言葉しか出てこない状況になってしまった。

「手を貸そう」

「お主は!?」

 先ほどの傭兵達よりも歴戦の風格を持った者が立っていた。

 人狼のダガーだ。

「『我らの王』に言われた。選りすぐりの500名の俺たちの戦士がお前らに力を貸す」

「まことお主らが力を貸してくれるのか?」

「お前はアルブティガーと一騎打で倒した強者。我らもお前の強さを認めている。強者の力になるのは光栄だ」

「ありがたい!」

 ダガー達の協力を得た。
 人狼達はデカル街の外れの荒野で野営しているらしい。

 ダガーに案内されて向かった。

「「「おー、お前がアルブティガーを倒した強者か!」」」

 大勢の人狼達が某に集まってきた。

「ちょうど肉が焼けたところだ!こっちに来て喰え!」

 人狼達に引っ張られ野営に真ん中に座らされた。

「ほい、ここら辺にいるゴーキの肉だ」

 1人の人狼が、木の棒にくくりつけた魔物の肉を切り取り、短剣にさして某に渡した。

 某とルナどのは人狼達の温かく迎え入れられ、共に食事をし、食事の後は用意された寝床についた。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 朝。

 『テント』と呼ばれる布の中から這い出た。
 すぐに隣のテントからルナどのが這い出てきた。

「ルナどの気分は?」

「大丈夫です!」

「「「おお、出てきた!」」」

 某とルナどのがギルドハウスから出てくると500名の人狼が待っていた。

「『我らの王』からお前に渡せと言われた。宰相直属隊は俺たちが引きつける。その間にこの場所へ向かえ」

 ダガーから一通の文と地図を貰った。

「ここは?」

「4代目の母がいる場所だ。お前が探してる人物はそこの屋敷に住んでいる」

「かたじけない」

 我らは人狼達と離れ、その4代目の母がいる場所へと向かった。

「お前ら、今から狩りに行くぞぉ!」

 虎吉とルナを見届けたダガーは仲間に号令した。

「「「ウォオオオオオオオ!!!」」」

 雄叫びと共に人狼達は戦場へと赴いた。

「あれか?」

 遠くから屈強なモンスターどもらが立ちはだかっていた。

「前から思ってたんだよ。外の世界から耳に入ってくるどこぞのモンスターの強さ。あれ本当かどうか確かめたかった」

「確かめようじゃねぇか。行くぜ!」

 宰相直属隊と人狼部隊がぶつかった。

 一匹のサイコベアが巨大な爪でダガーを真っ二つにしようと振り下ろした。
 腕に短刀を巻き付けて装着する独特な武器を持っていたダガーは躱した。

 サイコベアは間髪入れず2発、3,4発と振り回したがダガーは躱しまくった。

「ガア!」

 いらだったサイコベアが巨大な口を開けてダガーにかみつこうとした。
 その瞬間を狙ってダガーはサイコベアの口から後頭部へと刃を貫いた。

「俺たちはなアルブティガーだって仕留めてるんだよ。お前らを狩るなんてわけねぇんだよ!」

 サイコベアを倒したダガーが叫んだ。
 それに人狼達の士気が高まった。

 敵は困惑した。
 人狼部隊の戦闘力が自分達を押している。

 ダン!

「アルブティガーがどうした?」

 両手に倒した2匹の人狼を持っていた巨大なオーガがダガーの前に立ちはだかった。

「オーガか!?俺と一騎打ちしろ!」

 ダガーはオーガに突進した。
 オーガが剛剣を振った。
 ダガーがその剛剣をたたき折り懐に入ってオーガの顎に一撃を入れようとした。

 オーガはその拳をつかむと、握力でダガーの刀を折り、ダガーを軽々と持ち上げ、思いっきり地面にたたきつけた。
 ダガーは全身を強打して立てなかった。オーガはダガーの頭をつかむととどめを刺そうとした。

 ガッ!

 ダガーがオーガの喉に噛みつき、オーガの喉を切り裂こうとした。

 だがオーガの喉は硬く、簡単に切り裂けなかった。

 オーガがダガーの頭をつかみ強力な握力で引き離そうとした。
 だがダガーが離れず、だんだんオーガの喉から血が流れ出した。

 そしてついにダガーはオーガの喉を噛みちぎった。

「見事だ。人狼・・・」

 オーガを倒し、再び地面に倒れたダガーの前に、ベルガが現れた。
 そして動けないダガーを短剣で刺そうとした。

「よう、元気だったか。俺が相手しやるよ」

 マカミが現れた。

「おい、お前ら!ダガーを連れて避難しろ!・・・さて」

 人狼達に伝えると、良い獲物がいるという目つきでベルガを見た。

「貴殿は魔法の力で200歳以上生きていると聞いた。何のために長生きしている?」

 嫌な奴が来たようにマカミをにらみつけた。

「ギケイがね。ある噂を聞いて心配してたんだよ」

「その噂とは。古の強者たちは皆、死んだと言われているが、今でも生き残ってる奴がいるんじゃないかという噂か?」

 この世界にとある噂があった。

 この世界には戦、冒険、歴史において様々な伝説を残した者達がいた。その逸話はどれも後世に生まれた者達にとって憧れの話だった。
 後世の者達は想像した。
 そしていつしかこんな言葉を口にするようになった。
 
 彼らは魔法を使ってまだ生きていると。

「お前、特にそうだろ?」

「何が言いたいのだ?」

 ベルガの身体が震えだした。
 マカミは眼を大きく見開き、犬歯をむき出しにした。
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