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天空の塔

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「はぁ・・・着きました・・・」

 サクヤ様は某を抱きしめながら飛んで絶壁の上にある塔へと着地した。
 床に降りると改めてサクヤ様を見た。

「いつの間に白拍子の姿に?」
 
 髪の色は桜色になり、白拍子の姿になっていた。太郎坊殿が憑依したせいか、水干(すいかん)の内にある単が、かなりずり落ちている気がする。
 そして太郎坊殿と同じ白い翼が生えている。

「天狗の翼が生えたと同時に、何故か?」

 妖怪変化というものがある。
 妖怪が別の者に変化する術だが、サクヤ様が白拍子の姿になったのはその類いか?

「光さま。わたしは今、天狗になっていますか?」

「・・・違う」

「違う?」

「はい、どちらかというと師匠に教えて貰ったある者に見えます」

 師匠から2枚の絵を見せてもらった事がある。
 
 一方は鬼が黒い翼を持った絵だった。
 だがもう一方は人間の姿で白い翼を持った妖怪とは呼ばれていない、されど人間でも無い者だった。
 サクヤ様の翼をまとった姿は天狗というより、遠い西の地に天狗と同じく、翼を持った者に似ていた。

 ちなみに師匠や太郎坊殿が言うには我々は翼は持っているが、どういう風に飛んでいるのか自分たちもわからんそうだ。

 どういうことであろうか?

 師匠が言うには翼は飛ぶときに具現化されるものだが、感覚的に鳥とは違って自らの肉体で翼を羽ばたかせてはいない。
 おそらく自分の妖力で翼を羽ばたかせて宙に浮いて、後は何かで飛んでいるらしい。

 まぁそれを言えば鳥も何故、翼で空を飛べるか不思議なのだが。

「光さま、ここはお寺でしょうか?」

 某とサクヤ様はある舞台に立っていた。
 広い部屋に大木のような柱が何本もあり、天井ははるか上にあった。

「凄い所に創っているな・・・・」

 欄干から下を見ると底なしの谷に吸い込まれそうだった。

「おそらくここは天空の塔でしょう」

 師匠が言っていた。
 天狗達が己を鍛える山々に千年かけて造った塔がある。天の壁のような絶壁に天までそびえるような塔。

 名付けて「天空の塔」。

「ハァ・・・ハァ・・・」

 サクヤ様が疲れている。
 初めてでしかも某を抱きかかえて空を飛んだのだから、霊力をかなり消耗したのだろう。
 翼は消えている。

「少し、休みましょう」

 まずは、サクヤ様の体力を回復させようと思った。

「・・・聞こえます!」

 サクヤさまが建物の奥を見た。
 某は耳を澄ました。
 赤ん坊の泣き声が奥から聞こえてくる。

「行くわよ、光!」

「・・・はっ!」

 太郎坊殿が憑依しているせいで、時々サクヤ様が太郎坊殿の口調になる。
 変な気分になりそうだが、気を取り直しつつ某はサクヤ様と共に奥へと進んだ。

 舞台から回廊に立った。
 左右に道がある。

「右、左どちらへ行くべきか?」

 右へと歩いた。

「!?」

 突然壁が現れた。
 壁は現ると消えようとしない。

「左へ行きましょう!」

「はい!」

 右は諦めて左へ歩き出した。
 また壁が現れた。
 右へも左へも行けない。

「光さまどういたしましょう!?」

 サクヤ様が不安になっている。

 師匠の言葉を思い出した。

 ―人生、必死になるとき壁に阻まれる時がある。
  何とかして、壁を突破したいが、しかしそれが出来なかったと き。
 
  壁は壁。
  それが確認できたら、素直に諦める。隠された別の方法こそが 突破口。

 舞台へと戻った。
 何本も立っている柱、一本、一本を見た。

 そして一本の柱に目がとまると思いっきり蹴った。

 ゴォォォォォ。

 柱が上から順々にずれだした。そして階段のようになると天井に穴が開いた。
 天狗のからくりというやつか。
 実に大胆なものを創る。

「登りましょう」

「はい!」

 2人で柱の階段を上った。
 2層目にたどり着いた。
 1層目と変わらず大きく何本も柱がある舞台だ。

「光さま、赤ん坊の泣き声が・・・」

 赤ん坊の泣き声が先ほどより大きく聞こえた。

「光さま、また柱を?」

「いや、そう単純ではないはずだ・・・」

 周りを歩いてみた。

「・・・・・・ん?」

 ある部分の床板の感触が他の床板と違う。
 よく見たら今、某とサクヤ様が立っている床板の周りは他の床板と切り離されているかのように敷かれていた。

「・・・・・・まさか!?」

 ガン!

 その床板を蹴った。
 床板は跳ね上がった。

「これか!?」

 中から鎖が現れた。
 その鎖を引っ張った。

 ゴォォォォォ・・・。

「なんて仕掛けだ・・・」

 某とサクヤ様が立っている床板が上昇した。そして天井に穴が開くと上にたどり着いた。

「すごい、仕掛けを天狗は作るものだ・・・」

 だが、師匠が言うには人間もその気になればこんなものを作れるという。
 と言われても人間がこんな摩訶不思議な仕掛けを作るなど想像が出来ない。

「・・・いた!」

「おぎゃー、おぎゃー」

 上に到達すると奥に赤ん坊を抱いて必死に泣き止まそうとしている一匹の烏天狗がいた。
 腹をさすりながら、鳥天狗に近づいた。
 
「てめぇは!?」

「鞍馬天狗の弟子、光だ。悪いことは言わん、その赤ん坊を渡せ!」

「人間かぁ!?渡すわけ無いだろ!」

 烏天狗は金剛杖をこちらに向けた。

「赤ん坊が泣いています!母親だって泣いているのです!お願いです!たすけさんの家族を不幸にしないで下さい!」

 サクヤ様が懇願した。
 鳥天狗の顔がゆがんだ。

「赤ん坊を取り返したいか?ならばこの俺を倒してみろ!」

 やはり、の展開になった。
 
「・・・・・・すぅ」

 腹の底にあるものがうずく。
 軽く息を吐く。

 ダンッ!

 鳥天狗の金剛杖の一撃を、後ろへ躱した。

「この!」
 
 天狗が届かない間合いから、さらに強く突いた。

 ジャラ!

 金剛杖の先が柄から離れた。
 先は鎖分銅になっていた。
 天狗は武器に何かを仕込んでいる。

 バサッ!

 鳥天狗が空中へと飛んだ。有利な場所から攻撃を仕掛けようというのだ。
 腹の底のものがまたうずき、太刀を握った。

 いや、今はこの太刀は抜きたくない。
 深く息を吸うと太刀から手を離した。変わりに袖に隠していたものを3本取り出した。
 天狗が棒手裏剣を飛ばしてきた。それを躱してこちらも棒手裏剣を3本まとめて飛ばした。

「うぉ!」

 烏天狗はかろうじて避けたが、空中で不安定な姿勢になった。それを逃さず、烏天狗に向かって懐に隠していた分銅を投げた。

 分銅は見事、烏天狗の頭に命中した。脳しんとうを起こした鳥天狗は赤児を抱いていた左手を緩めてしまった。

 赤ん坊が滑り落ちた。

「光さま!」

 後ろでサクヤ様が叫んだ。
 某は全力疾走した。

 ガッ!

 赤ん坊を掴んだ。

 嫌な記憶が蘇った・・・。

(ちきしょう!)

 赤ん坊を抱きしめたとき、あの時の忌まわしい記憶が蘇った。

「サクヤ様、赤ん坊を!」

 たまらず後ろにいたサクヤ様に赤ん坊を手渡した。
 サクヤ様は純粋無垢な赤ん坊を大事に抱えた。サクヤ様の赤ん坊を見る、その瞳が眼に入った。

 烏天狗は床に墜落してしまった。
 落ちた天狗に一気に間合いを詰めた。
 天狗は右手で金剛杖に隠してあった刃を抜き、某の心の臓を狙った。

 ガッ!

 烏天狗の腕を絡め取ると天狗を投げ倒した。
 烏天狗が鳥の足で某の首を掴んだ。
 某の腹の底から怒りが湧いた。
 烏天狗の足を掴んだ。

「奴の血を出させるな!」

「!?」

 某に臆したのか、烏天狗は某の首から足を離すと、力が抜けたように地面に大の字になった。

「・・・すぅ!」

 腹の底のものが、三度うずく。
 深く息をすって落ち着かせた。
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