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清水の舞台―2
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「奴が絡んでいるなら、大変ね~」
師匠の黒い翼とは対照的な白い翼を生やした女天狗、太郎坊殿が現れた。
イノシシの牙の首飾りを身につけ、師匠と同じく修験者の姿をして錫杖を持っているが、肩が露出している姿は大胆な着崩しだ。
そして師匠と同じく大天狗である。
大天狗は天狗の中で修行を極めた者のことでその力は神格化されるほどだ。
ただし、太郎坊殿に関しては本人が勝手にそう言っているだけだと天狗達は言っていた。
「あいつの力は妖怪達も警戒してるから嫌になっちゃう」
「しかし奴は何故、たすけの赤ん坊を狙った?」
不可解だ。
奴にとっては、たすけなど取るに足りない存在のはずだ。
何かの罠か?
「う~ん、なんでしょう?」
「この太刀を抜かねばならんか・・・」
「・・・あいつの手下をその太刀で斬る?」
太郎坊殿が某が腰にぶら下げている太刀を指さした。
武の力を高めた武士。
修行を積んだ僧侶。
あるいは陰陽師。
そんな者達が時として妖怪を倒すことがある。源頼政(みなもとのよりまさ)の鵺(ぬえ)退治が有名だ。
そしてそんな者達にその道を究めた職人が魂を込めて作り上げた武器・道具を使えば神格化された妖怪も倒す事が出来るという。
今、某が身につけている太刀がその強力な武器だ。
「この太刀でその妖怪を斬ることなく、赤ん坊を助けたい・・・」
なでなで・・・。
太郎坊殿が某の頭を撫でた。
某をからかっているのか?
「まっあたいを信じなさい!じゃあ清水寺で~~~」
そう言って、太郎坊殿はどこかへ飛んでいった。
「光どのぉ~~~~~~~~~~っお!!!」
今度は無学が全速力でやってきた。
「無学殿、奴は清水寺にいる」
「あれま~~~光殿が朝行った清水寺に!?」
「すれ違ったかなぁ・・・とにかく清水寺に行く!」
* * *
「皆、油断するな!」
未(ひつじ)の刻。
東市から振売(ふりうり)に化けた腕利きの仲間を3人連れてもう一度清水寺に足を運んだ。
仲間と共に辺りを見回しながら慎重に足を進めた。
「光殿、あそこ!」
「んっ!?」
1人の男と目が合った。
朝に出会った京童の仲間か?
「やべっ!」
男は逃げようとした。
石ころを拾うと男の足に石ころを投げ、捕まえると縄で縛って逃げられないようにした。
「たすけと赤ん坊はどこだ!」
「ひぇ~、仲間が捕まえてます!」
「じゃあそこへ案内しろ!」
男に案内させると男は某達を清水の舞台へと連れて行った。
「たすけか!?」
舞台の欄干(らんかん)でひげが伸び放題のガリガリのたすけが5人の男に捕まっていた。
子供が見当たらない。
妖怪もいない。
「お前らたすけをどうする気だ?赤ん坊はどこだ?」
「こいつは仲間を裏切った!裏切りの代償を与えてやる!」
「仲間だと?・・・そうかお前ら平家の元従者達か?」
実はたすけは元盗賊だった。その前は平家の屋敷で従者を勤めていた。
平家が都落ちしたとき、たすけは仲間の従者達と共に盗賊となった。
だが、たすけはチエさんに出会って盗賊を抜けた。この京童達はその盗賊仲間だったのだ。
「ゴン太に罪は無いんだ~!ゴン太はチエの子供でもあるんだ~!チエの幸せまで奪わないでくれ~~~!!!」
たすけが子供は助けて欲しいと大泣きしながら懇願している。
嫌な状況だ。
「!?」
振り返り驚愕した。
後ろにサクヤ様が立っていた。
「サクヤ様、何故来たのです!?」
「太郎坊さまが、赤児を助けるためにお前に力を貸してやる。だからお前は光さまの手助けをしろと」
「太郎坊殿に!?」
太郎坊殿は何を考えている。
まさか、サクヤ様の持っている力も使おうと!?
だが、太郎坊殿の考えがどうであれ、某で山賊達を説得しなければならない。
「金(きん)をお主らにやろう!嘘じゃ無い。好きなだけやるからたすけを解放してくれ!」
たすけと赤ん坊を助けようと某は山賊達に金を持ちかけた。
「そんなもんいらねぇんだよ!たすけに罰を与えたら、赤ん坊は返してやる!」
だめだ、京童達はたすけの裏切りがそうとう許せないようだ。
「やっほ~っぃ!」
「ん?・・・ぐぇ!」
空から太郎坊殿が飛んできて山賊に錫杖をお見舞いした。そしてたすけの袖を掴むと某達のもとへたすけを連れ戻した。
「光、今だよ!」
「よし!」
腕利きの仲間3人と共に山賊達を叩きのめした。
「子供はどこだ!?」
「子供は、異界にいる・・・」
「異界だと!?」
「天狗が俺達の恨みを晴らしてくれるって言ってくれたんだよ。それで俺達はたすけとそいつの赤ん坊を呼んだんだよ。赤ん坊はその天狗が異界へと連れて行った」
「やぁ~っぱりねっ」
太郎坊殿が何かを確信した。
「鞍馬も最近怪しんでたのよ~。あたいらの中に人間の恨みを晴らそうとしている奴がいるって・・・でも勝手にそういう事をやられると困るのよねぇ~」
妖怪の力というのは時に神として崇められるほど人間にとっては強力である。
妖怪達もそれを分かっているので妖怪同士で掟を作って世の中の均衡を保っているという。
従って掟を破る行為はどこの妖怪も厳しく戒められていた。
ある奴を除いて。
「では今回の妖怪は鬼ではなく天狗か?」
「はい、そうで~ぇっす!実は、その天狗が従えていた三下の妖怪を、もうすでに捕まえて全部吐かせちゃった!」
騙されたか!?
奴に警戒していたが、何と身内の天狗だったとは。
「よし、光!そいつのもとまで行ってらっしゃい!」
「いっいや、天狗の事ならば天狗で解決して欲しいのだが?」
「ばか!人間の赤ん坊が連れ去られたのよ!あんた助けなさい!」
何やらおかしなことを言われているような気がした。
しかし赤ん坊は助けたい。
「そいつは異界のどこにいて、そこにはどうやって行けば良い?」
「清水の舞台から飛び降りる!」
太郎坊殿は欄干の下を指さした。
「えっ、またかよ!」
朝飛び降りて、もう一度飛び降りる?
「そっ。そして地面すれすれでそいつがいるところに入れるってわけ!」
「で、太郎坊殿が案内してくれるのか?」
「残念、あたしではありません・・・」
太郎坊はサクヤに近づき、サクヤの腰と背中に手を当て抱きしめた。
サクヤは緊張した。
「大天狗、太郎坊の力を貸してあげます。その力で光の手助けをしなさい!」
サクヤと太郎坊殿の周りに風が巻き上がった。
サクヤは身体が震えた。
太郎坊が姿を消した。
「ハァ・・・」
サクヤの身体の中に太郎坊が入り込んだ。
憑依というものがある。
妖怪が人間に乗り移ることを言うのだが、巫女の託宣も神が乗り移ったと言われている。
サクヤ様には特別な力を持っていた。
それが、この憑依だ。サクヤはこの力により一部の人間から「神の子」などと噂されていた。
「行くわよ、光!」
「あっ、はい・・・」
サクヤ様の雰囲気が変わった。
太郎坊殿が憑依したせいだ。
ギュ・・・。
手を握られ、言われるがまま2人で欄干に立った。まるで2人で心中するかのような感じだった。
「「せぇ・・・っの!」」
2人で清水の舞台から飛び降りた。
地面が近づいてきた。
ドォン!
突然地面が裂けた。
某達は深い奈落へと突き落とされた。奈落を抜けると、今度は断崖絶壁が左側に見えた。
ガシッ!
落ちている最中、サクヤ様が某を強く抱きしめた。
よく見ると眼を閉じている。
次の瞬間、サクヤ様が閉じていた両目を強く見開いた。
バサァァァァァァ・・・・・・・・・・。
突然地面から突風が吹いた。
「・・・飛んでいる?」
風によって某は宙に浮いた。
いや、風ではない。宙に浮いているのは翼を生やしたサクヤ様のおかげだ。
「天狗の羽ですか!?」
「静かに、初めてなので・・・」
「はい・・・」
飛んでいるサクヤ様に抱きしめられながら周りを見た。
右にはまるで壁のような絶壁がどこまでも続き、左には山々がそびえ立ち一番奥に周りの山々の3倍あろうかという山がそびえ立っていた。
「あそこに塔があります。行くわよ!」
師匠の黒い翼とは対照的な白い翼を生やした女天狗、太郎坊殿が現れた。
イノシシの牙の首飾りを身につけ、師匠と同じく修験者の姿をして錫杖を持っているが、肩が露出している姿は大胆な着崩しだ。
そして師匠と同じく大天狗である。
大天狗は天狗の中で修行を極めた者のことでその力は神格化されるほどだ。
ただし、太郎坊殿に関しては本人が勝手にそう言っているだけだと天狗達は言っていた。
「あいつの力は妖怪達も警戒してるから嫌になっちゃう」
「しかし奴は何故、たすけの赤ん坊を狙った?」
不可解だ。
奴にとっては、たすけなど取るに足りない存在のはずだ。
何かの罠か?
「う~ん、なんでしょう?」
「この太刀を抜かねばならんか・・・」
「・・・あいつの手下をその太刀で斬る?」
太郎坊殿が某が腰にぶら下げている太刀を指さした。
武の力を高めた武士。
修行を積んだ僧侶。
あるいは陰陽師。
そんな者達が時として妖怪を倒すことがある。源頼政(みなもとのよりまさ)の鵺(ぬえ)退治が有名だ。
そしてそんな者達にその道を究めた職人が魂を込めて作り上げた武器・道具を使えば神格化された妖怪も倒す事が出来るという。
今、某が身につけている太刀がその強力な武器だ。
「この太刀でその妖怪を斬ることなく、赤ん坊を助けたい・・・」
なでなで・・・。
太郎坊殿が某の頭を撫でた。
某をからかっているのか?
「まっあたいを信じなさい!じゃあ清水寺で~~~」
そう言って、太郎坊殿はどこかへ飛んでいった。
「光どのぉ~~~~~~~~~~っお!!!」
今度は無学が全速力でやってきた。
「無学殿、奴は清水寺にいる」
「あれま~~~光殿が朝行った清水寺に!?」
「すれ違ったかなぁ・・・とにかく清水寺に行く!」
* * *
「皆、油断するな!」
未(ひつじ)の刻。
東市から振売(ふりうり)に化けた腕利きの仲間を3人連れてもう一度清水寺に足を運んだ。
仲間と共に辺りを見回しながら慎重に足を進めた。
「光殿、あそこ!」
「んっ!?」
1人の男と目が合った。
朝に出会った京童の仲間か?
「やべっ!」
男は逃げようとした。
石ころを拾うと男の足に石ころを投げ、捕まえると縄で縛って逃げられないようにした。
「たすけと赤ん坊はどこだ!」
「ひぇ~、仲間が捕まえてます!」
「じゃあそこへ案内しろ!」
男に案内させると男は某達を清水の舞台へと連れて行った。
「たすけか!?」
舞台の欄干(らんかん)でひげが伸び放題のガリガリのたすけが5人の男に捕まっていた。
子供が見当たらない。
妖怪もいない。
「お前らたすけをどうする気だ?赤ん坊はどこだ?」
「こいつは仲間を裏切った!裏切りの代償を与えてやる!」
「仲間だと?・・・そうかお前ら平家の元従者達か?」
実はたすけは元盗賊だった。その前は平家の屋敷で従者を勤めていた。
平家が都落ちしたとき、たすけは仲間の従者達と共に盗賊となった。
だが、たすけはチエさんに出会って盗賊を抜けた。この京童達はその盗賊仲間だったのだ。
「ゴン太に罪は無いんだ~!ゴン太はチエの子供でもあるんだ~!チエの幸せまで奪わないでくれ~~~!!!」
たすけが子供は助けて欲しいと大泣きしながら懇願している。
嫌な状況だ。
「!?」
振り返り驚愕した。
後ろにサクヤ様が立っていた。
「サクヤ様、何故来たのです!?」
「太郎坊さまが、赤児を助けるためにお前に力を貸してやる。だからお前は光さまの手助けをしろと」
「太郎坊殿に!?」
太郎坊殿は何を考えている。
まさか、サクヤ様の持っている力も使おうと!?
だが、太郎坊殿の考えがどうであれ、某で山賊達を説得しなければならない。
「金(きん)をお主らにやろう!嘘じゃ無い。好きなだけやるからたすけを解放してくれ!」
たすけと赤ん坊を助けようと某は山賊達に金を持ちかけた。
「そんなもんいらねぇんだよ!たすけに罰を与えたら、赤ん坊は返してやる!」
だめだ、京童達はたすけの裏切りがそうとう許せないようだ。
「やっほ~っぃ!」
「ん?・・・ぐぇ!」
空から太郎坊殿が飛んできて山賊に錫杖をお見舞いした。そしてたすけの袖を掴むと某達のもとへたすけを連れ戻した。
「光、今だよ!」
「よし!」
腕利きの仲間3人と共に山賊達を叩きのめした。
「子供はどこだ!?」
「子供は、異界にいる・・・」
「異界だと!?」
「天狗が俺達の恨みを晴らしてくれるって言ってくれたんだよ。それで俺達はたすけとそいつの赤ん坊を呼んだんだよ。赤ん坊はその天狗が異界へと連れて行った」
「やぁ~っぱりねっ」
太郎坊殿が何かを確信した。
「鞍馬も最近怪しんでたのよ~。あたいらの中に人間の恨みを晴らそうとしている奴がいるって・・・でも勝手にそういう事をやられると困るのよねぇ~」
妖怪の力というのは時に神として崇められるほど人間にとっては強力である。
妖怪達もそれを分かっているので妖怪同士で掟を作って世の中の均衡を保っているという。
従って掟を破る行為はどこの妖怪も厳しく戒められていた。
ある奴を除いて。
「では今回の妖怪は鬼ではなく天狗か?」
「はい、そうで~ぇっす!実は、その天狗が従えていた三下の妖怪を、もうすでに捕まえて全部吐かせちゃった!」
騙されたか!?
奴に警戒していたが、何と身内の天狗だったとは。
「よし、光!そいつのもとまで行ってらっしゃい!」
「いっいや、天狗の事ならば天狗で解決して欲しいのだが?」
「ばか!人間の赤ん坊が連れ去られたのよ!あんた助けなさい!」
何やらおかしなことを言われているような気がした。
しかし赤ん坊は助けたい。
「そいつは異界のどこにいて、そこにはどうやって行けば良い?」
「清水の舞台から飛び降りる!」
太郎坊殿は欄干の下を指さした。
「えっ、またかよ!」
朝飛び降りて、もう一度飛び降りる?
「そっ。そして地面すれすれでそいつがいるところに入れるってわけ!」
「で、太郎坊殿が案内してくれるのか?」
「残念、あたしではありません・・・」
太郎坊はサクヤに近づき、サクヤの腰と背中に手を当て抱きしめた。
サクヤは緊張した。
「大天狗、太郎坊の力を貸してあげます。その力で光の手助けをしなさい!」
サクヤと太郎坊殿の周りに風が巻き上がった。
サクヤは身体が震えた。
太郎坊が姿を消した。
「ハァ・・・」
サクヤの身体の中に太郎坊が入り込んだ。
憑依というものがある。
妖怪が人間に乗り移ることを言うのだが、巫女の託宣も神が乗り移ったと言われている。
サクヤ様には特別な力を持っていた。
それが、この憑依だ。サクヤはこの力により一部の人間から「神の子」などと噂されていた。
「行くわよ、光!」
「あっ、はい・・・」
サクヤ様の雰囲気が変わった。
太郎坊殿が憑依したせいだ。
ギュ・・・。
手を握られ、言われるがまま2人で欄干に立った。まるで2人で心中するかのような感じだった。
「「せぇ・・・っの!」」
2人で清水の舞台から飛び降りた。
地面が近づいてきた。
ドォン!
突然地面が裂けた。
某達は深い奈落へと突き落とされた。奈落を抜けると、今度は断崖絶壁が左側に見えた。
ガシッ!
落ちている最中、サクヤ様が某を強く抱きしめた。
よく見ると眼を閉じている。
次の瞬間、サクヤ様が閉じていた両目を強く見開いた。
バサァァァァァァ・・・・・・・・・・。
突然地面から突風が吹いた。
「・・・飛んでいる?」
風によって某は宙に浮いた。
いや、風ではない。宙に浮いているのは翼を生やしたサクヤ様のおかげだ。
「天狗の羽ですか!?」
「静かに、初めてなので・・・」
「はい・・・」
飛んでいるサクヤ様に抱きしめられながら周りを見た。
右にはまるで壁のような絶壁がどこまでも続き、左には山々がそびえ立ち一番奥に周りの山々の3倍あろうかという山がそびえ立っていた。
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