蒙古を倒したのに恩賞がない!?故に1人の女と出会い、帝王が支配する異世界へと赴く。

オオカミ

文字の大きさ
59 / 65

59 裏切り者たち

しおりを挟む
「動くなよ」

 1匹のスケイブンがゆっくりと現れた。
 それに続いて10匹武装したスケイブンがジャックとアイネを取り囲んだ。

「ジャック・ハラル。アカツキ帝国への反逆の罪で、逮捕する」

 最後に、1人の老人が現れた。

 アラン卿である。

「反逆者?ここは帝国じゃないぞ。ここはホリー国だ。それに戦争を仕掛けたのは帝国だろう!もう帝国に尻尾を振るとは、恥を知れ!」

「どのみちお前達は反逆者だ。私は今のうちに反逆者を狩って帝国に恩を売る。来たるべき未来の現実のためだ」

「きさま!」

「おっと動くな。あれを見ろ」

 スケイブンの隊長が指さす方を見た。

「アイネさん!」

 アイネの後ろから弓を構えた別のスケイブンが現れた。
 鏃はアイネの頭を狙っていた。

「お前が変なことをしたら女の頭に矢が串刺しになるぜ、チュ、チュ、チュ」

「きさま・・・ん・・・ぐ!」

 アラン卿がジャックの膝を蹴った。
 ジャックは膝をついてしまった。

「恥を知れだと?・・・お前こそ現実逃避を恥じろ!」

 アラン卿は手を動かせないジャックを蹴り倒し、何度も何度も蹴った。

「チュ、チュ、チュ、さぁて・・・」

 スケイブンの隊長はアイネに近づいた。
 アイネの顔をじっくりと見た。

 アイネが嫌な顔をした。

「ほぉ・・・こいつは上玉だ。おいお前ら!このまま帝国に渡すか?」

 隊長が皆に聞いた。

「「「隊長、それはもったいないですぜ!」」」

 皆、反対した。

「というわけだ・・・」

 隊長が舌なめずりした。
 アイネが顔を背ける。

「顔を背けたって無駄だ。お前に自由はない。俺達がお前を自由に扱う」

 その言葉にアイネが向き直った。

「ふざけるな・・・私を誰だと?」

 アイネが自分を辱めようとするケダモノをにらみつけた。

「女王様だとでも言いたいのか?チュ、チュ、チュ・・・」

 スケイブン達は笑った。

 ガッ!

 その隙を突いた。
 矢で自分を狙っていたスケイブンを自分専用に作った杖の先にあった石突きで倒し、隊長から距離を取った。

「私は初代帝王の血をひくカリンだ!辱める気なら、道連れにして死んでやる!」

 石突きを隊長に向けた状態で呪文を唱えようとした。

「おい!」

 隊長は部下に命じると、部下は鎖を引っ張ってあるモンスターを引っ張り出した。
 それは獰猛な牙を生やした馬だった。
 
 ディオメーデースの人食い馬。

「おい、首だけ残して身体は餌にしろ」

「グォオオオオ」

 ディオメーデースは大口を開けてアイネに飛びかかろうとした。

「【吹っ飛び(ブロウアウェイ)】」

 突然どこからか声がした。
 そしてディオメーデースとスケイブン達は吹っ飛ばされた。

「女を辱めようなんて最低のやつらだね」

 現れたのはサハリだった。

「てぇてめ・・・ディオメーデースやれ!」

 隊長が叫ぶとディオメーデースが牙をむいて突進した。
 サハリが杖をかざすとディオメーデースは宙に浮いた。そして勢いよく地面に叩きつけられた。

「あたしの餌になりたいのかい?」

 右手に光りの球を出現させた。
 強力な魔力を込めて。

 ディオメーデースは一目散に逃げていった。

「あんた達、周りを見な」

 いつの間にかスケイブン達は囲まれていた。囲っていたのは騎士達だった。

「あ・・・悪かった!消えるよ!」

 隊長は必死に謝った。
 サハリが杖を隊長に向けると隊長はまたまた吹っ飛んだ。

「許さないよ。女に対してやっちゃいけないことを平気でするような奴は・・・」

 サハリが呪文を唱えた。
 スケイブンの傭兵は手が後ろに回って動けなくなった。

「あんた達こいつらをとっ捕まえて素っ裸にして川に放り込んじまいな」

 後ろにいた数名の騎士がスケイブンの傭兵を連行した。

「アイネさん、大丈夫ですか?」

 ジャックはアイネに駆け寄った。

「はい、大丈夫です。ジャックさんこそ、大丈夫ですか?」

「貴様、裏切ったのか!?」

 アランが、自分を拘束した騎士達の後ろから現れた、フェリシアを見て叫んだ。

「ざんねん~違うわよ。あたしは初めっからあんたの裏切りを、阻止しようとしていたのよ」

 間抜け面のアランを笑いながら告白した。

「あたしを信じて、ぺらぺらしゃべってバカね。私は幼い頃、祖父が語っていた無き国の思い出の話を今でも覚えている。国の復興なんて興味ないけど・・・。でも一番嫌いなのはプライドのない男。そして逃げずに一生懸命努力している人の味方はしたい」

「感謝します、フェリシア様」

 ジャックは、フェリシアに感謝の言葉を述べた。

「ここにいるのは、祖父が遺した私兵、ラハビ騎士団。サハリ様も協力してくれる。一緒に戦うわ」

              *       *       *

「アサヒ、カリン・・・ヒノ」

 アサヒ帝国領辺境の湖畔の邸宅に住む太后は湖畔を眺めていた。手に3つの産衣を持ち、彼女の瞼にはある光景を思い出していた。

 3人の小さな子供がこの湖畔で遊んでいた光景を思い出していた。

「太后様、隊長がお戻りになられました」

 メイドがやって来た。
 その後ろに太后親衛隊隊隊長、ユウカが立っていた。

「間違いございません。黒幕は宰相です!」

 ユウカは太后に近づくと、ある調査の結果を報告した。

「なんてこと、あの子が信じていた者が裏切り者だったなんて」

 その報告を聞いて、太后は深く落ち込んだ。

 最近起きている数々の事件。

 アートリアに現れたリザードマンの盗賊達。
 ホリー国で起きた連続殺人事件。
 ハサルト海で起きた海賊事件。

 不可解を感じていた彼女は自分がもっとも信頼するユウカに調査を頼んだ。

 ユウカはサハリと協力して調査した結果、それらは宰相ベルガが帝国の威信を低下させ、4代目帝王を狂った道へと誘い、4代目が死んだ後、自分が世界を治めようとしていたことが分かった。

「宰相はマカミ様によって倒されたそうです。ですが、すでに『月の清水』を飲んだ4代目がジン国との戦いの時、カリン様とお会いになったという報告が・・・」

「カリン、カリンは無事なのですか?」

 女主人が動揺しながら尋ねた。
 手が3つの産衣を強くつかんで震えていた。

「はい、大魔術師サハリから報告を受けました」

 その報告に女主人は小さな安堵を得た。
 しかし大きな不安は消えない。

「宰相は『月の清水』の危険を知っております。おそらく、宰相はあの子を殺して自分が新たな帝王になる気だったのでしょう。100年私たちを欺いて!」

 帝国の妃として嫁いで初めて会ったときから彼は自分に対してとても丁寧に対応していた素晴らしい紳士だった。
 だからこそ自分が館を後にした時も彼に我が子を守るようお願いした。

 その男は裏切り者だった。

「如何なさいましょう。太后様?」

「ユウカ、あなたはその武士と出会った時、どのような印象でしたか?」

「わたくし以上に立派な武士でございます!」

「その武士に頼みましょう」

              *       *       *

 40万の帝国軍が戦場に到着した。無数の竜胆の旗印が戦場を埋め尽くした。

「ほう大軍団だな・・・」

 指揮官のクロード大将はホリー国の軍勢を見て感想を述べた。

 全軍のうち、10万は港町オーシャンバート近海に船団をようして布陣していた。 
 バートは帝国に対し、独自の交渉を要求した。

 だが、その要求はかなわないままバートは戦争に巻き込まれた。このときバートは帝国との約束を破りホリー国につき、帝国艦隊に奇襲をかけた。

 自分の力など帝国艦隊の前では知れている。

 だが、帝国は間違っている。
 その間違いに従うのはもっと間違っている。

 故にバートはホリー国についた。

 帝国の艦隊の一部分は圧倒的戦力でバート艦隊及びホリー艦隊を牽制。その間本隊はホリー国の南にある小国ナーバル国の港街から本隊を進軍させた。

 ナーバル国の突然の裏切りにホリー国は大慌てでナーバル国へと軍を進めた。
 ホリー川ほどの大きさは無いが、それでもそれなりの幅はあるナーバル川でホリー国の部隊と対峙した。
 
 帝国側に複数のモンスターが確認できる。
 巨大な魔方陣で帝国お抱えの数名の上級召喚士に呼び寄せたモンスターだった。

 アラクネ、マンティコア・・・。

 攻撃力があり、気性のあらい手懐けるのが難しいモンスター達はイズルの覇気にすぐにおとなしく忠実になった。

「帝王様が来られました!」

 見張りの兵士が大声で叫んだ。
 イズルと100名の近衛兵が上空から降りてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...