転生魔族は人類滅亡の為に暗躍する(仮)

真昼

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1章 転生→カタリナ村脱出

3話 ファイ・クライン

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 やや遡り──


「いつもありがとう」


「別に良いけど、ちゃんと生活魔法くらい使えるようにしなさい」


「あ、あはは……はい……」


 ファイは近所に住むリトと、村の洗濯場に来ていた。近くに川が通っているものの、危険の伴う敷地外は、村民の立ち入り禁止がなっている。


 代わりに、洗濯場とは名ばかりの公共広場にて、桶や属性魔法の要となる<コア>が常備されている。


「一児の母とは思えないくらい、情けないわ」


「うぅ。そこまで言わなくてもいいじゃない……」


 赤毛の長髪を三つ編みにし、後ろで縛る──リトは水色の小さなコアを手に取ると、集中する。コアが淡い光を放ち、水が溢れ出た。


「わぁ、ありがとう!!」


 水を桶で受け取り、ファイは子供のように笑う。そんな彼女に、リトは嘆息する。


 さっそく、服やタオルを木製の洗濯板に擦り付けて洗っていく。


 春先になり、太陽が心地良く彼女らを照らす。鳥の囁きに耳を傾け、手を動かす。


「ご機嫌ね、ファイ」


 ファイは、自然と鼻歌を歌ってしまっていた。思わず顔を赤くし、微笑む。


「そんなに子供って良いものかしら。あまり魅力を感じないのよね……」


 リトが言うと、聞き捨てなららないとばかりにファイが彼女に詰め寄る。桶同士がぶつかって、水が跳ねる。


「良いものだよ!! 可愛いし、癒されるし最強よ!!」


「ふーん……でもあんたの子供、可愛いくないじゃん。不貞腐れたような眼付きだし」


「な、なななんてこと言うの!?」


「ごめんごめん。ちょっと不気味だっただけ……はぁイケメンとの間になら、子供作りたいって思うのかな」


「リーベルさんに失礼でしょ!」


「夫はへなちょこで力仕事も出来やしない。ちょっと土魔法が得意ってだけよ」


 リトの夫──リーベルは、土魔法によりこの村の整備や拡大を任されている。


「いいじゃない、素敵よ。私は魔法一切使えないもの」


「あんた、変わってるわよね」


「ええっ!? 急に何──!?」


 リトは誤魔化すように眼を逸らす。魔法が使えない人間を、リトは初めて見た。


 本来、魔法の使い方は生まれ付き、身体が知っている。それなのに、彼女は使えない。


 だが、鈍臭い彼女なら、有り得ない話ではないように思えるから不思議だった。


「別に何でもない──ねぇ、それよりあんたと夫との馴れ初めを知りたいのだけど」


「だからそれは、小さい頃からって──」


「なーんか、嘘臭いのよねぇ。白髪の髪で、青い瞳は、あの<裏切りの姫>と同じ。わざわざ王都から離れた場所で、子を生むなんて──その目的は、血を絶やさないことにある……ってね」


 雄弁に語るリトに、ファイは首を傾ける。


「リトが何を言っているのか、良く分からないのだけど……」


「最近王都で流行りの陰謀論とか、都市伝説ってやつよ。鈍いわね──つまり貴方は、<ネンファ姫>の子孫なのよ!」


「──え?」


 余程自信があったのか、リトは得意気だった。


「リト、失礼だよ。幾ら鈍感なファイさんでも、この村でそういった詮索はご法度なんだ。狭いコミュニティだからね」


 リトの夫──リーベルは、楽しそうに会話する妻の悪い癖を感じとって、直ぐ傍に来ていた。リトとは違い背丈が低く、体付きも何処か頼りないが、堂々とした物言いをする。


「なんだい。女同士の話に首突っ込んでんじゃないよ」


「あれ? ていうか、私。さっきから馬鹿にされてたりする……?」


「リト、僕たちもあまり人のことは言えない。そうだろ」


「ふんっ」


 リトは顔を膨れさせて、外方を向いた。リーベルは嘆息すると、ファイに先程の非礼を詫びる。


「すいません、ファイさん」


「いえ、私は別に……そ、それより、人のことは言えないって──何のこと?」


「え?」


 リーベルは思わず苦笑する。


「まぁあれです。盗賊だったんです、リトは。あっ、殺人はしていないですからね」


「盗賊……!? かっこいい」


「はぁ……そう思うのはファイさんくらいです。誰にも言わないで下さいよ」


「あ、はい」


 出会いについても気になるところだが、丁度洗濯を終え、彼らとはここで別れることになった。夕飯の支度もしなければならない。


 自宅に帰り、茶を沸かそうとする。


 火を付ける際、本来赤色のコアを用いる。だが、ファイは魔法が使えない為、発火用の粉末と金属を使って火を起こしている。


「魔法かぁ。やっぱり使えないといけないよね……キャビーちゃんと練習すればいっか。うん、そうしよう!」


 我が子との交流を思いついたファイは、ニヤついた顔でやかんを眺め続けた。


 充分に沸騰すれば、冷ます為に外へ出しておく。そこでふと、屋根を見た。何かが動いた気がしたのだ。


 じっと屋根を見つめていると、また何かが動いた。蛇のような細くて、ややふっくらした肌色──人間の脚だった。


 ファイの顔が青ざめる。


 思い返せば、我が子を家で見ていない。


「キャビーちゃんっ!!??」



作者メモ

ネンファ姫とか、裏切りの姫とか、後々説明が入るので、スルーで大丈夫です!
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