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57 ロベルトの最期

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「・・・あなたは私に何をしてほしいのですか?」

 震える身体を抑えようと深く息を吸い、アイネは妹に尋ねた。
 妹は持っていた小太刀を抜いてアイネに差し出した。

「これで自害しろ・・・」

 恨みを込めた眼で私を見ている。

 幼い頃、ずっと自分にくっついてた可愛い妹。
 あのときの可愛かった眼が完全に消えてしまっている。

 今、あるのは異様に強さを見せつけようと輝く瞳。

「私があなたをそんな風にしてしまったのですね・・・」

 その妹を見たアイネは小太刀を受け取った。

 深い絶望を感じながら小太刀を抜いた。

「確かに私は逃げました。世界を治める器から。私にとって、ホリー国の国民の中からリーダーを選ぶ思想は理想でした。でも・・・・・・それは帝国を潰すためではない・・・帝国を支える新たなる力を作るために・・・だから!」

 アイネは小太刀をイズルに向けた。
 自分の意思を貫く強い瞳を妹に向けた。

「あなたを暴君にはさせない」

「良いだろう・・・」

 イズルが太刀を抜いた。
 そして太刀を振り上げた。

「さらばだ、姉上・・・」

 太刀を振り下ろそうとした。

「ウゥオオオオオ!」

 ロベルトがイズルに向かって突進してきた。

 ガン!

 ロベルトの強烈な【剣撃(ソードアタック)】の一撃をイズルは『暁』を片手で握っただけで軽々と受け止めた。

「お逃げくださいアイネ様!あなたはまだ死んではならない!」

「ロベルト!?」

 額から血を流し、そのせいで片目が見えなくなったロベルトがアイネを守ろうと、イズルに立ちはだかった。

「帝王、俺との勝負はまだついていない」

 ロベルトが必死に剣を振るった。

 ガィィン!

「ぐっ!」

 イズルの水平に払った刃はイズルが手に入れた最強の力と共にロベルトを吹き飛ばした。

 自分より小柄な一撃に敵にロベルトは体勢を崩された。
 だが、それでも剣を構え直した。

「むん!」

 突きを入れた。
 イズルは躱した。

「俺はアイネ騎士団、団長ロベルト・ベッカーだ。アイネ様を守り抜く!」 

「騎士道精神というやつか?こざかしい!」

 イズルが下段から太刀を振り上げた。

 ガイン!

 黄金の閃光が四方に飛び散った。

 腕が震えるほど必死にイズルの太刀を受け止めた。
 そのままイズルの胸に【剣撃(ソードアタック)】の力でイズルの胸に甲冑ごと突き刺そうとした。

 バン!

 イズルが太刀でロベルトを振り払った。
 そして再びロベルトに一撃を入れようとした。
 ロベルトは、その一撃をもう一度受け止め太刀を奪おうとした。

 ガン!

 腹に柄頭の強烈な一撃を食らった。

「貴様如きが対等に張り合えると思うな!」

 旅をしてアイネ様が鍛え上げた極上の【剣撃(ソードアタック)】だ。
 己自信も強くなった。
 その一撃は、今までどんなモンスターも倒してきた。
 その力を振り絞って帝王に強烈な一撃を素早い動きで何発も入れた。
 だが、敵は軽々と捌いている。

「無様だな!」

 イズルが打ち返す。
 ロベルトは必死に防戦した。
 力の差は歴然としていた。

「ヒノ・・・ロベルト・・・」

 ロベルトが必死になって戦っている。

 私に「逃げろ」と言って戦っている。

 ロベルトの言葉通り逃げようと思ったが足が動かない。
 妹と共に旅をしてきたパートナーが目の前で戦っている。

「はぁはぁ・・・」

 ロベルトの呼吸が荒い。

 イズルが太刀を脇構えに構えた。
 ロベルトも剣を水平に構えた。

「これで、終わりだ」

 イズルがロベルトに言った。

「いや、終わりでは無い。お前が倒れたときが、終わりだ」

 ロベルトがアイネを見た。

「アイネ様、このロベルト。あなたの騎士になれたことを光栄に思います!」

 ロベルトが動いた。

「いけません!」

 アイネが叫んだ。

「アイネ様、未来を作るのです!サハリ様にいただいたものを!」

 ロベルトが最後の力を振り絞って剣を振った。

 バキィ!

 イズルがロベルトの剣を折った。
 
 『暁』の切っ先がロベルトの心臓を狙った。

「ロベルト!」

 アイネが奥歯を噛みながら魔方陣が描かれた札を1枚高々と上げた。

 キュイイイイン。

 大きな音が聞こえた。
 アイネの足下に魔方陣が出現した。
 その魔方陣から光が放射され、アイネを包み込んだ。

 シュィイイイン。

 アイネは戦場から消えた。

 ザス!

 イズルの刃に血がついている。
 『暁』はロベルトの甲冑を貫き彼の心臓を貫いた。

 ドン・・・。

 ロベルトが光に包まれた。
 真っ白に輝く汚れ無き綺麗な素石が現れた。

 イズルはその素石を手にした。

 残った敵を見た。
 半分は逃げ、半分は逃げることも出来ず、立ち尽くしている。

「お前たちは誰に従う?俺か俺の敵か?」

 そう言ってもう一度周りを見た。

 姉がいない。

「また・・・逃げた・・・」

「「「帝王様」」」

 ジン国の軍勢を倒したイズルに、臣下達がやって来て深く頭を下げた。

「お見事でございます!・・・それと、先ほど報告が入りまして・・・」

「・・・・・・」

 イズルは返事をせずうつむいていた。イズルは大きく胸を動かし臣下達を見た。

「どうした?」

「帝王様が探せと仰せになられた武士ですが、デカルの街で見たというのを最後に、一切途絶えております」

「途絶えた?」

「はっはい・・・」

 あの武士が消えた。

「デカルにはベルガいるはずだ。ベルガはどうした?」

「宰相は・・・デカルの地で戦死いたしました・・・」

「何だと・・・」

「「「は、はい!」」」

 臣下達は震えながら応えた。

「ベルガが・・・」

 ベルガはあの武士に倒されたのか。

「帝王様。い、いかがなさいましょう?」

 臣下達が尋ねる。

「問題ない」

 イズルが小竜に乗り上空へと飛んだ。
 イズルの眼下に大勢の兵達が見える。

 イズルは『暁』を高々と掲げた。
 全身から黄金のオーラを放ち太刀を振った。
 大きな轟音と共に風が兵達の間を駆け抜けた。

 イズルは兵達に高々と宣言した。

「世の中はもっとも強きものが治めてこそ、平和が保たれる。それができるのは我が帝国をおいて他にない。世界はこれからもアカツキ帝国のもとで治められる!」

「「「おおー!」」」

 イズルの声に大歓声が鳴り響いた。

「お見事です。このバルドどこまでも帝王様に忠誠を誓います!」

 バルド将軍は4代目に大声で告げた。

 帝国復活への道は歩き出した。

(奴はどこへ行った?)

              *       *       *

 イーミーの森で、サハリが杖を持って戦場の方角を眺めていた。

「ギケイ、あんたが死ぬ前に言っていたね。自分は多くの国々の戦を終わらせて、世界を一つにしたと」

 サハリが古びた冒険者パスクーブを見ていた。
 かつてこのカードを持って、ギケイと共に世界を旅したことを思い出している。

「だが、その裏で数々の戦を行い、多くの恨みも買いそれがいつの日か業として、帝国に返ってくると」

 大魔術師サハリが、かつて友が言った言葉を思い出している。偉業を成し遂げた友が最後に心配していたこと。
 今、その心配していた事が起きている。

 サハリは杖を強く握った。

「マカミさんも動いている。あんたと約束したからね・・・」
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