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桜の種
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「チキショウ、人間に負けたのか!?」
ドン!
「終わったの?」
サクヤから太郎坊が飛び出した。
身体を伸ばして、錫杖を具現化して赤ん坊をさらった鳥天狗に近づいた。
「太郎坊様!?」
「はい動かないで!」
太郎坊は錫杖を倒れている烏天狗の額につけた。
「光、こいつはねぇ~。大天狗になりたくて200年、修行を積んでいるんだけど、才能に恵まれなくて上達しないの」
烏天狗の顔がゆがんだ。
「あなたは、俺がどれだけ苦労したか知らんだろう!それでも俺は嘘でも大天狗だと言えないんだぞ!」
ガンッ!
烏天狗の言葉に太郎坊は錫杖で烏天狗の額に一撃を入れた。
「さ~って、どんなおしおきをしようかし、っら!」
「太郎坊殿、この者に聞きたい」
鳥天狗にもう一撃入れようとした太郎坊殿の錫杖を止めた。
「ん?良いわよ」
悔し顔をしている鳥天狗に近づいた。
「赤ん坊をどうしようとしたのだ?」
「・・・別に殺すつもりは無かったよ。ただ・・・不公平だろう」
「不公平?」
「仲間の山賊達は別に盗賊にも山賊にもなりたくてなったわけじゃ無かった。平家の元で働いていつの日か自分たちの暮らしが良くなることを願った。だが平家が没落してその望みは潰えた。なのにあのたすけだけが、嫁をもらって子供まで作った・・・不公平じゃねぇか?」
あぁ・・・そういうことか・・・。
鳥天狗が涙ぐんでいる。
大天狗というのは、1万の天狗達が挑んで、10人くらいはかなり近いところまで行けるのだが、その中で大天狗になれるのは結局、1人だけという。
師匠が言うには「不公平だからこそ、大天狗というのは偉大であり、その責任は大きい」らしい。
だが不公平は天狗にも辛いようだ。
「子供を殺す気は無かったのだな?」
天狗は黙って頷いた。
後は太郎坊殿にお願いした。
「あの天狗のお仕置きは、あまりきつくしないでくれ」
「大好き・・・」
「え?」
「あんたのそういうところ、大好き・・・」
太郎坊殿が某の頬を突っつきながら、怖い言葉を言った。
頬を赤らめ、瞳が輝いている。
「何を申しておる!?」
「あははは、顔が赤くなってや~んっの!あたいが好きなのはくらま!」
思いっきり笑われた。太郎坊殿は、人をからかうのが好きな天狗でいつもこうなる。
油断ならぬお方だ。
「今度、くらまに言っておいてよ。早くあたいを嫁にしなさい!」
太郎坊殿は師匠にぞっこん惚れていた。しかし師匠は太郎坊殿を避けている。
何故かは知らぬが。
「まっ、伝えておこう・・・」
「あ~愛しのくらま~。早くあたしを抱きしめて・・・」
某達を無視して一体何を頭の中で思っているのか。
天狗達曰く太郎坊殿は嘘つきだが、恋に関しては一途で嘘をつかないと本人は言っている。
しかし、太郎坊殿の嘘は侮れんのであまり信用できない。
「ところで戻るにはどうすれば良いのだ?」
「そして、桜が満開の下でわたしは頬を赤らめて、くらまの告白を・・・キャー!」
「戻りたいのだが!!!」
異界から人間界に戻りたいのだが、太郎坊殿が己の世界に行っていた。
大声で太郎坊殿を呼び戻した。
「そこの舞台から飛び降りる!」
「またかよ!?」
「うるさい!サクヤもその赤ん坊と光と一緒に!」
「えっあ!?」
太郎坊殿が赤ん坊を抱いているサクヤ様を欄干まで引っ張った。
某とサクヤ様はもう一度欄干に足を乗せた。
「あの・・・わたし、今は何も憑依していない・・・」
「さあ、落ちろ!」
「「うわぁ!」」
清水とは比べものにならない高さから叩き落とされた。サクヤ様は赤ん坊を必死に抱いた。
某はそのサクヤ様を抱きしめた。
谷底が暗くなりその暗闇が某達を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・戻ったのか?」
気がつくと清水の舞台の下にいた。上に舞台から皆、同じ顔をしてこちらを見ている盗賊たちがいた。
「生きてますかいな?」
目の前に無学が立っていた。幽霊でも見ているような目でこちらを見ている。
「生きてるよ。変なこと聞くな・・・」
「チエさんを連れてきましたぜ~!」
無学の側にとてもふくよかな女が立っていた。そうだ、無学にチエさんを連れて来るように頼んでいたんだ。
「ごん太!」
「チエさん、赤ん坊は無事です!」
サクヤは大事に抱いていた赤ん坊をチエさんに返した。
「サクヤちゃんありがとう!」
「ありゃ人間か?」
「いや、あれは多分・・・化け狸だ」
たすけの女房を見た盗賊達はあれは化け狸だと判断した。
「あんたらぁ!うちの旦那とゴン太を殺そうってのかい!降りてきなさい、この根性無し!」
笑顔で子供を受け取ると今度は舞台にいる盗賊達を睨み付けた。
盗賊達は冷や汗が出てきた。それくらい地面が割れるんじゃ無いかと思うほどの大声だった。
もはや盗賊達は戦意を失っていた。
最後に某が彼らに告げた。
「お前ら、都から去れ!この都には某の仲間がたくさんいる。今日は見逃す。だが明日以降、某の仲間がお前らを見つけたらその時は殺す!」
盗賊達は、何も言わず目の前から姿を消した。
「チエさん、赤ん坊を救ってくれたのはそちらにいる光さまと皆まさです」
サクヤ様が、そう伝えるとチエさんの眼がこちらを見た。
ズン、ズン、ズン・・・。
「あら、皆さんお強い!」
バン!
お礼を言いながら某の肩を叩いた。
その威力や、身体がよろけるほどだった。もし、男であれば間違いなく豪傑になれる。
「さぁあんた帰るわよ!」
「ぐぇええええ、チエ~、好きだぁ~!」
女房に引っ張られながら、たすけは帰って行った。
たすけはチエさんが一方的に面倒を見ると言って一方的に結婚させられたらしいのだ。
だが、そのおかげで怠け癖のあった、たすけは改心したかのようによく働くようになったという。
「あれも良い夫婦なのかな?」
* * *
申(さる)の刻。
「ほんじゃ~ま~あっしは~これで~。サクヤ様~またいつの日かお吸い物をあっしに恵んでくだせぇ~!」
無学は再びどこかへ行った。太陽が傾き陰が伸びる中、サクヤ様と2人で家へと帰っていた。
某の右側には壁があり、陰の中を歩いていた。そして左の光がある場所にはサクヤ様が歩いていた。
ぴた・・・。
家の前へ到着するとサクヤ様の足が止まった。
そして某に振り向いた。
「光さまは、良き夫になれますね」
息が詰まった。
いったい何を言っているのだ?
「・・・なぜ?」
「だって、光さまはチエさんの赤ん坊を抱いたとき本当に優しく守っているようでしたわ」
どういう意味で言ったのであろうか?
あの日のサクヤ様の大粒の涙を某は忘れることが出来ない。そのことはサクヤ様も忘れてはいないはずだ。
現に先ほどチエさんの赤ん坊を抱いたときの哀しい瞳を某は見逃さなかった。
それなのに、今の幸福に包まれるようなサクヤ様の笑顔は一体何だ?
太陽の光に包まれて眼を細めて笑うサクヤ様を某は受け入れられない。
「そうだ、忘れていた!今朝、清水でこれを採って参りまして!」
思い出したように懐から匂袋(においぶくろ)を出し、サクヤ様に渡すべき物を渡した。
「約束の物でございます・・・」
サクヤ様は匂袋をほどき中身を手の上に出した。
清水寺に行ったのは別の理由で行っていた。寺の僧侶が何と女に現を抜かしてしまったそうだ。
僧侶は女と別れようとしたが、女に「この関係をばらす」と脅されていたらしい。
その僧侶が我ら天狗党に何とかして欲しいと依頼してきた。それで清水寺に行って、たまたま桜の木を見て思い出した。
「ああ、これは!」
中に入っていたのは桜の種だった。
サクヤ様は手のひらに出した桜の種を握りしめるとそれを胸に当てた。
眼を閉じて何かを想っている。
その顔を見るのが辛い。
「わたくしとあの人との約束のために、とってきてくれたのですか?」
「はっ・・・」
サクヤ様にはある人との約束がある。
某の役目はサクヤ様がその約束を果たすためにサクヤ様を守ることだ。
「光さま、ありがとうございます」
サクヤ様は深々と頭を下げた。
「いえ・・・・入りましょう」
「はい・・・・」
太陽が落ちゆく空の下、某はサクヤさまから少しの距離を開けて並んで屋敷に入った。
ドン!
「終わったの?」
サクヤから太郎坊が飛び出した。
身体を伸ばして、錫杖を具現化して赤ん坊をさらった鳥天狗に近づいた。
「太郎坊様!?」
「はい動かないで!」
太郎坊は錫杖を倒れている烏天狗の額につけた。
「光、こいつはねぇ~。大天狗になりたくて200年、修行を積んでいるんだけど、才能に恵まれなくて上達しないの」
烏天狗の顔がゆがんだ。
「あなたは、俺がどれだけ苦労したか知らんだろう!それでも俺は嘘でも大天狗だと言えないんだぞ!」
ガンッ!
烏天狗の言葉に太郎坊は錫杖で烏天狗の額に一撃を入れた。
「さ~って、どんなおしおきをしようかし、っら!」
「太郎坊殿、この者に聞きたい」
鳥天狗にもう一撃入れようとした太郎坊殿の錫杖を止めた。
「ん?良いわよ」
悔し顔をしている鳥天狗に近づいた。
「赤ん坊をどうしようとしたのだ?」
「・・・別に殺すつもりは無かったよ。ただ・・・不公平だろう」
「不公平?」
「仲間の山賊達は別に盗賊にも山賊にもなりたくてなったわけじゃ無かった。平家の元で働いていつの日か自分たちの暮らしが良くなることを願った。だが平家が没落してその望みは潰えた。なのにあのたすけだけが、嫁をもらって子供まで作った・・・不公平じゃねぇか?」
あぁ・・・そういうことか・・・。
鳥天狗が涙ぐんでいる。
大天狗というのは、1万の天狗達が挑んで、10人くらいはかなり近いところまで行けるのだが、その中で大天狗になれるのは結局、1人だけという。
師匠が言うには「不公平だからこそ、大天狗というのは偉大であり、その責任は大きい」らしい。
だが不公平は天狗にも辛いようだ。
「子供を殺す気は無かったのだな?」
天狗は黙って頷いた。
後は太郎坊殿にお願いした。
「あの天狗のお仕置きは、あまりきつくしないでくれ」
「大好き・・・」
「え?」
「あんたのそういうところ、大好き・・・」
太郎坊殿が某の頬を突っつきながら、怖い言葉を言った。
頬を赤らめ、瞳が輝いている。
「何を申しておる!?」
「あははは、顔が赤くなってや~んっの!あたいが好きなのはくらま!」
思いっきり笑われた。太郎坊殿は、人をからかうのが好きな天狗でいつもこうなる。
油断ならぬお方だ。
「今度、くらまに言っておいてよ。早くあたいを嫁にしなさい!」
太郎坊殿は師匠にぞっこん惚れていた。しかし師匠は太郎坊殿を避けている。
何故かは知らぬが。
「まっ、伝えておこう・・・」
「あ~愛しのくらま~。早くあたしを抱きしめて・・・」
某達を無視して一体何を頭の中で思っているのか。
天狗達曰く太郎坊殿は嘘つきだが、恋に関しては一途で嘘をつかないと本人は言っている。
しかし、太郎坊殿の嘘は侮れんのであまり信用できない。
「ところで戻るにはどうすれば良いのだ?」
「そして、桜が満開の下でわたしは頬を赤らめて、くらまの告白を・・・キャー!」
「戻りたいのだが!!!」
異界から人間界に戻りたいのだが、太郎坊殿が己の世界に行っていた。
大声で太郎坊殿を呼び戻した。
「そこの舞台から飛び降りる!」
「またかよ!?」
「うるさい!サクヤもその赤ん坊と光と一緒に!」
「えっあ!?」
太郎坊殿が赤ん坊を抱いているサクヤ様を欄干まで引っ張った。
某とサクヤ様はもう一度欄干に足を乗せた。
「あの・・・わたし、今は何も憑依していない・・・」
「さあ、落ちろ!」
「「うわぁ!」」
清水とは比べものにならない高さから叩き落とされた。サクヤ様は赤ん坊を必死に抱いた。
某はそのサクヤ様を抱きしめた。
谷底が暗くなりその暗闇が某達を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・戻ったのか?」
気がつくと清水の舞台の下にいた。上に舞台から皆、同じ顔をしてこちらを見ている盗賊たちがいた。
「生きてますかいな?」
目の前に無学が立っていた。幽霊でも見ているような目でこちらを見ている。
「生きてるよ。変なこと聞くな・・・」
「チエさんを連れてきましたぜ~!」
無学の側にとてもふくよかな女が立っていた。そうだ、無学にチエさんを連れて来るように頼んでいたんだ。
「ごん太!」
「チエさん、赤ん坊は無事です!」
サクヤは大事に抱いていた赤ん坊をチエさんに返した。
「サクヤちゃんありがとう!」
「ありゃ人間か?」
「いや、あれは多分・・・化け狸だ」
たすけの女房を見た盗賊達はあれは化け狸だと判断した。
「あんたらぁ!うちの旦那とゴン太を殺そうってのかい!降りてきなさい、この根性無し!」
笑顔で子供を受け取ると今度は舞台にいる盗賊達を睨み付けた。
盗賊達は冷や汗が出てきた。それくらい地面が割れるんじゃ無いかと思うほどの大声だった。
もはや盗賊達は戦意を失っていた。
最後に某が彼らに告げた。
「お前ら、都から去れ!この都には某の仲間がたくさんいる。今日は見逃す。だが明日以降、某の仲間がお前らを見つけたらその時は殺す!」
盗賊達は、何も言わず目の前から姿を消した。
「チエさん、赤ん坊を救ってくれたのはそちらにいる光さまと皆まさです」
サクヤ様が、そう伝えるとチエさんの眼がこちらを見た。
ズン、ズン、ズン・・・。
「あら、皆さんお強い!」
バン!
お礼を言いながら某の肩を叩いた。
その威力や、身体がよろけるほどだった。もし、男であれば間違いなく豪傑になれる。
「さぁあんた帰るわよ!」
「ぐぇええええ、チエ~、好きだぁ~!」
女房に引っ張られながら、たすけは帰って行った。
たすけはチエさんが一方的に面倒を見ると言って一方的に結婚させられたらしいのだ。
だが、そのおかげで怠け癖のあった、たすけは改心したかのようによく働くようになったという。
「あれも良い夫婦なのかな?」
* * *
申(さる)の刻。
「ほんじゃ~ま~あっしは~これで~。サクヤ様~またいつの日かお吸い物をあっしに恵んでくだせぇ~!」
無学は再びどこかへ行った。太陽が傾き陰が伸びる中、サクヤ様と2人で家へと帰っていた。
某の右側には壁があり、陰の中を歩いていた。そして左の光がある場所にはサクヤ様が歩いていた。
ぴた・・・。
家の前へ到着するとサクヤ様の足が止まった。
そして某に振り向いた。
「光さまは、良き夫になれますね」
息が詰まった。
いったい何を言っているのだ?
「・・・なぜ?」
「だって、光さまはチエさんの赤ん坊を抱いたとき本当に優しく守っているようでしたわ」
どういう意味で言ったのであろうか?
あの日のサクヤ様の大粒の涙を某は忘れることが出来ない。そのことはサクヤ様も忘れてはいないはずだ。
現に先ほどチエさんの赤ん坊を抱いたときの哀しい瞳を某は見逃さなかった。
それなのに、今の幸福に包まれるようなサクヤ様の笑顔は一体何だ?
太陽の光に包まれて眼を細めて笑うサクヤ様を某は受け入れられない。
「そうだ、忘れていた!今朝、清水でこれを採って参りまして!」
思い出したように懐から匂袋(においぶくろ)を出し、サクヤ様に渡すべき物を渡した。
「約束の物でございます・・・」
サクヤ様は匂袋をほどき中身を手の上に出した。
清水寺に行ったのは別の理由で行っていた。寺の僧侶が何と女に現を抜かしてしまったそうだ。
僧侶は女と別れようとしたが、女に「この関係をばらす」と脅されていたらしい。
その僧侶が我ら天狗党に何とかして欲しいと依頼してきた。それで清水寺に行って、たまたま桜の木を見て思い出した。
「ああ、これは!」
中に入っていたのは桜の種だった。
サクヤ様は手のひらに出した桜の種を握りしめるとそれを胸に当てた。
眼を閉じて何かを想っている。
その顔を見るのが辛い。
「わたくしとあの人との約束のために、とってきてくれたのですか?」
「はっ・・・」
サクヤ様にはある人との約束がある。
某の役目はサクヤ様がその約束を果たすためにサクヤ様を守ることだ。
「光さま、ありがとうございます」
サクヤ様は深々と頭を下げた。
「いえ・・・・入りましょう」
「はい・・・・」
太陽が落ちゆく空の下、某はサクヤさまから少しの距離を開けて並んで屋敷に入った。
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